ゼンデイヤのファッション変遷
アイコニックなメットガラのルックから、『DUNE』プレミアの神秘的なドレスまで、SF界が誇るファッションスターのルックを紹介。
Photos by Steve Granitz/WireImage, Vittorio Zunino Celotto/Getty Images and Jeff Spicer/Jeff Spicer/Getty Images for Warner Bros
わずか22歳にして、自身の2倍以上の歳のセレブたちに勝るとも劣らない印象深いファッション史を築き上げてきたゼンデイヤ。およそ10年前にトゥイーン(8〜12歳の子どもたち)向けDisney番組で初めて表舞台に登場した彼女は、レッドカーペットでリスクを冒すことを決して恐れない。その大胆不敵なファッションは、私たちに無限のインスピレーションを与えてくれるだけでなく、ファッション業界の有色人種の女性に対する時代遅れな美の基準を押し広げてきた。HBOドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』から『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』、SF大作『DUNE/デューン 砂の惑星』まで、千変万化するファッションを披露してきたゼンデイヤ。トゥイーンのアイドルから大作映画のスーパースターへと成長した、ゼンデイヤのファッション変遷を振り返る。
2013年 アリーヤへのオマージュ
2013年、ゼンデイヤは支援団体Keep A Child Aliveの20周年ハロウィンイベント〈Annual Dream Halloween〉で、唯一無二のベイビーガール、アリーヤにインスパイアされたコスチュームを着用した。彼女はこの伝説のR&BシンガーのLifetime製作の伝記映画で主演予定だったが、結局は降板し、女優のアレクサンドラ・シップが後を引き継ぐことになる。それでもゼンデイヤは、アリーヤの象徴的なスタイルを、Tommy Hilfigerのクロップトップ、ライトウォッシュのバギージーンズ、メンズのボクサーパンツで完璧に再現した。これが彼女とTommy Hilfigerのコラボレーションのきっかけになったのも、何ら不思議ではない。

2015年 アカデミー賞レッドカーペット
ゼンデイヤがロックスヘアでレッドカーペットに登場すると、テレビ番組『Fashion Police』のホスト、ジュリアナ・ランシックが彼女の髪は「パチュリかウィードみたいな」匂いがする、と人種差別的なコメントをしたことで、彼女は無用な議論に巻き込まれてしまう。ゼンデイヤはランシックの無知な指摘に対し、実に巧みな返しでルックを擁護してみせた。「面白いことと敬意を欠いていることには微妙な違いがある」とゼンデイヤは明言し、「無知な人たちの助けを借りなくても、もうこの社会には十分にアフリカ系米国人への辛辣な批判がある」ことを指摘した。彼女はロックスを「ライオンのたてがみのような強さと美しさの象徴」と説明している。

2016年 Humane Society Galaのパワースーツ
ゼンデイヤのスタイルで最も賞賛するべきは、大胆でパワフルなルックをスウェットパンツやフーディと同じくらい堂々と着こなせる彼女の能力だ。例えば、数年前のHumane Society Galaで着用した、このChristian Sirianoのフューシャピンクのスーツ。オールピンクのスーツは彼女のお気に入りらしく、このウルトラフェミニンなカラーを誰にも真似できない方法で着こなしている。
2016年 グラミー賞
2016年のグラミー賞授賞式で、ゼンデイヤは別の伝説的ミュージシャンにオマージュを捧げた。今回の彼女のインスピレーション源は、デヴィッド・ボウイだ。オマージュといっても、そこまであからさまではなく、ジギー・スターダスト風のプラットフォームブーツは見当たらない。その代わりに、ゼンデイヤはDsquared2のダブルブレストのスーツとマレットヘアを選び、批判の声も浴びたものの、ネガティブなコメントは軽く受け流した。
「他人が指図することにとらわれてはいけない。そのままでは絶対に成長できないし、前にも進めない。リアルでいなくちゃ。周りに気に入られなかったとしても、やりたいことをやるべき」と彼女は当時ELLEに語っている。

