Photo by Katy Shayne.

謎に包まれたポップシンガーvōxが語る、不安と宗教、己を愛すること

10月4日に新作EP『I Am Not A God』をリリースしたばかりのvōx(ウォークス)。ミステリアスな魅力を放つ彼女が、自身が演じるキャラクター、今の自分に多大な影響を与えたという幼少期、不安との向き合いかたについて語る。

by Nicole DeMarco; translated by Nozomi Otaki
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15 October 2019, 5:59am

Photo by Katy Shayne.

「私の名前は、ラテン語で声(voice)という意味」と実験的なポップシンガー、vōx(発音はウォークス)は説明する。「ジェンダーレスで、力強くて、1単語で、先入観を与えない、ひとつの世界を築けるような名前が欲しかったんです」

2015年に音楽プロジェクトを始めた彼女は、その言葉通り、ミュージシャンだけではなくヴィジュアルアーティストやパフォーマーとしても活躍し、それをひとつのキャラクターへとまとめ上げている。彼女が真っ赤なヴェールとドレープをまとってステージに上がると、舞台セットに演劇的でミステリアスな要素が加わる。

衣装によって顔のいち部を覆うというアイデアは、vōxのファッションへの関心と、幼い頃に触れた宗教的テーマを取り入れたいという想いから生まれたものだ。ミネソタの小さな町で信心深い幼少期を送った彼女は、自らの感情をコントロールし、想いを自由に表現する手段として、詩作とピアノに打ち込むようになった。

ロサンゼルスを拠点に活動するようになった今も、音楽は彼女にとって非常にパーソナルなものだ。それは彼女のサウンドを唯一無二のダークポップたらしめる、陶酔的なエレクトリックビートに重ねられた歌声にもよく表れている。

vōxがつくりあげたキャラクターは、10月4日にリリースされたEP『I Am Not A God』を制作する過程で、彼女自身に幼少期と向き合う勇気を与えてくれたという。アレクサンダー・ヴィンセントが共同プロデューサーに名を連ねる本作で、vōxは自らの不安を解消し、己に対する無条件の愛を広めようと試みた。

「子ども時代に教え込まれた考えによって、私の自尊心はめちゃくちゃになってしまった。このプロジェクトは、そういう考えかたと、私が自分自身や自分の身体を守れるんだということを証明しています」とvōxは語る。

「自分という人間や自らの欠点に恥ずかしさを覚えるすべてのひとのために安全な空間をつくり、彼らの重荷を下ろし、癒したい。それこそが、私の作曲の原動力なんです」

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Photo by Katy Shayne.

──活動を始めた当初は、よくヴィンテージのウェディングドレスでパフォーマンスをしてましたよね。vōxのルックスについては、何から影響を受けましたか? また、それはどのように変化していったんでしょう?

ファッションからは間違いなく影響を受けています。十代の頃は『Vogue』が大好きで、よく読んでいましたが、自分には手が届かないと感じていました。最初の頃は、自分のファッションの知識に縛られてしまっていたんです。

あるとき美しいヴィンテージのウェディングドレスを見つけて、それが私のトレードマークになりましたが、別にそれを意図していたわけじゃないんです。ただ、宗教的なイメージをまといたかった。今では自分が求めるヴィジュアルにもっとマッチするような衣装をつくってくれるコスチュームデザイナーと仕事ができてうれしいです。たしかにヴェールを被るのは好きですが、そこにはもっとコンセプチュアルな意味合いを込めています。クリエイティブになれば、どんなレベルであれ、必ず自分の手に届くファッションを見つけられる。そう気づいてから何もかもが変わりました。

──つまり、vōxは音楽プロジェクトにとどまらず、ひとつの世界を表現しているんですね。

その通りです。それにvōxはある意味キャラクターなんです。私自身もまだその意味を模索している最中ですが。以前はvōxは自分ではない、と思っていた。でも、最近私のなかに力が生まれたきっかけは、vōxは私だという気づきだったんです。vōxは自分には無理だと思うことを成し遂げている…でも実際にそれをやっているのは私なんですよね。それこそがキャラクターとともに生き、自分の持つ様々な面を掘り下げていくことの魅力だと思います。

私も普通のひとと同じように、人前に出るとすごく緊張します。それ以外にもいろんな不安症を抱えています。身体が震えたり、寒気や吐き気を感じることもある。今すぐやめたい、といつも思います。早くここから立ち去って、プロジェクトを全部やめてしまおう、って。でも、キャラクターのおかげですべてが変わりました。シンガーソングライターとしてパフォーマンスをしていた頃は、キーボードの前に座って曲を演奏すると、思考停止状態になってしまった。不安に支配されてしまっていたんです。

──このEPでボディイメージや自己愛を取り上げたきっかけは?

