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6にまつわるロック史:1966-2016

「6のつく年はロック史で何かが起こる」。原宿にあるレコードショップBIG LOVE RECORDSのオーナー仲真史が語るこの仮説に基づき、1966年から2006年に巻き起こった音楽ムーヴメントを紐解いていく。そして、2016年は......?

by Masashi Naka
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28 December 2016, 8:00am

ロック史において6がつく年は歴史的重要なアーティストやバンドそしてシーンが登場する年である。などということはご察しのようにそれが何年であっても言えるは言えるわけで、そもそも"歴史的"という定義も曖昧であるしこの際なるべく怒られないように"私的"に変えていただいても良いでしょうか……。

と、2016年も終わるからといって適当にとてもいらないことを言ってしまったと後悔懺悔しながらも、6のつく年のロック史を調べてみるとなるほど大きな転換期となっていると気付きます。

1966年の遥か大昔。その年を最後にビートルズというバンドはコンサート活動を中止した。その後レコーディング中心の活動となったメンバーのジョージ・ハリソンはインドにてラヴィ・シャンカールにシタールを学び、ジョン・レノンはロンドンでオノ・ヨーコと出会ってしまった。

Photo courtesy creative commons

1976年といえばセックス・ピストルズがロンドンでデビューしパンク・ムーブメントを起した年。ダムドがロンドン・パンク・バンドとして最初に作品をリリースしたのもこの年で、そしてクラッシュもこの年に結成された。

Photography © Jill Furmanovsky and rockarchive.com

1986年は大事な年だった。この日本では洋楽ロック史の中でもっとも見落とされたムーブメントでありまたそれが今日に至る洋楽衰退の原因ともいえる「C86」がしっかりと英国で起きている。時代をはしょってはダメなのだ。我々日本人はそれをはしょったおかげで「C86」以降のシーンやムーブメントをまるで突然に訪れたもののごとくとでしか対応できず、仕舞にはそれが訪れても気付くことさえ容易ではなくなってしまった。「C86」は英国の音楽誌NMEがその年の新人バンドばかりを集めたコンピレーション・カセットを付録としてつけたもので、現在ではそのムーブメントの名称ともなっている。「C86」(CはカセットのC。後にレコード化された)にはジーザス・アンド・メリーチェインのドラマーだったマッシュルーム・カットの若きボビー・ギレスビー率いるプライマル・スクリームの「Velocity Girl」で幕を開け、90年代前半にイギリスの労働階級インディ・ヒーローとなったザ・ウェディング・プレゼントの「This Boy Can Wait (A Bit Longer!)」で幕を閉じる全22バンド全22曲が収録されていた。ザ・ストーン・ローゼスやハッピー・マンデーズなどによるマッドチェスター・ムーブメントの台頭により約2年の短命であったのは同様であるパンク・ムーブメントとは違い「C86」は本国でも長く再評価されることはなかった。しかし'00年代中頃になるとインターネットの普及により世界中のリスナーやアーティスト達にようやく発見され、特に大陸精神の怠慢によりほぼその存在を知らなかったアメリカ人は相当の衝撃を受けたらしく、2008年から起こったUSインディ・ムーヴメントのバンドのすべては「C86」からの影響を受けていると言っても過言ではないと思う。

Primal Scream by Dave Driscoll in Hammersmith, London in 1985.

1990年代は日本に限らず世界が浮かれていた。英国では1989年からのマッドチェスター・ムーブメント及びセカンド・サマー・オブ・ラブ、そしてアシッド・ジャズ・ムーブメント、その後のブリット・ポップなど(アメリカからはグランジ・ムーブメントが襲って来た)1990年代前半のイケイケのまま1995年のケミカル・ブラザーズの1stアルバム『Exit Planet Dust』を経てロッキン・ブレイクビーツをより狂宴化したビッグ・ビートの夜明け盤ファットボーイ・スリムの『Better Living Through Chemistry』が1996年に発売された。その後のビッグ・ビート・ムーブメントは1990年代後半を彩りながらも巨大化のあまりクラブ業界音楽業界のすべてをマスへと凋落させるが、ニューヨークやベルリンのアンダーグラウンドではエレクトロ・クラッシュ・ムーヴメントがその流れ及びカウンターとして生まれていたのであった。

