新生Calvin Klein:ラフ・シモンズとパリス・ジャクソン

カルバン・クラインが遺した挑発的な世界観を、新時代のアメリカに合わせて再解釈しているラフ・シモンズ。彼がその世界観の表現を託したのは、21世紀のアメリカを象徴する若き活動家であり女優のパリス・ジャクソンだった。

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sep 4 2017, 10:25am

This article originally appeared in i-D's The Acting Up Issue, no. 349, Fall 2017.

エリザベス・テイラーの宝石が輝く耳に、カルバン・クラインが何やら囁いている瞬間を捉えた写真がある。1986年、エリザベス・テイラーAIDS財団が、活動資金を募るパーティを開いた際に撮られた写真だ。彼らの後ろには、Calvin Klein広告を飾ったばかりの、初々しいブルック・シールズが立っている。それを思うと、いまCalvin Kleinの顔となったパリス・ジャクソンは突飛に思えるかもしれないが、歴史的にはこの写真にうつる人物たちと彼女には共通点が多い。パリスの父マイケル・ジャクソンは、80年代にエリザベス・テイラーともブルック・シールズとも交友があった。マイケルがプロポーズしたとも噂されているふたりだ。そして、1998年にパリスが生まれた際、ゴッドマザーとなったのがエリザベス・テイラーだった。また、2009年にマイケルの追悼式が行なわれた際——そう、世界の面前に初めてパリスが姿を現したあの追悼式に、ブルック・シールズはたしかに出席していた。あのパリスが、今は19歳——当時と違い、彼女はもう父や友達について語ることをしない。

2016年、パリスはエンターテインメントの世界で生きていくことを決意し、多くのインタビューで心からの言葉を紡いで聞かせた。しかしメディアはそれを扇動的に報じ、パリスは現在、ジャーナリストとの対話は書面で行なうようにしている。父マイケルがファッションの世界におよぼした影響についてメールで質問すると、「マイケル・ブッシュに訊いて」と、1986年から2009年までマイケルの衣装製作を担当していた人物の名前を出して、答えを避ける。「仕事では、父に関する質問は断っているの」。服の着こなしについて父から教わったことについて質問すると、パリスは、1988年にマイケルが書いた自叙伝『ムーンウォーク』から、「ファッション界が『御法度だ』と言えば、僕はそれをやらずにいられない」という言葉を引用した。

パリスは今、Calvin Kleinの親善大使となった。彼女が持つ、まるでディズニー映画のお姫様のような容姿もさることながら、世界一有名なミュージシャンを父に持つという、いわばアメリカ皇族の娘である彼女の存在感が買われたわけだ。彼女は、人権や動物愛護、環境問題など、父が情熱を注いだ活動を引き継ぐかのごとく、自身が持つ広いソーシャル・メディアでの影響力を駆使して活動家の一面を見せている。が、しかし今のところ、パリスはやはりマイケル・ジャクソンの娘として世界に知られている。彼女が現在、ブランドの顔を務めるCalvin Kleinだが、その新たなクリエイティブ・ディレクター、ラフ・シモンズは、2017年2月にCalvin Kleinでのファースト・コレクションを発表し、アメリカの一大帝国であるブランドの世界観に溶け込むことに成功し、映画『ムーンライト』の俳優たちや、Netflixドラマ『ストレンジャー・シングス』のミリー・ボビー・ブラウン、そしてThe xxのビデオ「I Dare You」を起用したキャンペーンを展開して、ポップカルチャーを取り入れるなど活躍を見せている。アメリカの皇族をキャンペーンに起用したCalvin Kleinは何をしようとしているのだろうか? 「世界を変えられたらいいわね」と、パリスはメールに書いてくる。「わたしのファッションをどう慈善活動や政治活動に活かせるか、ラフと話し合っているところ。とてもワクワクしているの。ようやく自分を表現することができる——CKの世界観を通して、自分を表現できるような気がするから」。パリスは今年5月に、ニューヨークで毎年行なわれているファッションの祭典メット・ボールにて、初めてレッドカーペットに姿を見せた。隣にはラフ・シモンズの姿があった。カリフォルニア出身のパリスとベルギー出身のシモンズという不思議な取り合わせであったにもかかわらず、なぜだかしっくりとくる佇まいだった。かつては独立系のメンズウェア・デザイナーだったラフがアメリカの大手ブランドのデザイナーに就任し、その隣には、反逆を胸に誓ったショービス界のプリンセスが立っていたのだ。

