Rottingdean Bazaar:静かな海辺のシュルレアル

ジェイムズ・テーセウス・バックとルーク・ブルックスによる新進気鋭のブランドRottingdean Bazaarが、ロンドンのファッション・シーンを席巻している。しかし、彼らはロンドンにはいない。彼らが暮らす海辺の町を訪ねた。

by Charlotte Gush
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24 May 2017, 3:25am

「一番端っこに置いてある男性器みたいな形のは、卒業制作で作ったもの。中にスイレンが入ってるんだよ」とジェイムズ・テーセウス・バック(James Theseus Buck)は、"ダフォディルド"と題した作品(「Daffodil」はスイレン、「Dildo」は大人用おもちゃの一種)を指差して、いたずらな笑みを見せる。彼が暮らすフラットの居間に置かれた奇妙な、そして性的な造形をしたオブジェのうちのひとつだ。ブライトンからバスで10分ほどの距離にある海辺の村ロッティングディーンで、彼はルーク・ブルックス(Luke Brooks)と一緒に暮らしている。ふたりがデザイナーを務めるRottingdean Bazaarは、現在のロンドン・ファッション・ウィークでもっとも話題となっているブランド。ロンドンをわかす新進気鋭のブランドが本拠地とするにはあまりに静かな印象だ。

ジェイムズとルークがファッション・シーンに参入したのは2016年6月のこと。ルル・ケネディ(Lulu Kennedy)が主宰するFashion Eastのグループ・ショーでデビューし、コレクションはInstagram上でファッション関係者たちからもっとも支持されることとなった。携帯用ケチャップの小袋や煙草の吸い殻、昆虫の死骸、そして内部に陰毛で文字が描かれたキラキラと光るバッジなどを配した『バッジ・テイスト(Badge Taste)』コレクションは、ふたりのシュルレアルなユーモアを如実に体現していた。そして、スポーツソックスやベージュのタイツ、ドライフラワー、風船などが熱加工で取り付けられた白Tシャツ、スウェットシャツ、ドレスといったアイテムは、彼らふたりが持つ美の世界観を見事に表現していた。

ジェイムズもルークもセントラル・セント・マーチンで、伝説的コース・ディレクターの故ルイーズ・ウィルソンのもとで学び、学士号、修士号を取得して、栄誉あるCSM卒業制作ショー参加に選抜された。ルークは、鮮やかな色の洪水となったTシャツ・ドレスや、織ったり結んだり編んだりとさまざまな技法を用いた服の数々で、L'Oreal賞を受賞した。一方のルークは、荒削りなテーラリングと押し花のディテール、そして革新的な型取りゴムなどを使ったその世界観がカニエ・ウェストの目に留まり、その後、ロサンゼルスにあるカニエのYeezyで4ヶ月間にわたりテキスタイルを手がけた。しかし、「自分がやりたいことではない」と決断し辞職した。カニエはその間、毎日熱心にスタジオを訪れたという。

学校では学年がふたつ違うふたり。共通の友人を介して知り合いではあったものの、直接の出会いはしばらくなかった。そんなふたりがとうとう出会ったのは、アーティストのジュリー・バーホーベン(Julie Verhoeven)を介してのことだった。制作を進めていた作品集『The Joy of Sex』で「背中に毛が生えている男」を探していたバーホーベンは、「ジェイムズとルークがぴったり!」と考え、ふたりに電話をかけた。これに応じたふたりはバーホーベンによる撮影で出会い、その日の終わりにふたりで飲みに出かけ、そこで『Badge Taste』のコンセプトを思いついたそうだ。

今年1月にFashion Eastで発表された、彼らにとって2弾目となるコレクションでは、アイテムに「ボーダー柄の合間をペンで塗りつぶしてください」という取り扱いラベルが縫い付けてあったり、粘着剤に埋め込まれたローマ硬貨をリングにしたアイテム、数メートルはあろうかというソックスがフェルト加工で貼り付けられたウール・ブランケット、タイツで文字をかたどって貼り付けたセーター、そして古代のテキスタイルの一部分を熱加工で貼り付けたTシャツが登場するなど、またしても奇抜なアイデアに溢れていた。まるでオブジェのような作品の数々は、不可避な疑問を生んだ──「彼らが行なっているのは、ファッションなのだろうか? それとも、アートなのだろうか?」というものだ。しかし、ふたりはファッションだと断言する。「買って着れるものを作っているつもりだよ」とジェイムズは言う。「だから洗えるようになっているし、一般消費者が買える金額設定にもなっているんだ」(バッジの小売価格は30ポンド、Tシャツは約200ポンドだ)

「ハイストリートで生まれるものの多くはリアルさに欠けている。
ハイストリートは、ハイファッションの焼き直し──
パロディみたいなものだからね。だけど、そうするだけが方法じゃない。
高価でなくたってリアルになりうるんだ」

