雑誌の未来を担う13人のエディターたち

雑誌界の革命が始まろうとしている。

by i-D Staff
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08 June 2016, 8:20am

もうお気づきだろうが、私たちは雑誌が大好きだ。雑誌は、視点を持った者が世の中に対し言いたいことを叫ぶ場だ。今回紹介するのは、きっとそう遠くない未来にあなたのお気に入りとなる雑誌の気鋭のエディターたち。彼らが編集する、21世紀版"本棚に置いておきたい"雑誌は、愛、汗と涙、徹夜の切り貼り作業の結晶だ。2016年のフェミニズムとファッション、アート、セックスは、彼らの作品に詰まっている。出版業界の不況がささやかれて久しい。だが、この状況こそがより活発な次世代のエディターと雑誌読者を作り、苦境にあっても美しいものを作り出そうという活力を彼らに与えている。あらゆるものの速度が加速しているデジタル時代にあって、紙媒体はこれまで以上に貴重な存在になっている。忙しい世界に、静かなひと時を作り出してくれるからだ。良いときも悪いときも、富めるときも読まれぬときも、死が我らを分かつときまで、私たちは雑誌とともに歩むのだ。

Olya Kuryshchuk, 1 Granary
クリシュクのソファには、マイケル・ファスベンダーが寝たことがあるのだという。しかし、それは彼女のキャリアにおける絶頂ではないそうだ。セントラル・セントマーチン芸術大学が移転したのを機に3年前に発行された『1 Granary』誌は、"学生新聞"のクオリティーをはるかに超えた存在だ。現在ではニューヨークのパーソンズ美術学校やアントワープのアントウェルペン王立芸術学院など世界屈指のファッション学校と手を取り、ファッションの未来を担う才能に光をあてるにまで至っている。クリシュク曰く、『1 Granary』は、「若いデザイナーやアーティストをインスパイアし知識をつけてもらう」ことを使命としているという。『1 Granary』はアートが育つ温床であり、また生徒たちが学ぶことができる場なのだ。これまでにフォトグラファーのニック・ナイト、スタイリストであり『Another Man』誌クリエイティブディレクターでもあるアリスター・マッキー、そしてイギリスを代表するスタイリスト、サイモン・フォクストンなど、名だたるアーティストたちがコントリビューターとして参加している。創刊からまだ間もないとはいえ、セントマーチンのクリエイティブな伝統を未来へと引き継ぐ新たな世代が多く育っていることを紙面を通して、世界に知らしめている。デジタルが紙媒体を抹殺してしまっていないことを見せつけてくれる見事な完成度だ。「ソーシャルメディアは衝動のメディアで、心や温かみが欠けがち」とクリシュクは話す。「雑誌は愛おしい存在でなければいけないし、参考になる、有益なものでなきゃならない。存在そのものが贅沢だと思う。だから、そこには魂が込められていなくちゃならないの」

Chani Wisdom + Jamila Prowse, Typical Girls
『Typical Girls』を創刊し、エディターを務めているジャミーラ・プラウスは、現在21歳。小さい頃から『Vogue』や『Lula』などの雑誌からの切り抜きを壁に貼っていたという。「『Vogue』や『Luca』は、憧れの世界だった。誌面に出たいとまで思っていたのよ」とプラウスは話す。2015年10月にチャニ・ウィズダムと共同で『Typical Girls』を立ち上げるまで、彼女はパブで働いていた。その時期、プラウスはクリエイティブな刺激を受ける機会も、クリエイティブな力を発揮する場もなかった。「自分と同じような顔をしたひとが周りにいなくて、どんどん不満が募っていったの」と彼女は説明する。「有色人種とか、普通の人々も扱うような−−多様性があって、個々の体験が詰まった−−雑誌を作りたかったの」。出来上がったのは、96ページに及ぶ、「様々な女性の体験や視点をフラットに共有している、ポジティブな場」だった。彼女とウィズダムが大学に通ったブライトン地区にある、インディペンデント系雑誌を専門に扱うMartin Skeltonで発売した『Typical Girls』は、初版の100冊が即日完売となった。「私たちがやりたいようにやっているだけ」とプラウスは言う。「誰が読むかも考えずに作っているの。女の子、特に有色人種の女の子たちが『Typical Girls』を読んで、自分自身を好きになってくれたらと思っているわ」

