同性結婚の合法化を叶えた台湾。そこで暮らすアーティストたちが模索する平等への道のり

多様なセクシュアル・アイデンティティを持つ人々のための結婚の平等化。同性婚の実現により、台湾がアジアで初めてその第一歩を踏み出した。台北で活動するアーティストのソニア・カリコ、バイロン、アッシュ・リンが当時の様子やこれからの課題について語る。

by Saki yamada; photos by Ash Lin
|
10 June 2021, 4:45am

2019年5月17日、台湾で同性結婚が合法化された。アジア初だ。この結果に勇気付けられた人は星の数ほどいる。台北に住む3人のアーティスト、ソニア・カリコ、バイロン、アッシュ・リンもそうだ。憲法裁判所が「同性結婚を認めない現在の民法の規定は憲法に違反している」と判断して、彼らはすぐに映像作品『Clutter Confines』を公開した。作品は「Fury(怒り)」「Deep Sorrow(深い悲しみ)」「Communication(意思疎通)」「Celebration(祝福)」の4つのパートに分かれており、国民投票を通してアーティストたちが体験した様々なシチュエーションを視覚的/音響的に表現している。「この大きな勝利は目的地ではなく、平等への旅の始まり。私たちにはまだ長い道のりがある」と話す彼らに、当時の状況や作品制作のキッカケ、現在の台湾でのLBGTQ+のシーンについて聞いた。

DSC_0519.jpg

まず、自己紹介をお願いします。

Sonia Calico(以下S):音楽プロデューサー、DJのソニア・キャラコです。UnderUというレーベルとイベントも運営しています。

Byron(以下B):私はバイロン。アンダーグラウンドのクィアパーティ「Queer Trash Taiwan」のファウンダーです。台北でフリーエントランスのLBGTQ+パーティを開催して、安全で楽しいスペースを作っています。

Ash Lin(以下A):アッシュです。フォトグラファー、映像作家、音楽ジャーナリストです。


台湾で同性結婚が合法化されたときのことを覚えてる?

S:本当に素晴らしい日で、台湾人であることを誇りに思えた。だけど同性結婚に関して真の平等を実現させるために、他にもやるべきことがたくさんある。例えば、まだ法律では養子縁組が許可されていなかったり、同性結婚が合法でない国のパートナーとの婚姻は台湾では無効になってしまう。伝統的な結婚の構造や人々とのコミュニケーション、家族や子供たちへの教育の場を見つけることは今の社会では難しい。

B:私は、そうね。「ねぇ、私の夫はどこ?どこで彼と出会える?」ってことしか考えられなかった。

A:特にアジアの国で正直な態度を貫くことは本当に骨が折れる。これまでの教育では、夫や妻を見つけて生物学的な子供を持つための価値観しか教えられていない。そして、これが家族や祖先を尊重する方法。最初の国民投票では家族内や宗教間、思想の違いによる争いもたくさんあった。とてもストレスが溜まる光景だったけど、今思えばそれでよかったのかなって思う。初めて手を取り合おうとした人々もそこにはいたから。彼らは議論や怒りのぶつけ合いを永遠に続けるのではなく、家族や友人を説得するために適切なコミュニケーションを取ろうと努力した。このような平和的解決があると、彼らのためにも声を上げる必要がある。

同性結婚をテーマにした映像作品『Clutter Confines』はどのようにして生まれたの?

B:2018年11月の国民投票で、ほとんどの人が同性結婚を支持していないことが分かったの。ショックだった。その時にソニアがLGBTQ+の人たちを集めて、音楽やヴィジュアルで私たちの声を主張するビデオを作ろうとアイデアを出してくれた。これがプロジェクトの始まり。

S:とても腹立たしい結果よ。同時に、私たちは自分の周りとしかコミュニケーションを取ってないことに気付かされた。だから多様なバックグラウンドを持つ人たちと協力しようと心に決めたの。みんなが自分の特技を活かしてプロジェクトに貢献してくれた。制作が終わろうとしている頃に、憲法裁判所から同性婚について発表があることを知ったの。そして合法化された。ビデオには「私たちは何が起きても前向きで愛情深くなければいけない」というメッセージを込めていたから、このタイミングで公開できたのは本望だった。実際に同性結婚の合法化を祝福して、みんなで幸せになることができたから。

A:当時の私はどうしたらいいか分からなくて、ゲイの友達を慰めたり家族の高齢者とディスカッションするのに必死だった。ソニアからゲイやストレート、ノンバイナリーなどあらゆるセクシュアル・アイデンティティを持つアーティストがコミットするプロジェクトの話を聞いて、すぐに映像作家としてサポートしようと決意した。このビデオは「あなたは1人ではない」と、心が壊れてしまった人全員に届けるためのものだった。

ビデオの冒頭で出てくる「雜訊的交界 自由的邊緣」とは、どういう意味?

S:「Clutter Confines, Space Liberates(混乱を沈め、空間を解放せよ)」という意味。私たち誰もがノイズやグリッチ、期待、異なる価値観、対立、コミュニケーションの間で生きてる ── このカオスを封じ込めて、混沌とした状況が交わる場所で持ち堪えることができたとき、ようやく私たちは自由の境界に近付ける。そしてそれが、窒息しそうな場所から自分自身を解放するチャンスなの。

DSC_0540.jpg
DSC_0573.jpg

台北では、若者たちは社会問題を解決するためにどのようにコミットしてる?

