鬼才サンダーキャットのロンドン・インタビュー

今年2月にリリースした、3rdソロアルバム『Drunk』でその異才ぶりを世に広く知らしめたサンダーキャット。最近ではエリカ・バドゥやケンドリック・ラマーらから共演を熱望されるなど、音楽界で圧倒的な存在感を放っている。そんな彼の来日とライブ開催を記念し、2016年にi-Dがロンドンで行なったインタビューを再掲載。「ベースでひとを殴ったことは?」「それがあるんだよ!」

by Ian McQuaid
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25 April 2017, 4:55am

サンダーキャットの名で知られるスティーヴン・ブルーナーは、過去10年間、素晴らしいとしか言い表しようのないバンドの数々を渡り歩いてきた。パンク・スラッシュ界のアイコン的存在スイサイダル・テンデンシーズのベーシストとしてキャリアを開始し、その後、エリカ・バドゥのバンドの一員として活躍した。そして2014年、サンダーキャットはフライング・ロータスのツアーに参加し、その間にケンドリック・ラマーの画期的アルバム『To Pimp A Butterfly』のため多くの曲を書き上げる一方で、ジャズ/ファンク/ヒップホップを融合した自身の前衛的アルバムをレーベル<Ninja Tune>からリリースした。

フライング・ロータスのライブ会場ブリクストン・アカデミーの控え室で出会った彼は、一風変わった服装とおおらかなオーラで、まさに誰もが想像する"サンダーキャット"そのままだった。靴下にサンダルという足元の装いは、数百年前の忍者さながらだったし、広いつばのハットは優しい農夫のような雰囲気を彼の佇まいに添えていた。会話が進む中、彼はところどころでクスクス笑いを見せたり爆笑したりする——生きることを謳歌するその姿に、多くのアーティストが彼と一緒に音楽を作りたいと望む理由がわかったような気がした。しかも彼は酒好きだそうで、飲むならとことん楽しむそう——とにかく嫌うべき要素が見つからない男なのだ。

フライング・ロータスとのツアーでは、これまでどこを訪れましたか?
アイルランドとスコットランドに行ったよ。

盛り上がるときは大いに盛り上がるアイルランドの聴衆ですが、いかがでしたか?
アイルランドでは俺自身、すごく盛り上がったよ。みんな、「昨夜はけっこうのめり込んでたね」って言うんだけど、俺は「昨日はどこだったっけ……あ、アイルランドか」ってね。アイルランドは、俺が聞いたり想像していたのとはまったく違った。アイルランドは最高だったよ。

のめりこむとどうなるのですか? みんなを怖がらせてしまうとか?
そうだね、そんな感じ(笑)。普段はやらないようなことをやって、一緒にプレイしてるやつらを動揺させちゃうんだ。「今日のお前、別人だったな」って言われるよ。

飲むとおおらかになりますか? それとも、怒りっぽくなる?
それは時と場合によるかな。楽しく飲んでるときは、「何がそんなに楽しいんだ?」ってみんなが言う。「だって、楽しいから」って答えるんだけど、そうやって飲んでて楽しくなってくると、興奮が高まって、最終的には壊れる(笑)。ロータスは「次は動画に収めとく」って言ってて、そう言われるたびに俺は、「やめろって。酔ったらどうなるか、自分でもよく分かってるから!」って阻止するよ。

かつてはスイサイダル・テンデンシーズの一員だったあなたですが、加入のきっかけは?
たしか高1のときに加入したんだ。兄がドラムを担当しててね。ロバート(ロバート・トルージロ。のちにメタリカのベースを担当)が辞めて、その後、ジョッシュ・ポールっていうやつが少しの間だけベースで参加してたけど、そいつも抜けて、兄に「お前どうだ?」って誘われたんだ。オーディションに行って、その後リハーサルにも参加したけど、すごくしっくりきた。16歳だか17歳のころだね。そこからなにが生まれ、どんなものが開けていくのか、そのときは知る由もなかった——自分に才能も運もあるって確信はあったけどね。ボーカルのマイク・ミューアとの出会いで未来が開けたよ。

当時のライブはどんな雰囲気だったのでしょうか? さぞ熱気に満ちた空間だったのでしょうね。
そうだね!勢いがあって、よく「メル・ブルックスが映画にしたらいいのに!」と思ったもんだよ。会場はギャングの抗争みたいな雰囲気でね。当時のライブの雰囲気を説明しようとしてもうまく説明できなくて、誰もが「だってロックバンドだもんな」って言うけど、「違うんだよ!」っていつもフラストレーションが溜まる!

