Karl Lagerfeld, The Royalty Issue, 318, Spring 2012.

追悼 カール・ラガーフェルド

史上最高のアイコニックな才能を失い、悲嘆に暮れているファッション業界。2012年のi-D〈The Royalty Issue〉に掲載した、キング・オブ・ファッションのインタビューを振り返る。

by i-D Team; translated by Ai Nakayama
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07 March 2019, 9:13am

Karl Lagerfeld, The Royalty Issue, 318, Spring 2012.

「カールに初めて会ったときのことを忘れられるひとなどいません。カールとの出会いは記憶に残る出来事ですから。もしかしたら、人生を変えるほどの出来事かも」。サンドラ・ブラントは、『Interview』誌の仕事でカールと初めて顔を合わせたときのことを回想する。「仕事というか、アンディ・ウォーホルとの70年代初頭のパリ旅行だったんですけど。私たちはふたりとも20~30年代の映画が好きで、アール・デコにも夢中だった。フリーマーケットで隠れた名品を発掘することができた時代です。私たちと同じものにハマっていたひとは数少なかったけど、そのなかにカールがいたんです。彼は私たちを家に招待し、自分のコレクションをみせてくれました。圧倒されましたね。コレクションだけじゃなくて、カール自身にも。誰かをみただけでそのひとのスター性を見抜くアンディは、カールを次回作『L’Amour』に起用しました。私たちは、この映像作品をパリで撮ったらおもしろいんじゃない、って話をしてたんです。キャストそれぞれに役を演じてもらいましたが、カールが演じたのはカール。ハリウッドでは〈カメラに愛された男〉って評されてましたね。すてきな表現だと思いますし、カール・ラガーフェルドというひとを言い得て妙だな、と。彼はスターであり、深く考えるひとです。『Vanity Fair』では〈誰もが認める、思考するクチュール・プリンス〉とも呼ばれてました。もちろん、史上もっとも重要なデザイナーのひとりでもあります」

ドイツ出身のカール・ラガーフェルドは、Chanelのクリエイティブディレクター、Fendiのヘッドデザイナーとして、世界屈指の主要ファッションブランドふたつを率いている。しかし、彼は歴史にとらわれるタイプではない。彼は、常に未来を見据える偉大なイノベーターだ。たとえば、2012年のNet-A-Porterとのコラボでは、ハイファッションとバーチャルリアリティ、最先端のテクノロジーを融合させた。同年1月には、サングラス、ポニーテール、ハイカラーという自らのアイコニックなシルエットが白黒のエンボス加工で施された巨大なガラスキューブがパリのサンジェルマン・デ・プレ広場に突如出現。そのオブジェは何の説明もなく展示され続け、ついに5日後の午後、熱狂する観衆の前に、Net-A-Porterの創業者ナタリー・マセネットと〈皇帝〉自らが姿を見せた。窓にスモークが貼られた車が続々と到着すると、なかからNet-A-Porter限定ブランドのKARL新コレクションをまとったモデルたちが登場。メタリックレザーのライダースジャケット、ミニマルなブレザージャケット、シルバーのスキニージーンズ。さらに、遊び心たっぷりなハイカラーとフィンガーレスグローブが多色展開された。

KARLコレクション専用のAR(拡張現実)アプリがあれば、オブジェに施されたカールのシルエットをスキャンして、喉から手が出るほど魅力的な(しかも驚くほど安い)アイテムをiPhoneやiPadで直接購入できる。それだけじゃない。パリ、ベルリン、ロンドン、ニューヨーク、シドニーで計5店舗のポップアップ〈ウインドウショップ〉が同時に登場し、同アプリをもっていれば、ショップのウインドウに貼られた写真をスキャンするだけでコレクションアイテムをそのまま買えてしまう。「カールは進歩的、未来的な考えかたをするひと。それにとても革新的なので、私たちも、彼をわくわくさせるような、まさに21世紀的なアイデアを考えよう、と闘志がわいたんです」とナタリー。「そこで、世界中の都市での同時ショップローンチを計画し、さらにARも使用することにしました。さらにSNSやソーシャルショッピングも巻き込んでバズらせようと。結果として大成功しましたし、Net-A-Porterにとっても忘れがたい経験になりました。すごく楽しかった」。発売開始から24時間で、KARLの在庫の3分の2が売れたというのも納得だ。将来はこのような買い物体験が主流になるのだろうが、それを今の時代に実現した。

