ベルトコンベアが運ぶ2019年のクチュール、そしてその先:Dior AW19
「自分史上最高のショーかも」
Photography Mitchell Sams
76メートルにも及ぶベルトコンベア ランウェイに乗ってオープニングモデルが登場する前、今回のショーについて「自分史上最高のショーかも」と述べていたキム・ジョーンズ。彼は間違っていなかった。ディオール・メンズ・アーティスティック・ディレクター就任からわずか8カ月、3度目となるコレクションでキムは引き続きDiorが遺してきたクチュールの姿勢や特徴、すなわちそのシルエット、技術、素材、哲学をしっかり踏まえた再創造を試み、比類のない高みへと自らを駆り立てた。

微動だにしないモデルたちが、好奇心を隠せない観客の目の前を通り過ぎていく。その様子をキムは「彫像みたいにそこに立ってもらって、クチュールサロンでの姿を再現した」と説明した。DJのハニー・ディジョンが手がけたサウンドトラックに乗せて流れてくる、モダンラグジュアリーの未来を体現するモニュメントたち。それはまさにメンズウェアの果敢なる新世界だった。Diorの2019年秋冬コレクションが究極的に表現していたのは、クチュールの感覚を大切にしつつ、現代の精神を加えること。これこそが新たな〈ニュールック〉であり、未来のテーラリングであり、明日への潮流だ。

活きのいい新興ブランドからアイデアが光る老舗ブランドまで、ここ数シーズン、パリのラグジュアリーブランド全体に新しいエネルギーが流れており、アーティスティックディレクターたちはそれぞれが考える〈2019年におけるラグジュアリー〉像を披露している。キムはDiorで、初めてアトリエと組んで服づくりをすることになったわけだが、彼にとってラグジュアリーとは、ムッシュ・ディオールにまつわる記号をDiorというクチュールブランドの言語で再解釈することに他ならない。過去をキュレートし、今へと再創造する。Diorデビューを飾った伝説の2019年春夏コレクションのプレビューのさい、キムはアトリエでこう語った。「僕はデザイナーだけど、何よりもDiorのために働いているんです。まずDiorありき。僕はそれを、僕なりに解釈する。エレガントで洗練されていてロマンティック。それがDiorです」

キムは今回のコレクションで引き続き、クリスチャン・ディオールが創設したブランドをさらに深く掘り下げた。着目したのはムッシュ・ディオールの、同時代の前衛芸術作品を取り扱うギャラリストとしてのバックグラウンド。BLACK FLAGやSONIC YOUTHなどのアルバムアートワークで知られるアーティストのレイモンド・ペティボンとコラボレーションし、そのテーマを反映させた。ビーズ刺繍の眼が施されたタクティカルベストが登場したオープニングから、アート系おみやげのような〈女性らしさの顕現〉としてのモナ・リザ的イラストが飾ったクロージングまで、コラボレーションはまるでアーティストとデザイナー、クチュリエの対話のよう。コレクション全体の雰囲気を特に象徴していたのがこのコラボアイテムだった。女性らしさと男性らしさ、アートとファッション、過去と現在。キムはそれらのあいだを遊び心たっぷりに行き来し、新たな対話を促している。すべてDiorというブランドの表象や特徴から着想を得たものではあるのだが、それは単なる土台に過ぎず、進化させていく必要がある。キムは総ざらいした過去に未来を語らせることで、それを実現した。




ショーや展示会、ローンチの速度がどんどん速まっている昨今、ひとつのシーズンが終わったあと、まるでBBCの家族向けゲーム番組『The Generation Game』を観終わったときのような気持ちになることがある。つまり観た内容について、すべてを思い出すことができない状態。しかしキムは今回のショーセットでそれを覆した。彼の演出は実に強力で、すべてのルックの、かたちの違うシルエットを私たちは難なく思い出せる。半分はスカーフとして、半分はサッシュとして立体的にドレープを描くアイテムで飾られたテーラリング。「このアイデアはDiorアーカイブの、1955年のドレスのカットを眺めていて思いついた。それをもっと肩のちからを抜いた状態に、さらにエレガントにした」とキムは説明する。ムッシュ・ディオールが愛し、1947年の自身初となるコレクションにも取り入れたパンサー柄、さらにニットウェアとしてタイガーやレオパード柄も用いられ、アニマルプリントも印象的だった。

アクセサリーではALYXのマシュー・ウィリアムズとコラボ。アイコニックなDiorの〈サドル〉バッグをメンズ服へ引き続き取り入れたり、レイモンド・ペティボンの作品がプリントされたアクリル樹脂、レザー、〈Dior オブリーク〉キャンバス地のスマホケースなど、毎日使う電子機器用にデザインされたケースシリーズも充実している。ちなみにスマホケースはすべてiPhoneが2つ入るデザイン。すべてのディテールが未来仕様だ。
人間が自力で歩くのではなく、動く歩道を行くようになる未来。クチュールに影響を受けたネクストレベルのテーラリングを身につければ、さらに最高。この会場こそが現存する〈明日の世界〉であり、ファッション界全体がキム・ジョーンズの後を必死で追っている。




ショーに来場した豪華セレブリティからのコメントはこちらで見ることができる。
またキム・ジョーンズのインタビュー動画も公開されている。
This article originally appeared on i-D UK.