2006年のイングランドはまるであのパンク・ムーブメントの頃のように若さが躍動した。ロンドンではテムズ・ビート・シーンが生まれた。19歳のエドワード・ラリキンは誰よりも早くポーグスのシェイン・マガウアンの信望者だと公言し自身のバンド、ラリキン・ラブにて先駆者リヴァティーンズをアップデートしたかのような若さを武器に社会や文化や人生やくそったれや愛を訴えた。そのテムズ川周辺からはミステリー・ジェッツ、パトリック・ウルフそして今や国民的兄貴となったジェイミーTなどが生まれた。それと全く同じ頃、スキニーパンツにカラフルなトップスそしてサングラスといった出で立ちのニュー・レイヴ・シーンが誕生し、クラクソンズやブロック・パーティにレイト・オブ・ザ・ピアーにその仲間メトロノミー、そして後にDFAとサインしインダストリアルとクラウト・ロックそしてダンス・フロアを融合した特殊特別なバンドと成長するファクトリー・フロアーがデビューした。ホット・チップやフレンドリー・ファイアーなどのバンドがチャート・インした。さらにサウス・ロンドンからはザ・ホラーズが新たなるロンドン・ガレージを鳴らしニュー・ブリティッシュ・インディへと昇華させた。そして彼らこそ実はこの2016年に向けもっとも大事な種を蒔きその土地を耕していったバンドなのであった。

前の年に活躍したお笑い芸人が正月の特番を最後に世の中から抹殺されるように、なぜか時代はその年代ごとに雰囲気を持つ。さらにその10年間は我々の単純な意識からか前半後半とはっきり分けられる。前半で費やした準備が整い始め己のアイデンティティーを確信した新たな若者が世に登場してくる年がそう6のつく年であるのだ……。

などとなんとか6に繋げようとしている私の努力が無意味だということを私自身がもっともわかっております、どうかせめないで……。そう、6のつく年云々なんかよりも私が本当に言いたいのは(言ってしまった)結局世界の音楽とロック・シーンはイギリスを中心にまわっている、ということです。特にロンドンがイニシアチブをとらない限りは世界中のアンダーグラウンド限らずミュージック・シーンは腐っていく。その証拠にわたしが先ほどあげた6のつく年代に起きた出来事のほとんどはイギリスで起こった話です。

でも結局自分がイギリス好きなだけじゃ……という図星だけでもないということを、この2016年に登場したもしくは活発になった新しいロンドンのバンドたちを紹介します。間違いないのは我々が彼らを無視すれば我々はまた時代をはしょってしまうということです。

前述したようにサウス・ロンドンはザ・ホラーズが守り抜いた。そのフロント・マンであるファリス・バッドワンがサポートする女性3人組スキニー・ガール・ダイエットは2016年ついにデビュー・アルバム『Heavy Flow』をリリース。

Skinny Girl Diet - Silver Spoons

彼女たちは2012年頃から活動しており、伝統的ロンドン・アンダーグラウンドをしっかりと受け継いだ佇まいはライオット・ガールズ的パンク・スタイルだけに頼らない新たなるエッジーを生み出している。プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーとあのイギー・ポップが彼女たちを絶賛している事実を受け止め我々は次に進むしかない。