KARL新コレクションのローンチに合わせて、Net-A-Porterではカールのカールによるインタビューが公開された。かなり笑えて、びっくりするほどシュールな、カールとカールの対談だ。彼の自己認識の深さとひねくれたユーモアがこれ以上ないほどに発揮されている。「誰より頭の回転が速いカール。それならば、彼へのインタビュアーとして、彼以上の適役はいませんよね?」とナタリー。「カールはこの提案に乗ってくれました。前例のないことをするのが好きな彼だからこそ、このアイデアを気に入ってくれた。彼は穏やかで心が広く、ユーモアがある。あの映像はもう30回以上観てますけど、毎回笑ってしまいます。最高ですよ!」。この本人×本人インタビュー内で、カール①がカール②にこう問いかける。「いつでも新鮮で、時代に合ったデザインをするにはどうすれば? 君を見ていると、自分ってなかなかフレッシュだし、今の時代にも適していると私は感じるんだが、君はどう思う?」。カール②の答えはこうだ。「そんな質問は自問自答したことがない」。以上。さすがのカール①も一瞬当惑する。最終的に、カール①の質問にうんざりしたカール②は、カール①を自らのサンジェルマンのスタジオに置き去りにして消える。ちなみにこのスタジオもすばらしい。床から高い天井まで、文字どおり壁一面に本が並び、まさに書かれた言葉に捧げる、生きるモニュメントだ。

Karl Lagerfeld

カールは本の虫で、活字を愛し、スタジオの下階では古書や写真の参考図書から最先端の雑誌までを取り揃えた〈7L〉という本屋を所有。7Lはドイツの出版社〈シュタイデル〉のインプリントのブランドネームでもある。7Lの名のもとに出版する書籍に関して、カールは細部にわたるまで指示を出している。カールが掲げる7Lのミッションステートメントは、簡潔で実に直截的だ。「書籍は、数々の重要な課題を乗り越えなければならない。私は、私が真に愛するもの、本当に提示したいもの、価値があり、興味深く、ふさわしいと私が考えるもの、それらについて突き詰めて考えている」。また、カールは卓越した写真家でもある。モデルのバティスト・ジャビコーニを撮った『The Beauty of Violence』、ブラッド・クローニングを撮影した『Metamorphoses of an American』、そして都会の風景の圧倒的なイメージを収めた『Abstract Architecture』など写真集も上梓。Chanelの広告キャンペーンは毎回カールが撮影を務めているし、世界各国の一流誌のさまざまなエディトリアルも担当してきた。これまでパリのヨーロッパ写真美術館やローマのキオストロ・デル・ブラマンテなど、世界各地で大回顧展が開催され、ソウルの大林美術館での写真展「Work in Progress」も、2012年3月初頭に終わったばかりだ。この写真展でカールは、シュタイデル社の創業者、ゲーハート・スタイドル、そしてChanelのアートディレクター、エリック・フランダーとともに閲覧室、短編映像シリーズ、アナログのフォトブースを設置し、彼の写真作品の魅力に花を添えていた。

