アナ・リリー・アミールポアーとスキ・ウォーターハウスが語るカニバリズム・ロマンス『マッドタウン』

サンダンス映画祭でイラニアン・ヴァンパイア・ウエスタンと称された『ザ・ヴァンパイア 〜残酷な牙を持つ少女〜 』から3年。アナ・リリー・アミールポアーがディストピア的なカニバリズム・ロマンス『マッドタウン(原題:The Bad Bitch)』とともに帰ってきた。i-Dは監督のアナ・リリーと主演のスキ・ウォーターハウスに話をきいた。

by i-D Staff; translated by hiromitsu koiso
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09 January 2018, 9:06am

This article was originally published by i-D US.

イラニアン・スケートボード・スパゲティ・ウエスタン映画こと『ザ・ヴァンパイア』に続く待望の最新作はいろいろな点で、アナ・リリーが育ったカリフォルニアの荒野への猛々しいラブレターだ。『マッドタウン』は『ザ・ヴァンパイア』とまったく違う。高予算、英語、カラー。今回はスケボーのシーンはひとつだけ。それは映画の開始から10分たったあたりのシーンだ。スキ・ウォーターハウス演じるアーレンが人喰いウェイトリフターたちから逃げるのだ。

アナ・リリーは『マッドタウン』をポスト・アポカリプスと呼びたがらない。たしかに、舞台はテキサスの不毛地帯で、ムキムキの食人鬼たちや、ロクでもないアメリカ的なものが溢れている——例えば、ハロウィーン用の自由の女神のコスチューム、スマイリーフェイスが描かれた短パンデニム、破れた星条旗、悪趣味なタトゥー、いかれたレイヴのカルト、ボロボロのスケートボード。しかしアナ・リリーが言うとおり、本作のアメリカはオレンジ色の顔の男がまだ大統領であるような国だ。『マッドタウン』はどちらかといえば、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』よりも『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』に共通点が多い。世界の未来を考えるとき、政治は切り離せないものなのだ。アナ・リリーがこの作品を書いたのは、大統領選挙のあとではなく、「大失恋」でボロボロになっていたときだった。しかしアーレンの心は折れていない。彼女は人喰い殺しのアンチヒーローであり、スキに言わせれば「ハードコア・ニンジャ・ギャングスター・タイプ」だ。監督アナ・リリーと女優スキは、生理とバーニングマンと孤独について語ってくれた。

——どうしてアーレンに惹かれたんですか?
スキ: 誰だって惹かれますよ。サイケデリックなおとぎ話っていうか、夢から砂漠に、リリーの世界にやってきたんですから。

——前作の舞台は「バッド・シティ」というイランのゴーストタウン。実際にはカリフォルニアで撮影されたわけですが、アメリカの不毛地帯にどんな魅力を感じますか?
アナ・リリー:地面がパリパリしてて、砂漠で、バッドランズで、見捨てられた土地だから。廃墟みたいなうらびれた感じがするんですが、私はアメリカのそういう場所が好きなんですよ。街から適当に1、2時間進んでいったら、落ちぶれた集落が現れます。ひと昔って感じの場所で、そこにいる人も10年か20年前の人。すごく面白いんですよ。そんな場所にいると、アメリカだなって思う。

——砂漠で育ったんですか?
アナ・リリー:マイアミで育ちました。そのあとカリフォルニアのベーカーズフィールドに引っ越しました。その街で初めて生理になったんです。「どこで育ったの?」って、どこで初潮を迎えたって聞かれてる気がする。だから私の故郷はその街かな。
スキ:私の初潮はサマーキャンプだった。食中毒にもなってたから、死ぬほど家に帰りたかった。「お願い帰らせて!」って。怖かったし、グロかったなあ。

——この映画のインスピレーションは何から受けましたか?
アナ・リリー:インスパイアされたのは、私の人生終わったって感覚。ストーリーを書き出した時点で、女の子が手と足を失って砂漠のまん中にいる映像が頭にあった。彼女は生きてる。死ぬもんかって。それがストーリーの始まり。それから、そのとき浮かんだ世界をつないでいったんです。

——何かあったんですか?
アナ・リリー:失恋したんです。

——『ザ・ヴァンパイア』を書いてる最中に?
アナ・リリー:編集中です。『ザ・ヴァンパイア』を書き終えて、編集してるときに『マッドタウン』を書き始めたんです。現実逃避が必要だったから。

——観客がこの映画に政治的メッセージを読み取るのをどう思っていますか?
アナ・リリー:アメリカを支配するこの過激な力に負けたら終わりでしょ、って考えてました。だっておかしいでしょ。ロバート・ゼメキスは『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』でどうだったかっていうと、政治性を取り入れようとしてはいませんよね。あれは80年代の映画だけど、2015年の暗い未来を描いてる。変な感じですよ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』のこと覚えますか?

