ファッションウィークの新しいあり方:パリ・メンズ・ファッションウィーク day5

メンズとウィメンズのコレクション合同開催からコラボレーションに溢れるランウェイまで——2017年秋冬メンズ・ファッションウィークの現状をPaul Smith、Lavin、Kenzoが総括し、パリ・メンズ・ファッションウィークは幕を閉じた。

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jan 26 2017, 8:00am

ファッションウィークにおけるトレンドを見極めるのが極めてむつかしい昨今——ヒールの高さやスカート丈にトレンドを見るのではなく、ひとびとはルックそのものや全体的な傾向、時代精神といった要素のみを聞き入れるようになった。アレッサンドロ・ミケーレがアーバン・バロックの世界観を作り出したGucciがその好例だろう。ミケーレは、今季2017年秋冬メンズ・ファッションウィークでのメンズウェア発表を避けた。2月に開催されるウィメンズ・コレクションと合同での発表を予定しているからだ。そのような時代の変化を受け、今季メンズ・ファッションウィークには"メンズ"というにも違和感を伴うほどウィメンズウェアが多くみられた。メンズのメインラインにウィメンズのメインラインを統合したコレクションなのか、はたまたウィメンズのプレ・コレクションなのかもはっきりとせず、果てにはオートクチュールなのかとまで錯覚してしまうほどだった。「ウィメンズ・ファッションウィークでメンズのラインを混ぜてコレクション発表をしているのだ」と勘違いしている自分に気づくこともあった。増え続けるコラボレーション作品の解説に加え、近年のファッションウィークは、ジャーナリストが実に多くの予習復習を余儀なくされる。

Paul Smith autumn/winter 17

今季メンズ・ファッションウィークの傾向を見ると、続くウィメンズのファッションウィークでも同様の傾向が見られるのだろうと容易に予想がつく——今季のメンズでこれだけ多くのウィメンズウェアがランウェイに登場したということは、きたるウィメンズでも同じだけ多くのメンズウェアが見られるということだ。ジャーナリストは、メンズとウィメンズを分けてトレンドや世界観を語るのが難しくなり、そのうえそれが「see it buy now」構造のショーであるのか、どのアイテムが限定コラボレーション商品なのか、どのアイテムが古き良きサイクルで6ヶ月後の店頭販売となるかなどをつぶさに明らかにしなければならない。これは、約半世紀前に「プレタポルテ・既製服」の概念が登場したとき以来の革命だ。ファッション業界にプレタポルテが定着するのに紆余曲折があったように、いま起こっている新たな革命も定着には時間を要することだろう。しかし、多くのデザイナーたちにとって、メンズとウィメンズをひとつのくくりで考えるのはとても自然なことであるのも確かだ。パリ・メンズ・ファッションウィーク最終日にコレクションを発表したポール・スミスはどうだろうか。

Paul Smith autumn/winter 17

「なぜ女性のための服も作り始めたのか、それを思い出したんだ。『Vogue』のグレース・コディントンや『Harper's Bazaar』のリズ・ティルベリス、写真家のピーター・リンドバーグが、リンダ・エヴァンジェリスタをはじめとする当時のスーパーモデルたちに私のメンズラインを着せて写真を撮っているのを見たのが、Paul Smithウィメンズ・ラインを始めたきっかけだったんだ。だから今回、きっかけになったあの出来事のようにメンズとウィメンズを制作・発表できて、とても嬉しいね」と、スミスはショーのバックステージで語ってくれた。今季Paul Smithコレクションは、国立高等美術学校エコール・デ・ボザールを会場とし、チェックのスーツやペイズリー柄ジャガードのテーラリング、フェアアイル柄ニットなどをまとった女男モデルたちが観客に微笑みながらランウェイを歩いた。 

Paul Smith autumn/winter 17

アナ・ウィンターが観客席の最前列で見守った今季Paul Smithコレクションで、デザイナーのスミスは自身が築き上げてきた偉大なるアーカイブをインスピレーションとした。しかし、それは先述のファッションの偉人たちが1990年代初頭にPaul Smithの服で作り出したユニセックスの世界の再解釈ではない。今回のコレクションで、スミスはその比類なきテーラリングのセンス自体を女性的なしかたで用いていた。「ウィメンズでのカッティング(裁ち方)は、メンズのそれとはまったく違うんだ」と彼は話した。「ダンディさを残した」とスミスが語るメンズウェアだったが、70年代調のベルベット・スーツは昨年亡くなったデヴィッド・ボウイが着たPaul Smithスーツを彷彿とさせた。「あの時は、カーテン用の生地を使ったんだ。当時は服のためのベルベットなんて誰も作っていなかったからね」と、スミスは当時を回想しながら話してくれた。メンズとウィメンズを分けるという概念は、よくよく考えてみるととても不思議なものだ。結局のところ、そこにはサイズの違いしかないのだから。