「わたしたちはまだ出会ったばかりで、お互いのことよりよく知ろうとしているところ。だけど、ラフはわたしが象徴するものについて、とても深い興味を示してくれてる」と、パリスは言う。「彼は素晴らしいひと。これから一緒になにかできるのはとても嬉しい」。現在49歳のラフ・シモンズは、これまでにJil SanderとChristian Diorでウィメンズのデザインを手がけた経験を持つ。その彼がCalvin Klein全体を統括していくと発表されたのは1年前のこと。「誰か独自のビジョンで、クリエイティブなすべてを取り仕切ってくれるひとを入れる——Calvin Kleinは、すべきことを最良のタイミングでやろうとしている」と、ラフ・シモンズのチーフ・クリエイティブ・オフィサー就任の発表前に、カルバン・クラインはインタビューで語っている。カルバン・クラインがデザイナーの座を退いた後、10年以上にわたり同ブランドのウィメンズを統括してきたフランシスコ・コスタと、メンズを統括してきたイタロ・ズッケーリ。彼らが辞任することになり、後任として起用されたのがラフ・シモンズとピーター・ミュラーだった。ラフ・シモンズがチーフ・クリエイティブ・オフィサーに、そして、彼と長年のクリエイティブ・パートナー関係を築いてきたピーター・ミュラーがクリエイティブ・ディレクターに就任し、現在にいたる。

Paris wears marching band vest Calvin Klein 205W39NYC.

「Calvin Kleinに僕が惹きつけられた理由、またこのブランドに参加する決め手となった理由は、このブランドが上から下まで市場のすべてを網羅しているという点にある。どんなひとにでも届く服を作っているブランドなんだ」と、ラフは3月に『Amuse』誌のインタビューで語っている。「ハイファッションでそれをやろうとすると簡単じゃない。Diorにいたときはそんなことできなかった。でも、Calvin Kleinではそれができるんだ」。その言葉のとおり、ラフはCalvin Kleinでのデビュー・コレクションとなる2017-18秋冬で「現代アメリカを反映した」コレクションを発表し、「Calvin Kleinだからこそできること」を形にした。「多様なスタイルとドレスコードを持った、多様な人々がいる。時代もルックも、ひとつに限定しなくていいんだ。多種多様な個人が集まっている——アメリカそのもののようにね。それがアメリカらしい美しさであり、アメリカにしか打ち出せない感情なんだ」。Calvin Kleinの歴史も、まさにそのことに終始すると言えるだろう。パリス・ジャクソンも、このブランドの偉大なる功績を熟知している。「Calvin Kleinは、先駆的にレズビアンのアジア人モデルを広告に起用したブランドのひとつ。それはすごいこと」と、パリスは指摘する。「社会で同性愛が認められていなかった時代にそれをやってのけた。このブランドは、民族の多様性にオープンだったし、これまで一貫してLGBTQ+コミュニティに対してもオープンな姿勢を貫いてきた。最高にかっこいいジェニー・シミズを正当に評価したのがCalvin Kleinだったの」

若きブルック・シールズが官能的すぎると物議を醸した1980年の広告キャンペーン以来、Calvin Kleinの広告は約40年間にわたり、挑発的であり続けている。2017年秋冬コレクションで、ラフは官能的なスタジャン、ビニールを重ねたコート、ファーやフェザーを包み込んだドレス、そして頭からつま先までレザーのルックなどに、カルバン・クラインが作り出したグラマラスなミニマリズムと、そこにみなぎる力の間に起こる、性的な緊張感を独自に解釈した。その世界観は、大胆なまでに率直なパリスと、その透き通るような肌にぴったりだ。「年上の保守的なひとたちの中には、わたしのこういう態度を嫌うひとも多い。タトゥーも喋り方も服装も『何をやってるんだ』って」と、パリスは言う。「それもわかるの。物事には必ず2つの側面があって、だから見方も意見も必然的にひとつに限定されなくなるものなんだと思う」