早くも本命もしくは時代の徒花。しかし同じくサウス・ロンドンが生んだこのグラマラスな若者たちHMLTDこそ、我々に時代を与えてくれる。

HMLTD - Stained

彼らが2016年に7インチEPで発表したデビュー・シングル「Stained」も同じくファリスがプロデュースしている。まるでパルプのジャービス・コッカーが10年間の活動を経て「このままじゃアカン…俺、スターになる!」とその意識だけで突然バンドをブレイクさせたのをたった10日間で気付いたかのような化粧とライブ・パフォーマンス。DIYエレクトロニックなポスト・パンク・サウンドにはデス・グリップの「Fashion Week - Runway H」のサンプリングが加えられている。リアル感ビシビシだ。

そのHMLTDも言わぬとしても大きく影響を受けているであろう、この3年ほどサウス・ロンドンそしてイングランドのロック・シーンを支えたバンドといえばザ・ファット・ホワイト・ファミリーである。

Fat White Family - Whitest Boy On The Beach

彼らのデビューは2013年だが、ライブ・パフォーマンスが噂を噂を呼びあっという間にロンドンのカリスマ・ロック・バンドとなってしまった。その頃の英国バンドの音楽アプローチとはまるで逆の生きる伝説ザ・フォール直系ひねくれポスト・パンクとタウンズ・ヴァン・ザントのカントリー・フォーク・ブルーズがミックスされたかのようなダウナー・ファンクなサウンド、そしてデイヴィッド・キャメロンを子供家族含めて処刑すべしなど露骨な反現体制/労働階級主義者としての姿勢と発言、さらに5分前に持っていたチョコレートをどうしたのかを思い出せないほどのドラッグ中毒…というディスクロージャーやEDMなどのダンスミュージックが蔓延る母国に辟易していたロンドンの若者たちが彼らにハートを掴みされたのは先進国に生きる者の全く正常な姿であると理解できるのです。

FAT WHITE FAMILY - "Touch The Leather" (Live At Glastonbury 2015)

2015年のグラストンベリーでのライブで披露されているこのダウナー・チューンが、この時代のイギリスに住む若者たちのアンセムであったという事実は非常に大きい。このテンポこの曲でこの盛り上がりという光景を日本人のあなたとわたしは信じられるであろうか。憧れる。

ドラッグをしているばかりではなく彼らは自身のレーベルをふたつも運営する。

Taman Shud - Oracle War

そのひとつトラッシュマウスから作品をリリースしているタマム・シュッドはヒドイ。誰にも理解されたくないようなゴス・サイケ・メタル。ハマると一生抜け出せないであろうが(私はもうズッポリだが)そもそも誰もそこに足を踏み入れないのじゃないの…というこの辺りのバンドをサポートする彼らの姿勢が若者達に支持されている理由のひとつでもある。

そしてもうひとつのレーベル、ウィズアウト・コンセントからは彼らの作品と彼らの別プロジェクト、ザ・ムーンランディングズなどがリリースされている。

The Moonlandingz - Black Hanz

とても面白いのは彼らは若者だけでなくエッジーなハートを持ち続ける彼らより歳上の大人たちとも頻繁に交流があったりすることで、このバンドは彼らとベテランのロンドン・バンド、ジ・エクセントロニック・リサーチ・カウンシル(女優のマクシーン・ピークも参加してたりする)のコラボ・プロジェクト。ザ・ムーンランディングズにはさらにジョン・レノンの息子ショーン・レノンがメンバーのごとく参加しており、新作ではその母オノ・ヨーコも参加しているらしい。とにかくショーンはこの周辺にに入れ込んでいる。その調子で父親が残したマネーもたんまりここに投資してもらいたい。そしてザ・ファット・ホワイト・ファミリーは名門レーベル、ドミノとサインした。2017年に新しいアルバムを発表予定だ。

いつの時代も最初に反応するのはいつも女性だ。前述のスキニー・ガール・ダイエットのようなDIYスピリッツは絶対に必要だが、それを持ちながらもオーヴァーグラウンドへカウンターできるのはイギリス及びロンドン人の特権である。

Goat Girl - Scum (Official Video)