2016年 メットガラ マイケル・コースとともに
どれほど議論を呼ぼうとも、あらゆるヘアスタイルを自分のものにできることを証明してきたゼンデイヤ。私たちに初めて真剣にボウルカットを検討させるルックを披露したのも彼女だ。モッズカルチャーインスパイアのこのヘアスタイルは、Michael Korsのゴールドのロングドレスと完璧にマッチしている。レトロでありながら不思議と未来的なルックだ。彼女が今までずっと過去のルックを参照してきたことを踏まえれば当然だろう。「いつも数十年前のファッションから刺激を受けている」と彼女は2017年に〈PeopleStyle〉に語っている。

2017年 メットガラのレッドカーペット
3年目となるメットガラで、ゼンデイヤは、70年代風のアフロヘアに完璧にマッチするDolce & Gabbana Alta Modaのボールガウンを着用し、メットガラの人気者としての地位を確固たるものにした。マスタードを基調とするドレスには花や赤いオウムがあしらわれ、あのリアーナも「ブラウンの女神」というコメントとともにInstagramに彼女の写真をアップしたほど。リリにそこまで言わしめたなら、これ以上のものはないだろう。
2017年 『グレイテスト・ショーマン』のプレミア
ゼンデイヤに洗練されていない時期があったというのは、にわかには信じがたい話だ。このスターは、Moschinoの現実離れしたゴージャスなドレスで蝶に変身したこともある。『グレイテスト・ショーマン』のオーストラリアのプレミアで、ゼンデイヤはこのルックにレトロスタイルのフィンガーウェーブを合わせ、イエローのアイシャドウで仕上げた。マライア・キャリーの言葉を借りれば、「羽を広げて飛んでいきなさい、蝶よ」と言いたくなるルックだ。

2018年 メットガラ
不ぞろいなショートバングは誰にとってもなかなかトリッキーな髪型だが、ウェーブのかかったフリンジボブのゼンデイヤは、まさにパーフェクトだった。このボブヘアは、その年のカトリックに着想源を得たテーマ〈Heavenly Bodies(天国の身体)〉を彼女なりに解釈した、ジャンヌ・ダルク風のスタイルにも完璧にマッチしていた。
鎧を思わせるメタリックなドレスはVersaceのカスタムメイドで、彼女のスタイリストであるロー・ローチは、宗教に関する力強い女性について熟考したあと、夢の中でこのアイデアを思いついたという。「ある日ジャンヌ・ダルクの夢を見て、Versaceに電話して『ジャンヌ・ダルクを参照するのはどう?』と訊いてみたんです。そしたら本当に、本当に見事なスケッチが返ってきました」と彼は『ロサンゼルス・タイムズ』に語っている。

2019年 メットガラ
毎年メットガラで視線を独占してきたゼンデイヤ。2019年も例外ではなかった。同じくローチが手がけたルックで、ゼンデイヤはDisneyでの駆け出し時代に立ち返り、Tommy Hilfigerのカスタムメイドのパウダーブルーのボールガウンでシンデレラに変身した。手にはシンデレラの馬車の形のミニバッグ、レッドカーペットにガラスのくつを片方残していくという演出付きだ。しかし最高のシーンは、ローチがフェアリーゴッドマザーのように片手を差し出し、ステッキを振ると、煙が上がってドレス全体が光り出し、レッドカーペット全体を照らした瞬間だろう。これぞまさに〈キャンプ〉だ。

2019年 エミー賞
当時あちこちで見られたネイキッドドレスは、もはやハリウッドの若きスターの通過儀礼といっても過言ではなかった。ゼンデイヤも例外ではなく、2019年のエミー賞授賞式にVera Wangのコルセット型のネイキッドドレスで登場した。ヴェロニカ・レイク風のサイドスウェプトヘアを合わせ、ハリウッドの古典映画にインスパイアされたこのルックは、当時プロモーション期間中だった意欲的なHBOドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』で主人公ルーを演じた彼女にとって、これまで以上にグラマラスで大人びたものだった。本シリーズは2019年のシーズン中にはノミネートされることはなかったが、翌年、ゼンデイヤは本作で主演女優賞を受賞した。

