Florence Pugh, Jack Reynor Photo by Merie Weismiller Wallace, Courtesy of A24

『ミッドサマー』アリ・アスターと主演ジャック・レイナーが語る「失恋映画と民俗ホラーの融合」

『ヘレディタリー/継承』で現代ホラーの旗手としてその名を轟かせたアリ・アスターの最新作『ミッドサマー』が公開した。主人公の彼氏を演じたジャック・レイナーがショックを受けたファンの反応とは?

by Sarah Gooding; translated by Nozomi Otaki
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03 July 2019, 6:30am

Florence Pugh, Jack Reynor Photo by Merie Weismiller Wallace, Courtesy of A24

2018年、『ヘレディタリー/継承』で絶賛を浴びたアリ・アスター監督。2作目となる長編映画『ミッドサマー』は、私たちの価値観、時間の概念、1本の映画のなかで人はどれほどの恐怖に耐えられるかを問う作品になっている。

本作の主役は、フローレンス・ピュー演じるダニと、ジャック・レイナー演じるクリスチャンという若いカップル。破局寸前だったふたりだが、本作の冒頭で衝撃的な悲劇がダニの家族を襲ったことによる深い悲しみをきっかけに再び距離を縮める。悲劇を乗り越えるため、ダニーはクリスチャンが友人たちと計画した旅行に加わる。行き先は、スウェーデンの人里離れた村で開かれる、一風変わった夏至祭り。しかし、この不思議な村が禍々しいカルトの巣窟だとは彼らは知る由もなかった……。

舞台は、太陽が沈まない真夏のスウェーデン。この場所が独特の背景となって、じりじりと焼け付くような緊張感を生み出し、本作を唯一無二のホラー映画たらしめている。「従来のホラー映画では、観客を飛び上がらせたり、暗がりから何かが突然飛び出してくるような演出が多いです」とレイナーは語る。「でも、この映画ではほぼ全ての出来事が真っ昼間に起きる。だから常に恐怖が映し出されているんです」

『ミッドサマー』には、様々なシンボルが登場する。アスター監督は、舞台となる村を一から建設したり(プロダクションの都合上、ロケ地はスウェーデンではなくハンガリー)、本作のためにひとつの言語とルーン文字を考案するなど、異常なまでのこだわりをもって、本作の世界観を細部に至るまでつくりこんだ。

監督によると、脚本を執筆したのは今から4年前。ある制作会社から、「米国人のグループがスウェーデンで定期的に開催される特別な夏至祭りを訪れ、映画『ホステル』のように、ひとりずつ殺されていく、というざっくりとしたアイデア」を持ち掛けられたそうだ。

このアイデアに特に興味を惹かれたわけではなかった、と監督は当時を振り返る。「でも、そのあと別れを経験した僕は、この企画が来たとき、自分が書こうとしていた失恋映画と、民俗ホラーというジャンルを融合できるんじゃないかと思ったんです」

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Jack Reynor Photo by Merie Weismiller Wallace, Courtesy of A24

前述の制作会社は、彼の前作『ヘレディタリー』の大ファンだったため、かなり自由にやらせてもらえた、と監督はいう。「その企画をとてもパーソナルなものにすることができた。そこから、僕自身にとって非常に親密な作品になっていったんです」

監督は脚本を執筆するさい、「とても念入りなリサーチ」を行ない、スウェーデン出身のプロダクションデザイナー、ヘンリック・スヴェンソンの協力のもとで、北欧民話を参照した。このリサーチが、本作の至るところに散りばめられた「細部にわたる様々なアイデアを生み出した」そうだ。

「ファーストカットは3時間40分もあったので、本編からカットしなければいけなかったシーンはたくさんあります。公開版では、いろんなディテールが省かれています」

この密に織り込まれた様々なイメージが、本作をより豊かなものにしている。例えば、村の家々の壁には、このカルト教団について物語る絵がびっしりと描かれている。観るたびに新たな発見がある作品だ。さらに、花も非常に重要な意味をもっている。花はヘルシングランドの野原からカルトメンバーの頭(コーチェラ参加者を彷彿させる)まで、あらゆる場所に登場し、最後には、カルトメンバーに取り込まれたある人物を完全に包み込む。

