写真家・名越啓介「YOUTH」に見い出す「自由」

美しいこと、綺麗なこと、カッコイイこと、正しいこと。誰しもがそうありたいと望む一方で、自分自身の独自の世界を描きたいとも思う。おそらく、今社会の共通認識(世論という何なのかはわからないものが)の美しいこと、綺麗なこと、カッコイイこと、正しいこととは、ある社会が規定し、すでに認知されているもの。誰も見たことがない美しいこと、綺麗なこと、カッコイイこと、正しいことを描き出すには、規定のそれらを覆すことでしか生まれない。つまり今の社会が毒とする何かの中に、新たな世界があるはずだ。

by i-D Staff
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28 November 2016, 10:25am

写真家、名越啓介が新たな写真集『Familia 保見団地』をVice Media Japanより2016年11月25日リリースした。

アメリカの不法占拠者スクワッター、メキシコ系アメリカ人のギャング集団チカーノ、フィリピンのゴミの山で生活する人々を捉えたスモーキーマウンテンに続く新作としてリリースしたのがこの『Familia 保見団地』である。

今作は愛知県豊田市にある67棟の巨大な集合住宅、保見団地が舞台。1990年の入管法改正(日系人の単純労働が認めらる)によって、多くの南米人(主にブラジル人)が出稼ぎのために来日し、住民の約40%が外国人、つまりお隣さんは外国人という異例の場所が舞台となる。

そんななか『Familia 保見団地』では、これまで撮影してきたスクワッター、チカーノ、スモーキーマウンテン等と同様に、ここに住む若者たちを中心に捉えている。

名越と言えば、世界の辺境地&アウトローを求める撮影スタイルがクローズアップされるが、「人間のストーリーを撮りたい」と常々語るように、この写真集では人間、特に若者を撮影し続けている写真家としての本質が色濃く表現されている。

人間の有り様を撮影する写真家は数いれど、名越が住む団地の1室にも置かれ、自身も影響を受けたと語るラリー・クラークの映画『KIDS』に伴い作られた写真集を通しても見えてくる。

ラリー・クラークの『KIDS』というと西海岸で確立されたスケートボードカルチャーを、東海岸、主にニューヨークを舞台にアート、ファッション、音楽、ドラッグなどが一体となったカルチャーとして、多くの若者に影響を与え、それが現在まで大きな影響を持つ作品。レオ・フィッツパトリック、クロエ・セヴィニー、そしてハロルド・ハンター。おそらくこの作品を通してラリー・クラークを好きだと自称する人々は、スケートボードを中心とする新たなストリートカルチャーとして、あるいはストリートシーンのバイブルとして愛用する人が多いだろう。確かに名越啓介も、2000年代にメキシコ系アメリカ人、通称チカーノがL.A.の文化を先導し、その後の世界のストリートカルチャーに大きな影響を与えたシーンを撮影している点においては類似する。

しかし、この『Familia 保見団地』では、次に来るだろうエッジなカルチャーの匂いは微塵も感じられない。名越啓介という写真家がラリー・クラークの作品を通じて見ていたものは、10代の若者が持つ自由への衝動、それだけに注がれている。ドラッグやアルコール、窃盗や乱行、こうしなければならないと社会が押し付ける法律や道徳とは異なる、やりたいように突き進む。大人が言うところの「不良な行い」だけをラリー・クラークを通して見ていたのだ。

暴走族との喧嘩、10代での出産、夜通し遊びまくる団地内でのパーティー、深夜の団地を主戦場とするサバイバルゲーム、交差する色恋沙汰から派生するいざこざ、もちろんヒップホップを始める者や、スケートボードに熱中する者もふくめて、虐げられた環境だからこそ、剥き出しになる喜怒哀楽の連続が切り撮られていく。

ただ、名越啓介はそれを決してカッコイイものとして表現することを徹底的に避けた。光の美しい場所を選び誘導したり、洋服を着せたり脱がせたりするセットアップ的手法や、フィルムを使ったアナログ的な表現を避け、あくまでデジタル表現で、ありのままのリアルを写し撮ろうとするストレートフォトという手法を選択している。自身の部屋に作られた簡易スタジオでの撮影を始めとするポートレートを除いては、それが徹頭徹尾貫かれている。団地内でキスをし出す家族たちも、桜の木に登り出した暴走族たちも、名越が指示したわけでは決してなく被写体が勝手にとった行動を記録した245枚の写真が並ぶ。

これまでの作品のようなアンタッチャブルな撮影地でもなければ、モノクロの粗い粒子感が残るフィルムでの表現方法でもない。写っているのは昭和の香りが漂う団地のなかで、四季の移り変わり、そして日本人とは見た目も慣習も価値観も、少し異なる外国人たちの感情の吐露。そんな彼らの月並みな日常だけが切り取られている。それをドキュメントするために名越啓介は団地に1室借り3年の月日を過ごした。

名越啓介が描き出そうとするストリートとは、ファッションでいう次なるトレンドと思想を担う「ストリート」ではなく、異国の地で虐げられ、スラム街にも似た荒廃した地域で生きる人々が、感情を剥き出しにする「ストリート」であり、そのなかで感じた「自由」の集積が、この『Familia 保見団地』というドキュメンタリー写真集を構成する。いわば名越啓介という写真家が真に求めた人間のストーリーだけが記録されている。名越啓介が口癖のように口にする「人間は面白い」。そんな言葉がダイレクトに伝わる1冊となっている。

『Familia 保見団地』
写真・名越啓介
文章・藤野眞功
発行 Vice Media Japan
販売 世界文化社
www.vicejpstore.com

Credits


Text Yuichi Abiko
Photography Keisuke Nagoshi

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