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ノームコアを超えて:ロンドン・ファッションウィークの逆襲

Mary Katrantzou、Preen、そしてPaul Smithらが、女性に人智を超えた魔法のような力を与えるコレクションを発表した。

by Anders Christian Madsen
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26 September 2016, 11:35am

Mary Katrantzou spring/summer 17

平凡を善しとしていたファッション界はどこへ行ってしまったのだろうか?たかだか数シーズン前まで、ファッション界は「ミニマル」「おちついた装い」「ノーマル」がもてはやされ、遂には「ノームコア」という言葉まで生み出して、とかく「飾らない」装いが主流だったではないか。今季のロンドン・ファッションウィークでは、女帝や魔女など、女性が軒並み超人的力を持つ存在として描かれ、「ノームコア」などという概念を完全に過去のものとするコレクションが次々に発表された。ロンドンは、連合国のような街だ。ロンドン・ファッションウィークでは、まるで世界旅行をしたかのような感覚が味わえる。それも、世界各国から集まったデザイナーたちが、それぞれの文化にあっても皆が同じようなアイデアで服作りに取り組んでいるからこそだ。今季のロンドン・ファッションウィークでは、フェミニニティが気高く、パワフルに、考えうる最も美しい形で表現されていた。ギリシャ出身のメアリー・カトランズ(Mary Katrantzou)にとって、最高位の女性像とは彼女が身近なものとして育ったギリシャ神話の女神たちだった。ギリシャ神話の女神たちをモチーフとして用いたドレスには、古代ギリシャ美術のようなパターンにこれでもかというほどのカラーが配され、そこに生まれるトリップ感覚に見る者がハイになり、目が離せなくなるほど。そして職人技によって巧妙にほどこされた装飾の数々は、歩くたびに脳を刺激するような音を立てる。めまぐるしく五感を刺激する魔法のようなコレクションを発表したカトランズだったが、これはマジカルづくしの今季ロンドン・ファッションウィークのほんの序章に過ぎなかった。

Mary Katrantzou spring/summer 17

Preenのショーでは、永遠の少年たち、ジャスティン・ソーントンとテア・ブレガッツィが魔女の世界をテーマに、呪術掛かったコレクションを発表し、観客をカルトの——いや、オカルトかもしれない——世界へといざなった。「不気味な女の子ほど可愛い」とソーントンはショーのバックステージで言っていた。「パステルカラーしか着ないが、心のうちは魔女の黒——そんな信条の東京パステルゴス」と彼は付け加えた。そこには、ティーンの陰鬱なゴス的世界観がたしかに描かれてはいた。しかし、Preenの解釈にかかると、その陰鬱さそのものが醸し出す雰囲気とは対照的な表現力を持つ。むしろ、それは楽観性とメランコリーが絶えずせめぎ合う、ティーンの心の内を映し出しているように見えた。「すべてをブラックで作っていたらスーパーゴスなコレクションになっていたところだけれど、僕たちはそこにスパンコールをほどこすなどしてどこかマジカルな表現がしたかったんだ」と、コレクションに見られた豊富なカラーと装飾に関してソーントンは話す。「社会がバラバラになりかけているのに、どういうわけか僕たちは完璧な社会に生きていると信じるよう仕向けられている——そんな現状に目を向けたかった」。カトランズの表現同様、Preenの表現も魔法のようなフェミニニティが主題となっていた。中世であれば焼かれて罰せられた類いの、パワフルなフェミニニティだ。最後には勝利して高笑いする——Preenが描いた魔女たちにはそんな気高さすら感じられた。装飾豊かといえば、ブランドPeter Pilottoのデザイナー、ピーター・ピロットとクリストファー・ドゥ・ヴォスも、インスピレーション源となった南アフリカと、ヴォスが引くペルーの血を表現した、装飾いっぱいのコレクションを発表した。

Preen spring/summer 17

ドレスはいずれも動物をモチーフにしたパッチで装飾がほどこされていた。Gucciでアレッサンドロ・ミケーレが用いてから、「トレンド」と言ってしまっても良いほどの旋風を巻き起こしているパッチ——Peter Pilottoのパッチには、この世でもっともエキセントリックな神秘の生物、カンガルーらしきものなどが見られた。ロンドン・ファッションウィークのマジックはこれでは終わらなかった。デヴィッド・コーマ(David Koma)は自身のコレクションで、ロシア大公ウラジーミル・キリロヴィッチ・ロマノフとその家族のワードローブをベースにした世界を描き、サンクトペテルブルクの豪華絢爛な冬宮殿近くに育ったからこそのマジックを服に描き出した。コーマにとって、彼を魅了するモダニズムを超えて歴史的モチーフを取り入れたのは、これが初となった。そしてそれは大成功だったと言える。体の線と肌を強調したセクシーな服を得意とするコーマは、ヴィクトリア朝の女性たちの性を描くのもお手のもの。トレードマークともいうべき、幾何学的図形を豪華に輝かせる服作りをもって、コーマはそれらふたつの要素をいとも簡単に融合し、宝石で自らを飾り立てた旧ロシア皇后のパワーを見事に描いて見せた。同様のインスピレーションをもとに最新コレクションを作り出したのが、ポール・スミス(Paul Smith)。スミスの場合、モデルとなったのは、この日のPaul Smith 2017年春夏コレクションも観にきていた、いつもシックな妻ポーリーン・デニアだった。Paul Smithはこれまでの数シーズンに続き、大きな方向転換をはかるラインを打ち出した。

Paul Smith spring/summer 17

「花の冠をモチーフとして交友の手段に」というテーマをもとにした今回のコレクションは草原のようなセットだけでも十分にマジカルだった。スミスは、母なる大地の偉大な力をこのコレクションで描いた——芽吹く花々、「フラワーパワー」だ。この日、ロンドン各所で開かれたショーの多くがそうであったように、Paul Smithのショー会場でも服には職人技が光っていた。溢れんばかりのフローラルのクレヨンプリントや刺繍が、スミスの男性的な裁断センスによって生み出されたハンサムなシルエットに見事に施されていた。これがイギリス流スーパーパワーの解釈だ。この国の縫製職人たちこそがマスターしうるユニフォームの形式とテーラリングの技術あってこその世界観だ。イギリスに伝承され続けてきたユニフォームに舌を巻いたロンドン在住スペイン人デザイナー、ジョニー・コカ(Johnny Coca)に聞いてみるといい。コカがクリエイティブディレクターに就任して2作目となる今回のMulberryコレクションだが、コカは学生服や軍服にMulberryが持つウエストロンドンの香りを吹き込み、「ユニフォーム」の可能性を探った。ショーの最後には、これまたイギリス発祥のヴィクトリア朝ドレスのように波うつフリルが巧みにあしらわれた服が登場した。ヴィクトリア朝ドレスのインスピレーションは、最近ではVetementsがフローラルプリントでオーバーサイズに解釈したものを発表し、世代を超えて女性たちの支持を集めた。コカは、クールでありながらクラシックなMulberry女性たちのためにイギリスのクラシックスタイルをシルプルにヴィクトリア朝ドレスを再解釈したが、結果的には、イギリスのクラシックをイギリスファッションに呼び戻してくれた。

Mulberry spring/summer 17

Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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