音が生まれるとき、写真が生まれる:山谷佑介 interview 前編

実験的な写真作品を手がけてきた山谷佑介の最新作「The Doors」は、ライブフォトパフォーマンスによって写されるセルフ・ポートレートだ。ドラムと連動した撮影システムを起用したという前代未聞の最新作について山谷が語る。

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apr 27 2018, 7:52am

音が生まれるとき、写真が生まれる——。写真家の山谷佑介が、京都の地でドラムプレイとセルフ・ポートレートを題材にしたライブパフォーマンスを繰り広げている。なんでも暗闇の一室に置かれたドラムを山谷自身が叩いた瞬間、ドラムの周囲に設置された何台ものカメラが強烈なストロボ光を放って山谷自身の姿を写すという。さらにカメラは8台のプリンターに接続され、撮影された写真がリアルタイムで次から次へとプリントアウトされる。しかも彼自身はこのとき、上半身ハダカであることが条件だ。つまり出力されるプリントというのは、半裸の彼がドラムを叩くのに懸命なあまり、いわゆる“変顔”を晒しながら、ときに汗をにじませ、肉体が歪む様子が刻まれるというわけだ。話に聞いたかぎりではヘンテコな響きだけれど、見ないことには理解しがたい。

そこで今回、4月14日に行われた初公演を見てきた。それはなんとも奇妙で不思議な光景だった。窓に暗幕が取りつけられた会場は文字通り真っ暗闇で、中央には赤いランプがとりつけられたドラムセットが置かれ、その周囲を何台ものカメラが囲っている。その後ろでは8台のプリンターが設置されたメタルラックが鈍く光っていた。予定時間になると半裸の山谷がドラムまでやってきた。初めに数回、ドラムを叩くとピカッと閃光が放たれた。段々と演奏が始まっていく。それは規則正しいリズムではなく、野性的なフリーハードコアのリズム。音がひとつ、またひとつと奏でられるたび、真っ暗な空間のなかでストロボ光を浴びた山谷自身が発光する。暗闇と閃光が交互に繰り返されることによって、山谷の姿が見る者の眼に焼きつく。

このパフォーマンスを目撃した直後は「なんだかワケのわからないスゴいものを見たぞ」という興奮が全身を包んだものだが、しばらく経って落ち着くといろいろな疑問が湧き出てきた。そもそも、この撮影システムを彼がどうやって構築したのかという疑問から始まって、なぜそんな大それたことをやろうと思ったのかは当然気になるところだ。補足すると山谷は過去に、ライブハウスの床を撮影したものを原寸大にプリントアウトして元の場所に設置し、その上を観客に踏ませた跡を作品として見せたこともあるし(『ground』)、実際にバンドのドラマーとして長年プレイしてきた身だ。音楽やライブという要素になじみ深いだろうから、今回の作品は決して単なる思いつきではないはずだ。とにかく前代未聞と言える山谷のパフォーマンスは今後、5月4日、5日、13日の3度にわたって京都で行われる。この未知体験について山谷から話を聞いた。

山谷佑介。彼のオフィスにて

今回はドラムを叩くとシャッターが切れるっていう前代未聞の撮影システムを自作したみたいだけれど、どうしてそんな大それたことを思いついたんですか?
前作が赤外線を搭載したカメラで深夜の住宅街を独りで撮るっていうシリーズだったんですけど(作品名『Into the Light』)、それを撮っていたとき、写真を撮ることの根源的な怖さを思い出したんですよね。最初の仕事で人を撮ったときって、やっぱ怖かったよなって。

それは写真を撮ることが? それとも、人から見つめられることが怖かったということ?
初めて請け負った撮影仕事が、座談会のために集まった有名私立中学校の校長先生たち6人ぐらいの集合写真を撮るって内容だったんですけど。「こっち向いてください! あ、もう少し角度をつけて…...ハイ、じゃあいきます!」っていう言ってみれば簡単な撮影だったんだけど、なんか身体が震えちゃってさ。どうしようどうしようって(笑)。

校長先生たちはこっちを凝視してるし、自分の後ろではクライアントが見つめている。本来は見つめるのは撮影者である自分のはずなのに、実は見つめられる側に立たされてるって気づいた時にブルッと震える感じ、なんかわかる気がします。
そのときのことを思い出したんですよね。家が俺を見てくることはないけれど、夜の時間帯とは言え、まだ起きている住民も多い。そのとき、自分が犯罪じゃないけれど、夜中にフラッシュ焚いて人の家を撮ることに対する負い目もあったんでしょうね。緊張感と、全身が震えるような……とにかく肉体的な体験をしたんですよ。

山谷佑介『Into the Light』(2017年)

それは「見る見られる」の関係において? 闇夜のどこかから漠然とした視線を感じますよね。写真を撮ることがそもそも「見る見られる」から始まりますし。
それもあると思う。あとは、写真が持つ「相手のなにかを奪い取る」性質というか。とにかく『Into the Light』を撮っているとき、肉体的に撮っている感じがした。その体験がきっかけで、身体を使うことでなにかできないかなと思ったんですよね。つまり肉体で写真が撮れないかと。

そう考えたとき、ずっとやってきたドラムが結びついたんですか?
ですね。ドラムって根源的な楽器じゃないですか。

それは具体的にどういう意味でしょうか?
太古の昔、人類は太鼓のリズムと歌だけで祭りをやっていたでしょ? そういうリズムとかって、肉体の反応を用いたものだったはず。それが今の自分の感覚にちょうどいいなと思ったし、おもいっきり叩く肉体的な楽しさはドラムを通してこれまで感じてきたから、それを写真でも試したいなと思ったんですよね。ドラムを叩いたら写真が撮れるって、超面白くね?っていう興味本位もあって、いろいろと調べ始めたんですよ。

確かにアイデアは面白いんだけれど、実際に仕組みとして作るとなるとこれまた難しそうですが......。その撮影システムはどうやって作っていったのですか?
『Into the Light』で赤外線カメラを作ったぐらいだから、そういう仕組みは勉強済みだった。たとえば夜の野性動物を撮るときって、赤外線の間をなにかが通るとシャッターが切れるシステムを使うじゃないですか。実際にニコンからそういう機材が出ているから、まずそれを試したんです。ドラム付近を手が通過したらシャッターが切れるようにセットして。でもそれじゃ、ぜんぜん反応が悪くて。というのも、ドラムを叩くときの速度って想像以上に早いわけですよ。だから動きを追うだけじゃ機械の反応が追いつかない。他にも電子工作キットの試作品を作ってくれるサービスがあったんですけど、ひとつの試作品が大体100万円から。“いやいやいや!”と。それで考えたのが、趣味で電子工作をやっている人たちにあたることだった。ネットで探すと、いるんですよね。そのうちの1人にメールを送ってみたんですよ。そしたら向こうが興味を持ってくれて「じゃあ作ってみましょうよ」と言ってくれた。

その方はどういうバックグラウンドの持ち主だったんですか?
プロというわけではないんだけれど、電子工作全般が得意な方で。どこかのメーカーでそういう開発をしていた人が、定年退職した後に趣味で続けている感じ。この人がたまたま、カメラのシャッターコントローラーを作っている人だった。それで話していくうち、ドラムを叩いた瞬間に生まれる振動に反応させるシステムがいいだろうとなって。

後編へ続く。