野中モモ評:『ラ・ラ・ランド』

『セッション』の監督最新作は、LAのハリウッド地域を舞台にしたミュージカル・エンターテイメント。世界で50を超える賞を受賞したこの映画を翻訳家・ライターの野中モモがレビュー。ようこそ、「LA LA LAND(ハリウッド地域/夢の国)」へ。

|
feb 24 2017, 9:25am

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.

ゴールデン・グローブ賞歴代最多の7部門を受賞し、アカデミー賞のノミネート数も史上最多(タイ)。「観るもの全てが恋に落ちる極上のミュージカルエンターテイメント」と、惹句も思いきり強気に期待を煽る超話題作『ラ・ラ・ランド』。

ヒロインは女優としての成功を夢見て田舎町からロサンゼルスに出てきた若い女(エマ・ストーン)。ハリウッドの映画撮影所の中にあるカフェでバイトをしながらオーディションを受けているものの、落とされてばかり。そんな日々に出会った第一印象最悪のアイツ(ライアン・ゴズリング)。彼はピアニストで、いつかは自分のジャズ・クラブを構えたいと願いながら、不本意な演奏活動で生計を立てている。ふたりの恋、そして夢の行方は!?

LA、すなわちロサンゼルスを舞台に過去の名作ミュージカルの引用もふんだんに散りばめた、デイミアン・チャゼル監督32歳による歌って踊るロマンス映画である。
高速道路の大渋滞から人々が踊り出すオープニング、ヒロインとルームメイトの女の子たちが身づくろいをしてパーティに繰り出すダンスシークエンスなど、スクリーンの内側でも外側でもたくさんの人々が綿密なリハーサルを重ねたことが見て取れる映像が「どや!」と迫ってきてさすがに見応えがある。
だがストーリーが進行するうちに、これはちょっと自分向きの映画ではなかったもしれないな……と悟ることになった。そのとき私が思い出していたのは『君の名は。』のことだ。

ご存じ2016年夏のメガヒット作、歴代邦画興行収入ナンバー2となった新海誠監督のアニメ映画である。SF的な仕掛けをもって田舎の女の子と都会の男の子が出会う物語。その背景となる、絵になってスクリーンに収まった新宿の街並みは、良くも悪くも「きれいな東京」だ(「きれいなジャイアン」的な)。

主人公は都立新宿高校がモデルとおぼしき学校に通いながら、新宿御苑脇のラ・ボエムに似た天井の高いカフェでウェイターのバイトをしている。現実にあのあたりをうろうろしていて視界に飛び込んでくるギラギラした欲望だったり背筋が寒くなる貧困だったり、都市の薄暗い部分はそこにはない。いかにもチープなお囃子的CMソングをループしながら通り過ぎてゆく高収入求人サイトの宣伝カー、半壊した靴で硬く汚れたかかとをあらわに足をひきずる貧しい人、悪の客引きに注意を呼びかける街頭アナウンスとか。あの世界にも満員電車はあるけれど、そこにはゲスい週刊誌の中吊りもイラッとくる広告もない。
きれいごとだと責めたいわけじゃない。もしあれを見て「東京に行ってみたいな」と興味を抱きはじめる誰かがいるのなら、それは自分としてはちょっと嬉しい。あんなにきれいじゃなくて薄汚れてるけど、だからこその魅力もあるはずだし、実際にやって来ていいところを発見してくれる人、さらには面白くしてくれる人が増えたらいいと思う。住民のひとりとして、そのときにがっかりさせることのないふるまいがしたいと思う。
私はロサンゼルスに行ったことがない。でも、ロサンゼルスの人たちは『ラ・ラ・ランド』を観て「きれいなLAだな~」と思うのだろうな、と推測するのは簡単だ。そして私たちの頭の中にあるLA、「あこがれのアメリカ」は、はじめから現実とフィクションに描かれたファンタジーの両方が混ざり合ってできているものなのだ。あたりまえのことだけれど。

© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.

ミュージカルはもとより自己言及的な構造の作品が多いジャンルである。
傑作と名高い『雨に唄えば』(1952)だって、サイレント映画からトーキー映画への移行期、つまり公開された時点でおよそ20年前にあたる1920年代後半から30年代初頭のハリウッドを舞台にしたバックステージものだった。ジャック・ドゥミは昔のハリウッド映画へのあこがれに突き動かされてフランスの港町で『シェルブールの雨傘』(1964)や『ロシュフォールの恋人たち』(1967)を撮った。映画人たちは昔から「いま、ここ」ではないどこかにあこがれ、すでに失われてしまった何かを追いかけ、再利用して新しい夢の世界を構築してきた。

『ラ・ラ・ランド』は、2010年代にその系譜に連なろうとしている映画だ。現実があまりにもひどい有様だから、「白人でヘテロセクシャルで健康で見目麗しい男女のロマンス」も「サクセスストーリー」も「しょせんは強者の物語」としらじらしく陳腐に感じられてしまいがちな時代に、デイミアン・チャゼルは挑戦する。
はたして彼は過去を再生し、あこがれを更新して未来につなぐフレッシュなヴィジョンを作り出すことができているだろうか? 正直なところ、これはやっぱりちょっと苦しい戦いなのではないか……と我に返ってしまう瞬間がちょくちょく訪れて、私は主人公ふたりに気持ちを寄り添わせることができなかった。あの「売れ線に迎合したくない(けどなんとなくできちゃう)ジャズマン」像には、「これしかできない、やりたくない」という姿勢でまだ誰も通っていない道を模索している人たちに心揺さぶられてきた者として、どうしても苦笑いしてしまう。エマ・ストーンのくっきりはっきり派手な面立ち、達者な歌と踊り、ひるがえる黄色いスカートはいかにも「2次元に近づく現代人」という感じで、見ていて退屈しなかったけれど……。

なんとも歯切れの悪いぼやきを書き連ねてしまったが、実際にヒットして賞レースでも高く評価されているという事実も含め、歌って踊る映画愛好者にとって2010年代後半の重要作品であることは間違いない。映画について、街について、歴史について、アメリカについて、自分(たち)はいまどこに立っているのかについて考えさせられるし、若い世代がどんな感想を抱くのかとても気になる。あの「ダサい音楽」の扱い感じ悪いよね!? それもまた若さ故なの!? とか、大人げなく語り合いたい。なおかつ、甲州街道を自転車でぶっとばしながらあの主題歌を口ずさんだりもしちゃってる。そして「もっといろいろな映画を観よう」と思わせられたのだから、結局のところは私もチャゼルの術中にはまっているのかもしれない。

ラ・ラ・ランド
監督・脚本/デイミアン・チャゼル キャスト:ライアン・ゴズリング/エマ・ストーン 提供:ポニーキャニオン/ギャガ 配給:ギャガ/ポニーキャニオン 原題:LA LA LAND/2016年/アメリカ/128分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:石田泰子

Credits


Text Momo Nonaka