すばらしいキャリアを築いてきたカールだが、想い出にひたることに興味はないらしい。本人×本人インタビューでも、「古き良き時代については語らない」と答えていた。「というか、本当にそこまで〈良き〉時代なのか私は確信がもてない。ただ〈古い〉だけだ」。そのかわり、彼は未来だけをみつめている。彼自身がデザインした、ピンクとホワイトのボトルのダイエットコークで元気を注入しながら、Apple製品を複数使いして仕事をしている。カールはかつて、iPodを絶賛していたくらいだし、今回のインタビュー中にも、iPhoneで愛猫の写真をみせてくれた。また最近ではiPadを、ときには複数使ってスケッチを描いているらしい。スケッチするのは服だけではなく、風刺画だったりもするという。描く対象はエリザベス女王、ミシェル・オバマ、全身Chanelをまとったミス・ピギーなど。若いころはイラストレーターになりたかったという彼は、1992年、童話作家アンデルセンの『裸の王様』の美麗なイラストを手がけている。オーブリー・ビアズリーを思わせる、ダークで優雅なデカダンス的な雰囲気を醸し出すイラストを、エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー的な、ねっとりした表現主義風の水彩画で仕上げており、実に見事だ。彼が描けば、裸の王様でさえもファッションアイコンにみえる。

カールのスタイルは、ファッション界の誰よりもアイコニック。2008年には、ひと目で彼とわかる、ぬいぐるみのオルターエゴをデザイン。黒いサングラス、スーツ、ネクタイ、ノリのきいたハイカラー、ダイヤモンドのタイピンとジュエル付きのKLモノグラムベルトを身に着けた、シュタイフのテディベアだ(価格は1500ドル〔18万9000円〕)。足りないのはブラックレザーのフィンガーレスグローブくらい。本物のカールも1980年代中頃からは、屋外、屋内問わず、夏のサントロペでも冬のパリでも、常にサングラスをかけていた。「私にとってのブルカ」とカールは述べていた。「私は少々近視なんだ。近視のひとがメガネを外すと、『僕をペットにして』と訴えてくる犬みたいにかわいらしい顔になるだろう」

「カールには、何でもできるって気にさせられる」と証言するのはフローレンス(FLORENCE AND THE MACHINE)。「海についての会話が、グラン・パレの海底世界になる。彼と話していると、私ももっといろんなことを知りたいって思う。17世紀フランスの恋の詩とか、新古典主義の画家とか。いつか彼との会話についていけるようになるために。ファッション界において私がこういう立ち位置にいるのも、カールの影響がすごく大きい。彼の友情とサポートは計り知れないほど。大きな貝殻ももらった。必要になるときが来るかはわからないけど」

彼女が言及しているのは、Chanelの2012年春夏コレクションの豪華絢爛なショーのことだ。会場のグラン・パレは、サンゴ砂がきらきらと輝き、怪物サイズのエンゼルフィッシュ、タツノオトシゴ、エイが泳ぐ海底のワンダーランドに姿を変えた。フィナーレでは、この世のものとは思えないほどに優美な83人のセイレーンがランウェイに登場。彼女たちの髪にはパールがちりばめられ、ウニ殻を模したヒールのついたサンダルを履いていた。ボッティチェリの〈ヴィーナスの誕生〉を思わせる巨大な貝殻のなかにフローレンスが現れ、「What The Water Gave Me」を歌いだすと、観客(と筋肉ムキムキの救護員ひとり)は聴き惚れた。自由な想像力が羽ばたく、華麗でファンタジックなショーで、まるで魔法のような不思議な瞬間だった。コーラルピンクやパールホワイト、アオブダイのようなターコイズなど、伝説の宝島を思わせるカラーパレットに、時折鮮やかな色が加わる。モデルのTAO、オティリア・シモン、ジョセフィン・スクライバーは、サンゴ礁カラーのカンディンスキーの抽象画があしらわれた美しいドレスを着用。たなびくリボンは潮の流れに揺れる海草に似ている。シルバーの刺繍、きらきらのスパンコール、玉虫色のレンチキュラーが輝くさまは、プランクトンの発光で青く光る海、あるいは月に照らされた海面に映る星々のようだった。