わたしがスタジオを訪れたとき、彼らはちょうどHenrik Vibskovの店舗に郵送する商品の梱包を終えたところだった。彼らの作品は、Selfridgesで開催されるFashion Eastのポップアップ・ショップで販売される。「Selfridgeみたいなところに置いてもらえて嬉しい」とジェイムズは表情を明るくする。「そして、Henrik Vibskovが、"陰毛チェ・ゲバラ"を買ってくれたってことも」──ジェイムズとルークが自らの陰毛でキューバの革命家チェ・ゲバラの肖像を描いたTシャツのことだ。「あれが世界のどこかの店頭に置かれてるんだって想像すると楽しいよ」。「アート・ギャラリーなんかにあるより、どこかのショップに置かれているほうが僕たちらしい」とルークもこれに同調する。

ファッションでやるべきことがたくさんあるのに、なぜわざわざアートの世界に参入するなど、無意味なのだ。「ファッションには、まだ改善の余地がたくさんあると思う」とルークは話す。「特にハイストリートの世界ではね。リーズナブルな価格だからこそ、もっとユニークにできるはず」。では、ハイストリートのショップがコラボレーションを持ちかけてきたら……? 「やってみたい!」とルークは興奮して飛び上がる。「ハイスストリートで生まれるものの多くはリアルさに欠けている。ハイファッションで生まれたものの焼き直し──パロディみたいなものだからね」とジェイムズも同調する。「だけど、そうするだけが方法じゃない」とルークが言う。「高価でなくたってリアルになりうるんだ」

現在彼らは、デザイナー・ファッションのより良い環境作りを模索している。友人であり、共に切磋琢磨するデザイナー仲間でもあるマティ・ボヴァンがヨークにある両親の家に暮らしながら作品作りをしているように、ジェイムズとルークもロンドンを離れた。ロンドンを否定しているわけではない──ふたりはロンドンが大好きだ。しかし、新進気鋭デザイナーたちが負債に喘ぎながらも急激な成長を余儀なくされるビジネスモデルには相容れないと判断したのだ。「ほかのデザイナーたちに起こったことを見て、そこから学ぼうとしてるんだ」と、ルークはスタジオを借り、インターンを雇い、ゆくゆくは職員を雇ううえに、当然のことながらロンドンの尋常ではない高額家賃を払っていくという、実際的ではあるものの、継続させるだけで誰もが疲弊してしまうビジネスのあり方について説明する。

ハートフォードシャー出身のルークとブライトン出身のジェイムズは、郊外に暮らすほうが性に合っているそうだ。「ロンドンには、タイミングが良ければ成功できると夢を見させる何かがある」とルークは言う。「僕は、なにかラッキーなことが起こるかもしれない、とただ願いつづけているんじゃなく、自分の故郷のような環境で、実際にものづくりをしていたほうがいいんだ」。ロッティングディーンでは集中しやすいようだ。ふたりは、日中から海辺を散歩したり、彼らの服の縫製をしてもらっているジュリーを訪ねて丘を歩いたりと、のどかなペースで生活を送っている。「ブライトンにすらほとんど行かないんだ」とルークは言う。「風船が必要なときに行くぐらいのもの」

ジェイムズもルークもRottingdean Bazaarに、ブランドとしての"ゴール"は設定していないと口をそろえる。インターンの助けがなくてもふたりだけで継続していけるブランドのあり方を追求したジェイムズとルークだが、結果としてチャンスに恵まれることとなった。Christopher Shannon 2017年秋冬コレクションのショーには細かいフリンジでできたマスクを提供したり、雑誌でエディトリアルの撮影を手がけている(最近では『Man About Town』誌の撮影でクリエイティブ・ディレクターを務めるなどしている)。

Rottingdean Bazaarのショップを立ち上げるのは、彼らが実現すると心に決めている夢のひとつだ。ジェイムズの祖母はロッティングディーンで雑貨店を営んでおり、テレビ番組『リーグ・オブ・ジェントルマン 奇人同盟!』の"地元民のための地元ショップ"という設定は、この店に着想を得て作られたのだそうだ。ジェイムズとルークは、彼ら独特の美的感覚をランウェイの世界に擦り寄せていかなければならないが、誰に頼ることもなくすべての挑戦を自分たちで乗り越えていきたいとしている。「アイデアを思いついて、それを形にする──それが楽しいんだ」とジェイムズは話す。「それがブランドをやっているなかで最高な部分。それができているなんて最高だよ」。海辺が見渡せるスタジオの窓際で、リンゴとクルミで作った彼らの自家製サラダを頂きながら、「これこそは考えうる最高の環境だ」と感じた。

Credits


Text Charlotte Gush
Photography Tim Walker
Make-up Lucy Bridge at Streeters using using Chanel Les Indispensables de L'Été and Chanel Blue Serum.
Luke and James wear rollnecks models' own.
Masks Rottingdean Bazaar.
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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