ルクハンヨ・ンディンギと変化する南アフリカファッション

クリエイターたちが旋風を巻き起こそうとしている南アフリカのファッションについて、ルクハンヨ・ンディンギが語る。

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maj 25 2016, 10:10am

ルクハンヨ・ンディンギ(Lukhanyo Mdingi)は、ケープタウンにあるアメリカンダイナーでウェイターをしている。若干24歳の彼は、この仕事を通して社交的になり、客とのコミュニケーションも難なくできるようになったと言う。しかし、このダイナーに来る客は、この陽気なウェイターが南アフリカのデザインの未来を担う期待の新星だということを知っているだろうか?
ケープペニンシュラ技術大学(Cape Peninsula University of Technology)のファッションデザイン科に在学する最後の年となった2013年、ルクハンヨは『Elle Magazine』のデザインコンペティションの最終選考に残った。すでにレディースのコレクションを2回発表していたが、南アフリカのファッションウィーク史上初めてメンズの枠が設けられた今年、彼は自身の名を冠したメンズのブランドをローンチ。古代アラビアから続く伝統の結び紐細工にインスピレーションを得たマクラメ編みのバックパックやヘビーニットなどのアイテムが散りばめられた2015年秋冬コレクションでデビューを飾った。
2016年春夏コレクションのテーマは「Taintless(汚れなき純粋)」。ジェンダーの流動性を日本のデザイン技術を用いて表現している。そのルックブックは、南アフリカのクリエイティブシーンと「虹の国:(ネルソン・マンデラが提唱した、あらゆる色が重なり合ってなる虹のように、多様な人種や文化がともに輝ける国家)」を鮮明に反映した素晴らしい造りとなっている。i-Dはルクハンヨにインタビューを行った。

あなたについて聞かせてください。
南アフリカ東海岸に位置する、イーストロンドンという小さな町で生まれ育ちました。小さいですが、素晴らしいところです。子供たちも毎日、浜で泳いだり、外で遊んで楽しく暮らしています。ただ、ファッションは文化やキャリアとして認められていないんです。友達は学校の先生やアスリートになることを目指していましたが、僕には目標となる人物像がありませんでした。16歳のとき、ベルグラヴィア・アートスクール(Belgravia Art School)に通うようになって、若いクリエイターたちに囲まれる環境に身を置いたことで、初めて自分が進むべき道が分かりました。刺激的な環境で、それまで以上に幸せな時間を過ごしました。10代のときは悩んで、傷つくこともあったけど、自分を犠牲者と考えたくなかったんです。そうじゃなくて、僕の人生を豊かにしてくれる人を探しました。人から学んで、クリエイターとしてだけでなく、ひとりの人間としても成長できたと思います。

ファッションに興味を持ったきっかけは?
実は、昼ドラの『The Bold and The Beautiful』に登場するフォレスター家の人たちに夢中になったことがきっかけだったんです。Versace風の服や、キャラクターたちの不遜で大胆な態度に夢中でした。若いゲイや、80年代ファッション好きはみんな夢中になっていたと思います。かなりきわどいストーリーで、子供が観るには不適切だったかもしれないけれど、僕にとっては、ファッションを楽しむ一家の美しい物語だったんです。初めて観た瞬間から夢中でした。

南アフリカのクリエイティブシーンの魅力を教えてください。
これまで僕は、素晴らしい人々と一緒に仕事をする機会に恵まれてきました。彼らがいたからこそ、今の僕があります。彼らが持つそれぞれのプロセス、信条、そして才能の裏には、とても美しいものがあります。南アフリカのクリエイティブな人たちの最大の魅力は、何かを創り出し、問題を克服していこうとする忍耐力と試行錯誤の姿勢ですね。ビジョンを作品化するのにはこれまで苦労してきたんですが、最近気がついたのは「南アフリカは若いデザイナーを世に送り出す準備が整っていない」ということです。その状況を変えていきたいと思いますが、かといって、この土地に根づいている文化や風習が薄れてしまうようなやり方はしたくありません。僕は、ここに住む人たちから多大なインスピレーションを得ていますから。
南アフリカは、スポーツと政治を重視する国で、アートやカルチャーはそれほど重視されないのが現実です。でも、それでいいんです。僕はここで人と出会い、彼らの成長を見て、彼らの体験に耳を傾け、彼らの音楽を感じ、土着の彼らが育んだ才能と技術に感心し、そして彼らのビジョンが形となるのをこの目で見ることができる—そんな感動的な経験を得られていますから。

最新のルックブックは素晴らしいの一言に尽きます。これについて教えてください。
ガブリエル・カンネマイヤー(Gabrielle Kannemeyer)がアートディレクションとスタイリングを引き受けてくれたのが大きかったですね。コレクションの概要を彼女に伝えたのが3月で、そこから彼女は、コレクションのルックスと雰囲気をもとにストーリーを考案してくれました。服を超えたストーリーをビジュアルで語るというのが、彼女の打ち出した方向性でした。フォトグラファーとして参加してくれたトラヴィス・オーウェン(Travys Owen)もすぐに賛同してくれて。そこで、美しいとしか言いようのない偶然が起こったんですよ。ガブリエルもトラヴィスも、全く同じセッティングを考えていたんです。シュールレアリスムな雰囲気感のある環境で撮影しよう、と。トラヴィスは、2人のモデルを「失われた大地をさまようふたり」に見立てて撮影したいと言っていました。

モデルたちの肌もネイビーに見えますが、これはどうやって?
才能あふれるメイクアップアーティスト、アモーリ・バーチ(Amori Birch)がモデルたちの肌を青く塗ってくれたんです。ネイビーやセルリアンをたくさん使って、そこに陰影とハイライトを作り出してくれました。モデルのスキンカラーに合わせてメイクを施し、そのネイビーの肌を自然なトーンとして落とし込んでいく過程はとても美しいものでした。ビジョンを目に見える形に落とし込んでいくのを見て、ただただ驚くばかりでした。

近年、有色人種モデル、中でもとりわけニコール・ポール(Nykhor Paul)のようにアフリカ系のモデルたちが、業界での不公平な扱いについて苦言を呈しています。これに関しての意見を聞かせてください。
光栄なことに、僕はニコールが参加した最近のビューティ撮影にインターンのアシスタントとして参加する機会に恵まれたんですよ。その時、彼女が多様性の欠如と有色人種モデルが祝福されていない業界について話していたんですが、そこで、業界内の差別をより意識するようにはなりましたね。でも、南アフリカデザイナーたちに、多様性が欠けていると感じたことはありません。なんといってもここは"虹の国"ですからね。僕の同志や先生は、肌の色も違えば文化も芸術観もまったく違う、でも同じ"虹の国"の市民なんです。

未来にかける想いについて聞かせてください。
南アフリカのファッション業界が盛り上がることを願うだけです。不満を言いたくなるときもありますが、この国を理想に近づけていきたいと強く感じています。テキスタイルが豊富で、政府からのサポートや資金融資の現実的な手続きが整っている国、それが僕の描いている理想です。すでに支援をしてくれている人たちもたくさんいますが、情熱と才能、そして愛に満ちたこの国でクリエイターが生計を立てていけるシステムを構築するために、この動きは途絶えさせてはいけないと強く感じています。

@lukhanyomdingi

Credits


Text Emily Manning
Lookbook photography Travys Owen, courtesy Lukhanyo Mdingi
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.