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      fashion Steve Salter 15 June, 2017

      「主張がなければ、それはただの服」:ロンドン・ファッション・ウィーク・メンズ day1

      イギリスの総選挙での若者たちによる声高な主張は、政治の世界を超えて大きく社会を動かした。ロンドン・ファッション・ウィーク・メンズの初日、ファッション界は若き世代が持つ力を祝福した。

      Tourne de Transmission spring/summer 18

      Tourne de Transmissionのプレスリリースには、レナード・コーエンの「Anthem」から、今季のメンズを如実に物語る言葉が引用されていた。「どんな物事にも隙間が生じる。そこから光が差すのだ」と。イギリスのEU離脱が決まって1年、ポストトゥルースの時代に突入し、国民の生活が困窮を深めるなか、Tourne de Transmissionは多くのロンドン出身メンズウェア・ブランド同様、明るい未来を心に描いてきた。今回の総選挙で、イギリスのジェネレーションZ世代は、初めて政治の世界で意見を主張して現実に亀裂をつくり、そこから光を差し込ませた。

      「これまで現実に起こった素晴らしい変化を見てみると、そのほとんどが権力側からもたらされたものではなく、権力側へのプレッシャーから生まれている」と、労働党のジェレミー・コービンは、i-Dが独占取材したJMEとのインタビューのなかで語っていた。イギリスの若い世代がますます政治参加の姿勢を強め、今回、政府は想定外の角度から大きなプレッシャーを感じたはずだ。投票開始時に発表された「18歳から24歳までの投票率77%」という数字は、それを実証する手立てこそないものの、世論調査会社や政治コメンテーターたちは、「イギリスの未来を動かす力が政治参加意識の高い若者世代に潜在している」と口を揃える。イギリスの若い世代は、「政治に対する無関心と不参加が顕著」として知られてきた。しかし現在では、行動の実行と変化への渇望を原動力として、燃えているようだ。そして、今季ロンドンのメンズウェア・デザイナーたちは、「政府やメディアの情報を疑ってかかれ。信じるもののために立ち上がれ。若者たちに働きかけろ」と、強く訴えていた。

      Tourne de Transmission spring/summer 18

      「このコレクションは、僕たちが刷り込まれてきた情報についての考察から生まれた。間違った情報が横行する時代への反発なんだ」と、Tourne de Transmissionのデザイナー、グレアム・ゴーハン(Graeme Gaughan)は、ショーのバックステージで説明した。「政府もメディアも、情報を自分たちの思惑に沿った、都合の良いものに変えて発信している。ほとんどがクズ。でも、少なくとも昨夜の投票結果は希望の光になった」。ファッションに政治は動かせない。しかし、いまは政治についての議論にだんまりを決め込むべき時代ではない。「主張がなければ、それはただの服になってしまう」とゴーハンは付け加える。「意思表示ができるプラットフォームを持っているのに、そこでポジティブなことを発信しないのは宝の持ち腐れ」。政治家たちの嘘と虚偽のニュース、そして公人たちによる誤った言葉の解釈が横行する世の中に憤慨したゴーハンは、政策や政治、そしてメディアにおいて透明性が欠如している現状について、コレクションで問おうとした。それは「アウターの定番アイテムに、透明な素材を重ね合わせていく」という手法で表現されていた。さらに、アイテムにはさまざまな単語が配されており、着る者がそれぞれの主張や意見に合わせて言葉の組み合わせを変えられる仕掛けもほどこされていた。何を疑い、何を世に問い質すかを、着る者が決めることができるのだ。「どのアイテムにもキットが付いてきて、購入してくれたひとは、自分で組み合わせた言葉を着ることができる。僕の意見を押し付けるんじゃなくて、着てくれる人が言葉の組み合わせを決めることができる。単語のチョイスは僕によるものだけどね。ひとがそれぞれの意見を持つことは大切——そして、実際にひとびとは今、意見を固めつつあると思う。昨日の投票結果は、若者世代が『もうたくさんだ』と意思表示をした結果。彼らは今立ち上がり、声高に意見を主張してるんだ。これは始まりでしかない」