Fendiの2012年春夏コレクションショーも同じく大成功を収めたが、Chanelとは180度違い、私たちは扇のように大きく展開するカールのファッション・ヴィジョンを目の当たりにした。シルヴィア・ヴェンチュリーニ・フェンディとともに手がけた同コレクションの着想源は、ミラノの神経学者で、1986年にノーベル生理学・医学賞を受賞した103歳のリータ・レーヴィ=モンタルチーニ。カールはスーパーモデルたちをモノグラム入りの巨大な分度器の下から、ファッションのトレンドの移り変わりを超える速さで登場させた。上から下まできっちりボタンが留められたドレス。アイロンがかけられ、白衣のようなパリッとした素材のテーラードジャケット。ストライプや円。グラフ用紙のように刺繍された生地。『ナッティ・プロフェッサー クランプ教授の場合』を思わせる、遊び心のあるスタイリングも印象的。コームでなでつけたふんわりしたオールバックは、実験が失敗したあとのマッドサイエンティストのようだし、メタリックな素材で飾られた目を守る、オーバーサイズのカラフルなサングラスは保護ゴーグルにもみえる。

今号のカバーフォト撮影のさい、i-Dのファッションディレクター、シャーロット・ストックデールがカールに同席し、いろいろな話をした。最初の話題はカールの愛猫である白のバーマン、シュペットについて。彼女はファッション界でももっともクールな猫で、2012年初頭に初めてその写真が公開された。ピンク、パープル、ホワイトのバラのブーケの下に座るシュペット。その横にはもちろんChanel アリュールのボトル。彼女はたっぷりお湯が張られたバスタブをじっとみつめている。カールによると、「彼女はバスタブに飛び込んで、水を飲みたくてしょうがないんだ。もちろんダメだ」。その写真が公開されてからすぐ、スティーヴン・ガンが友人ふたりをメンションしてこうツイートした。「やっほー、子猫ちゃん @LadyGaga @formichetti!カール・ラガーフェルドの日曜夜の写真だよ。新しく飼いはじめた子猫のシュペットだって」
お風呂の時間が終われば、映画『007は二度死ぬ』のエルンスト・スタヴロ・ブロフェルドよろしく、キャスター付きチェアに座り白猫を撫でる皇帝カールの姿を想像してしまうが、実際のシュペットの生活はもっと豪奢で、カールが「お姫さまの生活」と呼んでいるほど。シュペットは、超高価な宝石と戯れ、超上質なカシミヤのブランケットがかけられたカールのベッドで眠り、専属メイドに彼女の化粧用パフのような毛をブラッシングしてもらいながら、何時間もお昼寝をする。

もちろん、今号のテーマは〈The Royalty(王者)〉だし、カール同様、猫は王者と呼ぶにふさわしい生きものだ。古代エジプトで、猫は神の化身たる、実に神聖な存在であり、ファラオとともにミイラにされていたほど。大英博物館にも展示されている。さらにタイの古代王朝では、王宮や神殿を守るためにトレーニングを受けていたし、北欧神話においては、愛と美の女神フレイヤの車を引いていたのは猫だった。日本でも、招き猫は幸運のシンボルとされている。

この記事の冒頭でサンドラ・ブラントの回想を紹介したので、最後は彼女のパートナー、イングリッド・シシーによるカールの想い出で締めくくろう。「私たちはいっしょに東京で、日本の伝説的アーティスト、草間彌生を待っていました。彼女のポートレイトをカールが撮影することになっていて。カールはずっと彼女の作品のファンだったけど、顔を合わせたことはなかった。彼女を迎えるために、私たちはスタジオをできるかぎり静かで、落ち着いた空間に整えました。彼女の生み出すアートはパワフルだけど、彼女自身はとても繊細。彼女は自身の希望で、自らの内なる悪魔から逃れられる施設で人生の大半を過ごしています。すると、突然カールが、鮮やかな赤色の大きな紙を何枚か用意するよう指示を出し、アシスタントが急いで買いに走りました。それから彼はハサミを求め、紙を切って大きな赤い円を切りだし、白の背景へと貼りつけ、赤色に囲まれた白の水玉をひとつつくりだしたんです。彼の作業が終わると、エレベーターのドアが開き、私たちはその光景に息をのみました。ふたりの介助人に付き添われた草間彌生は、鮮やかな赤いウィッグをかぶり、赤い水玉のコートを着ていて、その色は、カールが切りだした紙の色とまったく同じだったんです。彼女はカールが用意したセットを見つめると、すぐにそのなかへと歩いていきました。彼女は、すぐに安心できたんだと思いましたし、すべてを一瞬で感じ取ったカールには圧倒されました。感動して、思わず泣いているスタッフもいました。私たちはあの場で、カールの鋭い直観と共感を目の当たりにしました。カールをよく知っているひとなら、カールのそういう側面を何度も目撃しているはずです」

