ナポリで急成長するボールルームシーンを支える若者たち

クィアなルーツで有名なイタリア、ナポリで、ボールルームコミュニティは若者がひとつになり、個性を表現するための場となっている。

by Lina Giselle Murillo Martinez; translated by Enea Venegoni, and Nozomi Otaki
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22 April 2022, 9:44am

イタリアのナポリは重層的な街だ。歴史的、文化的ルーツが、ナポリのフェミニエッリ(※ナポリのセクシュアルマイノリティ)から異教徒の〈花嫁〉、フォトグラファーのジェス・コールが捉えたスカンピアのトランスコミュニティまで、ナポリの街全体に広がるクィアネスに深く根付いている。海、港、路地から成る、多文化主義、真正性、無秩序が融合する街。ナポリのボールルームシーンは、これらの要素を体現している。地元のクィアコミュニティが出会い、絆を深め、心からリラックスし、自分のヴィジョン、クリエイティビティ、アイデンティティを自由に表現できる場所だ。

「ナポリ人はこの土地に深く根ざし、臆することなく自分のアイデンティティを明示する」と語るのは、ナポリの〈Iconic International Hall of Fame KiKi House of Juicy Couture〉のゴッドマザー、ダニーロ(ユニコン・ニンジャ)だ。「ナポリのボールルームシーンは、自分たちの居場所とコミュニティを求めるナポリの若者から生まれた。ナポリはクィアに深いルーツがあるので、このボールルームは必然的に生まれたもので、自分たちだけのボールルームの必要性を証明している」

2022年2月、ユニコンは私たちをポッツオーリのBasic Clubで開催された〈神話で伝説のキキ・ボール〉に招き、ナポリのボールルームシーンを紹介してくれた。この大イベントの準備を進めながら、ユニコンとダンサーのチーロサブリナが、このコミュニティについて、そこに所属することの意味や、コミュニティがナポリの社会で果たしている役割を聞いた。

Napoli ballroom scene portrait

ダニーロ a.k.a. ユニコン

──ボールルームシーンでのあなたの役割とは?

〈Iconic House of Ninja〉のメンバーで、〈Iconic Hall of Fame Kiki House of Juicy Couture〉のゴッドマザー。この役割の責任はかなり重い。いちばん重要なのは、若者のロールモデルと導き手になり、いかにボールルームが自分たちの人生に、そして逆に自分たちの人生がボールルームに影響を与えているかを伝えること。実際の業務としては、いろんな部門に携わったり、ボールを開催したり、若者のパフォーマンスや衣装の準備を手伝ったりしてる。

──なぜナポリにボールルームシーンをつくろうと思ったのですか?

この街にボールルームシーンを生み出そうという試みはこれまでにも何度かあったけど、どれもコミュニティの本質にはそぐわないものだった。重視するものをパフォーマンスからサブカルチャー的な側面へとシフトしてみたら、すでに地元のアンダーグラウンドシーンで活躍していた多くの若者や市民がナポリのシーンを形づくるのに協力してくれたんだ。でも、ターニングポイントになったのは、自分が路上で若者のトレーニングを始めたこと。

──このシーンをどう説明しますか?

ナポリの若者は、共同体としての意識を忘れることなく、自分のモチベーションや必要なものをはっきりと声に出している。ナポリはすばらしい才能やインスピレーションにあふれた街で、それらがひとつになってランウェイでメッセージを伝えるのは、まさに魔法のよう。みんな自分の過去や葛藤について話したいという思いがある。だからこそ、ナポリのボールルームにはより深く、より純粋な意味があるんだと思う。ボールルームに参加する目的は、トロフィーを勝ち取ることじゃない。ボールルームは、常に警戒しながら必死に生き延びなければならないこの社会で生きる術を教えてくれる。ボールルームにはユートピア的なイメージもあるけれど、このシーンが広まると同時に、パフォーマンス面だけでなく、このコミュニティが数十年かけて伝えてきたメッセージも広まってほしい。

Napoli ballroom scene portrait of a performer

──ボールルームは今のイタリアに必要な空間だと思いますか?

もちろん。これからずっと先もそうだと思う。マイノリティが文明社会で安全に暮らせるようになるには、イタリアにはまだまだ抜本的な変化が必要。ボールルームは、このシーンの中では享受できるのに、現実では享受できない特権に気づかせてくれる。〈Aクラス〉に分類される市民に影響を与えたくないからと、メディアが伝えようとしない問題も教えてくれる。キリスト教と保守的なイデオロギーは、今もこの国に根強く残っている。それは決していいこととはいえない。

──ボールルームとメディア表象について、ボールルームシーンの中にいる人びとと、このシーンに携わっていない、もしくは存在を信じない人びととの間に乖離があると思いますか?

いちばんの問題は、ボールルームの主役はパフォーマンスではないのに、パフォーマンスばかりに焦点を当てて誤ったイメージを助長しているのが、主にLGBTQIA+コミュニティだということ。この街では、ボールルームとヴォーギングが同列に並べられることで、このコミュニティの本質や、文化的背景と密接な関わりのあるボールルームの起源に目が向けられなくなっている。パフォーマンスは、自分たちの社会に対する違和感を表現し、自分たちのユニークさを讃える手段のひとつに過ぎないのに。

──ハウスのメンバー同士の絆はとても強いんですね。それはどのように生まれたのでしょう?