Hanna Moon, A Nice Magazine
ハンナ・ムーンの『A Nice Magazine』は、セントラル・セントマーチンで彼女が卒業制作として作った作品だった。『Purple』誌、『Spare Rib』誌、そして『Re-Magazine』誌などにインスピレーションを受けてできた『A Nice Magazine』。その精神は、いたってシンプルだ−−「リアルな自分になって、楽しんで!感じよくいるのなんてやめて、好き勝手にしよう!」。行儀よく画一化されたファッション雑誌ばかりだ。そう感じたハンナは、そこに雑誌名を思いついた。「"Nice"すぎない雑誌を作りたかった。"Nice"な雑誌は世の中にいくらでもあるから」。出来上がったのは、90年代初頭を彷彿とさせる、美しくローファイな世界観の雑誌だった。ハンナの作品だけでなく、ロンドンを代表する写真家たちの作品が収められている。ジョイスNG (Joyce NG)やヒューゴ・スコット(Hugo Scott)、アリス・ニール(Alice Neale)、そして、ハンナが数年間アシスタントとして付き、『A Nice Magazine』創刊号ではハンナの友人キャミーのヌード・エディトリアルを撮り下ろしたタイローン・レボン(Tyrone Lebon)などが参加している。創刊から瞬く間にブレイクした『A Nice Magazine』だが、ハンナが雑誌を作る理由は一貫して個人的なもので、決してお金のためではないという。「雑誌は、私にとって世界とのコミュニケーション手段なの。自己満足のためといってもいいわ。好き嫌いは読者が決めることよ」

Matthew Holroyd, Baron/ Baroness
雑誌『Baron』の創始者・クリエイティブディレクターであり、近々『Baroness』も創刊させるマシュー・ホルロイドは、出版の世界に育った。「両親とも、雑誌の世界で働いていたんだ。父は『Financial Times』紙の広告担当で、母は『The Scotsman』紙でコラムを執筆していた」。両親のキャリアは、マシューに大きな影響を与えた。彼は8歳のときに環境を扱った雑誌を、10代になると『Long Live the Queens』という雑誌を作った。エディターへの道が開かれているのは明らかだったが、彼は他の道も模索してみたかったという。「俳優やヘアドレッサー、教師、アーティスト……やってみたいことは他にもあったけれど、何にしても僕はいつでもクリエイティブだったんだと思う」。ミドルセックス大学でファッションデザインを学んだ後、マシューは風刺雑誌『Vogue Paper』を作り、「常に面白くなきゃいけないという環境に飽き飽きしていた2012年に、ジョナサン・バロン(Jonathan Baron)とシェ・ザラ・ブロムフィールド(Che Zara Blomfield)とともに『Baron』を作った」というのが雑誌創刊の経緯だったそうだ。Baronが扱ったテーマは、現代のセックスとセクシュアリティだった。「テーマは『Marie Claire is a slut(マリクレールは誰とでも寝る)』だった」と彼は語る。「ジョナサンは『Fantastic Man』から着想を得て、ジェントルマンが読むような雑誌を作りたいと考え、雑誌名も『Baron』に決めていたんだ。そこで僕たちはアイデアを出し合った」。彼は、『Baron』の民族学的アプローチについてこう説明する。「僕たちはセックスを考えるとき、即座にそれをポルノに直結させて考える。でもポルノは極端なファンタジーの形態だから、僕はセックスという存在をもっと高められるようなものが作りたかった」。『Baron』が成功をおさめ、誌面で女性のセクシュアリティを広域に議論し好評を博した。次は「男性のヌード、それに向けられる女性の視線にフォーカスをあてた」女性誌を作ろうと思いついた彼らは、今年年末に『Baroness』を創刊する予定だ。