以下が、シャーロット・ストックデールによる、「キング・オブ・ファッション」の雄弁なインタビューだ。

——これまでインタビューで訊かれた質問で、いちばんバカげていたのは? この質問以外でお願いします。

記者たちの質問を評価できるほど私は礼儀を欠いていない。答えられる質問には答える、それだけです。

——シュペットについて訊かせてください。彼女はあなたの人生をどう変えましたか?

シュペットが私の人生をどう変えたかは、具体的にはわからない。ただ、面倒をみなくてはならない存在が突然現れた。私は、自分以外の面倒をみることには慣れていない。だから、私にとっては猫1匹でも大きな変化だ。

——彼女はどこで寝るんですか?

私のベッド。いつも私のベッドで寝ている。白い上質なカシミヤのブランケットのうえ。でも、私がベッドにいないときは絶対にベッドには登らない。写真をみせよう(とiPhoneを取り出す)。

——うわあ、きれいですね。

そう、彼女はとても美しい(と他の写真をみせる)。今は生後6ヶ月。どうもファーのカバーが嫌いらしくて攻撃している。

——抱かれるのは嫌がりませんか?

いや、そこまで。ひとを選ぶね。いつも窓の外を眺めているよ(と他の写真をみせる)。

——朝、彼女に起こされたりします?

いや、私は彼女より早起きだ。彼女は時折、手提げバッグに飛び込んで、出てこないことがある。バッグの女王だ。彼女のために特注したGoyardのバッグもある。これは私のデスクに乗っているところ。書類のあいだを歩くのが好きなんだ。あとはバスタブに飛び込みたがる。水が好きなんだ。水を飲むのがね。だからバスタブから水を飲みたがる。でももちろんダメだ。これは私が働いていないときにデスクに居座る彼女(と他の写真をみせる)。

——椅子を温めておいてくれてるんですね。

まさにそう、私のために温めておいてくれる。私が働いているときは、私のそばで横になってね。

——目がすごくきれいです。

本当に、信じられないくらいだよ。私が旅に出るときは、荷物の後ろに隠れてしまう。これが個人的にお気に入りの写真。まだ小さくて、スーツケースの後ろに隠れている。夜はこんな感じだよ。小さな白い毛のかたまり……。

——かわいいですね。あなたが帰ってきたときはよろこびます?

ドアの前で待っているよ。これが、彼女が待っている玄関。

——なんていう種類の猫なんですか?

バーマンだ。まるで化粧用パフのよう。入念にブラッシングされているね。メイドが何時間もかけている。私はやらない。メイドたちは何時間もブラッシングしている。彼女は窓の外を眺めるのが好きなんだが、外には出ない。

——外にいるときは彼女のことが恋しくなりませんか?

不思議なことに、恋しくなる。慣れるものだね。彼女はテレビが嫌いで、耐えられないらしい。テレビをつけていると、テレビに背中を向けて画面の目の前に座る。ほら、嫌そうだろう。これはランチのときの写真。とても賢い。『Colette』を読んでるだろう(と『Colette』に座っているシュペットの写真をみせる)。パリのColetteで買いものをするのも好き。本当に賢い猫だ。本物の宝石をおもちゃにして遊ぶのも好き。ほら、彼女の瞳と同じ色の宝石と撮った写真だ。お姫さまの生活だよ。

——枕かと思いました。

目に特別な輝きがあるだろう?

