カール・ラガーフェルドとパリの甘い関係

カール・ラガーフェルドは2017年CHANELオートクチュールのショーでパリに愛を贈り、パリ市は彼に市民栄誉賞を贈った。

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jul 13 2017, 7:55am

This article was originally published by i-D UK.

CHANELのショーを観ようとグラン・パレに駆けつけたひとびとの間を縫って歩きながら、観光客がこう漏らしていた。「またファッション・ウィークなんだね」。しかし、この観光客は何もわかっていない。これはただのファッション・ウィークではない。オートクチュールなのだ。日程上ではファッション・ウィークのなかでもっとも短く、打ち出される世界観もプレタポルテと全く違う。ハイファッションのなかでも最も権威ある究極のファッション・ショーであるオートクチュール。その会場には熱気とカジュアルな雰囲気が共存している。CHANELオートクチュールの会場では、現在のメゾンの顔であるクリステン・スチュワートとジュリアン・ムーアが、プレスや上顧客たちと笑談している。石油関連会社上層部の夫でも持っているのかもしれない上顧客たちは、最新シーズンのクチュール作品を注文しようと世界各地からパリ入りし、完璧な装いでそれぞれの席に座っている。プレスやセレブリティの数は少ない。オートクチュールはあくまでも顧客のためのものなのだ。だから、会場の雰囲気もプレタポルテのそれと大きく異なる。「ごきげんよう。こちら、よろしいかしら?」と、カナリアイエロー色のCHANELスーツとハットに身を包んだ女性が、アメリカ訛りでしゃべりながら席に着く。ファッション界のどこでも、いや、世界のどこへ行っても、そんな光景を目にすることなど、ここをおいてほかにはない。自尊と他者への敬意を表すための正装を今も重んじるひとたちが集い、エレガンスや礼儀正しさといった古くからの美徳が今も息づく空間なのだ。それは顧客でなくとも重んじるべきものだ。

火曜の朝、CHANELのオートクチュールで見たものは、オートクチュールの真髄だった。会場となったグラン・パレには、エッフェル塔の足元が等身大で再現され、その上部は雲をかたどったオブジェの上へと伸びていた。古くはサロンで行なわれていたオートクチュール・ショー——顧客たちがフランスのカフェにあるような椅子に上品に座り、美しい服が目の前を通るのを注視していた今回のCHANELオートクチュールのショーには、そんな古き良きサロン・ショーのような親密な雰囲気があった。今季のCHANELオートクチュールは、カール・ラガーフェルドの生涯においてもっとも重要な意味を持つ女性であろうパリに捧げられていた。ラガーフェルドは、5月に発表したクルーズ・コレクションで、古代ギリシャに着想を得たテーマを打ち出していたにもかかわらず、ショーはグラン・パレにパルテノン神殿を再現して行なった。それほどまでに、彼はパリを大切に思っているのだ。

現在83歳となるカール・ラガーフェルドは、50年代からパリで暮らしてきた。彼がこの街に抱く想いは特別だ。会場では、誰ひとりとしてフランスの財政状況や昨年のテロについて語るものはいなかった。しかし、パリに捧ぐトリビュートとなったこのショーでは、言葉など意味を持たないように感じられた。そこには、芸術作品のようなシェイプに、天使も歌い出してしまいそうなほど軽やかで美しいフェザーの装飾、ハリウッドのレッドカーペットも静まり返らせるほど圧巻のドレスなど、誰もがオートクチュールに期待するパリジャン精神が溢れていた。もちろん、中には奇抜なものもあった。しかし、そうあるべきなのだ。会場はグローブとハット、宝石で飾り立てた観客が埋め尽くしているのだ。CHANELのショー同様、観客もまた現実世界から遠く離れた時空からやってきたように感じられる。そしてそれは実際に、現実離れした客層だ。オートクチュールは、特権の世界なのだ。しかし、そこには不思議なほどに一般社会的な雰囲気が漂い、一般消費者でも、CHANELを着込んで「ごきげんよう」など言い、ランチの席につく世界の一部になれるかのように錯覚してしまう。

ファッションが奏でる夢とは、まさにそういうものなのだ。それは理想の世界だ。年に2回、パリで4日間にわたり開催されるオートクチュールで、それは具現化される。美しいウェディングドレスで幕を閉じたCHANELオートクチュールのショーは、最後にパリ市長アンヌ・イダルゴがランウェイに現れ、パリ市が市民に与えうるなかでも最高の栄誉とされるMedaille Grand Vermeil de la Ville市民栄誉賞をラガーフェルドに授与した。市長とラガーフェルドのスピーチは全編フランス語だったため、すべてを理解することはできなかった。しかし、ラガーフェルドは目に見えて感動していた。ファッション界も、CHANELの上顧客も、そこにいた誰もが同様に。ラガーフェルドとパリ——ファッション界が愛してやまない2人の主役に、わたしたちは感動を隠し得なかった。

Credits


Text Anders Christian Madsen
Images courtesy Chanel
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.