ファッション界のニューウェーブ10人が語る、コロナ禍のクリエイティビティ
ブリティッシュ・ファッション・カウンシル〈New Wave: Creative 2020〉に選ばれた新世代のクリエイター10人が、波乱の1年をどう切り抜けたのか、自らの創作について語り、彼らに続く〈New Wave〉たちへエールを送る。
Courtesy of the British Fashion Council. Photography Joyce NG
ファッション業界においても、年末はめでたいものだ。特に今年は、誰もが自分を褒めたたえ、シャンパンシャワーを浴びる権利がある。けれど、この最悪な1年に特筆すべき功績を挙げた人びとがいた。
12月3日の夜、ファション業界の面々がブリティッシュ・ファッション・アワードの授賞式で一堂に会し(もちろんオンラインで)、現実とは思えない出来事が連続するこの時代に、たゆまぬ努力を続ける優秀なデザイナーたちを讃えた。
しかし、彼ら以外にも、私たちが乾杯するべき次世代のファッションクリエイター(フォトグラファー、スタイリスト、ディレクター、ポッドキャスト配信者、ヘアメイクアーティストなど)は大勢いる。
ファッション・アワードの発表に先立ち、英国ファッション協会は今年2回目となる〈New Wave: Creatives〉のリストを公開。
昨年の候補者とi-Dのカルロス・ナザリオら審査員が推薦するこの〈New Wave: Creatives〉は、世界のファッション業界を代表する若い才能を讃えるとともに、業界をより良い未来へ導く道を照らす50名を選出する。
i-Dは、今年選ばれた10人のクリエイターにインタビューを敢行。彼らが誇りに思っていることや2020年に前向きな姿勢を保てた秘訣、次なる〈New Wave〉を目指す人びとへのアドバイスを訊いた。

アグスタ・イール(Ágústa Ýr)
──なにをしてる人?
ハイ! 私はビデオディレクター、アーティスト、モデル。映像編集はすべてデジタルで、3Dと実際の映像を組み合わせてる。
──制作の過程で一番の楽しみは??
実験する余地を残しておくこと。何かひとつに絞るのは好きではなくて、新しいことを試したり3Dや映像でいろんな方法を探ってみるのが好き。
──自分の作品の違いは何だと思う?
ユーモアのセンスと、物事をシリアスに捉えすぎないところ。ファッション業界には自分を笑わせることすらできないひとも多い。
──2020年は大変な年だったけど、前向きでいられた理由は?
確かに長い道のりだったけど、私は自分のなかに慰めを見出し、自分の一番の味方は自分自身だ、と気づくことができた。心の平穏を保つことが大切。
──2021年の予定は?
今のところ、来年の予定は気分転換だけ。新しい場所に引っ越して、もっと楽しみたい。今年はワークライフバランスなんて皆無だったことに気づいた。仕事=人生だったから。2021年の目標は、仕事と人生を満喫する時間を両立させること。
──来年の〈New Wave〉へアドバイスをお願いします。
まずは楽しむこと。ただじっと何かが起きるのを待つには、人生は短すぎる。自分のために変化を起こして。

アンバー・ピンカートン(Amber Pinkerton)
──なにをしてる人?
ファッション・ドキュメンタリーフォトグラファー/映像作家。でも他の分野や媒体を作品に取り入れるのが好きだから、どちらかといえばアーティストかな。
──制作の過程で一番の楽しみは?
実験的な要素。斬新で、慣習にとらわれない展示方法を考えることも多い。オーディエンスが何を気に入るかじゃなくて、自分の感覚に従うことにしてる。だって若いんだから!
──自分の作品の違いは何だと思う?
自分のバックグラウンド、受け継いだ伝統、年齢は確かに作品に大きな影響を与えてる。この業界にジャマイカで生まれ育ったひとはほとんどいないから、私の声は唯一無二のものになっていると思う。
──2020年は大変な年だったけど、前向きでいられた理由は?
確かにとんでもない1年だったけど、そこからとても前向きな結果や変化が生まれた。そういう必要不可欠な議論を私たちがしているってことに希望をもらった。
個人的には、これからも自分の目標に向かって努力していくだけ。今年はいくつか達成することができたから、そのおかげで前向きでいられた。
──2021年の予定は?
Alice Black Galleryで個展をやる予定。感動的な写真を撮ったり、写真集をつくったり、写真の限界を押し広げる挑戦をしたい。それから資金が調達できたら、ジャマイカに戻ってチャリティやコミュニティに貢献するプロジェクトをやりたい。
──来年の〈New Wave〉へアドバイスをお願いします。
この素晴らしい功績から得られたリソースを最大限に活用して。それから、これで終わりじゃないということを忘れないで。頑張って!