——すばらしいです。アップだと虎のようにもみえますね。目がエキゾチックで。

自分でリボンにからまってしまって、どうしようもなくなってる彼女の写真。待った、まだみせたい写真がある。今日の写真。獣医にみてもらって、プラスチックのエリザベスカラーを着けられてる。

——カラーなんて嫌がりませんか?

嫌がってるね。私も着けたくはないんだが。動物は忘れるっていうけど、本当かどうかは怪しいね。……さて、そろそろ知的な質問をしてくれるかな。

——すみません、もちろんです。

ダイエットコークをいただいてもいいかな? 頭の働きが良くなるからね。

——まずあなたのドローイングについて聞かせてください。あなたの絵の上手さは、他のデザイナーとの差別化に一役買っていると思います。スケッチのさいはiPadを多用しているようですが?

そうだ。でも時間がかかる。

——紙に描くよりも?

そうなんだ、かなり時間がかかる。デイヴィッド・ホックニーのような、高速ドローイングの技術は使わないからね。ホックニー展は観たかい?

——ええ。

彼のような、簡単で速く描けるような技術は使わない。私は版画の原則に従ってる。お見せしよう(とiPadを取り出す)。Apple社のためにスティーブ・ジョブズの肖像画を描いたんだ。これだよ(と絵を見せる)。

——すごいですね。

より時間がかかるんだ。版画に似ている。もっと速く描く方法もあるけど、私は版画のスタイルが好きなんでね。私はもともと、イラストレーターになりたいと思っていたのは知っている?

——そうなんですか? 知りませんでした。

ファッションの世界で生きていけるのかわからなかったから。今はスケッチをしないデザイナーも多い。彼らは誰かに頼んで、コンピューターで描いてもらう。あるいはスケッチせずに布から始める人も。私にはそのやり方がわからない。私のデザインは、スケッチなしには始まらない。出来上がったアイテムは、私のスケッチから遠く離れることはない。なぜなら私は、生地を立体的にみて、それを紙に落とし込んでいるからだ。様々なバリエーションもつくるが、そこまで多くはない。

——誰も知らないあなたの秘密を教えていただけますか? もちろん、きわどい秘密じゃなくて結構です。

私について、君が知っておく必要がある唯一の真実は、私以外の他人から聞いた話は、必ずしも事実ではないということだ。

——なるほど、重要な秘密ですね。写真を始めた理由は?

理由はシンプルだ。Chanelに就任した当時、ドシエ・ドゥ・プレス(プレスキット)を担当していたのが、ひと昔前の写真家や、ズブの素人だった。著名な写真家はドシエ・ドゥ・プレスには対応していなかった。ドシエ・ドゥ・プレスは、だいたい服がまだ仕上がっていないときにつくらなくてはいけないので、実は簡単ではない。スタイリストもいなかった。エリック・フランダーがプレタポルテのドシエを3回みせてきたけど、私は毎回「エリック、残念だがこれはひどい」と答えた。3回目のあと、エリックにこういわれた。「そんな厳しいこというなら、自分でやってみてくださいよ!」。こうして私が担当することになった。ハッセルブラッドを1台借りて、アシスタントひとりを雇った。それが始まりだ。

——あなたが大好きな〈もし無人島に行くならどうする?〉について…

(質問を遮って)私は無人島には行かない! だから何ももっていかない。

——これまでに自分が撮った写真で、お気に入りの作品はありますか?

イエスであり、ノーだ。基本的には興味がない。私のお気に入りの写真は、まだ撮っていない写真。

——もし願いが叶うとしたら、撮ってみたいのは誰ですか?

