Photography Mitchell Sams

華麗なる幸福:VALENTINO 19SS

ピエールパオロ・ピッチョーリはクチュールの夢を手にし、それを高尚なリアリティへと落とし込んだ。

by Steve Salter; translated by Ai Nakayama
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10 October 2018, 12:07pm

Photography Mitchell Sams

泣けるほどの美しさで観客の胸を熱くさせた18-19秋冬クチュール・コレクションに続く今シーズン、ショーの最後に登場したピエールパオロ・ピッチョーリは、スタンディング・オベーションを一身に受けた。旧態依然としたものづくりに固執するファッション業界を覆うホコリを一掃するような、Valentinoの2019年春夏コレクション。

クリエーションの可能性をよみがえらせたいという想い、それが、今シーズンの傑出したショーにおけるテーマだ。Marniのフランチェスコ・リッソは、完成途中のクリエイティビティを称え、目の覚めるような鮮やかなコレクションを披露。Loeweのジョナサン・ウィリアム・アンダーソンは、ものづくりが内包する美と官能を堪能し、Comme des Garçonsの川久保玲は新たなアイデアを生み出し、渡辺淳弥はロマンスを原動力とする新旧混淆したハイブリッドなドレスを発表。私たちが目撃したのは、ファッション業界のシステムに対するクリエイティブな反抗、クリエイティブプロセスへ注力するデザイナーたちの姿だった。社会政治が荒れに荒れている現代の世相を反映しているのか、止まらない勢いで加速していくファッション業界への直接的な抵抗なのか、あるいはもっと単純に、新しい仕事のやりかたを提案しているのか、その意図は様々だが、世界屈指のクリエイターたちはみんな、似たような答えにたどり着いている。

Valentinoのショーノートはこう告げる。「本来の自分であるための自由とは、この瞬間に存在するという行為である。どちらに転ぶかわからない現在において、重力の中心を探し求めること、それはつまり自分自身の内なる宇宙を探検すること。本来の自分でいることが許され、ユートピアが実現する、流動的な場」

2019年春夏コレクションで、ピエールパオロ・ピッチョーリはクチュールの夢を手にし、それを現実的な、それでいて高尚なリアリティへと落とし込んだ。ボリュームのある袖や、肩のラインに沿って落ちる彫刻的なシルエットは顕在だが、ピッチョーリは今の時代に求められている軽量感や可能な限りの着やすさを取り入れた。エフォートレスでありながら丁寧につくられたオールブラックのドレスでクリステン・マクメナミーがオープニングを飾ったその瞬間から、この場所で何か特別なことが起きているのは明白だった。そして最後のスタンディング・オベーション。パリの名門ブランドのデザイナーたちが、現在の女性のリアルクローズにどれくらい寄り添えるか、という疑問が、今シーズンは盛んに呈されたが、あの会場には、そんな疑問の余地はなかった。

オールブラックではあるが、葬式のような陰鬱さはない。むしろクチュールの未来を寿ぐ祝祭だった。真っ黒な色調のなかに、クラシックなValentinoレッドや、名門ブランドの高級感溢れる復刻版インテリアプリントが差し挟まれることで、ピッチョーリの小物使いの才能が改めて示された。しかしオールブラックのコットンキャンバス生地が実現する混じりけのなさ、そのなかでこそ、シルエット、カット、器用さにおける彼の真の技能が最大限に発揮されていた。

ピッチョーリは、クチュールの夢をリアルクローズに落とし込んだが、それでも私たちは、i-D UKの最新号で表紙を飾ったアドゥ・アケチがまとうクロージング・ルックの夢を視るだろう。この1体だけでも、スタンディング・オベーションの価値がある。

Credits


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This article originally appeared on i-D UK.

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