Charlotte Roberts + Bertie Brandes, Mushpit
インターネットが世に登場する以前にイギリス中の女の子が読み耽ったティーン雑誌に、時事雑誌『Private Eye』の風刺的なウィットを加えたような『Mushpit』。笑えると同時に作り手の強い姿勢を感じる、女性誌の理想を体現したような雑誌だ。『Mushpit』の2トップであるブランデスとロバーツは、21歳になるまで出会うことこそなかったが、10代の頃にすれ違っていたことを後に知ったのだという。「私たちが15歳の時、ノースロンドンで開かれたパーティにいくつも同席して、同じ男の子にキスをしまくっていたらしいの!」とブランデスは笑いながら話す。2011年、雑誌創刊までの過程で、彼女たちが個々に受けてきた影響がぶつかり合い、新たな世界観を生むことになる。そうして出来上がった『Mushpit』だ。「『i-D』や『The Face』、『Dazed』といった雑誌、『Cheapdate』や『Riotgrrrl』といったファン雑誌も好きで、いつもスクラップしてはコラージュしていた」というロバーツに対し、ブランデスは「漫画や『Sabrina's Secrets』、『Mizz』といった雑誌が大好きだった」という。一般の女の子をモデルに起用したファッション・エディトリアルから、男性モデルの見開きページ、クイズ、20代の日常に関連する身の上相談ページにいたるまで、どのページにも彼女たちのノスタルジアが見られる内容となっている。『Mushpit』はこれまで、雑誌存続のための広告掲載をしたことがない。「広告ページにはさまれると意味をなさない内容が多いから」とブランデスは説明する。「読者との関係には何か特別なものがあって、だからこの雑誌が作り出す世界はすべて私たちがキュレーションしたものでなければならないし、使われている言葉も画像もすべて私たちのものでなくてはならないの」

Max Barnett and Bex Day, PYLOT
『PYLOT』は、デジタル時代に生きるアナログ雑誌だ。その特徴こそ古き良き雑誌のようだが、そのあり方自体はいたって現代的だ。編集長バーネットがまだ大学在学中、フォトグラフィーに熱中したことから生まれたこの雑誌。3号目の制作ではすでに13人のスタッフを抱えるまでに成長している。ファッション写真には一切のレタッチが禁じられているという『PYLOT』は、飽和状態にある雑誌界にあってひときわ異色を放っている。「既成概念を押し広げていきたいという思いももちろんあるけれど、新しいモノを作り出していきたいとも思っているんだ」と2人は話す。「幅広いルックスや体型を祝福するような雑誌でありたい。素人やモデルの卵みたいな人たちを起用することは重要だと考えているよ。彼らは『PYLOT』において、人間を人間たらしめる"正常性"の象徴だからね」。ニック・ローガン(Nick Logan)の雑誌『The Face』に宿る偶像破壊の精神に則った『PYLOT』。その革命的な内容は、「紙媒体もアナログのフォトグラフィーも廃れていくだろう」などと言う人々への挑戦状のようだ。「そこに求めるひとがいる限り、何事も終わったりしないってことを証明したいね」と彼らは言う。

Jasmine Raznahan, Noon
これまでどんな人たちが『Noon』誌に寄稿してきたかって?『Noon』制作に関わっていないクリエイターの名前を挙げるほうが難しいだろう。『Noon』はこれまでに、ビッグネームからアンダーグラウンドのアイコンたち、そして未来のアイコンとなるであろうアーティストにいたるまで、ほぼすべてを網羅している。まだコラボが叶っていないひとは?と訊くと、『Noon』の編集長、ジャスミン・ラズナハンは、「ロン・ネーグル(Ron Nagle)ね。彼は偉大な陶芸家よ。どう取り上げるのが良いか判断が難しいけど、なんとかなるでしょ」と冗談めかして言った。ジャスミンは、アート・ディレクターとして経験を積んだ雑誌『Pop』を辞めて『Noon』を立ち上げた。「既存のどんな雑誌にも、私は魅力を感じることができなかったの。友達の多くがアートやファッションの世界で素晴らしい作品を作り出しているのに、それを発表する場がなかった」。そこで、彼女はファッションとアートがオーバーラップする空間として『Noon』を立ち上げたのだ。「そのふたつは同じような方法で作られている」とジャスミンは言う。「アーティストを招いてファッションストーリーを制作する、もしくは商業的な分野で活躍しているカメラマンにビジュアルエッセイを撮ってもらう。こうしたやり方だと、とても面白いものを読者に提案できるの」。『Noon』は、紙媒体の贅を堪能できる雑誌でもある。ジャスミンは、デジタル全盛の今、人々がウェブ上で存在感をアピールする手を少し休ませ、「一息つく瞬間」を雑誌が提供してくれればと考えている。しかし彼女のユニークなアプローチは、一息つく瞬間をはるかに超え、どこか永遠とすら感じるようなものを作り出している。

