マルタン・マルジェラ元広報らが語る、ファッション広告の未来

めまぐるしく変化する業界の第一線で活躍する専門家に、ファッションにおけるPRと広告の役割を問いかける。

by Wallet Magazine; translated by Nozomi Otaki
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08 July 2020, 8:19am

派手なエディトリアルではなく洞察と思慮に富んだ対話を通して、ファッション誌の概念を根本から見つめ直すエリス・バイ・オルセンの雑誌『Wallet』。最新号となる第7号では、先行きの見えない商業的なファッションビジネスを、ブランド構築からインフルエンサー、販売、クリエイティビティまで、PRという漠然としたテーマを通して掘り下げていく。

本誌に登場するのは、〈PR Consulting〉の設立者ピエール・ルージエ、Martin MargielaDries Van Notenなどのメゾンで活躍してきたパトリック・スカロン、TelfarやAreaなどNYの新進気鋭のレーベルを手がけてきたジア・クアン。また彼らのインタビューに加え、「消えゆく媒体の調査」と題して一風変わったファッション広告のアーカイブを掲載。本誌を広告のない〈純粋な〉かたちで楽しみたいという読者は、これらのページを破り捨ててもいい。

エリスのエディターズレターの言葉ともに、本誌に掲載された専門家へのインタビューの一部を抜粋して紹介する。

「消費者を翻弄する選択肢が増えるにつれて(もちろん資本主義が提供するのは自由な選択ではなく、あらかじめ定められ制限された選択肢だということを、私たちは嫌というほど知っている)、ファッションマーケティングの実践はますます困難になっている。フォトシリーズが広告記事になったり、詳細なニュース記事が商業的な視点に満ちていたり、かつてはあまり見かけなかったInstagramのプロモーション投稿がれっきとしたマーケティング手法になるなど、プロダクトプレイスメント(※コンテンツの中で商品を使用することで商品の認知や好感度を高めたり、使用方法の理解を深める手法)と誌面のエディトリアルコンテンツの境界線は曖昧になりつつある」

「また、〈本物/正当であること〉の需要が高まるいっぽう、これもあらゆる分野において、ますます得がたいものになっている。マーケティングに〈解決〉が求められる要求の複雑さを鑑みると、さまざまなパラドックスや課題が浮き彫りになる。ファッションマーケティングはここ数十年で劇的な変化を遂げ、今もなお変化を続ける分野であると同時に、その手法はメインストリームファッションからeコマース、ラグジュアリー、アバンギャルドファッションなどブランドの種類や規模によって大きく異なる。どのブランドも、自らのブランドを売り込むための独自の解決策や戦略を有している。現在はこれらの違いが業界を定義づけているが、業界の変化が加速するにつれてより一層大きな変化が訪れ、ファッションの価値連鎖(※企業の活動を分類し、どの活動において付加価値が生み出されているかを分析するツール)のアルゴリズムや分類が均質化したり、その内実が明らかになったり、もしくは価値連鎖そのものが消失する可能性もある」

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ピエール・ルージエ

──ファッションマーケティングの手法は、メインストリームファッションからeコマース、ラグジュアリーからアバンギャルドファッションまでブランドの種類や規模によっても大きく異なります。気鋭のブランドの戦略は、有名ブランドと比べてどう違うのでしょうか。また、常に自らの戦略を見直していく必要性を感じますか?

今でも印刷などの従来の広告媒体を重視している大手ブランドもあるので、ありがたいことです。小さなブランドに関しては、彼らの持つ影響力はこれまでとあまり変わっていません。あまり資金は潤沢とはいえないので、大切なのはデザイナー自身の手腕や、アイテムを身につける人びとです。もっとも大きな変化は、広告枠を買わなくてもできることが増えたことですね。今では大手メディアの広告枠では勝負できなくても、InstagramやSNS、コンテンツで、そしてインフルエンサーと組むことで勝負できます。しかも今までよりずっと安い値段で。

──デジタル化が進むファッション業界において、マーケティングではSNSの運営や、いわゆるタレントやインフルエンサーを起用する手法が増えてます。そんな時代におけるPR会社の役割や意義は何だと思いますか?