喧嘩をしたことは?
もちろんあるよ。バーで、2回ぐらい。酒ビンで相手の頭をかち割ったり——そういう喧嘩。

ベースでひとを殴ったことは?
それがあるんだよ!演奏中に観客のひとりが馴れ馴れしくしてきたから、ベースを一振り……。時々、ことの重大さが判断できないときがあるんだ(笑)

それはスイサイダル・テンデンシーズ時代の出来事ですか?
そう、エリカ・バドゥとプレイしてるときに、ひとを殴るはずはないからね!

これまでに数多くのアーティストと演奏してきていますが、あなたの音楽性がもっとも顕著に現れているのはどの作品だと思いますか?
最初に俺が関わったヤング・ジャズ・ジャイアンツとサーラー・クリエイティブ・パートナーズの初期作品かな。俺が前面に出てるわけじゃないけど、わかるひとにはわかると思う。エリカ・バドゥと一緒にやる前のものだよ。

Cosmic Ball」がとても好きです。
俺がベースを担当してるトラックね。Ty Dollar $ignも、サーラー・クリエイティブ・パートナーズの数曲に参加してるよ。今や大人気のアーティストになっちゃったから、あいつがそれについて語ったりはあんまりしないけどね。今でもタイとは連絡を取り合ってる。あいつは俺が本当に認めるやつだね。俺の分身!いつも、変なときに俺の前に現れては、そのときに俺に起こってることについてすごく役立つ助言をしてくれるんだ。一度、あいつの大ファンだっていう友達と俺が一緒にいたとき、あいつが現れてね。俺の友達は照れて押し黙ってたけど、あいつはゲームの『モータルコンバット』をやって帰っていったよ。

あなたや、いま隣の控え室にいるフライング・ロータスとシャバーズ・パレセズは、アフリカ系アメリカ人文化とその日常が、メインストリームで描かれているものよりも、ずっと多様なのだということを証明するような存在です。たとえば『エンパイア』といったテレビ番組に見られるような、とても偏った黒人社会の描かれ方に怒りを覚えたりはしますか?
すべてが一歩遅れているように感じられるね。テクノロジーの進化によって物事の速度は増しているから、『エンパイア』が時代遅れにすら感じられる。あれは音楽のなかのほんの小さなジャンルにすぎない。自分があれの一部じゃないってことは喜ぶべきことだと思ってる——サンダーキャットを真似してぶっ飛んだ音楽を作って、番組で流されたりなんかしたら困るからね!ポケットに穴が空いてるようなもんだと思う——すべてを詰め込んだと思ったのに、ポケットには穴が空いてて、そこからボロボロといろんなものが抜け落ちてしまってるようなね。