イザック・ポリオン(Issac Poleon)
──なにをしてる人?
ファッションと音楽業界のセレブリティ・ヘアスタイリスト。
──仕事の一番の楽しみは?
クリエイティビティの限界に挑むこと。野心的なムードボードが好き。今までにないルックを考えるのはすごく楽しい。
──自分の作品の違いは何だと思う?
アバンギャルドで幅広いところ。
──あなたが一番誇りに思っていることは?
ツヤ出しと、きれいなパーティング!
──2020年は大変な年だったけど、前向きでいられた理由は?
自分がやってきたことへの信頼と、クリエイター仲間からのサポート。
──2021年の予定は?
コンセプトサロンを開くこと。それから、もっとすごいプロジェクトを始めて将来の成功につなげることかな。
──来年の〈New Wave〉へアドバイスをお願いします。
自分がやってきたことを信じて、ありのままの自分でいること。自分の強みを披露して、周りには親切に。

ジョン・ユイ(John Yuyi)
──なにをしてる人?
アーティスト。写真を通して自分の考えを表現することが多い。セルフィやテンポラリータトゥーのほうが有名かな。まずはSNSでファッションブランドとのコラボレーションを始めて、今はもっと計画や制作に時間がかかるインスタレーションや作品をつくってる。
──創作の過程で一番の楽しみは?
偶然の出来事。制作やプロセスのなかで生まれる偶然。私はいつもしっかり準備するタイプで、頭の中に青写真を思い描いてるから、完成する作品は、最初に思い描いたものと90%は一致してる。でも予想外の結果が生まれるたびにワクワクするし、満ち足りた気分になる。
作品では100%純粋でストレートに自分を表現したい。ときどきは内輪ネタも入れたりしてね。みんなにちょっとしたいたずらを仕掛けてる感じ。それが気分転換のコツかな。
──あなたが一番誇りに思っていることは?
ファッションデザインの学校を出ているから、大好きなファッションとのつながりを保つ方法を探りながら、自分の表現媒体であるアートを活用できること。そのことには心から感謝してる。そのバランスを探るのは簡単ではないけれど、それが前に進み続ける原動力になってる。
台湾で生まれ育ってニューヨークに引っ越し、女性として昔の自分なら想像もつかなかったことを成し遂げたことも誇りに思ってる。バックグラウンドも特権もなくゼロからスタートして〈New Wave〉に選ばれたひともたくさんいる。その事実はすごく励みになると思う。
──2020年は大変な年だったけど、前向きでいられた理由は?
パンデミックのせいで、ニューヨークから台北に戻ってきた。制作に関しては、台北のほうがもっと幅広いことがきる。物価もニューヨークより低いし、広い場所を使えるから、これまでより大きなインスタレーションをつくって、そのなかで他の媒体についても勉強してる。
前向きでいられたのは、学びと実験のおかげ。塞ぎ込んだりしないで、今自分は試されていると思って、いろんなものに興味を持つようにしてる。
──2021年の予定は?
幸運なことに、年始の1月2日から初めての個展をやる予定。2020年に別れを告げ、2021年を始めるには最高のスタートだと思う。ある意味、2020年があったおかげで前向きに考えられるようになったのかも。誰もがゆとりを持って本当に必要なもの、精神的な満足感を与えてくれるものについてじっくり考え、感謝の気持ちを学ぶことができた。
2021年については前向きに考えてる。みんながもっと感謝の気持ちをもって物事に向き合い、本当に大切なものを重んじるようになるはず。
──来年の〈New Wave〉へアドバイスをお願いします。
他人ではなく自分が満足できることをやること。自分の心に正直でいるほうが長続きするし、健全だから。