クライアントが語るストーリーを考える手助けをすることが主だと思います。ブランドが私たちのところに相談に来るときは、ブランドの核となるストーリーを構築したり、補強する手助けをすることが多いです。印刷広告や会食にばかりこだわっているような代理店は、すぐに落ち目になるでしょうね。

──最後に、ご自身のビジネスの展望を教えてください。PRの未来はどうなるのでしょう?

デジタル VS 印刷物という構図や、インフルエンサーを持てはやす風潮は、徐々に落ち着いていくと思います。PRは常に変化し、進化を続けていますが、ブランドにとって全く先行きの見えない最悪の時期はもう過ぎたと思います。

@prconsulting

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パトリック・スキャロン

──もし間違っていたら遠慮なく指摘してほしいのですが、あなたが在籍していた頃のMaison Margielaでは、まだはっきりとした役職はなかったのではないかと思います。当時のあなたのタスクや責任について教えてください。マルタン・マルジェラやジェニー・メイレンスとのワークフローは?

私の役職はかなり変わっていて、いろんな仕事を担当していました。それがもっとも明らかになったのは、私が〈アーティスティックディレクター・フォー・コミュニケーション〉と呼ばれていた、在職期間の終わり頃です。その頃から箱を梱包したり、服を発送したり、インタビューの依頼をさばいたりするようになりました。マルタンはインタビューを受けませんでしたが、依頼があったことは伝えていました。でも、もっと会社を成長させなくてはいけない、という段階になり、ある程度付き合いのある人たちとはちゃんと関わっていかなければと思ったんです。そこで主語を〈私たち〉にしてインタビューに答えるというアイデアを思いつきました。それがMaison Martin Margielaへと発展し、ジェニーとマルタンも賛成してくれて、みんなでマルタンの才能を支えていくことになったんです。

──企業とは対極にある反ブランド派か、成功を収めたブランディング・オペレーター、あなた自身はどちらだと思いますか?

〈ブランド〉は、私にとってもっとも難しい言葉です。私が考える自分の役割というのは、もちろんかなり大変なことですが、デザイナー自身ではなく彼らの才能に奉仕することです。才能に奉仕されるというのは、デザイナー本人にとってはいらだたしいことかもしれません。私は仕事で関わるひととは一定の距離を保つようにしていますが、それと同時に彼らを支え、大切にし、存分に才能を発揮できるだけの余地を与え、評価したいと思っています。誰かの才能を世に示すことには、それがおのずとブランド構築に結びついていくという点で、PR的な側面があるように感じます。ブランドとは何でしょう? それは何かや誰かの頭の中にある価値、またはこれらの価値に関するアイデアや認識を理解し、把握することです。

──コミュニケーション過多な現代において、Dries Van Notenはあまり情報を発信していません。広告やインフルエンサーは活用せず、SNSの使用にも慎重になっているとおっしゃっていましたが、Dries Van Notenの主な情報の発信手段とは?

私はどちらかというと、今の体制に対しては少し批判的です。私たちはショーに頼り過ぎているので。もちろんショーは今でも有効な手段ですが、その可能性は狭まってきています。私たちは多額の資金をショーにつぎ込んでいますが、そのぶん素材やコンテンツ制作の予算はかなり限られています。つまり、私たちの主なコミュニケーションツールはファッションショーだけになってしまっているんです。確かにドリスは孤高の人ですが、服に触れれば彼とのパーソナルな関わりを感じられると思います。

──広告全般についてのあなたの考えを教えてください。その考えはファッション業界で働き始めてから、どのように変わりましたか?