パリスが言っているのは、もちろん、良家に生まれたにもかかわらず彼女がInstagramで見せる不敬な言葉遣いや、カリフォルニア・ヒッピー調の服装について寄せられる批判のことだ(父マイケルの遺産を管理して総資産が10兆ドルにものぼると言われるマイケル・ジャクソン・エステートは、2016年だけでも8兆2,500万ドルの売上を計上している。パリスとふたりの弟たちは、このマイケル・ジャクソン・エステートを相続している)。「ひとがなぜそう言うのかは理解できる。でも、そろそろ物質的なことよりももっと深いところに目を向けて、本当のわたし、わたしが成し遂げようとしていることに注目してほしい」と、パリスは言う。「そうすれば、誰もヒドいことは言わなくなるはず。でも一方で、わたしのファンというか、若い人たちの中には、わたしの真っ直ぐな物言いや態度に賛同してくれるひともいる。勇気をもらったって言ってくれるひともいる。それ以上に嬉しい言葉はない」

そんなポスト・ミレニアル世代こそは、パリスがCalvin Kleinの世界観を伝えようとしているターゲット層だ。ポスト・ミレニアル世代は、特に90年代までのマイケル・ジャクソンの栄光を覚えている私たちとは違い、ソーシャル・メディアでパリスが打ち立てている美意識をもって彼女を崇拝している(ジェンナー姉妹にも同様の崇拝者が多い)。世界はいまだに、パリスがいつか父マイケルとのおとぎ話のような思い出を語ってくれるのではないかと期待している。しかし、彼女は前を向いている。彼女は、ラフ・シモンズによる新生Calvin Kleinファンたちのロールモデルとなり、ファンたちはパリスに触発されて人道支援に情熱を注ぐことになるだろう。それは、天国のマイケルにとって何よりの誇りとなるにちがいない。

間もなく、パリスはグラマラスなゴッドマザー、エリザベス・テイラーが遺した情熱の結晶、エリザベス・テイラーAIDS財団との初のプロジェクトを展開する。カルバン・クラインは自身が2002年にPVH社に売却してしまったブランドCalvin Kleinを通して(そしてまた個人的にも)、発足当時からエリザベス・テイラーAIDS財団を支援し続けてきた。パリスは、メールでこう書いている。「変化を生み、この世界に良い影響を残せるのなら、プライバシーの欠如や、世界から向けられるわたしのあり方と個性への批判、そして常に好奇の目に晒されているという状態にも、耐えられる」

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Paris wears marching band vest Calvin Klein 205W39NYC.

Julia wears marching band trousers and cowboy boots Calvin Klein 205W39NYC.

Fernando wears marching band vest Calvin Klein 205W39NYC.

Dylan wears coat, marching band trousers and cowboy boots Calvin Klein 205W39NYC.

Blesnya wears marching band vest and marching band trousers Calvin Klein 205W39NYC.

Ernesto wears marching band uniform shirt and rollneck Calvin Klein 205W39NYC.

Ernesto wears marching band uniform shirt, rollneck and marching band trousers Calvin Klein 205W39NYC.

Fernando wears marching band vest, marching band trousers and cowboy boots Calvin Klein 205W39NYC.

Skylar wears marching band uniform shirt, rollneck and marching band trousers Calvin Klein 205W39NYC.

Lulu wears marching band uniform shirt and rollneck Calvin Klein 205W39NYC.

Skylar wears marching band uniform shirt, rollneck and marching band trousers Calvin Klein 205W39NYC.

Dylan wears marching band trousers Calvin Klein 205W39NYC.

Credits


Text Anders Christian Madsen
Photography Willy Vandeperre
Styling Olivier Rizzo

Hair Anthony Turner at Streeters. Make-up Lynsey Alexander at Streeters. Nail technician Marisa Carmichael at Lowe & Co. Lighting technician Romain Dubus. Photography assistance Colin Smith and Fred Mitchel. Digital operator Henri Coutant. On-set retouching Stephane Virlogeux. Styling assistance Niccolo Torelli, Eugenia Gamero, Emily Moiseve and Derik Johnson. Wardrobe co-ordinator Leonel Becerra. Hair assistance Simon Khan and Drew Schaefering. Studio manager Charlotte Arts. Production Simon Malvindi and Hye Young Shim at Red Hook Labs. Productions co-ordinators Kevin Warner and Francis McKenzie. Production assistance Austin Kearns, Alex Woods and William Mathieu. Casting director Ashley Brokaw. Talent Paris Jackson. Models Julia Nobis at DNA. Lulu at The Lions. Skylar Tartz at Elite. Blesnya Minher at Society. Dylan Christensen at APM. Fernando Schuster at Hakim. Ernesto Cervantes.