S:多くの若者がディスカッションや活動、イベントを通じて発信してると思う。少なくとも私たちの周りでは、常に世界で何が起きているのかアイデアの共有も行われているよね。

B:ええ、3人のグループチャットがあるの。私はアッシュとポリティカルな話をするのが好きだな。

現在の台湾で問題視するべきことは?

A:政治家の腐敗によって、私たちの法律が法人化されてしまっていること。例えば、台湾はばかばかしくて目眩がするような家賃と収入バランスのまま、アジアの先進国になってしまった。このクレイジーな最低賃金は、創造力のある才能がよりヘルシーな労働環境を求めてこの国を去ってしまう原因よ。


最近、個人的に気にかけていることは?

S:文化の盗用と人種差別は私にとって大きな問題。インターネットで簡単に他国の文化にアクセスできるから、文明は文化がミックスされることで築かれているように思えてしまう。だけど本当は、私たちがもっと慎重になってそこに搾取があると認識するべき。大切なのは西洋諸国で起きているムーブメントを表面的に模倣することじゃない。単純に人を判断したりスローガンを叫ぶだけじゃだめなの。台湾人の私たちは歴史的背景が彼らと全く違う。西洋で起きたことを教訓として、自分たちがどの立場にて、何が公平で、他国に敬意を払うことが何を意味するのか、そして隣接する国とどのように交流するかを考えていかなきゃいけない。それが私たちがここでもたらせる変化で、それについて毎日考えてる。

同性結婚の合法化の後、LGBTQ+コミュニティはどのように変化した?

B:公の場で手を繋いでいる同性カップルがさらに増えた。高齢者の人たちも心をオープンにしていて、LGBTQ+を理解しようとしていると思うな。

S:そうね、上の世代がこの件についてポジティブに会話するようになったかも。これまではあまり話題にしてこなかったし向き合いたくない様子だった。法的に認められたことで、ようやくLGBTQ+の子供や家族を心から迎え入れるようになったんじゃないかな。それから今回のことをキッカケに、より少数派なクィアグループが自分たちのために行動を起こすようになってる。これまで以上に様々なセクシャリティが存在することを真剣に受け止めている。これは素晴らしいことだと思うし、まだまだ学ぶべきこともある。彼らは2019年からトランス・プライド・パレードをスタートしているのよ。

ネクストステージとして、台湾で何を実現させたい?

B:リアルなLGBTQ+の人たちがオーガナイズしているQueer Trash Partyを、アンダーグラウンドの音楽シーンにおける主要のパーティにしたい。台湾のLGBTQ+のシーンに多様性と可能性をもたらしたいの。

平等の世界を作るために必要なことは?

S:どんなに共有するのが大変な相手であっても、対話できる関係を築いていくこと。私たちはコミュニケーションを取り続けるべきだから。それから、自分自身が間違える可能性があることを認めて、常に他人から学ぶ機会を自分に与えること。

B:判断力のある良い聞き役になろうと努力することかな。

最後に、それぞれの今後のアーティスト活動について教えて。

S:去年はアルバム、今年はシングルをリリースしたの。もうすぐミュージックビデオも公開される。他にもいくつか曲をリリースする予定。コロナの状況が良くなったら、日本で新しいパフォーマンスを披露したい!

B:音楽活動を再開しようと思ってるけど、今は詩集を作っているところ。タイトルはもう決まってるの。あと15つくらいポエムを書けたら完成よ。

A:これからもByronのクィア・トラッシュのようなシーンやミュージシャンを撮影や記録することでサポートする。もう何年もやっているの。コロナ以降、台湾のクラブカルチャーが驚くほど活気に満ちていて、18~108歳くらいの人たちが麻雀やビンロウをテーマにした風変わりなパーティに集まってる。台湾人の日常に溶け込んでいるクラブシーンを見るのは心強いわ。それから台湾の電子音楽プロデューサー DizparityのMVとヴィジュアルをディレクションする予定。彼のようなエレクトロニックミュージックやLGBTQ+のようにアンダーグラウンドと呼ばれるカルチャーが、普遍化されるのを心から望んでる。パートナーが異性であろうと同性であろうと結婚が結婚であるように、私たちと他の人に変わりはないんだから。


Sonia Calico @soniacalico
Byron @byronduvel 
Ash Lin @nowhereashes 
Special Thanks for the photography location 秋波名曲珈琲 @qiubo
coffee 

『Clutter Confines』

Producer: Sonia Calico, Ash Lin
Director: Ash Lin, Sonia Calico
Music: Sonia Calico, Byron Duvel
Choreographer: Jasmine Lin
Stylist: LUYINYIN
Editor: Sonia Calico, Jasmine Lin
Colorist: Ash Lin
Cast: Jasmine Lin, Byron Duvel, Ya Wen Li, Suan6, San, Wei Yi Liu, Yinyin Lu, Copywriter: Angela Lin