ミシェル・オバマ。彼女はすばらしい。米国版『Metro』紙で私が描いた彼女のスケッチはみた? 彼女とバラクのスケッチだ。彼はミシェルがいなければ今の地位にはいないだろう。彼みたいな男性には、ミシェルみたいな女性が必要だろう? 彼女には特別な何かがある。彼女が放ったあるひとことで、私はファンになったんだ。ある記者に「スカートがタイトすぎるとは思いませんか?」と質問された彼女は、こう答えた。「どうして? 私の大きな黒いお尻はお嫌いですか?」。見事な返答だ。生きてれば、こういう質問にも答えなきゃいけないときがある。彼は再選を望んでいる。オーケストラの指揮者は、リハーサルのときに「もういちど心を込めて……」というだろう。彼には、自分がやりたいと考えていたことを成し遂げる時間がなかった。彼にはあと4年必要だし、彼に4年与えられることを私は願う。とにかく私は、ふたりの美しいスケッチを描いたんだ。タイトルは〈どうか、もういちど心を込めて……〉。ほら(とiPadで作品をみせる)。ミシェルに見守られながら指揮をする彼の姿。彼には神々しさすらある。彼女も優れたひとだ。彼女の顔に表れてる。彼女のファッションについては気に留めていない。彼女が何を着ているかも知らない。すべてはここに表れている(とスケッチのなかの彼女の瞳を指す)。歌でもあるだろう、「ミッシェル わが美しの人」。『Metro』紙のスケッチだ。

——すばらしいです。

当然だ。ミス・ピギーのスケッチもある(とスケッチをみせる)。Chanelを着たミス・ピギー。これは英国版のためのスケッチだ(と、王冠が乗ったクラシックハットをかぶる女王のスケッチをみせる)。いちど女王になれば、常に女王。これはロシア版の(別のスケッチをみせる)、『白鳥の湖』の135周年を祝したスケッチ。湖に浮かぶ白鳥がこういってる。「私たちは135年もここにいるけど、彼らはいまだに私たちのマネをしようと頑張ってる」

——最高ですね。

さて、知的な質問は終わりかな?

——いえ、ここからがヘビーな質問です。

やれやれ!

——あなたがファッション業界に足を踏み入れて以来、いちばん変化したものとは?

たくさんある。私は数々の変化を生き延びてきた。いちばんの変化などわからない。プレタポルテの登場かな。プレタポルテが、ひとつのアイデンティティをもったものに変化したこと。でもそれは100年前のことだ。最近ならいろいろある。インターネットもそう。永遠に進化し続ける。進化をやめれば、みんな忘れてしまう。

——インターネットは、ファッションにどれほどの影響を与えたと思いますか?

違いを比較してもしょうがない。時代はそれぞれ違うものだ。みんな、昔はよかった、と考えているが違う。昔は今と違う、それだけだ。世界が違う。

——ありがとうございます。では、軽い質問に移ります。

ようやく自分のレベルがわかったんだね。

——あなたのように、これまで星の数ほど質問に答えてきた方への質問を考えるのはすごく大変です。しかもあなたは、Net-A-Porterで、本人×本人インタビューをしています。最高のインタビューでした。私は笑っちゃって仕方がなかったんですけど、同時に、心は沈んでいきました。「こんなインタビューをされたら、私が質問できることなんてないんじゃないか?!」って。というわけで、好きな動物を教えてください。

ああ、シュペットだ。

——シュペット以外では?

ウシが好き。

——その理由は?

私の父が牛乳配達人だったから。

——乳搾りってしたことあります?

いや、まさか! 嫌だね。物理的な接触は遠慮するよ。

——あなたを3ワードで表すとしたら?

無理だ。もっと必要だ。3ワードでまとめろといわれたら、口をつぐむことを選ぶ。

——宝くじを買ったことは?

ない。私は労働を信じている。宝くじは信じていない。

——すばらしいですね。さあ、以上です。いかがでした? 悪くはなかった?

上出来だった。

——ありがとうございました。

こちらこそ。楽しかったよ。

credits


Text: Dean Kissick
Interview: Charlotte Stockdale
Photography: Karl Lagerfeld

This article originally appeared on i-D UK.