ジェニファー・ベイカー インタビュー後編:では、あなた方にはこの3冊

BOOKMARCのグローバル・ディレクターを務めるジェニファー・ベイカーが、ごく個人的な本との記憶、ファッション・デザイナーと本の関係を語り、i-D Japanのために「ユースに推薦する3冊」をセレクトしてくれた。前編を読んでいないあなたは、まずそちらから。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Kodai Kobayashi
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08 December 2017, 3:24am

ジェニファー・ベイカー インタビュー前編:BOOKMARCの選書術

——ところで、初めての本との出会いとそのときに抱いた感情を憶えていますか?

私が幼い頃の話ね。もちろん鮮明に憶えています。ロアルド・ダールの『おばけ桃の冒険』。大きな桃の中にいたずらっ子たちが集まり、みんなでエンパイア・ステート・ビルのてっぺんに向かって冒険をするのです。私はニューヨーク出身なので、自分の街が出てきて興奮したのを今でも憶えています。それに高校生のときに読んだ、F・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』は本当に完璧な小説で、ものすごく感動しました。ロマンティックだし少しサスペンスの要素もあり、詩的でもある。いま思い出しただけで鳥肌がたってしまいます(といって鳥肌が立った腕を見せてくれる)。そしてもうひとつ、この質問に対してこの本を紹介しないわけにはいけませんね。私が初めて手にした写真集であり、私の人生にとって最も重要な本のひとつです。

『DENNIS HOPPER OUT OF THE SIXTIES』という、言わずと知れたアメリカ人俳優、デニス・ホッパーが撮った1960年代の写真を集めたものです。Twelvetrees Pressから出版されていて、ブックデザインも完璧なまでに美しい。60年代のアメリカにおけるあらゆる要素——公民権運動、ロックンロール、多彩なアーティスト、アメリカとは違う文化を持つメキシコも写真に収められています。この上質なフォトエッセイは、アメリカの歴史における最も重要な時代のひとつを見事に切り取った作品です。

——今でも見返すことがあるのですか?

ええ。できる限り頻繁に。東京にまで来て、しばらく目にしていなかったこの本を見るというのはすごくいい気分になりますね。

——本に勇気づけられることはありますか?

常に勇気づけられていますよ。10代の頃でいえば、私はニューヨークに住んでいたので、事あるごとに美術館に足を運んでいました。アーヴィング・ペンやヨーゼフ・ボイスのエキシビジョンを観て、本当に刺激を受けてきたのです。若くしてアートに触れる機会が多かったことは本当によかったと思っていますし、その頃から展覧会に行くと必ずカタログを買うようにしていました。私の最初のコレクションですね。

——ある日本人デザイナーが「本は僕の肥料だ」と言っていたことを思い出しました。本とファッション・デザイナーの関係とはどういうものでしょうか?

私たちのクライアントは、ファッションコミュニティの人たちが非常に多い。言ってみれば、彼らが出版業界を生かしていると言っても過言ではありません。多くのファッションデザイナーは、自分のクリエーションのためのリサーチライブラリーを作っています。本と対峙して激情的に感動し予想を裏切るようなインスピレーションを受け、急に考えが変わることだってあるのでしょう。

——マーク・ジェイコブスさんも同じく?

彼も膨大な本を持っていますよ。デザインスタジオやショールームには数え切れない量の蔵書があります。ファインアート、ロックンロール、ポップカルチャーなど、あらゆる本を揃えています。ストリートフォトグラフィーがとても好きね。

——彼に本を薦めることもあるのですか?

特定のテーマについて尋ねられたり、新しい何かいい本はない? とシンプルに聞かれたりと常日頃から本の話はしていますね。

——本についての話を通じて、彼の志向がわかってきたりしますか?

そうですね。理解できていると良いのですが(笑)

——BOOKMARCには他のブランドの本も置いていますが、戸惑いはなかったのですか?

まったくありません。才能のある人たちに対する敬意。これに尽きます。

——インターネットの中にある玉石混淆で、膨大な情報にアクセスできる時代です。ジェニファーさんがそうであったように、本というのは現代のユースにも勇気を与えるものですか?

これはとても難しい質問ね。彼らはメディアに埋もれ、インターネットに固執しているところがあるので、とても危険な状況にいると思っています。セルフィーカルチャーはその象徴ですね。外を見る眼ではなくて、内側を見る眼ばかり養われてしまっている。それが今のキッズたちに対して懸念していることです……。私はあまり特定のメッセージを言いたくないけれど、たまには携帯から眼をそらして、本の中に何かのインスピレーションを見出してくれたら嬉しいですね。

——最後に、このお願いができることを楽しみにしていました。ここBOOKMARCのセレクションの中からi-D Japanの読者のために3冊の本を選んでいただけますか?

もちろん、喜んで。まず1冊目は、パティ・スミスの『ジャスト・キッズ』。あまりあるほどに美しく書かれた本です。パティとロバート・メイプルソープの、とあるラブストーリーが描かれています。同時に、60年代後半から80年代のニューヨークの歴史も学ぶことができます。あと2冊、そうね……少し考えさせて?

すべての若い人がリチャード・アヴェドンを知るべきです。これは『Richard Avedon: Photographs 1946-2004』。彼が自身のスタジオを持った1946年から逝去する2004年の間に撮影されたポートレートをまとめたもの。サミュエル・ベケット、リー・フリードランダー、ロバート・フランク、フランシス・ベーコン、ビョーク……。セレブリティだけでなく、アーティストやミュージシャン、政治家、中には普通の労働者もいます。例えばこのページ。ウィンザー公とシンプソン夫人のポートレイト。彼は正当なイギリス国王の後継者(エドワード8世)でしたが、アメリカ人である彼女との結婚により退位。その事実を知らなかった私は、この写真に彼らの「痛み」を感じ「この人たちは誰なんだろう」と思って調べたのです。たくさんのタイプの人たちに触れられる本なので、写真をきっかけに興味を広げてほしいと思います。あと1冊ね。

最後の一冊は、『L'UOMO VOGUE 1968-1998 STILE IN PROGRESS』。『L’UOMO VOGUE(イタリア版メンズ・ヴォーグ)』の30周年を記念して出版されたもので、1968年から1998年までの30年間の写真を集めたメモリアルブックです。往年のファッションのスタイル、様々な才能が詰まった素晴らしい本。ファッションのエディトリアルやグラフィックについても学べると同時に、歴史的な要素も凝縮されていて「時代」についても知ることができます。

すでに伝説となった俳優、デザイナー、ミュージシャンもたくさん写っています。さまざまなセクシュアリティを垣間見ることができるし、写真も洋服も本当に美しい……ほら、あなた、今笑ったでしょ? ユーモアもあるのよ。私のお気に入りの写真は、バリー・ホワイトのこの写真ですね。みんなをハッピーにしてくれるでしょう?高価なものなので買うことが叶わないかもしれません。ただ、決して所有しなくても、学ぶことはできます。美術館を訪ねてさまざまな作品を観るように、もし機会があったら手に取ってみてください。きっと多大なるインスピレーションを吸収できるはずですから。

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