      Liam Hodges spring/summer 18

      「僕たちは声を上げ始めている。若者たちの声が轟いているんだ」と、「Unveiled Tomorrows」と題したショーを発表したばかりのリアム・ホッジズ(Liam Hodges)も、ゴーハンの意見に同意する。現代社会に絶え間なく響き渡る雑音への反動として、ホッジズは、彼の服に触れるひとに"意志を主張しよう"と背中を押している。「虚実の混じった情報の洪水から学ぶことが試練で、そこでだれかの真似をするのではなく自分らしさを保つことが戦いになる——それが現代」とホッジズは付け加えた。今回ホッジズが発表したアイテムには、「NOISE」の文字がおどり、ムンクの『叫び』を模した"叫ぶテディベア"もショーに登場した。「このテディベアが象徴するのは、可愛くなりたいのに現実世界がそうはさせてくれず、破綻に追いやられている若者世代。だけど、抱き心地のよさを"弱さ"と取り違えちゃダメだよ。このテディベアには歯がついているんだからね!」若者たちが、テリーザ・メイ首相によるイギリスEU離脱の案を打ち崩した今、ホッジズは今の若者世代を体現するマスコットを作り出した。

      Liam Hodges spring/summer 18

      ミュージシャン、ZINEを作るひと、車の改造業者、無政府主義者の偵察者まで、多彩なひとびとをごちゃまぜにしたホッジズの世界観は、幅広いサブカルチャーをコラージュしたような、壮観の作品群となった。そして、DIY精神を強く打ち出し、期待と想像をゆうに超えた世界観となった。会場にはガイカの「God Save The Roadmen」やインテグリティ(Integrity)の「Unveiled Tomorrow」が流れ、ホッジズに背中を押された男たちが立ち上がった。「今回のコレクションはトラックスーツを着るだけじゃ飽き足らず、より自由な仕事環境を求める男たちに捧げた作品」と、ホッジズは話す。「もっと歳をとったときに着たいと自分でも思えるような服を作りたい」。ホッジズが"柔軟な仕事世界"を描く一方で、北京出身デザイナーXander Zhouは、「Supernatural, Extraterrestrial & Co.(超自然派、宇宙派とその一味)」と題して地球外のオフィス環境を作り出し、これまたビジネスの要素のあるコレクションを作り出した。伝統的なテーラリングを自在に扱い、ワークウェアの実用性を遊んでみせる。Zhouが作り出す服は、新しい世界のための服のようだった。

      Berthold spring/summer 18

      Bertholdの2018年春夏コレクションは「男性性」と「衝突」を探求したものだった。デザイナーはアフリカのシエラレオネ、ウガンダ、リベリア、ナイジェリアに存在する少年兵たちの写真に衝撃を受け、少年が大人の男性に、戦争がもたらす絶望が生きる喜びに変化する世界を追求していた。「少年兵たちの写真と出会ったんだ。彼らは大人になる段階を目前に控えている。大人の男性に変化していく彼らが今いるのは、とても残酷で暗い場所。だからこそ、彼らの未来になにかポジティブなものを想像し、見せていくことが重要だと思った。人類はひとつ——そして時代は進化する」。オーバーサイズのテーラリングから、鮮やかな色のブロックが描く大きな柄まで、このコレクションもまた、若者世代の輝きに宿る、明るい未来像を讃えたコレクションとなった。

      Berthold spring/summer 18

      メンズのロンドン・ファッション・ウィーク第1日目が若々しい楽観的なムードに溢れるなか、フィービー・イングリッシュ(Phoebe English)は、若い男性たちを支えていく上で、いまだ多くの課題が残されていることを思い出させてくれた。「感じていることを男性が主張するのを良しとしないこの社会には、さまざまな問題が残っている」と、陶器をテーマとした展示会の会場でイングリッシュは話す。「普段わたしたちは男性に、彼らが何を感じているのか訊こうとしない。でも訊いてみる必要があると思います。メンズウェアのデザインするようになって、男性たちを様々な視点から見るようになりました。現実には、わたしたちに刷り込まれている男性像には収まらないような、色んなタイプの男性たちがいます」。生地とフォルム、そして加工の技法を巧みに使ったメンズウェアを通して、イングリッシュは男性のさまざまなあり方を肯定している。「このショーが総選挙の翌朝になるとわかって、安全で魅惑的で、楽観的なものにしたいと思いました。わたしの男友達の多くが、『静かでリラックスした心持ちになれるから』と陶器をつくっている。しばしのあいだ、現実を忘れ、自分自身を取り戻す感覚が得られるそうです」。テリーザ・メイ首相を生んだ前回の選挙以降、イギリス国民は現実逃避を求めてきた。今回の総選挙の結果を受け、わたしたちは以前ほどの現実逃避を必要としなくなったわけだが、積極的に未来を動かしていこうとする情熱の大切さは浮き彫りとなった。

      Phoebe English spring/summer 18

      Credits

      Text Steve Salter
      Photography Mitchell Sams
      Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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      Topics:fashion, fashion week, london fashion week mens, tourne de transmission, liam hodges, berthold, phoebe english, spring/summer 18

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