——「バック・トゥ・ザ・フューチャーの日」(2015年10月21日)の時期に、ある雑誌に記事を書いてました。そのことをひたすら記事にしないといけなくて。
アナ・リリー:(スキに)見てないんだよね。
スキ:私はバック・トゥ・ザ・フューチャー・パーティには行った。
アナ・リリー:私、あの映画のセリフをやたらと引用しちゃうかも。それはそうと、2作目を見るとクラクラする。カブスがワールドシリーズで優勝するし。映画では現実より1年早かったけど。ほんとクラクラする。『マッドタウン』はその頃に書いていました。今から3年ほど前に。そのあと急に(メキシコに)壁なんてことが話題になって、変な感じがしました。あ、ホワイトハウスのオレンジ顔の男の話ですよ。

——はい。『マッドタウン』には、あの男が大統領になった要因を表してるようなシーンがいくつもありますね。
アナ・リリー:(2017年の)1月に思いついたわけじゃないですよ。これを書いたのは、人間は何にでも注意を向けられるから、ちょっと注意を喚起したかった。みんなしばらく呑気に過ごしてた。注意してなかったんです。

——政治だけじゃなく音楽からもインスピレーションを受けたようですね。ニコラス・ジャーの「Heart」を聴きながらケント・アヴェニューの乾いた荒野を歩いたことがあります。昔から好きな曲です。
アナ・リリー:私の脚本はたいてい音楽と一緒に生まれます。シーンより先に音楽が浮かぶこともある。音楽が表すのはシーンの雰囲気の場合もあるし、女の子の気持ちっていう場合もあります。今回は先に音楽が浮ぶことが多かったかな。スキにプレイリストを渡したんです。私は撮影前にみんなに曲を渡すようにしています。脚本に曲を書き込んだり、ラジカセを持ってセットを歩きまわったり。

——スキに質問。体の面でも心の面でも、どんな役作りをしましたか? ものすごく強烈な役ですが。
スキ:リリーは私が床を這えるか知りたいって言いました。片手と片足がない演技をしてほしいって。だから彼女の家で這い回ったんです。

——オーディションをしたんですか?
スキ:違います。オーディションのあとのことです。彼女は「もっと速く!」って言うの。あと銃を撃ったりとか、いろいろ。そういうときは、基本的にゲータレードを飲みまくってましたね。
アナ・リリー:あの役は身体的に大変でしたが、スキは柔軟にやってくれました。あらゆるシーンに登場したし、義肢のメイクに毎日何時間もかかったよね。
スキ:でも、リリーはそういうこと楽しんでるでしょ。リリーらしい。あの女の子はハードコア・ニンジャ・ギャングスター・タイプよね。

——彼女はハードコア・ニンジャ・ギャングスターだけど人間の女性ですよね。感動的なシーンがいくつかあります。アーリンが子どもにアイライナーを引いてもらうときとか、アーリンが雑誌からモデルの手の写真を切り取って、自分の手に見せかけるときとか。
スキ:彼女は自分の手が恋しいんです。荒野にいても、人は腕があったときの姿を、以前の姿を憧れるんですよ。彼女は何かが欠けているって感じているんです。

——この映画も『ザ・ヴァンパイア』も、孤独が大きなテーマですよね。でも二人ともぜんぜん内向的に見えません。
スキ:アナが以前、「孤独はみくびられてる」というようなことを言ってたんです。それがいつも私の頭にありました。一人で過ごす時間には、深い喜びがありますね。
アナ・リリー:私のほとんどの力は、孤独とか一人の時間から生まれます。1日の終わりに一緒にいたい人はそんなにいません。
スキ:私が映画を作り続けるのは、友達と遊んだりバカ話をするだけじゃもの足りないから。ほかのこともしたいんです。だから集まって難しいことに挑みましょうって。そうすれば一生ものの関係ができるから。

——この映画でそういう会話をするところが好きです。沈黙を埋めようとして話す人がいませんね。
スキ:沈黙には不確かな部分があります。すべてがはっきり伝わるわけじゃない。余白がかなりある。でもその余白が大事。言葉があったら、今までにないストーリーを伝えることはできません。新しいことは沈黙で伝え合うんです。見つめあった二人はすごい自由なんですよ。

——それで、二人のこれからは?
スキ:金曜にイギリスのグラストンベリーに飛ぶ予定。キャンプとか一切なしでフェスで二晩過ごして、月曜の朝に向こうを発ちます。
アナ・リリー:私はそれと真逆のことをする。精神安定剤のXanaxを飲んで、うちのカウチで寝ならがO・J・シンプソンのドキュメンタリーを見るの。『侍女の物語』も見るかも。
スキ:私はフェスで自分を解き放ってくる。バーニングマンにも行く。
アナ・リリー:二人でバーニングマンに行くんです。それまでには回復すると思う。今は体がヘロヘロで。だからスウェット・ロッジに行こうと思ってます。1時間袋にくるまって汗かいてデトックスするんです。出ると白目がさらに白くなりますよ。すごいんだから。

『マッドタウン』はNetflixで配信中。

Credits


Text Hannah Ongley
Images courtesy of Neon