Lindsey wears all clothing Hillier Bartley.

現代のフェミニニティに寄り添うブランド:Hillier Bartley

ケイティ・ヒリヤーとルエラ・バートリーが90年代後半にファッション界に参入したのを機にそれまで男性中心だった業界に女性デザイナーが続々と登場するようになった。ファッション界で注目を浴びるふたりのデザイナーが、掴みどころのない現代のフェミニニティをHillier Bar tleyのコレクションを通して捉えた。

by Anders Christian Madsen
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10 November 2016, 3:00am

Lindsey wears all clothing Hillier Bartley.

Socks Pantharella. Shoes Crockett & Jones. 

ケイティ・ヒリヤー(Katie Hillier)とルエラ・バートリー(Luella Bartley)が去年の春に、ふたりの名前を冠したHillier Bartleyを立ち上げたとき、この新しいブランドが今の時代精神に呼応するとは誰も予想していなかった。当時、女性としてカミングアウトしたばかりだったケイトリン・ジェンナーの特集を『Vanity Fair』誌が組み、メゾンブランドは中年女性を次々にキャンペーンに起用、ヒラリー・クリントンは大統領選の準備に取りかかり始めていた。そんなジェンダーの意識が揺らいだ時期に誕生したのが、Hillier Bartleyだった。そのコンセプトとなっているボロボロな高級感、いわゆる"王子とこじき"調のヴィジュアルは、無意識のうちに現代カルチャーと共鳴していた。Hillier Bartleyと時を同じくして、彼女たちと共通の精神を持ち、ファッション現象を作り上げた2つのブランドがあった。ラグジュリアスな中性らしさを提案するアレッサンドロ・ミケーレのGucci、そしてインターネットに精通しており、性別、性的趣向、個性――すべてにおいて"マルチ"なVetementsである。ケイティとルエラは、男性のファッションアイコンであるルシアン・フロイド、エドワード8世、デヴィッド・ボウイをミューズとし、彼らから着想を得ることで「ハンサムな女性服」――ジェンダーレスかつエイジレスにしてセクシーな服を作り上げることに成功した。

「今の女性は、やりたいことをやりたいようにやっていいんだと思うの」とロシェル・スクール・オブ・アート校内の日当たりの良い庭にあるショーディッチ・スタジオでケイティは話す。「パンツが見えそうな短いドレスを着たって、もうハシタナイなんて言われる時代じゃないんだから、身体に自信があるなら好きなように見せればいいのよ。女の子が男の子みたいな恰好して、カクテルドレスの代わりにスーツを着てフラットシューズをはいてイベントに行くのだって、言ってみれば女性が強くなってきていることの象徴でしょう。昔のルールなんてもう通じないわ。時代は変わったのよ」。その変化は時代の必然だった。2015年を振り返ってみても、ドイツの首相アンゲラ・メルケルが下した難民受け入れの決断は、彼女が男性的なツーピース・スーツをカラーブロッキングして着たことよりもずっと大きな議論を呼んだし、英国首相テリーザ・メイの政治的見解は、彼女が大好きなVivienne Westwoodのトラウザー・スーツを作っている女性たちの政治観とは必ずしも一致していなかった。今年に目を移してみても、ヒラリー・クリントンが必要としているのは、テーラーメイドのセパレーツをどう合わせれば良いかについての助言ではなく、11月のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプを倒すためのアドバイスだろう。「グラムロッカーの男性たちをずいぶん参考にしたわ。特にAWコレクションのためにね。彼らは"女の服を着たオオカミ"ってよく言われるけど、今の女性には彼らと同等の度胸があると思うの」とルエラは語る。「ウィメンズの服にも自信たっぷりな態度をみなぎらせたかったのよ」

重い金のタッセルベルトが付いたキャメルコートや、シルキーなストライプ柄でパンツの裾にフリルの付いたスリーピース・スーツ……。王子のように品があり、ふたりが「洒落ているけど怪しげ」と形容するHillier Bartleyの服は、廃れ感のあるジャカードや刺繍によってその雰囲気を醸し出している。「フェミニスト・ファッションに対して違和感を感じるの。私たちの服作りとは考え方にずれがある」とルエラは話す。「フェミニスト・ファッションって大胆で身体を見せるっていうことなの?って正直すごく混乱しているわ。私たちの服はとても控え目だし。"女性に力を与える服"ってどういうものかしら。レオタードを着たビヨンセ? それともHillier Bartleyのタキシード? 私はどんな服だっていいと思うの。自分の着たい服を着ればそれでいいじゃないって。でも、最近はみんな自分のことをフェミニストと呼ぶから混乱しちゃう」。"女性に力を与える服"こそ、ケイティとルエラの長いキャリアにおいて一貫しているテーマだといえるだろう。自身の名前を冠したブランドLuellaでガーリーなデザインを極めていたルエラであっても、ベクトルの異なるガールパワーを打ち出し、世に発信していた。