自分の居場所を見つけたいという欲求から生まれた。でも、誰もが一緒に暮らせる家族や、話し相手になり、意見を交換できる家族のもとに生まれたわけじゃない。信頼関係を築くことは、マイノリティが常に必死に生き延びなければならない社会における最初の第一歩。だからこそ、このシーンには親のような存在が欠かせない。このコミュニティは、どのメンバーも決してひとりじゃない、誰であろうと愛される、ということを常に思い出させてくれる。

──この世界に入ったばかりのひとにアドバイスはありますか?

歴史を学び、このシーンを最初につくった歴史上の人物からインスピレーションをもらい、日常的にボールルームに関わってほしい。情報や助けを求めることをためらわないで。いつでも力になるよ。積極的に活動し、いろんなことに興味を持ち、自分について語り、たくさんのひとと関わって。あなたがこのシーンに参加したいと思ったなら、それには理由があるはず。だからいつも自分に正直でいること。そして何よりも、自分を愛して。

Napoli ballroom scene portrait of Ciro

チーロ a.k.a. チーロ007

──ボールルームシーンでのあなたの役割とは? それにはどんな意味がありますか?

わたしはボールルームシーンにいる若者のひとりで、ハウスの一員じゃない。つまり、どこのハウスにも所属してないってこと。自分が好きなようにこのシーンに関わり、自分に合った居心地のいいカテゴリーを選んでる。

──ナポリのボールルームシーンに加わったきっかけは?

2015年、まだナポリにはボールルームシーンがなかった頃、ロンドンでベンジャミン・ミランと一緒に初めてヴォーギングクラスをとった。それから何年もこのシーンの成長を見守ってきた。いろんな変化があったけど、ナポリのクィアコミュニティのための新たな空間やツールの必要性はどんどん強まっている。

──イタリアのボールルームシーンと他の国のシーンの共通点と違いを教えてください。

イタリアのシーンの違いは、このシーンがダンス界に染み付いたシスジェンダー的な文脈のなかで生まれたから、そういう社会的な要素を取り戻そうという動きがあったこと。自分自身、ジェンダーニュートラルのトランスとして、イタリアのボールルームのランウェイに非白人やトランスがほとんどいないことの意味はよく理解してる。ノンバイナリーの人びとのために新しいカテゴリーが作られるべきだと思う。

Napoli ballroom scene performance portrait

──ファッションとボールルームシーンの関係をどう定義しますか?

(ボールルームは)ファッションが何もかもを凌駕できるわけではないということを示す、数少ない例のひとつ。ファッションにもボールルームにも複雑な美学のルールがあるけれど、その基準や目的はそれぞれ異なる。

──この世界に入ったばかりのひとにアドバイスはありますか?

自分を表現する方法や、どうすればボールルームシーンを満喫できるかよく調べてみて。なにかの賞やタイトルをとろうと焦っても意味がない。

Napoli ballroom scene portrait

サブリナ a.k.a. ファイジャ007

──ボールルームシーンでのあなたの役割とは? それにはどんな意味がありますか?

わたしはファイジャ007。ナポリのボールルームの一員だけど、特定のハウスには所属してない。コミュニティに貢献することで、もっと団結した、幅広く自由なシーンをつくりたい。

──ナポリのボールルームシーンに加わったきっかけは?

ナポリのボールルームシーンはどんどん成長してる。ずっと何かの一員になりたかったんだけど、アマゾン・メデューサやユニコン・ニンジャ、メイ007、チリン007、チーロ007などの仲間のおかげでそうなれた。

──このシーンが街にどんな影響を与えてほしいですか?

このシーンによって、もっとインクルーシブで寛容な街になってほしい。わたしたちが疎外感を覚えたり、軽んじられていると感じずにすむように。

Napoli ballroom scene portrait mid-performance

──このシーンに参加して変わったことは?

ここにいると、本当の自分はどんな人間なのかを自分自身に見せることができる。

──今のナポリのボールルームシーンを説明するとしたら? ここ数年で変化はありましたか?

まだ新しいけど、堅固なシーン。ここ数年でいろんな変化があったけど、そのおかげでわたしたちの絆は強まった。最初は路上で、その後は有名なジムで活動した。わたしたちを迎え入れることで、この空間は一緒に過ごす場所を提供すると同時に、わたしたちを知らないひとがわたしたちを知るきっかけをつくってくれた。

──ボールルームシーンにメインストリームからの関心が高まることで、前向きな変化はありましたか?

もちろん! 知らないよりも知ってるほうがいいでしょ。

headshot of a member of the Napoli ballroom scene wearing neon eye makeup
Napoli ballroom scene portrait of somebody wearing a PVC minidress and nun's habit
Napoli ballroom scene portrait of somebody with long orange hair wearing a pink leather coat
a performer death dropping at a napoli ballroom event
Napoli ballroom scene portrait of somebody wearing a pink velvet crop top
Napoli ballroom scene portrait of somebody with purple glitter eye makeup
Napoli ballroom scene portrait mid-performance
Napoli ballroom scene portrait of somebody wearing a medusa crown and chains
Napoli ballroom scene portrait mid-performance

Credits


Photography Gesualdo Lanza
Art Direction Maria Laura Buoninfante

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