実存主義的ファッション:ニューヨーク・メンズウェア・コレクション最終日

有名ブランドが相次いで最新コレクションを発表した火曜のメンズ・ニューヨーク・ファッション・ウィーク。続く水曜と木曜は、Hood By Airデュオの1人ラウル・ロペスが新たに立ち上げたブランドのコレクションを発表して観客を圧倒し、Bodeは時を超えて存在感を放つ生地で作ったコレクションを、V Filesで話題をさらったSanchez-Kaneは家族をテーマにしたコレクションを発表した。

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31 July 2017, 11:34am

This article was originally published by i-D UK.

ただでさえ少なかった海外エディターだが、そのほとんどがRaf SimonsとBOSSだけを目当てにニューヨーク入りしていた。この2ブランドのショーが終わると、彼らはニューヨークを去っていった。しかし、水曜と木曜に開催されたメンズ・ニューヨーク・ファッション・ウィークを観ずしてニューヨークを去ったエディターたちは、素晴らしいショーをいくつも見逃したと言わざるを得ない。このファッション都市で、新進気鋭デザイナーたちは家族、アイデンティティ、セックス、そして政治を叫んでいた。

シェーン・オリヴァーは、Hood By Airの共同創設者であるラウル・ロペスの新ブランドLUAR(名前のRaulを逆さに綴ったブランド名だそうで、その由来を、「インターネット会社AOLでアカウントを持っていたとき、メールアドレスに使っていたのがluarだったんだ」と、ショーのバックステージでロペスは笑った)のショーを見守っていた。ニューヨークのナイトライフにおけるアイコン的存在レディ・ファグ(Lady Fag)、ミュージシャンのイアン・イサイア(Ian Isiah)、バンド、ノー・ブラ(No Bra)のシンガーであるスザンヌ・オーバーベック(Susanne Oberbeck)、アーティストのジネット・ヘイズ(Jeanette Hayes)、そして今季メンズ・ニューヨーク・ファッション・ウィークでも際立って素晴らしい着こなしを見せた観客たちが会場最前列で見守るなか、LUARのコレクションは企業国家アメリカが打ち出してきた不文律を問い、破壊しにかかっていた。脱構築され、捻じ曲げられ、そして拡張されたピンストライプのテーラリング、タイが継ぎ接ぎされてできたスカート、ホルターネックのように服を胸に抱えるようなデザインで十字を描く白シャツ、カットアウトのTシャツ、そして素晴らしいシフォンのワークジャケットなどが登場した。

LUAR spring/summer 18. Photography Akram Shah

「このショーは、企業国家アメリカと僕がNYで育った過去、そして僕の子ども時代から今までで変わってしまったものに着想を得て作った。政府、政治、そして経済が変わり、地球も温暖化が進んだ」とロペスはショーのバックステージでi-Dに話す。「ビジネスマンたちも、人前で建前の自分を演じなければならなくなった。とはいえ、そんなビジネスマンたちも、家に帰れば内緒でクローゼットから奥さんのドレスを引っ張り出して着てみたりしているのかもしれない。フェチがあったりね!」Hood By Airでともに切磋琢磨したシェーン・オリヴァーは、元デザイン・パートナーであるロペス活躍の喜びをあらわにしながら、「ラウルが積極的に政治色を出しているところがいい。僕も政治的発言を打ち出すデザイナーだからね。何に影響を受けて、それに対してどう反応を示すか--それをひとびとが各々主張していくべき時代なんだよ、今は。ラウルは"ビジネス服"を作っている。それは市場に必ずしも迎合しないことをやっているから。市場は腐ってるし、小売業界は崩壊しかけている。今こそ壁を取り払って、ひとびとが欲しいものを買えるような、オープンな気風がこの市場には必要なんだよ」

Willy Chavarria spring/summer 18

フェチやクィアなカルチャーを服に探ったもうひとりのデザイナーが、ウィリー・チャヴァリア(Willy Chavarria)だった。彼がコレクションを発表したのは、28丁目のウエストサイドにあるバー<Eagle>だった。狭い店内は、葬式で見られるような花の十字架やリースで飾られ、照明はバーカウンターに置かれたキャンドルの灯りのみ。そこに作られた悲しみ溢れる演出は、「Silence still equals death(沈黙は今でも死を意味する)」とプリントされたTシャツで明確に説明されていた。「Silence = Death」は、エイズ/HIVが"恥の病"としてひとびとの心に浸透しつつあった80年代、その風潮を打破しようと掲げられたスローガンだ。今回のショーで、モデルたちはランウェイを歩くのではなく、つめかけた観客たちを誘うような視線で見つめながら店内を歩き回った。チャヴァリアは、ブラックやライラックといったカラーを基調に、それと対比をなす色あいのシルクで切り返しを作った80年代調シェルスーツ(軽量素材で作ったトラックスーツ)や、オーバーサイズのレザージャケット、労働者風ボタンアップがベビーピンクやブルーに織られたTシャツによって、シルエットの可能性を探っている。タックがほどこされてワイドなシルエットのチノやデニムのパンツは短めにクロップされ、ウエスト部分はドローストリング、裾には大きなターンアップ、そしてベルトとして用いるこのことのできる黒いレザーのベルトがアクセントになっていた。トップスのスリーブはロングやショートさまざまだったが、いずれも「Resistance is Power(抵抗は力)」というスローガンや、「How can I tell my mom and dad(こんなこと、どうママやパパに説明すればいいの?)」という疑問文が、十字架にかけられたイエス・キリストの肖像画とともにプリントされていた。さまざまなロゴがクリストファー・シャノン風に配置され、ビールCoorsのロゴは「Cares(大切に思う)」という単語と置き換えられてベースボールシャツにプリントされていた。同じく煙草のMarlboroughのデザインは、ロゴを「Mayhem(暴力)」と書き換えられてジャケットやパンツにプリントされていた。ヘッドピースには、「Cruising(物色中)」とプリントされたベースボールキャップや、黒いレザーにゴールドのチェーンが配されたミリタリーキャップなどがあった。素晴らしいアクセサリーと、「Come see me(会いに来て)」などの挑発的な言葉の数々は、Linderでも見られた要素だった。ワイドなデニムパンツには、ウエストバンド部分から6インチほど下にベルトループが配され、そこにはディアマンテを配したメッシュのベルトや、パールを数珠繋ぎにしたベルトが通され、足元にはDリングを配したクロスストラップの黒いサンダルが合わせられていた。