オラ・エビティ(Ola Ebiti )
──なにをしてる人?
スタイリスト。
──仕事の一番の楽しみは?
尊敬する相手とコラボして、美しさやアイデンティティに関する考えに影響を与えるようなイメージをつくること。
──2020年は大変な年だったけど、前向きでいられた理由は?
自分のファミリー、友だち、コミュニティのおかげ。
──2021年の予定は?
四六時中マスクをしてなくてもよくなってほしい。
──来年の〈New Wave〉へアドバイスをお願いします。
いつも自分の直感に従うこと。自分の物語の最高の語り手は自分だけ。

──なにをしてる人?
いろんな〈S〉がつくアートディレクション。グラフィックをやる日もあれば、店やインスタレーションのデザインをすることもある。書籍や執筆、映像の監督、オブジェクトの制作に集中したり。ただのワーカホリックのときもある。
でも、個人的にはイメージ、空間、オブジェクトを通して物語を面白おかしく語るコメディアンだと思ってる。
──仕事の一番の楽しみは?
とにかく仕事が大好きだから、全部楽しい。良いアイデアとかぴったりなストーリーが思いつくと心拍数が上がるの。ひと目惚れみたいにね。難しいのは最善のかたちで人間関係を築くこと。結局は、みんなが笑えたり、心の拠り所にしたり、思わず「何これ!!」って叫んじゃうようなストーリーを語りたいだけ。
──自分の作品の違いは何だと思う?
エキセントリックで嘘偽りのないところ。バカげた無意味な作品に見えても、そこにはたくさんの考えや努力、率直なメッセージが込められてる。私の作品はバカなふりをしているだけで、私自身はスマートなビッチなの。
──2020年は大変な年だったけど、前向きでいられた理由は?
オーガニックの食べ物とヨガ。家族や友だちと話したり、この素晴らしくて光栄な機会をもらったこと!
──2021年の予定は?
温かいハグ、キス、団結、心身の健康、エコ、解放、変化! それからコロナウイルスに「今までどうも、じゃあ次!」と言えるようになること。
──来年の〈New Wave〉へアドバイスをお願いします。
自分の心に従って、直感を信じて!

クイル・レモンズ(Quil Lemons )
──なにをしてる人?
フォトグラファー。
──仕事の一番の楽しみは?
撮影しているひとの最高のポートレートを撮ること! そのひとの一番のお気に入りなる写真が撮りたい。
──自分の作品の違いは何だと思う? 一番誇りに思っていることは?
常に新しい技術を試して、実験的なイメージ制作のプロセスを行うこと。自分の限界を押し広げたい。
──2020年は大変な年だったけど、前向きでいられた理由は?
弟妹のおかげ。
──2021年の予定は?
やりたいことを全部やる! 思い切り楽しむ! もちろん、写真ももっとたくさん撮る!
──来年の〈New Wave〉へアドバイスをお願いします。
伝えたいことはふたつ。いつも自分らしくいること、言いたいことを我慢しないこと。ちゃんと口に出して!

サキーマ・クルック(Sakeema Crook)
──なにをしてる人?
いろんな場所で活動してる。ダンス、モデル、晩期資本主が衰退していくなかでの黒人トランスジェンダーの権利擁護。それから演技やボイスオーバーの仕事も。より良い未来のために革新的な方法で意見を発信していきたい。
──創作の過程で一番の楽しみは?
夢を見て、作品をつくって、自分の活動に想いを込めること。今ケイケンと進めているコラボレーションによって、私の途方もない夢がいくつも実現した。自分のいろんな面を活かすことができると、いつもワクワクする。
──あなたが一番自慢に思っていることは?
私たちはみんな多面性のある存在だということを示すために、できるだけ堂々と、正直でいること。誰でもなりたい自分になれるということ、みんな不完全な存在だということ、社会への適応度には個人差があるってことを伝えたい。
──2020年は大変な年だったけど、前向きでいられた理由は?
目に見える変化。古い制度が崩壊して、自分自身と向き合ったり、身の回りのコミュニティと過ごす時間が増えた。みんなが現実に目覚め、今までやっていたこと以上に大事なものが人生にはあると気づいたこと。誰もがより意識的に行動するようになったのは良いことだと思う。
──2021年の予定は?
新しいことを始めるつもり。でも、ここではまだ言わない。サプライズのほうが楽しいからね!
──来年の〈New Wave〉へアドバイスをお願いします。
ありふれた言葉かもしれないけど、自分らしくいること。いつ誰の目に留まるかわからないから、思い切り自分らしく、ためらわずに、作品に全身全霊を注ぎ込んで。

