混乱から紡がれる最高の音楽:リトル・シムズ interview

「20代がこんなに辛いとは誰も教えてくれなかった」──ロンドン出身のラッパーはそう言った。

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nov 28 2018, 8:53am

9歳からラップを始めたロンドン出身のリトル・シムズ。ケンドリック・ラマーやローリン・ヒルから絶賛され、ゴリラズと共演も果たした、 八面六臂の快進撃を繰り広げる24歳だ。2016年の英MOBOアーワドで〈最優秀ヒップホップ・アクト〉と〈最優秀女性アクト〉の2部門でノミネートを受け、フォーブス誌の選ぶ “30歳未満の30人の欧州アーティスト” にもランクイン。早くから高まる期待に応えるかのようにスター性を身につけ、海を渡ったアメリカでも一目置かれる存在となった。ほぼ完成しているという2019年発売予定のニュー・アルバムで、いよいよあまたの若手ラッパー軍からイチ抜けしそうと囁かれる。

そんな活況にも関わらず、24歳になった彼女は、今の自分の状況を「混乱そのものだ」と吐露。バカルディ主催のイベント『BACARDÍ “Over The Border”』のため来日を果たし、大盛況となったステージを終えた翌日、雨の渋谷で話を訊いた。

──初来日だったTAICOCLUB'17以来の日本ですね。

前回は確か去年の5月。今回のイベントは規模が小さかったけど、オーディエンスのエナジーっていう点では変わらなかった。来てくれた人たちのエナジーが素晴らしくて、私の音楽を愛してくれてるのがよくわかった。言葉の壁があるのはわかってる。でも、そんなことが関係ないほど、私の“音楽の言葉”を理解してくれてた気がする。

Little Simz

──言葉の壁はリスナー側にとっても悩ましい問題。どんなふうに対処していますか?

なんとか上手く……そう、確かに壁なんだけど、些細な問題でしかないとも思ってる。もちろん、私の言ってることを全て理解してくれるのがベストだけど、そうでなかったとしても、きっと言いたいことは伝わっているはず。私が全力でオーディエンスにエナジーをぶつけると、ちゃんとその分みんなからも返ってくる。「Put Your Hands Up!」と叫べば、みんなそうしてくれる。ロンドンでやっても全員が私のリリックを理解してるとは思えないし(笑)。

──でも最近のアメリカ人のラッパーたちから比べると、あなたのラップは比較的聴き取りやすいかと。そのあたりは意識してのこと?

聴きとりやすいと言われるのは嬉しいな。私はホントに言いたいことをリリックにしているから。これまで長年ラップをやってきて、言葉を磨いてきたという自負がある。できるだけクリアにラップしたいと心掛けているし、そしてダイレクトに伝えたいと思っている。

──スラングは控えようとか、できるだけ外国人にもわかる言葉を使おうとかいった配慮は?

そこまで深くは考えてない。いったん書いたリリックを見直して「う〜ん、これじゃみんなに理解してもらえない」とは考えない。だって私がそう感じて言葉にしたのであれば、紛れもなくそれが私の言葉。ロンドン生まれ、ロンドン育ちの私の感性ってこと。

──それ大切ですよね。

でしょ? 私もそう思う。すごく大切なこと。守らなきゃ。

Little Simz

──9歳からラップして、現在24歳。年齢と共に関心のあること、取り上げたいテーマも変遷していった思うのですが、何が大きく変わったと思いますか?

女性として成長したことが大きいかな。社会の中にいると、ちっぽけだと感じさせられることって多いと思う。でも、私はそうならないように注意しながら、どうにかこうにか自分の道を切り開いてきた。その時々の私の考えや人生をラップで表現し記録してきた。私自身は、ごく普通の女の子。どこにでもいるロンドンっ子だから共感も得られるはず。他のアーティストは名声やお金のことばかり曲にしてるけど、私は自分の人生の足跡を曲にしている。

──成功と共にお金や煌びやかなライフ・スタイルも付いてくる。そういうことにうつつを抜かさずにいられる秘訣は?