Ione Gamble, Polyester
力強く、政治的で、純粋なフェミニスト雑誌『Polyester』は、自身のことをよく理解している女性のための雑誌だ。創刊したのもまたフェミニストである。アイヨーン・ギャンブルは、「メジャーなファッション雑誌のフェミニズムの扱いに不満があったの。どのファッション誌でも、フェミニズムは"キュート"で"低俗"で"楽しい"ものとして扱われていた。フェミニズムの政治的な側面を紹介している雑誌は皆無だったの」と、雑誌創刊の経緯を話す。当時、若干22歳のアイヨーンが創刊した『Polyester』は、彼女が自身を投影できる人々への支持を表すために作られたのだという。『Polyester』のキャッチコピー「Have faith in your own bad taste(自分の悪趣味を信じて)」に込めたのは、現代のソーシャルメディアにおける性的マイノリティやフェミニストのあり方への提言、そして「ファッション業界内で、フェミニズムが一層受け入れられる環境を」という思いだ。財政的な厳しさに常に悩まされ、『Polyester』存続のために2~3の仕事を掛け持ちしなくてはならないのが現状だが、支持者は着実に増えている。「なんの制限もなく、私が信じるままに作っている。取り上げたい人を取り上げることができて、好きなだけ政治的に、好きなだけ言いたいこと言って、好きなように振舞って、訴えるべきことを訴えるのよ」。ティアラを冠したタヴィ・ゲヴィンソンを表紙に起用した4号が発売されたばかりの『Polyester』。「インターネットの登場によって、雑誌はタイムリーである必要がなくなった。いま雑誌にできることは相違点を示すことで、それが今後、雑誌の向かうべきところなのかもしれない。よりニッチな視点を示すことよね」

John Holt and Joe Prince, LAW
編集者のジョン・ホルトと、クリエイティブディレクターのジョセフ・プリンスは、2011年に『LAW(Lives And Works)』を立ち上げた。現在7号までリリースしている『LAW』は、イギリスのモダンライフを新たな視点から切り取った作風で、ノスタルジアもありながら、そこに新しいクリエイティブなビジョンを模索している。人には言えない隠された趣味、荒削りなストリート感覚、そして時代を経ても色褪せない、遊び場と酒のロマンスの関係から生まれた雑誌だ。『LAW』は、「イギリスカルチャーの裏で脈々と流れる美しいもの……光を当てられるべきひとに当てること」をモットーとしている。これまでに肉屋、観光客、サッカー選手、ボクサーなどを特集し、サブカルチャーにおける古き良き男性らしさを打ち出している。サブカルチャーの黄金期を実際に経験しながらも、それを現代に落とし込める、心の若さを持っている人々のための雑誌なのだ。ラジオで流れるドラムンベースのミックス音源をカセットテープに録音していたが、今はmp3で保存できるひとびとに向けた雑誌、昔を懐かしみながらも前を向いて生きることができる人々のための雑誌なのだ。「今という時代を表現して記録する」と彼らは話す。「そして同時に新たな時代を築いていくというのが大切なんだ」。『LAW』は、新たな時代のクラシックな雑誌だ。

Credits


Photography Jack Davison 
Text Lynette Nylander and Felix Petty
Grooming Teiji Utsumi at D+V Management using Bumble and bumble
Photography assistance Adama Jalloh
Grooming assistance Waka Asachi
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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