私は広告主のために仕事をしたことはありません。以前、1995年の米国版『Vogue』9月号の広告を全部切り取り、広告のページと記事のページを分けたことがあります。なんと1冊の半分以上が広告でした。『Vogue』をみると、そのときにマルタンに「なんでそんなことをしようと思ったの?」と訊かれたのを思い出します。マルタンもみんなと同じように、ただ広告をイメージとして楽しんでいました。それが重要なんです。私たちはときどき、広告のイメージは、ファッションショーと同じくらいブランドやデザイナーの才能や言葉などを表現できる可能性を秘めているということを忘れてしまう。広告そのものは、全く廃れてはいないと思います。広告は今もデザイナーのヴィジョンを表現する重要な手段ですから、〈広告の死〉という言葉には語弊がある気がします。

@eyecnow

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ジア・クアン

──あなたのビジネスはニューヨークのダウンタウンに根付いていますが、このシーンについて詳しく教えてください。NYのシーンは、他のファッションの中心地よりも社会に根差していると思いますか? あなたのPR活動にとっての〈社会性〉やコミュニティとは?

コミュニティ自体はずっと存在していましたし、特に新しい概念でもありません。ですが、私が仕事を始めた当時、ブランドの文化とつながりのない大物タレントを起用する風潮へのカウンターとして、ブランディングを取り巻く地域に深く根差したコミュニティ、もしくは世界的なコミュニティという概念が生まれました。私が仕事をしたNYのブランドはみんな、自然と知り合いになっていったんですが、それは私たちの仕事への姿勢を証明していると思います。他の地域にはない大きな助け合いの精神が、私の仕事に良い影響を与えてくれ、不可欠なものになっているんです。

──SNSや、インフルエンサーを始めとするそのユーザーたちは、ファッションマーケティングやプロモーションに開かれた新たな領域です。急速に拡大するインフルエンサーマーケティングについて、あなたの見解を聞かせてください。これは脅威なのでしょうか、それとも進んで活用するべきものなのでしょうか。クライアントのため、もしくはクライアントとともに、この新たな分野にどう向き合っていますか?

インフルエンサーという概念や言葉には、誰もが愛憎入り混じった感情を抱いているように感じます。2013年を振り返ってみると、彼らに対する個人的な思いは、今とはだいぶ違いました。当時は彼らをツールとして活用したり、人気上昇中のインフルエンサーに注目したり、彼らとポテンシャルのあるブランドを引き合わせるのがすごく楽しかった。インフルエンサーの美的感覚を分析したり、彼らが好きそうなものや嫌いそうなものを推測する以外は、キャスティングディレクターの仕事のような感じですね。それに当時は、インフルエンサーからの要求も少なかった。彼らはブランドに参加できることを感謝していました。でも今は、ショーに来たがる〈自称インフルエンサー〉からの要求が、あまりにも多すぎます。

──メディア露出は収益につながると思いますか? それとも過剰なメディア露出はブランドを台無しにしかねないのでしょうか?

もちろんメディア露出は収益につながりますが、それは手っ取り早く頂点に達したからこそ得ることのできる利益だということを覚えておかなければいけません。成功とは、最初の成長に不可欠なものを失うということ。残念ながら、おのずとその道をたどることになるブランドは少なくないので、慎重に向き合わなければいけません。もちろん、成長をコントロールできないこともあります。それはそれで構いませんが、成長による反響がブランドにどんなマイナスの影響やプラスの影響をもたらすかを、クライアントに伝えておくことが大切です。例えば、需要に応じられる事業や製造の手段はありますか、とか、要望通りのメディア露出を実現できますが、近い将来殺到するであろう注文に応じられるだけの設備は整っていますか、と確かめる必要があります。

──今のビジネスのなかで変化を望むもの、例えば業界において有害で、不必要な、問題のある側面はありますか?

大声で怒鳴ったり、クライアントを秘密にしたりなど、PRについてどこか恐ろしげなイメージを持つひともいるかもしれません。それが広報やPR担当者の一般的な印象です。ですが、落ち着いたコミュニケーションのほうが、物事は想像以上にうまく進みます。強気な態度をとったり、競争心をむき出しにしたり、情報を隠す必要はないんです。相手が大企業ならそういう態度でも大丈夫かもしれませんが、全てのブランドに通用するとは限りません。あなたが社外のエージェントだとしても、そのように振る舞うのではなく、部外者というよりクライアントの一員として、不可欠な存在になるべきです。

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This article originally appeared on i-D UK.

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