きっと親のしつけのおかげ。他人を敬いなさいと教えられてきて、そういうことには価値を見出せない。もちろんフツーに悪い子だったこともある、反抗期ってあるでしょ。その時は幸せじゃなかったし、友達にも恵まれていなかった。でも、24歳になった今もわからないことだらけ。これからも間違いはいっぱい犯すと思うけれど、この仕事をしていると世界中を見ることができるし、音楽ビジネスのいろんな側面も見てきた中で、私にとってそういうのはリアルじゃない。でも、私も音楽業界の一員だから、そういう側面ともいつも隣り合わせ。だから深入りしないことが大切ね。

──大人になるにつれて見えてきた、女性としての問題というのは?

そうね、すごく多い。増えてきた。女性らしさとは一体何なのかを考えさせられることも多くある。特に24歳という私の今の年齢は、まだ若いけど、成熟した女性への過渡期でもあり、とても微妙なタイミング。例えば実家を出て自立しなきゃとか。自分で全て責任持って生活しなければならない。実際にはまだ母親と一緒に住んでて、修行中なの。余計に大変なんだけど(笑)。

──男性と比べて女性だから大変なことは多いと思う?

それは事実でしょ。私ひとりの見解じゃないわ(笑)。でも女性だからいいこともあるわけで、要はバランスよね。ただ女性の方が大変なのは確か。それが自然の摂理でしょ。でもなんとか折り合いをつけて、強くなろうと努力している。

──#MeTooムーブメントに関しては?

私は何に参加・賛同するかは、注意深く選んでいる。たとえば “女性(フィメール)ラッパー” という呼び名を、私はとても不快に思う。馬鹿げてる。男性だったら、わざわざ “男性(メール)” なんてつけないでしょ。男性シェフ、男性サッカー選手とかって。そういう観点から私のことをフェミニストと見る人は多いかもしれないけれど、私自身はフェミニストという看板を振りかざしはしない。その部分だけ強調すると、かえってそこに囚われる。

──ヒップホップは敵が多いし、ビーフの世界……。

私は門外漢よ。オールドスクールだから。勿論ヒップホップはマイク・バトルが基本だし、競争心に則っているのはたしか。それは理解している。でも私はそういうのとは異なるヒップホップ・アーティスト。その気になればできると思うけど、何に突き動かされてるかが明確に違うと思う。人によってはディスられて、やり返すのが原動力。でも私は違う。将来的にはわからないけど、今の私はディスより、インスパイアに魅力を感じる。自分のストーリーを伝えることに全力を注ぎたい。

Little Simz

──次のアルバムはどんな内容になりそうですか?

成熟した統一感のあるアルバムだと思う。前作『Stillness In Wonderland』はドリーミーでコンセプチュアルな作品だったけど、新作は全然違う。もっとソウルっぽくて、ヒップホップのエッセンスがたっぷり降り注がれている。生楽器による演奏だから、全てが生々しいの。10歳くらいの時に私が作ってたような感じかな。すごくハングリー。

──なぜそういう方向性にいこうと?

アルバムの中でもラップしているんだけど、20代がこんなに辛いとは誰も教ええてくれなかった。すごく混乱しているの。10代より20代のほうがずっと大変だと思う。10代は親元で過ごして、クールかどうかだけ気にしてれば良かった。20代はそんな生易しいものじゃない。自立しなきゃいけないし、音楽のキャリアもあるし、そのうえまだ自分がどういう人間かも全然理解していない。そんな大混乱のなかで、いろんなことが同時進行している感じ。でも素晴らしい音楽は、最悪だったり不幸な状況から創造されるでしょ。失恋から生まれることも多い。四六時中クリエイティヴでいたいと思ってるから、だんだんわかってきた。

Credit


Text Hisashi Murakami
Photography Jus Vun