しかし、アスター監督は本作のディテールのあらゆる解釈を尊重し、それを観客の判断に委ねている。「あまり多くを語らないようにしています。そうすれば、議論したり考えを深める余地を与えられるので。どんな扉も閉ざしたくはないんです」

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Jack Reynor, Gunnel Fred Photo by Gabor Kotschy, Courtesy of A24

『ミッドサマー』の醍醐味のひとつは、観客に迫り来る狂気的な世界だ。本作は非常に没入感が高く、複雑な視覚効果は、自分も登場人物たちと同じドラッグでハイになっているような感覚を生み出す。彼らがマジックマッシュルームや謎の調合薬を口にするたびに、周囲の景色が彼らの意識と連動するように変形するのだ。

この視覚効果は、ピューが熱演したダニが体験するトラウマも効果的に伝えている。本作の冒頭で、ダニが家族に起きた悲劇を知る場面では、映像がぼやけ、ぐちゃぐちゃになる。観客を感情移入させる巧みな手法によって、私たちはダニが感じる不安や混乱を、身をもって体験することになる。

悲しみに暮れるダニーへのクリスチャンの思いやりのなさも、本作の重要な点だ。ダニーも観客も、心のどこかで彼への復讐を願わずにはいられない。ブルックリンのアラモ・ドラフトハウス・シネマで行われた試写会後のQ&Aセッションで、司会者は、クリスチャンの身に起きたことは当然の報いだ、と非難した(ネタバレは避けるが、この〈報い〉は非常に手厳しいものだ)。

「ちょっとショックでしたね。そのあともみんなの反応には戸惑ってばかりでした」とレイナーは回想する。「多くのひとが登場人物たちに共感してくれたんだと思います。自分も今までの人生で何度も経験してきたことだ、って。精神的な支えを必要としたり、ものすごく愛情に飢えたりすることは、誰にでもありますよね」と彼はダニについて語る。クリスチャンについては、「時には無神経だったり、悪気はなくても正しい行いができないことだってあります」と述べた。

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Jack Reynor, Lennart R. Svensson Photo by Csaba Aknay, Courtesy of A24

「僕はこの男がクソ野郎とか、ひどい人間にカテゴライズされるとは思いません。彼は単純でありながら複雑なキャラクター。特に頭が良くもなければ、自分を客観的に認識できているわけでもない。ただ僕は、彼が受けた罰が彼の罪に見合うものだ、とは言い切れないんです」

いっぽう、レイナーは本作でクリスチャンが体験したことを通して、女性、そして彼女たちがホラー映画のなかで耐えてきた苦痛に共感するようになったという。

「これまでに女性に対する恐ろしい性暴力が描かれた映画をたくさん観てきました。こういうシーンで女性は露出を強いられます。たとえば、僕はウェス・クレイヴン監督の1972年の作品『鮮血の美学』を何度も観返してるんですが、性的暴行を受け、殺害されるシーンを撮影するために、2人の女の子たちが体験したことは、彼女たちのトラウマになったに違いないと思います。最後には報復として犯人の男たちも殺されますが、彼女たちがされたことに比べたら何てことはない。それに彼らには露出シーンはありません。作中では、彼らの裸も、彼らに対する性暴力も描かれない。全部曖昧になっていて、彼らが恥や屈辱に向き合うことはないんです」

レイナーは『ミッドサマー』がクリスチャンに大きな苦痛を与えることで「全部を逆転させた」という。それでも、彼はこう言明する。

「僕が演じたキャラクターの体験は、これまでの映画史において女優たちが直面してきたこととは比べ物になりません。僕が体験したことはそこまで過激じゃない。それでも本当につらくなったし、自分がむき出しになっているような感覚に陥ったり、無防備に感じることもありました」

『ミッドサマー』は、ホラー描写の凄惨さや自らの信念を見直さざるをえないという点など、様々な意味において観客が試される作品だ。ダニーはホルガの人びとの儀式のなかで力づけられ、変身を遂げる。あなた自身も、それを彼女といっしょに体験したように感じるかもしれない。

それこそが本作の核心であり、恐ろしいところだ。この場面こそが、脆い者の心にいかに有害な思考の種が植えつけられるかを示している。この作品を観たあとは、自らの判断力を問わずにはいられない。そして、二度とミートパイに触れられなくなるだろう。

This article originally appeared on i-D US.

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