J.W. AndersonとOff-White:インスタ世代のファッションのあり方

2018年春夏のピッティ・ウォモで、ふたりの若手デザイナーが、ドレスダウンに新たな世界観を生んだ。

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28 June 2017, 12:10pm

J.W.Anderson spring/summer 18. Photography Daisy Walker.

今季ピッティ・イマージネ・ウォモにテーマを見出すとするなら、それは「ミレニアル」ということになるだろう。毎年2回、イタリアのフィレンツェで開かれるメンズウェアの見本市ピッティ・ウォモでは、これまでにHelmut LangやRaf Simonsといったブランドが指名を受けてショーを行なってきた。今季、白羽の矢が立ったのは、今後のメンズウェアの世界を率いていくと期待を集めるJ.W. AndersonとOff-Whiteだった。J.W. Andersonのデザイナーであるジョナサン・アンダーソンは、ハイファッションの世界を生きてきた。一方、Off-Whiteのデザイナー、ヴァージル・アブローはストリートウェアのデザイナーとして独自の世界観を築き上げてきた。ふたりが描く世界観はまったく違うが、ふたりには前衛性への飽くなき探究心と、デザイナーとしてのふたりの始点という点で共通している。Instagramが若いファッション・ファンたちをファッションの達人にしてしまった現在、J.W. AndersonとOff-Whiteは同じグループに振り分けられるファン層を魅了している。Helmut LangやRaf Simons、そしてもちろん、その隠されて織り込まれた意味や価値観がInstagram世代を魅了している(そしてMartin Margielaをリアルタイムでは知らない)、ポストモダン後のファッション愛好家たちを魅了しているのだ。

Off-White spring/summer 18. Photography Giovanni Giannoni.

「Off-Whiteは多少なりともInstagramブランドだと思うし、僕はそれを受け入れてるよ。僕をフォローしてくれている人たちには若者が多く、彼らはジェニー・ホルツァーが誰かを知らない世代。でも僕がインスタでアップすれば、フォロワーの子たちは一斉にホルツァーについて検索してくれる」と、アブローは先日開催されたショーの前に語ってくれた。ショーはピッティ宮殿のひなびた壁面に、詩が映し出されるという演出がなされていた。詩のキュレーションは、美術家ホルツァーによるもの。ホルツァーは20年前にHelmut Langがショーを行なったとき、デザイナーのヘルムート・ラングとピッティでコラボレーションを行なった経験がある。「でも僕にとってファッションは、ただのファッション以上の重要性を持つもの。ファッションを通して、僕のメッセージと視点を示しているんだ」と、アブローは強い調子で言った。今回、アブローがピッティで発表したOff-Whiteコレクションは、世界に混乱をもたらしている政治への直接的な反応と主張だった。「今回のコレクションは、なによりも移民問題をテーマにした。国境を越えようとするひとびとと、彼らが死を覚悟で国境を越えようとする強い意思、そしてそこに語られるべき、ひとの生きる姿」。コレクションは最先端素材を用い、機能性を追求したディテールが救命ボートを思わせた。服に配された複数のジッパーやドローストリングは、その使い方ひとつで服の形から機能までを変える——それはスポーツウェアの世界を超えていた。アブローはそんな服に、卓越した技で人間の温かさを織り込んだ繊細なジャガードのジャケットやパンツを合わせ、プラスチック感が強いコレクション全体に、どこか手作りで温かく、凛とした雰囲気を生んでいた。

Off-White spring/summer 18. Photography Giovanni Giannoni.

ショーは野外に設置されたステージで、夜10時40分から始まった。金色のスポットライトが照らす中、機能性を追求した素材が触れ合って立てる無機質な音があたりに響いた。流されたオペラ音楽もあいまって、Off-Whiteの服は観る者の心に迫った。「ストリートウェアではあるけど、これは明るい未来の概念と、今という時代を後押しする役割を追求した形でもある」と、アブローはトランプ米大統領による難民・テロ懸念国家出身者入国制限大統領命令、ウィメンズ・マーチ、そしてイギリスのEU欧州連合離脱と、今回のコレクションの関連性について語った。ラフ・シモンズが今年1月に『GQ』誌で、アブローについて放った発言をはじめ、メディアでたびたび「派生的にすぎる」とコメントされることについてどう感じているか訊くと、アブローははっきりと「誰が何をファッションの世界で最初に作り出したかが大切なのか、それともファッションを通して世界について考えることが大切なのか——そういうことだと思う。これが僕の答えだよ」と回答した。

Off-White spring/summer 18. Photography Giovanni Giannoni.