元は女性のために作ったジャケットを男性用にあつらえるには、改めてカットをし直す必要がある——そしてその逆もまた然り。そう考えるデザイナーも少なくないだろう。しかし、今季ファッションウィークに来ている人を見るかぎり、それは絶対ではないように思われた。男性が女性用のコートをXLで着ていたり、女性が男性用XSのブレザーを着ていたりするのだ。要素の融合やコラボレーションがこれまでになく多く見られた今季ファッションウィークにあって、一般的なファッション意識がジェンダーの垣根を超えて浸透しているのを見るのはとても気持ちのよいものだった。一方で、メンズとウィメンズの概念を明確に分けてデザインにあたるデザイナーも少なからずいる。ルカ・オッセンドライバーは、Lavinでメンズのラインを受け持っているデザイナー。Lanvinは、Louis VuittonやDior、Hermés、Issey Miyakeなどと同様、メンズとウィメンズのラインを明確に違うコンセプトのもとで分けてそれぞれにデザイナーを配するメゾンだ。

Lanvin autumn/winter 17

よってオッセンドライバーには今季も「ユニセックス」のコンセプトやメンズ/ウィメンズ合同コレクション発表という形式は認められていなかった。しかし、彼はここで、現代のメンズウェアのあり方を探求していた。「ファッションというよりも、もっと人々が自身を投影・反映できるようなものを作りたいと思った」と、彼はプレビューで語っていた。「現在のファッションを見ていると、リスクが少ないクラシック路線ばかりが目立つようにみえる。それは僕が信じるところと相容れないもの。ファッションにはファンタジーを求めているから。僕にとってファッションは現実逃避の手段。僕はいつもファンタジーとして服を選び、着て、愛してきた。だからオランダを抜け出してパリにきたんです。ファッションには力があり、またそういう役割を課せられていると僕は信じている。現実世界ではない、もうひとつの現実を表現して、人々を"ここではないどこか"に連れていく力を持っている——それがファッションだと考えています。極端になるのもいい。誰も着れないようなものでもいい。そう考えて、今季は人々が自分を投影できる服でありながらもファンタジー(もうひとつの現実)を垣間見ることができる世界観を作り出そうと思ったんです」

Lanvin autumn/winter 17

オッセンドライバーによるLanvinコレクションは、「クラシックながらもひねりが効いている」などという世界観ではなかった。むしろ、メンズウェアを新たな高みにまで再構築して、それを、実際性と実用性に美を見出す彼のようなデザイナーにしか描けない世界観に落とし込んでいた。サッカー試合会場でファンがチーム愛を表現するためのアイテム、"フットボール・スカーフ"。これをオッセンドライバー流Lanvin世界に表現したマフラーが、ショー冒頭に登場した(今季メンズウェアのトレンドのひとつが、このフットボール・スカーフ。大いなるカムバックを見せている)。マフラーには、「NOTHING」の文字が織り込まれていた。これに関し、オッセンドライバーは「『コラボレーションもアートもプリントも装飾も一切ない』という意味」と明かしている。「今季コレクションのテーマは『デザイン』そのもの。構造とプロポーション、そして『服はどう作られているのか』という根源的な疑問をテーマにしているんだ。チェックのシャツやチノ・パンツ、レザー・ジャケット、パーカーといったアイテムは男性なら誰でもよく知っているし、誰もが愛してやまないデザイン。それをどうファッションにまで高めていくかを考えた。だけど、極端なラグジュアリーにはしたくはなかった——もっと慎ましさのあるものにしたかったんです」 

Lanvin autumn/winter 17

それこそは、「服を作る」ということの本質だ。昨年7月にVetementsが"オール・コラボ"のコレクションで世界に衝撃を与えたことを受け、今季のランウェイはコラボが溢れていた。しかし、今季のLanvinはコラボレーションの力に頼らず、メンズウェアの本質部分を再考するというテーマを設定したのだ。時を同じくして、Kenzoのショーでは、デザイナーのキャロル・リムとウンベルト・レオンもまた、ファッション界の革命の只中で独自のメンズ/ウィメンズ・コレクションの発表形式を打ち出していた。彼らはメンズとウィメンズのコレクションを織り交ぜて見せるのではなく、同じ会場で別々に披露するという手段を用いた——メンズのショーを終えた直後に、バックステージのオープンスペースを用いてウィメンズのショーを行なったのだ。

Kenzo autumn/winter 17

彼らはバックステージをランウェイにすることでセット制作費を削り、残った予算を彼らが懇意にしているチャリティ団体に寄付した。「極寒の地でのサーフィン」にインスピレーションを得たという今回のコレクションは、同じアイデアを元に制作されたふたつの独立したコレクションでありながらも、「メンズとウィメンズ」という境界線から遠く離れた世界を追求したそうだ。リムとレオンは、「男でも女でも、猛烈な環境の変化に生きるすべての人間を祝福したいと考えました。人間の祝福が永遠に続くことを願います」とショーノートで語っていた。ふたりはアメリカ出身のデザイナー。ショーノートの言葉が、メンズとウィメンズの合同開催形式を語ったものなのか、それとも温暖化が進む地球規模の環境問題を語ったものなのか——おそらく両方だろう。トランプという存在が意味するものに異議を唱えた女性たちが世界中で大規模なマーチを繰り広げた週末、このKenzoのショーで、今季パリ・メンズ(そして一部ウィメンズ)・ファッションウィークは幕を閉じた。次に聖火が引き継がれるニューヨークでは、間違いなく問題提議の声はさらに高くなるだろう。

Kenzo autumn/winter 17

Credits


Text Anders Christian Madsen
Photography Mitchell Sams
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.