当時、いくつかのメゾンブランドのジュエリーデザイナーを兼任していたケイティと自身のブランドのデザインをしていたルエラは、共に90年代後半にファッション界に登場し、イギリスの女性デザイナーが活躍していく新たな時代到来の口火を切った。その後、彼女たちに続くようにして次々と女性デザイナーが躍進していった――ステラ・マッカートニー、ヴィクトリア・ベッカム、そして今年、カルチャー要素に溢れるメンズウェアでLVMHプライズを受賞したグレース・ウェールズ・ボナー、彼女を猛プッシュし、受賞に一役買ったフィービー・ファイロ。また、創立以来"女性らしさ"に富んだ服を作り続けてきたDiorが、今年初めてその舵取りを女性に任せたいとして、新しいクリエイティブ・デザイナーにマリア・グラツィア・キウリを起用している。長らく男性が主導権を握ってきたファッション業界で、女性デザイナーの地位が認められ、確立されていったのは、ケイティやルエラのような先駆者たちのおかげだろう。驚くべきことにふたりはまだ40歳を超えたばかりだ。2014年から2015年にかけて彼女たちは、Marc by Marc Jacobsのデザインも手がけている。残念ながら同ブランドからディフュージョンラインがなくなってしまい、ケイティとルエラの活躍は短期間に終わったが、そのあいだ、マーク・ジェイコブス本人より高い評価を得ていた。また広く知られているように、2000年代に起こったIT-BAGブームもふたりによるところが大きい。ルエラは、Mulberryをはじめいくつかのブランドのバッグをデザインしていたし、Marc Jacobsのバッグをデザインしたのはケイティである。

女性デザイナーは、服のシルエットに対するアプローチが独特だと言われてきた。デザイナー自身が女性の身体を、身をもって熟知しているからだ。Hillier Bartleyのふたりも現代に生きる女性の身体について常に考えを巡らせている。「理想の体型も変わってきているし、自分の体型を受け入れるという考えになってきている。カーダシアン姉妹を引き合いに出すのもなんだけど、決して細くはないのに、熱狂的な人気があるでしょう?」とケイティは言う。「まあ、ナチュラルとは言えないけど……出るとこはしっかり出ていて肉付きのいい身体が受け入れられているという状況は良いと思う」。それに対して、ルエラは反論を唱える。

「あんな体型になるのは無理だし、そもそもフェイクじゃない? 年齢や体型、性別の差異が、個性として社会に認められているのは嬉しいけど、だからってやりすぎは別の話、見ていて怖くなるわ。ハピネスとかナチュラルっていう感じは全くしないのにこれだけ"カーダシアン現象"が広がるのって不思議よね。うちの娘まで、キム・カーダシアンに夢中でびっくりしたわ」と、彼女はデヴィッド・シムズとのあいだにもうけた10歳の愛娘について話す。「彼女が誰だか知っているかどうかわからないけど、ああいった"人目を意識した女らしさ"が気に入っているみたい」

いつも完璧な着こなしのふたりだが、ヘアやメイクに凝ることはせず、ブランドのコンセプト同様に、さり気ないグラマラス性を湛えた"静かな美しさ"を大切にしている。ルエラは次のように結論づける。「なにもキム・カーダシアンのせいだって言っているわけじゃないのよ。問題なのは、インターネットとその使われ方。人の目を意識したものやフェイクなものが嫌いなの。そうしたものを見ると悲しいし、憂鬱な気分になるわ」。娘がソーシャルメディア時代に育つのは心配かと尋ねると彼女は「もちろん心配よ、子どもたち3人とも。でも、彼女たちがどんなことをしてもしっかり受けとめるつもりでいるわ。娘のことは信頼しているわよ。やさしくて頭が良くて、明るい子だから。ネガティブに聞こえてほしくないけど、今はナルシストの時代だから、つい悪い真似をしたくなることもあると思うの。知らないあいだに悪い道に足を踏み入れて、虚しくなったりしてね。だから目標にする人がいたほうがいいと思う。私は誰のロールモデルにもなりたくないけど、子どもは自然に親を見て育つでしょう。私が読書好きなら娘も本を読むようになる。でも問題は、今の時代、みんないつも携帯をいじっていること」と答えた。ケイティもルエラもInstagramにはたくさんの写真をアップしているかもしれない。しかし、ビジネスでは人目への露出は極力避けている。ファッションショーは行わず、プライベートなアポのみ。コレクションの写真は店頭に並ぶまで公開していない。Hillier Bartleyの存在は、女性の着こなしだけでなく、ファッション界全体の方向づけにも多大な影響を及ぼしているのだ。

Credits


Text Anders Christian Madsen
Photography Letty Schmiterlow 
Styling Julia Sarr-Jamois
Hair Alex Brownsell at Streeters using Kérastase Nutritive. Make-up Nami Yoshida at Bryant Artists using Givenchy Le Makeup. Photography assistance Andrew Moores, Alessandro Tranchini. Styling assistance Rosie Williams. Make-up assistance Tamayo. Casting director Angus Munro at AM Casting (Streeters NY). Model Lindsey Wixson at The Society.
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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