老舗ラフ・トレードが飛びついたからには本物のバンドであり、そこには本物のシーンが存在するのであろう。彼女たちもサウス・ロンドン出身で先ほどから紹介しているようにザ・ホラーズなどが耕した土壌から芽生えてきた女性4人組。イギリス版若きウォーペイントといった趣きにドラッギーでいながら土臭さのないサイケ・サウンドはまさにブリティッシュ・ロックの伝統だ。このようなルックス(可愛くてお洒落)の女性がギターを弾いてノイズでもポップでもないこんな音楽を奏でるまでに到らせてしまうのがロンドンの強さなのだと思う。

Goat Girl - Country Sleaze (STROBE WARNING)

このフラッシュご注意のミュージック・ヴィデオはなんと元ジーザス・アンド・ザ・メリー・チェインのダグラス・ハートが制作。国外のスペインから女性4人組ハインズがイギリスのインディ・シーンを2015年から20116年の初頭まで支えたが、そこに黒く塗れのごとく登場してくるのだからもうたまらない。こうなってくるとUKバンドに勝る者はないと唸ってしまう。こちらのデビュー7インチ"Country Sleaze"は瞬く間にソールド・アウトしてしまっている。

最後にもうひとつ。頬がまだ真っ赤なベイビー・フェイス。こんな無防備、彼らはポシャる可能性も大。しかしこの未熟こそロック、この行動こそロック、この粋がりこそロック。

shame - The Lick (Live at Dropout Studios)

でもそのどれかひとつだけではダメだということを、負けるとわかっている喧嘩でもしかけていきそうなヴォーカルの彼の目が「わかっている」と語ってる。5人組のシェイムもサウス・ロンドン出身でいくつであろうかたばこを覚えた年頃なのは吹かしっぷりでわかる。ファット・ホワイト・ファミリーやその先輩ザ・フォールからの影響はモロ感じられるし'00年代前半のL.A.インディを牽引したザ・ガーデン(あのエディ・スリマンが惚れたモデルもする双子男子)的魅力も持っていたり、ところどころにアイスエイジに代表されるコペンハーゲンが好きなんだろうなというエッセンスも見られるし、タイ・セガールなど昨今のガレージ・ロックの香りもする。なのにうまくまとまってる。最近の若い子はテクニックはあるしセンスも良いからなあ。結果行動力と修正力にかかってくるのだけど。とかいいつつ調べてみると彼らはザ・ガーデンとファット・ホワイト・ファミリーとツアーをし、そして新オージー・ガレージ・カリスマ、キング・ギザード & ザ・リザード・ウィザードさらにコペンハーゲンの若きネクスト・リーダー、コミュニオンズなどのライブ・サポート済みでした。

さらに驚いたことにこちらのヴィデオを撮影したのはなんとあのミカ・レヴィだという。2009年からミカチュー名義でラフ・トレードから作品を数枚発表し、2014年に彼女が音楽を担当した映画「アンダー・ザ・スキン」のサウンド・トラックはヨーロッパ映画賞の最優秀音楽賞を受賞、さらに2017年公開のナタリー・ポートマン主演映画「ジャッキー」の音楽も手掛ける今もっとも注目される才女である。そんな女性に認めれている彼らがポシャるはずがないじゃないか。

shame - Gold Hole (Official Video)

こちらは彼らのデビュー・シングルに収録されている曲の新しいヴィデオ。このラスト!仲良しこよしな2010年代はもう終わったのだ。

2016年をはしょってはいけない。ここに紹介した新しいバンドが今後大成するかポシャルかは未知だが、しかし確実に次の時代へとつながっていく。だから黎明期でも全盛期でもない発展期であった2016年に僕は2010年代も特別にドキドキさせられたのだ。そしてこれからも新しい人達による新しい音楽は、過去のどの素晴らしいアーティストのどの音楽よりもその時代その瞬間に適していく。せっかくこの時代を生きるならば、その時代の新しい音楽に触れていきたいと思う。

www.bigloverecords.jp

Credits


Text Masashi Naka