“個性”の声明:IHNN 19SS

6シーズン目にして初めてのAFWT参加となるIHNN。並々ならぬ決意を抱くイン・チソンは、前季のヴィジュアルも手がけた北村道子と鈴木親とともにつくりあげたランウェイで何を表明したのか。

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16 October 2018, 5:00am

AFWTの初日の夜、文化学園に向かう道中で、小雨が降り始めた。文化ファッション大学院大学を卒業し2014年にIHNNをスタートしたデザイナー、イン・チソンの初めてのランウェイショーの会場は、彼の母校の高層校舎に囲まれた屋外だった。雨粒が傘を叩く音が四方から聴こえる。その一抹の不穏さをかき消すパフォーマンス集団Funcussionによるドラムビートで、ショーの幕はあがった。

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今季の着想源は、スペインの鬼才・ペドロ・アルモドバル監督映画『私が、生きる肌(The Skin I Live In)』。物語の詳述は控えるとして、デザイナーの思考は、人は誰でも——そして、もっとも個性を内包したものとして——有している“スキン(肌)”に向かった。トランスペアレントな素材ごしに、あるいはニットの編み地の隙間から露出する肌に加え、完璧にボディフィットするスポーツブラやタイツから彼の“スキン”への関心は明らかだ。「自分が思う、一番ブランドらしい色」だという赤を起点に、スカイブルーや冴えるイエローやグリーンといった鮮明なカラーパレットの重なりは、一種の多様性へのコミットだ(「肌色」の意味を一歩進める必要があるのかもしれない)。

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Sonic Youthの元フロントマン、サーストン・ムーアがオノ・ヨーコに捧げた『Ono Soul』の楽曲が鳴り響いた、新章の始まりとも言える2019年春夏についてインは話す。「売るための服作りを越えて、ブランドとしての強さを表現したい」と。そのイメージを体現したのは、日本人の出演者、そして紅を塗った男性たちだ。俳優の井之脇海、仲野瑛太、アーティストのjan and naomiの2人、モデルの古屋京樹と星陽太までが、唇を紅くしてウィメンズウェアを身にまとう(彼らは坊主か長髪だ)。女性モデルの年齢や風貌も、画一化されたものではない。冨永愛のアフロヘアやグラムパンク調のヘアは、極端に倒錯することなく、インディビジュアルな人物像を際立たせていた。

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スタイリングはもとより、母校を発表の場に選び、多くの日本人を起用したこと……。IHNNの思想の具現化は、2018-19年秋冬のビジュアルを手がけた鈴木親北村道子によって誘われた部分があることは疑いようがない。ことは、インが鈴木の自宅ポストに手紙を投函したところから始まったという。切手のない撮影依頼状に宿る熱に共感した彼は、福士リナを招き(インにとっては初めての日本人モデルの起用)情緒纏綿なイメージをつくりあげた。おそらくこの頃に、韓国に生まれ、長く日本でファッションに関わってきたデザイナーのなかに揺るがず存在する、自分自身の個性に対する眼差しが動き始めていたのかもしれない。

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フィナーレで掲げられた布地には、現在形——あるいはこれから——のIHNNが発する最大のステイトメントがグラフィカルに描かれていた。ジェンダーレス、エイジレス、ボーダーレス。ただし彼にとってそれらは、気負って表現するものでなく、自然な感覚で立ち現れるべきものだという。しかも、英語だけでなく、彼の母語であるハングルを用いて同じ文言が記されている。決して一元化されない“個性”こそ、デザイナーズブランドの根幹に流れていることを反芻させられる瞬間だった。ゲストが去った会場で、インは、花束を抱える彼の両親と強くハグをした。

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