今季2018年春夏のコレクションで、ジョナサン・アンダーソンは、自身の顔を大きくプリントした上に「闘志ある男はJ.W. Andersonを着る」とのスローガンが書かれたTシャツを発表した。このInstagram映えするデザインは、第二次世界大戦中に展開されたコカ・コーラの広告へのオマージュ世界を打ち出していた。アンダーソンは力強い情熱で知られるデザイナーだ。フィレンツェの幻想的なピエトラ邸で行なわれたJ.W. Andersonのショーは、丘の上にルネサンス時代の世界観を閉じ込めたような宮殿の庭で、ブランドのロゴが主張を繰り広げる内容となった。服自体はアンダーソンとしては拍子抜けするほどに静かだった。アンダーソンは7年前にジェンダーの概念を覆すメンズウェアでまずファッション界に確固たる立ち位置を築き、その後、ウィメンズのラインを発表して、Loeweのデザイナーに就任したひとだ。その世界観はノームコアとも言えるかもしれない。Vetementsが日々のなかに存在するとてもシンプルなものを讃え、そしてその価値を高めて一躍トレンドに押し上げた世界観、ノームコア。マルタン・マルジェラやヘルムート・ラングといったデザイナーたちが作り出した作品世界を引き継ぎ、Vetementsは過去3年間、前衛的なドレスダウンの服を、現代の新世代に見せてきた。その世界観の力強さは圧倒的で、装飾に溢れてアンダーソンとは真逆の世界観を打ち出すGucciなどのブランドにまで影響を与えている。ノーマルであることはかっこいい——少しダサいくらいがクールなのだ。立ち並ぶ荘厳な彫像を白いシーツで覆った夏の庭園に、ブルージーンズと白いTシャツのモデルたちが闊歩する光景は、とてもクールだった。

J.W.Anderson spring/summer 18. Photography Daisy Walker.

コレクションは、そこからよりファッション・デザインの色を濃くしていった。そこにはアンダーソンらしい遊び心が健在だった。コレクターズ・カードをモチーフにしたボーイッシュなニットが登場したり、ほとんどすべてのルックにハートのモチーフがプリントされていたり——脱構築されたトレンチコートにはハートのアップリケがほどこされ、職人技をひけらかすことを意図的に避けた今回のコレクションにあって、卓越した技術の存在感をじゅうぶんに放っていた。コレクションのいたるところに配されていたハートのモチーフだが、アンダーソンはハートを通して何を伝えようとしていたのだろうか?それは、彼自身が着たいと思う服のテイストを反映させた形でもあっただろう。しかし、彼がこれまでも打ち出してきた反逆的な世界観と手法を考えれば、これが"アンダーソンのノームコア"だったのだろうと気づくはずだ。ハートは世界でもっとも愛され、一般化しているモチーフなのだ。なんと前衛的な観点だろう!アンダーソンが作る服は、玄人向けだ。だからこそ、今回のコレクションにおいて、ブランディングが大きな役割を果たしていたのだ。ブルーデニムのジャケットやショーツ、グレーのフーディ、ベージュのフライトジャケットなど、今回のコレクションに登場したアイテムに似た服を、他のハイブランドで買ってコーディネートすることもできる。しかし、それはどうやってもJ.W. Andersonの世界観にはならない。コレクションにはアパレル界の民主的英雄として、上流階級から反骨精神あふれる不良たちまで、ありとあらゆる人々に愛されてきたConverseとのコラボレーション・スニーカーが、アンダーソンならではのファッション性をいかんなく放っていた。

J.W.Anderson spring/summer 18. Photography Daisy Walker.

500年前にダヴィンチやドナテッロといった芸術家たちが"ノーム(普通)"を打ち捨てた土地——そんな華麗なるフローレンスを背景に、アンダーソンが打ち出した世界観はその真逆をいき、挑発的でさえあった。ピッティを訪れる男たちには、リネンのベストの上にリネンのスーツ着て、生足で靴を履き、計算されて完璧にトリミングされたヒゲともみあげをたくわえたダンディなよそおいが目立つ。アンダーソンが打ち出した世界観は、そんな男のイメージからこれ以上ないというほどかけ離れていた。それでも、完璧なナチュラルメイクのように、アンダーソンの新たなメンズウェアの世界観はそれらの男たちの身だしなみと同じくらい、完璧に計算されていた。ただ、それが一見しただけでは把握しにくい。それがこのInstagram時代のファッション業界における美しさだ。若いファッション・ファンたちは、「ひけらかすことがファッショナブルなのではない」と理解している。それがGosha Rubchinskiyの人気に現れているではないか。Gosha Rubchinskiyは先週末、サンクトペテルブルクで、かつて "チャヴ"文化(イギリスのヤンキー文化)にブランド・イメージを汚されたBurberryの歴史をベースに、Burberryとのコラボ・コレクションを発表した。「僕が服で探っていきたいのはそういうこと。外にいる男たちを見て、もっと服世界を掘り下げていきたい」と、ヴァージル・アブローは木曜の夜、ピッティに集ったストリート・ファッションの新世代スターたちについて言った。彼らは、3ピースのスーツを着ていようと、Off-Whiteのアノラック・ジャケットを着ていようと、J.W. Andersonのロゴ・ジャンパーを着ていようと、みな、Instagram時代に生きるミレニアル世代の若者たちだ。ソーシャル・メディア世代を牽引する若手デザイナーにとって、ファッションとは、そんなミレニアル世代が着て表現をするためのものなのだ。

J.W.Anderson spring/summer 18. Photography Daisy Walker.

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Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.