私自身がずっと自信をもてなかったからです。特に幼い頃はそうでした。最近はだいぶましになったと思います。そのきっかけには年齢が関係してるのか、今回のプロジェクトなのかはわかりませんが、私にとってはヌードの撮影が大きかったと思います。とても大きな自信になりました。私はいつも自分の身体をアートとして用いることを最優先しているので。ヌードをセクシュアルにみせるような撮影は、いちどもしたことがありません。これはあくまでもアートで、セックスじゃない、というのが力になるんです。

──最新作のEPのテーマについて教えてください。

私の音楽はどれも、とてもパーソナルです。他人を助けるだけでなく、私自身にもいろんなものを乗り越える力を与えてくれる。これまで私がつくってきた楽曲には、ある共通点があります。それは子ども時代の出来事や教会を想起させるということ。これらの記憶は、大人になってもなお私の人生に登場し、影響を与えています。それから、自尊心、自分の身体を自覚すること、自分の性に自信をもつこともテーマのいち部です。つまり、特に信心深くなかった友人たちも経験するようなことです。

──子ども時代の宗教的な体験とはどんなものでしたか?

最近になって気づいたんですが、私の家族は特にそこまで信心深かったわけじゃないんです。日曜に教会に通うくらいで、聖書は読まなかったし、食事の前に祈ったりもしませんでした。それでも私が宗教に惹かれたのは、私が不安を抱えていたからだと思います。不安は未来への失望、絶望感の表れともいえます。私は宗教に安らぎを見出そうと必死だったんだと思います。学校の友だちがみんな信心深かったというのもあるかもしれません。

でも結局、不安が消えることはなかった。宗教で解決できるものではなかったんです。まるで宗教に裏切られたような気分でした。自分は周りにうまく馴染めないと感じてしまって。疑心暗鬼になり、自分は罪深く、価値のない人間だと思いこんでしまった。そういう気持ちが生まれると同時に、多くのひとが経験することかもしれませんが、自分のなかの性にまつわる考えがめちゃくちゃになってしまいました。自分の身体との精神的な結びつきがわからなくなってしまって、それが罪深いことだと感じていたんです。

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Photo by Katy Shayne.

──EPのジャケットについて教えてください。

これは、私の〈宣言〉を表現しています。以前の私は、自分が詐欺師で価値のない人間だ、という想いがとても強かった。ステージに座ると、何かを強制されている気がして。自分が信じられない言葉を暗記して読み上げるのは、どうしても嫌だったんです。11歳の頃の私は、不安でいっぱいでした。当時の想いをvōxというキャラクターを通して再体験し、自分がそこで失ったと思っていた力を取り戻したかった。このジャケットで、私は全身パフォーマンス用の衣装で、教会のステージの金属製の小さな折りたたみ椅子に座っています。かなりパワフルでセクシュアルで、奇抜ですよね。

──グラント・スパニエルが監督した「I Can Feel Myself Leaning」のティザー映像も公開されました。これはあなたにとってどんな曲ですか?

「I Can Feel Myself Leaning」は、気持ちの落ち込みを歌った曲。自分のパートナーに、癖や欠点があっても、ありのままの私を欲しいと思ってくれるか、と問いかけています。この曲を書いたのは、私たちの癒しに終わりはないんだと気づいたとき。生きている限りずっと続くプロセスなんです。ある朝起きて突然「私はもう大丈夫! どんなときも無条件に自分を愛せるし、許すこともできる」なんて思うことはない。でも、それでいいんです。悲しみがあるからこそ、本当の意味で歓びを謳歌することができるので。

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Photo by Katy Shayne.

──つまりあなたのプロジェクトは、弱さを抱えていること、それを音楽を通して表現することのうえに成り立っているんですね。とても難しいことだと思います。

すごく難しいです。キャラクターをつくりあげる前の私にはできなかったことです。でも、他人とつながるためには、自分の弱さを受け入れるしかない。以前の私には到底できませんでしたし、今でもすごく難しいことです。もうひとつ私の助けになったのは、目的を明らかにすること。どうして自分はこれをするのか、なぜそれが社会のためになるのか、どうしてそれを続けるべきなのか、じっくり考えてみるんです。目的を明らかにすることで、不安を乗り越え、弱さを受け入れ、目指す場所に近づけるんだと思います。

This article originally appeared on i-D US.

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