2019年 エル・ウーマン・イン・ハリウッド
ともにファッション界を牽引してきたゼンデイヤとスタイリストのロー・ローチ。ふたりの10年にわたるクリエイティブなパートナーシップのなかで、ローチはゼンデイヤの代表的なルックだけでなく、ハリウッドのレッドカーペットを代表するルックもを手がけてきた。例えば、Marc JacobsやArmaniなどのビッグネームによる、ステートメントを前面に押し出したルックだ。しかし同時に、ふたりはChristopher Esber、Nensi Dojaka、Peter Doなど、ファッション界の卓越した新たな才能の支援者でもある。特に、ゼンデイヤが出演した2019年の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のプレスツアー以来、ふたりはPeter Doの大ファンで、彼女は2019年秋冬コレクションのシルクのセットアップや上記のレイヤードスーツも着用。2021年公開の『DUNE』のプロモーションでも、ふたりはPeter Doのモダニストスタイルへのサポートを示し続け、2022年春夏の最新コレクションのアイテムを着用した。

2020年 放送映画批評家協会賞
1月に開催された放送映画批評家協会賞の授賞式で、ゼンデイヤのアイコニックなTom Fordのブレストプレートは、2020年の始まりを象徴するとともに、彼女のレッドカーペットで注目すべきリスクテイカーとしての地位を不動のものにした。このルックも、ゼンデイヤのためだけに特別につくられたものだ。
「(Tom Fordのチームが)うちに来て、私はトップレスでリビングに立ち、胸を機械でスキャンされた」と彼女は『British Vogue』に語った。「つまり私の胸は、Tom Fordのクロムメッキで永久保存されたってこと」
Tom Fordのこの鎧のようなルックは、ゼンデイヤを象徴する新たなスタイルのひとつとなった。2021年の『DUNE』プレスツアーの最中にも、彼女はLoewe 2022年春夏コレクションのゴールドのプレートがあしらわれたドレスでこのルックを再現している。

2021年 アカデミー賞
『アニー・ホール』風の本格的なスーツスタイルからHalston的なプロポーションのグリッタードレスまで、ゼンデイヤのスタイルはいつも70年代を参照してきた。この70年代スタイルが頂点に達したのが、2021年のオスカーのレッドカーペットだ。彼女はネオンイエローのValentinoのクチュールドレスに身を包み、この10年を象徴するファッションアイコン、すなわちシェールにオマージュを捧げた。

2021年 ヴェネツィア国際映画祭
映画そのもののように、ゼンデイヤの『DUNE』プレスツアーのスタイルもまさに壮大だった。ValentinoのクチュールからPeter Do、Alaïaの見事なセットアップ、カスタムメイドのNensi Dojaka、Vivienne Westwoodのアーマーまで、拍手喝采のルックのオンパレードだったが、すべての始まりであり、同時にインターネットを熱狂の渦に巻き込んだのは、やはりこのウェットヘアとフレンチメゾンBalmainがゼンデイヤのために制作したネイキッドドレスだ。砂のような色合いとSF的なドレープのこのドレスは、まさにヨーロッパプレミアの幕開けにふさわしい一着だった。

2021年 『DUNE/デューン 砂の惑星』ロンドンプレミア
Balmainのウェットルックが完璧な『DUNE』プロモーションの幕開けを飾ったとしたら、このRick Owensのドレスは完璧な幕切れだった。スカルプチュアルで緩やかなカーブを描くこのスパンコールドレスは、映画の未来的なヴィジュアルや、他のSF大作(『スター・ウォーズ』のプリンセス・レイア)すらも思い起こさせる。『DUNE』の続編も制作中とのことで、この現実離れしたルックは、SF界を牽引するファッションスターとしてのゼンデイヤの新時代を象徴するものとなるだろう。