トレイ・ガスキン(Trey Gaskin)
──なにをしてる人?
ジャーナリスト、モデル。〈O.T.T〉というポッドキャストも配信してる。
──仕事の一番の楽しみは?
大好きな、尊敬するアーティストにインタビューできること。シャミールからパット・クリーブランドまで、すばらしい人生観を持つ、雲の上の存在のような人たちと話せるなんて本当にラッキーだと思う。O.T.Tで貴重な話をたくさん聞かせてもらってる。
記事だと文字数の関係で全部載せきれないこともあるけれど、ポッドキャストではゲストから貴重なエピソードを何度も聞き出すことができた。
──あなたが一番誇りに思っていることは?
O.T.Tでみんなが声を上げるべきだと思う問題について、話しやすい空間をつくれたことかな。何にも縛られず、自由に真実を話し、それと同時に楽しめる場所をね。
リスナーたちからも、ポッドキャストを聴いて刺激を受けたと言ってもらえて光栄だよ。僕がこの暗い世界にひと筋の光をもたらし、時には人びとの日々の生活に木陰をつくれている、ってことだから。
──2020年は大変な年だったけど、前向きでいられた理由は?
100000%友だちのおかげ。ずっと支えてくれて、心から感謝してる! 今年卒業したんだけど、セントラル・セント・マーチンズの〈Class of 2020〉を見て、いろいろと障壁の多かった1年にもかかわらず、本当に勇気をもらった。
それからこのいわば〈因果応報〉は、ファッションの世界でも起きている。変化についての議論はいつも水面下で進められるものだけど、実際にアクションが始まるのを見て、特にこの業界に入ってくる次の世代から希望をもらった。
──2021年の予定は?
O.T.Tを今まで以上に大きく、輝かしいものにすること!まだまだ出演してほしいゲストはたくさんいるから、O.T.Tシーズン2に招待する予定。
──来年の〈New Wave〉へアドバイスをお願いします。
この1年から学んだのは、時間はあっという間に過ぎ去ってしまうから、目標や夢に向けて今日行動を起こすのが大切だということ。やりたいことがあるなら、すぐに行動に移して! 2021年は、今まで以上に自分自身や作品について声を上げてみて。それから心の平和を守ること!!

ヤッサー・アビュベッカー(Yasser Abubeker)
──なにをしてる人?
ディレクター、プロデューサー。
──仕事の一番の楽しみは?
数行のメッセージや電話の会話から始まったプロジェクトが、実際に形になるまでを見ること。それに勝るものはないよ。
──自分の作品の違いは何だと思う?
去年は個人的に、ロンドンを代表する才能あるアーティストたちとプロジェクトができてラッキーだった。ほとんどは友だちで、僕たちのあいだには仲間意識がある。撮影前、撮影中、撮影後に感じたエネルギーを作品に注ぎこむんだ。
プロジェクトに参加したメンバーの誰もが、細部にまでいろんな想いを込めている。簡単には真似できないことだと思うよ。
──あなたが一番誇りに思っていることは?
いつも言ってもらえるのは、僕がセットやコラボレーションに心地よい雰囲気をもたらしているということ。そう言ってもらえて嬉しいよ。僕は自分のアイデアにはあんまり固執するタイプじゃなくて、アプローチや意見への指摘には、積極的に耳を傾けるようにしてる。まだまだ若輩者だから、どのプロジェクトからも学ぶことがあるよ。
──2020年は大変な年だったけど、前向きでいられた理由は?
友だちと家族からのサポートのおかげ。9時5時の仕事をやめる前はかなりつらい時期もあった。思い切ってフリーランスの世界に飛び込むのが不安だったんだ。もちろん、そうするべきだってことはわかってた。自分が情熱を傾けているプロジェクトが二の次になってしまうからね。その変化の過程で支えてくれた友だちや家族には、感謝してもしきれない。
──2021年の予定は?
今年のはじめに、初めての短編映画の脚本を書き終えた。今年12月には制作を始める予定だったけど、そこでコロナが広まってしまった。来年はそのプロジェクトを再開するのを楽しみにしてる。
──来年の〈New Wave〉へアドバイスをお願いします。
自分の中にある不安は無視すること。不安には根拠なんてないんだから。Credits
Photography Joyce NG
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