遠く離れたイギリスから、アメリカで現実に起こっていることを正確に把握するのは不可能に近いわけですが、ケンドリック・ラマーがアルバム『To Pimp A Butterfly』で歌った言葉は、アメリカで議論を巻き起こしていますか? 今回のアルバムでのケンドリックは、主張を力強く、明確にしていますよね。
広く受け入れられているよ。みんなが必要としていたというか、あのアルバムを聴いて、ようやく深呼吸をできるような感覚を得た人も多いと思う。リスクを背負って主張してくれる人たちがいる——ケンドリックの場合、彼が主張していることは、誰にも否定できないよね。ケンドリックは火に油を注いでいるんじゃない。誰にも否定できない形で問題がそこに存在しているわけだから、そこに明確な言葉をもって意見しているケンドリックは、むしろ火を消そうとしているんだよ。
ケンドリックのアルバムを聴いていて、俺は、自分が黒人としてこれまで日々感じてきたことや経験してきたこと、恐怖心、怒りといった感情の記憶が、一気に押し寄せてきたように感じたよ。あれほど強く俺の心に響いたものは、それまでになかった。自分の気持ちを代弁してくれているようにすら感じた。いま、みんながあのアルバムを聴いて、あいつの言葉を通して現実を見つめている——きっと今後、ときが経つにつれ、より多くのひとがあのアルバムの重要性を実感することになると思う。アルバムとして素晴らしいだけじゃなく、ケンドリックはあのアルバムですべてを語っている。真実を語ってるんだよ。いま世界で起こっていることを考えれば——たとえばボルチモアで起こったことなんて、哀れとしか言いようがない。あのアルバムは今の時代に必要なんだ。SNSで誰もが言いたいことを言える時代になったけど、ほとんどは無意味なもの。たとえば、「差別意識に端を発した黒人殺害事件の拡大を食い止めよう!」ってみんな言うけど、それよりもっと訴えなきゃならないことがこの世にはたくさんある。ケンドリックがアルバムで、「How do you expect anyone else to respect us when we kill ourselves?(社会の敬意を得たいなら、まずは俺たちが殺しあうのをやめるんだ)」って言ってるだろう?それがまずやるべきことなんだよ。
抗議運動に参加してる学生に向かって石を投げる警官の映像を見たとき、すごくショックだった。「なんでこんなことするんだ」「正気なのか?」って。学生が周囲の建物からどんどんと出てきて、みんなで警官隊に迫っていっただろう?それを見て、警官隊に対して「ちょっと考えれば、こうなることぐらい想像できただろ?」って思ったね。

King Kunta」でベースを弾いているのはあなたですか? 素晴らしいファンクのサウンドを添えていますが、あのベースラインを作り出した背景には、何か特別な思いがあったのでしょうか?
ロサンゼルスの歴史とでも言うべきものかな。かつてDJ Quikと一緒に活動していた、モーズバーグ(Mausberg)っていうプロデューサーがいたんだ。モーズバーグのサウンドへのオマージュという思いがあった。ロサンゼルスでDJ Quikにばったり会ったとき、彼はあの曲に「あいつが見えたよ」って言ってくれてね……あのサウンドがモーズバーグへのオマージュだってことを理解してくれてたんだ。モーズバーグは少し前に亡くなってね——殺されたんだ。DJ Quikとモーズバーグが作ったレコードをケンドリックと聴いてて、「これすげえな!こういう音を試してみようぜ!」ってことになって、あのベースラインができた。あのベースラインについてひとつ教えてやる——あれは、すべて1弦で弾いてるんだ。昔、スイサイダル・テンデンシーズで「Possessed to Skate」のベースラインを練習したときのことを思い出すよ——あの曲は、速く、しかも唸るベースラインを正確に弾かないと曲が台なしになる。ステージで演奏してるときにちょっとでも間違うと、ビールを投げつけられたもんだよ。「King Kunta」もそういう曲だね。

「King Kunta」をライブで演奏したことはありますか?
してない。ケンドリックとは、アルバムの曲をライブでやりたいと思ってるんだ。でもそれは、もしかすると一生叶わないのかもね。

今夜は何をプレイするのを楽しみにしていますか?
全部だね。かなり熱い、素晴らしいひとときになるはず。俺は徹底的に今夜のライブを楽しむよ。実は、家にいたところ、ロータスから「いま何やってる?」って連絡が来て、「鼻ほじったり、猫の毛を掃除したり」って返したら、「明日ロンドンに来いよ!ヨーロッパを一緒にまわろうぜ!」って言うから、「オッケー。普通はこんなふうな流れで仕事はしないけど、行くよ」って返してね。それでなんとなく来たんだ。ヨーロッパをまわっていて、今夜のロンドンが最後だよ!

@Thundercat

Credits


Text Ian McQuaid
Photography Paul Phung
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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