Bode spring/summer 18

都市の喧騒からしばしの現実逃避をさせてくれたのは、Bodeのコレクションだった。エミリー・アダムズ・ボーディ(Emily Adams Bode)による2作目となった今季コレクションは、シングルベッドでくつろぐ美しき青年たちを描いていた。エミリーの祖母が住む南仏の家でエミリーの叔父が使っていた屋根裏部屋を、今季コレクションのベースのアイデアとしたのだという。エミリーはその屋根裏部屋でさまざまな生地と祖母の思い出の品を見つけ、自身にも死が訪れるという事実と向き合ったのだという。今回のコレクションには、彼女が屋根裏部屋で見つけたという生地が用いられた。そこにはアンティークのキルトやマットレスのカバー、ベッドシーツ、タオル、テーブルクロスなどが見られた。それらの生地はすべてエミリーがニューヨークへ持ち帰ったのだという。そして彼女はその生地を用いて、70年代を彷彿とさせるシンプルにしてエレガントなメンズウェアを作り上げた。「1960年代のタオルと18世紀のベットシーツを使うことによって、異なるふたつの時代をつなぐような作業だった。屋根裏部屋が、思い出やわたしたちが考える生命を象徴する空間として機能した」と、エミリーはi-Dに語った。彼女は昨シーズン、自身のデビュー・コレクションで祖父の死に焦点を当てていた。「大学で哲学を専攻して、メンズウェアで学士号を取得している。だから、わたしは服に物語性を織り込み、ひとのバックグラウンドを描いていきたいといつも考えている」と、彼女は説明している。

Sanchez-Kane spring/summer 18

Sanchez-Kaneのバーバラ・サンチェス=ケイン(Barbara Sanchez-Kane)もまた、家族と成長環境に焦点を当てていた。メキシコ系アメリカ人のバーバラは、昨シーズンにV Filesでデビューを果たしており、今季は、自身初となるソロのショーを行なった。ニューヨーク・メンズ・コレクションでももっともコンセプチュアルなショーとなったSanchez-Kaneの今季コレクションについて、バーバラは、「ひとは両親の期待を背負って生まれてくる。その後は成長過程を通して自分を模索していくことになる」という事実に焦点を当てて作ったと説明する。ひとの成長過程は、モデルたちがコピー機で自らの手をコピーし、プリントアウトしたものを壁に次から次へと貼っていくという行為で表現された。モデルたちの個性が浮きぼりになるそれらの写真は、彼らの存在を世界に向けて表現していた。パンツの脚部分やジャケットのパッチには花柄が刺繍され、そこに「We've been told since we were children that time is money(時は金なり、と子どものころから教え込まれてきた)」「The moon touched me and the sun told me it was with you.(月がわたしに触れ、太陽は「僕は君といつも一緒だ」と言った)」などの言葉が書かれていた。バーバラ自身も、ショーのバックステージでパウダーピンクの3ピーススーツにクロコダイル・ブーツといういでたちで注目を浴びていた。

C2H4 spring/summer 18

LandlordとC2H4 Los Angelesではスポーティな世界観が際立っていたが、いずれのブランドもスポーツを前面に出す意図はなかったようだ。Landlordはデザイナーの川西遼平がかつて暮らしたダルストンのレゲエ文化と、現在彼が暮らしているハーレムのレゲエ文化に着想を得て、ラスタカラーを配したボタンアップのニットシャツや、マリファナマークとならび"ジャークチキン"を配して讃えたTシャツが目立った。Burberryを思わせるチェックを配したシャツやショーツにはカモフラージュ柄が重ねてプリントされ、ニットのベストには「Serious business」という文字が見られた。Landlordの世界観とは対照的に、デザイナーYixi ChenによるC2H4 Los Angelesは、Kappaとのコラボレーションによって生み出された狂気のスポーツウェアをもって、見るものを極限まで滅菌された環境へといざなってくれた。真っ白なサイドスナップ・パンツやラブコートには、背中合わせで座るふたりの人間をかたどったKappaロゴがシーフォームグリーン色で配された。

メンズのニューヨーク・ファッション・ウィークは、たとえばロンドンのそれに比べ、確立された地位は低い。そしてそれは、デザインや製造品質の面において、たしかに引けを取っているのも確かだ。しかし、だからといってニューヨークのメンズ・コレクションをあなどるエディターは、あと数日ニューヨークにとどまり、新たなデザイナーたちの主張と表現をしっかりと見ておくべきだった。ニューヨークだけでなく世界にある多様な文化と多様な体験を表現した若きデザイナーたちの声は、現在の社会情勢のもと、かつてないほどに重要な意味を持っているのだから。

Credits


Text Charlotte Gush
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.