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日常に内在する非日常:ロンドン・ファッション・ウィーク メンズ day3

マーティン・ローズによる「ゴープコア」の世界から、キコ・コスタディノフのデヴィッド・リンチ的屈折をみせたテーラード服まで、メンズのロンドン・ファッション・ウィーク3日目は、日常が非日常へと高められていた。

by Steve Salter
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20 June 2017, 8:01am

Martine Rose spring/summer 18. Photography Anabel Navaro.

昨シーズンには<Seven Sisters Market>でショーを行ない、メンズのロンドン・ファッション・ウィークに復帰し、イギリスのファッション業界を次なるステージへと引き上げたMartine Rose。デザイナーのマーティン・ローズ(Martine Rose)は今季2018年春夏シーズン、ショーでロンドン北部の人々を讃えた。会場となった<Stronghold Climbing Center>は、今季コレクションのテーマとなった「アウトドア」を文字通りに反映した場所であり、ローズが日常性を愛しているのがうかがえた。2017年秋冬コレクションでは、銀行員や一般会社員、バス運転手など、"都市に暮らす人の典型"を描いたローズだが、今季もメッセンジャーやゴルファー、ロッククライマー、散歩を楽しむひとなどをテーマにトッテナムの魅力を描いた。プロポーションと生地の扱いを自在に操るローズ特有のデザインで、アウトドアに生きる人の姿がフォルムと機能の絶妙なバランスのうちに描かれていた。『New York』誌の出版社New York Media社が運営するウェブサイト「The Cut」は、ノームコアの次に機能性をふんだんに盛り込んだアウトドア・スタイル、"ゴープコア(Gorpcore)"のブームが訪れるとしているが、ローズの最新コレクションにお、レインコートやアルペンセーター、カーゴ・ショーツ、フリース、ウエストポーチが取り入れられていた。

Martine Rose spring/summer 18. Photography Anabel Navaro.

「80-90年代にトロントで起こったアンダーグラウンド・シーンを調べていて、そのアウトドア・スタイルに惹かれました」とボルダリング設備が設置されたショー会場の控え室で、ローズは説明してくれた。「わたしにとって、このコレクションは平凡のなかにある非凡さを描き出すもの」。オーバーサイズのスポーツウェアのシルエットにサイクリング・ショーツを合わせることで、ダンス・カルチャーのエネルギーを彷彿とさせる雰囲気が生まれていた。また老人が着るようなスーツの生地を使ったアイテムに、「Rose」の名が刻まれたバックルのベルトが合わせられて、平凡なひとびとの魅力を表現しようとしたローズの意図がうかがえた。またしても、マーティン・ローズは平凡に内在する非凡さの美しさをまざまざと見せてくれた。

Kiko Kostadinov spring/summer 18. Photography Mitchell Sams.

一方でキコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)は、日常が歪んでできた影の世界へわたしたちをいざなってくれた。ブルガリア出身で現在はロンドンを拠点として活動するデザイナー、コスタディノフは今季コレクション「Funny How Secrets Travel(秘密はまたたく間に知れ渡る)」で、血みどろの犯罪物語を描いた。1年前にセントラル・セント・マーチンズで学士号過程を修了したばかりのコスタディノフだが、自身の名を冠したレーベルではこれが4シーズン目のコレクション発表となる。そして今月末には、2作目となるMacintoshコレクションをパリで発表する。コスタディノフが、現在ロンドンでもっとも期待されるデザイナーであることは間違いない。

Kiko Kostadinov spring/summer 18. Photography Mitchell Sams.

「スタジオでデザインにあたっているとき、僕たちは常に自問を繰り返しながら作業を進める」とコスタディノフは、ショーの最終準備をスタジオで進めながら説明してくれた。「まず、これまでにないデザインなのか。ふたつ目は、お店で見かけたら、買いたいと思うか。そして最後に、デザインを引き立てる要素か、それとも台無しにしてしまう要素か、ということ。この3つを常に自問しながらデザインをする」。飽和して、雑然としているファッション業界にあって、彼がデザインに対しても持つ誠実さと彼のチーム全体が持つブレない焦点は新鮮ですらある。彼を唯一無二のデザイナーたらしめているのは、そのカットのセンスと技術、そして感性だ。それが彼の服を新世代のものへと押し上げている。2018年春夏のKiko Kostadinovコレクションには、複雑なシンプルさが香った。彼の作るものは見た目ほど単純なものではないのだ。

Kiko Kostadinov spring/summer 18. Photography Mitchell Sams.

コレクションのタイトル「Funny how secrets travel」は、デヴィッド・ボウイが書き、そして歌い、後にデヴィッド・リンチが映画『ロスト・ハイウェイ』の劇中で挿入曲として使用した「I'm Deranged」の歌詞からの引用だ。コスタディノフは、今季コレクションの核をなすモチーフとして、マイケル・マンの『刑事グラハム/凍りついた欲望』と、デヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウェイ』が持つシュールな闇の世界観を挙げている。コレクションが紡ぎ出す物語はひとりの人物を追って進んでいく。ビジュアル・アーティストのトム・バーの作品に着想を得たというスナップと、まったく新しいバイアスの切り返しがデコ調の流線美を見せるテーラードのダブルスーツ——そんな日中の姿から打って変わって、夜になると、隠されたポケットや腕のラインに沿って袖に配されたジッパーなど、非日常的な体の動きを要する悪事を想定したディテールが随所に配された服装に着替える——そんな人物が描かれていた。コスタディノフが機能性を追求する服作りにおいてもっとも重点を置いているのは、パターンのカッティングだ。そして、縫い目に驚きのひねりを加えていることで、シルエットに変化が見られるよう計算されている。その結果、そこに生まれるのは混沌と抑制がせめぎ合う、破壊的で不安定な世界だ。些末とも思えるディテールに執拗なまでのこだわりを見せるコンスタディノフのあり方は、ときに『アメリカン・サイコ』のパトリック・ベイトマンを彷彿とさせ、それはデザイナー本人が「デザインを完璧に具現化するまでに15回以上サンプルを作った」という、キュビズム調ワークジャケットなどに顕著に見られた。

Alex Mullins spring/summer 18. Photography Mitchell Sams.

コスタディノフの作品から遠く離れた世界では、アレックス・マリンズ(Alex Mullins)が90年代の香水広告への想いを作品に落とし込んでいた。広告写真を切り抜き、貼り合わせて、それを引き延ばしてプリントした生地に遊び、現代社会を描き出していた。誰もが自撮りに明け暮れる現代、マリンズは過去のコレクションから選んだ自らの作品を写真に収め、それをプリントした生地で抽象的なシェイプにすることで写真の世界を歪めて、現代を描き出していた。グラマラスに日焼けしたモデルたちが特徴的だったD&Gの香水広告から自身の過去のコレクション写真まで、写真プリントが左右非対称のシルエットに歪んで描き出され、そのマリンズ独自のミニマリズムのなかで日常が非日常へ、平凡が非凡な美しさへと押し上げられていた。

Alex Mullins spring/summer 18. Photography Mitchell Sams.

Credits


Text Steve Salter
Photography Mitchell Sams
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.