写真家が語るAIDSと90年代NY

写真家イネス・ヴァン・ラムスウィールドが、AIDSがクリエイティブ・コミュニティに残した傷痕、そしてAIDSに関する議論が今改めて重要である理由を語ってくれた。

by Emily Manning
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12 October 2016, 8:50am

「ニューヨークでは現在、AIDSが25歳から40歳の男性の死因トップとなっており、ウォール街のエリートから有名アメリカンフットボール選手にいたるまで、職種を問わず多くのひとびとがこの性感染症に感染している。しかし、ファッションやインテリアデザインを含むアートの世界での感染と蔓延は、他のどの業界よりも顕著だ」。マイケル・シェヤーソン(Michael Shayerson)は『Vanity Fair』誌でこう書き、ニューヨークのクリエイティブ界の未来を担う世代にAIDSがどれほどの破壊力をもち衝撃を与えているかを明かした。世界にAIDSパンデミックが巻き起こった暗黒の1987年——のちにファッション界きっての人気フォトグラファーとなるイネスとヴィノードが組み始めてわずか数ヶ月しか経っていない1987年——に書かれた記事だ。

イネス・ヴァン・ラムスウィールドとヴィノード・マタディンはこれまで、長きにわたり寄付や作品寄与などを通して、AIDSの研究に取り組むNPO団体ACRIAを支援してきた。「イネスとヴィノードの活動は"生きることへの祝福"がベースとなっており、私たちが使命として掲げる活動と共鳴している」とACRIAの常任理事を務めるベンジャミンは話す。2015年12月、同団体が主催するクリスマスディナーで彼女たちふたりの功績を讃えるセレモニーが開かれた。i-Dは、若い世代がなぜコンドームを使ったセーフセックスを心がける必要があるのか、イネスに話を聞いた。

80年代中盤から創作活動を続けているわけですが、HIV/AIDSをめぐる文化的な環境や議論は当時どのようなものだったのでしょうか?
私とヴィノードはアムステルダムに育って、1986年に共同制作を始めたの。私はまだアート学校の生徒で、ヴィノードはアート学校を卒業したばかりだった。大人になりたての数年は、自分とは異なる文化に身を置く人たちと知り合って、新しい世界を知るようになり、自分が成長していくわけよね。ヴィノードと出会って開けた世界に、HIV/AIDSがまるで闇のように忍び込んできていた。真っ黒な雲が文化的生活やクラブライフに染み入ってきたように感じたわ。当時、HIV/AIDSは謎につつまれた現象で、ほとんど情報もなかった。あの頃、私たちは様々な人とHIVについてよく話したわ。アムステルダムの年上のアーティストたちも私たち若手アーティストにHIV/AIDSについてたくさんのことを教えてくれた。HIVに感染した人と実際にあったりもした。あの頃、すでに多くの人たちがAIDSで亡くなっていたわ。
それと、写真家のロバート・メイプルソープも人生と作品を通してHIVについて多くのことを教えてくれたわ。メイプルソープの作品との出会いが、私にもっとも直接的にHIVへの知識を深めてくれたと思う。作品に感動しながら、同時にそこに込められたものを学ぶことができたから。文化的視点から、そして写真家としての成長の観点から、私はメイプルソープに多くを学んだと思う。私にだけじゃなく、フォトグラフィーの世界にだけでもなく、彼はダンスの世界やクラブシーンでも大きな影響を与えた偉大なアーティストだった。

あなたがニューヨークに移り住んだのはAIDS危機が世界を襲った何年も後のことではありますが、自身が移り住んだとき、HIVに関する文化や議論に変化というものは見られたのでしょうか?
私たちがニューヨークに移ったのは1995年、そうね、AIDSが猛威をふるってから約10年経っていたわ。あの頃、私たちはなんとなく、「HIVは感染しても死に至る病気じゃなくなった」と信じていたのよね。陽性者の友人はみな、カクテル療法をはじめ新しい治療法が効果を見せていると口を揃えて言っていたし、死への恐怖も薄らいだと話していたから。でもその後、その頃の楽観が必ずしも正しいものではないと悟ることになったの。情報も治療法も飛躍的な進歩を遂げたのは確かね。でも日々大勢のひとがAIDSで亡くなっていたし、今でも亡くなっているのよ。私とヴィノードが初期作品のよく組んでいた美容師が、そのころに亡くなった。あの時代は、HIV感染に関して口にすることが憚られる空気があった。彼も私たちにHIVに感染したことを明かしていなかったしね。HIVに関する話をすれば、友達はみな「いろんな治療法が開発されてるから」と言っていた。でも美容師の友達は亡くなった。今でも「毎日薬さえ飲んでいれば普通に長生きできる」と過信するような風潮が一般的にあるように思える。でもそうじゃないのよ。

ACRIAは、致命的な誤解を社会からなくし、HIV感染者の生活を改善するための活動について語っていますよね。何があなたとヴィノードをACRIAとの関係へと突き動かしたのでしょう?
ACRIAがニューヨークの文化的コミュニティとアクティビズムに深く根付いた活動を行なっているという点に、私たちは共鳴しました。これまで多くのクリエイティブな仲間をこの病気に奪われてきた特定のコミュニティのために、ACRIAは資金を投じ、ワークショップやプログラムを数多く開催している。そしてHIV感染者のためにケアや情報を提供している。ACRIAの文化的背景は素晴らしいし、彼らの活動もまた素晴らしいの。

一般的な観点から、なぜ今HIVについて語ることが重要だと思うのでしょう?
私たちは20代前半の若い人たちと出会って、多くの若い女性を被写体に写真を撮っているでしょう? するとね、彼女たちの多くが「妊娠したかと思った!」って冗談を言ったりするの。そこにある危機は妊娠や中絶に限ったことじゃないのに、彼女たちはそうしたことに対して恐怖を抱いていないみたいで、私はそこに恐怖を感じるの。だから彼女たちに「パートナーには絶対にコンドームをさせなさい」って教えるの。みんな心のどこかで病気への恐怖は感じているとは思うけど、セーフセックスの必要性の訴えるメッセージはかつてのような効果を失っているように感じる。もっとその必要性を訴えなきゃ。コンドームを使うということは絶対条件なのだと伝える情報啓蒙が今改めて必要だと強く思うわ。

本当にそうだと思います。キース・ヘリングはAIDS擁護の立場とセーフセックスを作品の主題として扱い、またTLCはコンドームをアクセサリーとして身につけることで若い世代への話題喚起を行ないました。同じように、あなたがたはリアーナとMACの広告を作成するなどしてセーフセックスへの啓蒙に参加してきましたね。
そう、リアーナとのMACビバグラムの広告は、そういった意味でとても重要なものだと思っている。リアーナやマイリー・サイラスをはじめ、若い女性たちが尊敬し耳を傾けるアーティストたちが、重要なメッセージを代弁してくれる。本当は彼女たちがもっとはっきりと現実を口にできたらと思うけれど、それは難しい話なのかもしれない。現代はなんでもかんでもタブーにされてしまう社会だから。プレイボーイ誌はヌードを載せなくなっているのに、一般人が一般人のセックステープを見ることができる世の中よ。若い世代にセックスを語るのは難しいことだけれど、みんなにセックスと健康についての明確な情報を確実に伝達する方法は、どこかに必ずあると信じているわ。

NPO団体ACRIAについて詳しくはこちら

Credits


Text Emily Manning
Image courtesy Inez and Vinoodh
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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