ブラック・ライヴズ・マターを考えるための映画・本10選

今世界中の注目が集まっているBlack Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)運動。そこにはどんな背景、複雑さがあるのか? お財布にも優しく、アクセスしやすい本・映画・ドラマ10作を紹介。

by Sogo Hiraiwa
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10 June 2020, 8:00am

先月ミネソタ州ミネアポリスで発生した白人警官によるジョージ・フロイド殺害をきっかけに、2013年に発足した「Black Lives Matter(黒人の命を軽んじるな)」運動が再燃している。一週間以上にわたり、全米各地で抗議デモやマーチがあまた開催され、ヨーロッパやアジアの各都市にも連帯を示すアクションが広がっている。

i-Dでは先週、オンラインで寄付できる現地のチャリティ団体や基金のリストを紹介してきたが、ここではブラック・ライヴズ・マター(BLM)がどのような文脈で立ち上がってきたのかを知り、差別の否定だけではすまない「制度的なレイシズム」を考えるためのきっかけとして、本・映画・ドラマ10作を紹介する。

歴史学教授のケビン・ギャノンは『13th』のなかで、次のように発言している。「人種問題や歴史的背景に無知なままでは、黒人と警察の関係について議論できない」

『13th 憲法修正第13条』(2016)

時間がない人はとりあえずこれ。映画や政府によるプロパガンダによって、黒人たちを治安を脅かす「犯罪者」としてスティグマ化してきた米国の構造的差別の変遷を100分に収めたドキュメンタリー。奴隷制こそ1865年に廃止されたものの、人種隔離や大量投獄といったかたちで黒人差別が現在まで続いていることが、豊富なフッテージや専門家たちによって明らかにされていく。麻薬(戦争)のキャンペーンですら黒人の悪魔化に利用されていたというから驚きだ。「アメリカの歴史において司法機関が黒人の味方だったことは一瞬たりともなかった」というケビン・ギャノンの言葉は重い。またハーバード大学の歴史学教授、ヘンリー・ルイス・ゲイツJr.は次のように語っている。「公民権運動のもっともすばらしい功績のひとつは、犯罪の意味を変質してみせたことです。本来悪夢のような体験である逮捕が、そこで初めて高潔なものになった。自発的に逮捕されることを活動の一環にしたのです」。現在のBLMもこうした過去の運動の蓄積のうえに成り立っていることを今一度意識しておきたい。(Netflixで視聴可、現在はYouTubeでも日本語字幕付きで無料公開中)

『ウォッチメン』(2019)

アラン・ムーアによる伝説的なアメコミ原作『ウォッチメン』を下敷きにした9話完結のリミテッド・ドラマ。舞台は、過去と未来が同時に見えるDr.マンハッタンによって核戦争の危機を回避した2019年のアメリカ。しかし、レイシズムは水面下で残存しており、マスクを被った警官の主人公たちは、陰で渦巻く巨大な陰謀に翻弄されていく。第一話は、1921年にオクラホマ州タルサで起こった「タルサ暴動」から幕を開ける。当時「黒人のウォール・ストリート」と呼ばれるほど繁栄していたタルサのグリーンウッド地区を、KKKなどを中心にした白人たちが襲撃し、300人以上の犠牲者を出したというこの事件が、一体どうストーリーに絡んでくるのか。そもそもヒーローがマスクで顔を隠すのはなぜか。もしそれがその人の属性と関係していたとしたら? 一気見必至。(Amazon Prime内のスターチャンネルEXもしくはDVD・ブルーレイにて視聴可能。YouTubeとGoogl Playは吹き替えのみ)

『デトロイト』(2017)

1967年のデトロイト暴動の最中で発生した「アルジェ・モーテル事件」を緊張感たっぷりに描いた力作。モーテル内で40分間にわたって続けられる白人警官による尋問・暴行シーンはまさに悪夢、だが臨場感のあるカメラワークによって、見ているこちらもその場に居合わせているかのような気さえしてくる。監督のキャサリン・ビグローは『ガーディアン』紙とのインタビューで次のように述べている。「ジェームズ・ボールドウィンは『対峙しなければ何事も変えられない』と言いましたが、アメリカには人種(問題)の現実に目を向けようとしないラジカルな欲望があるようです。だから同じような事件が繰り返されてしまうのです」。本作で主演を務めたジョン・ボイエガは、先日ロンドンで行われた抗議デモにて声を枯らしてスピーチをしている。(Netflix、YouTube、Google Playにて視聴可能)

ブラック・フライデー, ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー, 押野素子, 駒草出版, ブラック・ライブズ・マター
『ブラック・フライデー』(ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー 押野素子訳 駒草出版)

ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー『ブラック・フライデー』

『ニューヨーク・タイムズ』紙からも高評価を得ている注目の新人作家ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤーが27歳で書き上げたデビュー作。ケンドリック・ラマーのリリックがエピグラフに引かれているこの短篇集では、現代のアメリカで暮らす黒人たちの心理が、Netflixの「ブラック・ミラー」的ともいえる近未来SF的な設定のなかで活写されている。抜群のストーリーテリングでぐいぐい読まされるし、シュルレアルな設定とブラックなユーモアには思わず笑ってしまうのだが、いくつかの作品のなかで主題化されている〈暴力〉が現実社会を反映したものだと知ると、呑気に笑ってもいられなくなる。「フィンケルスティーン5」と「ジマー・ランド」の2篇は、BLM運動のきっかけとなった2012年のトレイヴォン・マーティン射殺事件が直接のモデルになっているという。

世界と僕のあいだに, タナハシ・コーツ, 池田年穂, 慶應義塾大学出版会, ブラックパンサー, 原作
『世界と僕のあいだに』(タナハシ・コーツ 池田年穂訳 慶應義塾大学出版会)

タナハシ・コーツ『世界と僕のあいだに』

人種差別と暴力が横行するアメリカで「黒人の肉体を持って生まれてくるのはどういうことか」を、父から14歳の息子への手紙という形式で綴った全米図書賞受賞のベストセラー。著者は、2016年からマーベル・コミックの『ブラックパンサー』新シリーズのライターとしても活躍しているタハナシ ・コーツ。このBLM時代のジェームズ・ボールドウィンは、NASのリリックに共感しながら、主に白人が享受している「ドリーム」が400年以上にわたる黒人搾取・収奪の歴史のうえに成り立っていることを詳らかにしていく。そうした歴史を知るにつれ、現在アメリカ各地で起こっている暴動や一部で行なわれている略奪もまた違って見えてくる。それは略奪や暴力行為を正当化するものではないにしろ、それらが起こる真っ当な理由にはなっているのだ。白人が黒人の仕業にみせかけて破壊行為を働いている問題とはまた別の話として。

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『ラップは何を映しているのか』(大和田俊之・磯部涼・吉田雅史 毎日新聞出版)

大和田俊之・磯部涼・吉田雅史『ラップは何を映しているのか』

音楽好きならこの一冊。ラップ・ミュージックは政治的だと言われることも多いが、米ラッパーの政治との距離のとりかたも決して一枚岩ではないという、意外なようで当たり前のことを知るための最良の書。BLMについてもしかり。先日アトランタ市長と行なった演説で話題になったキラー・マイクのように直接的な政治行動をいとわないラッパーもいれば、一方ではリル・ウェインやエイサップ・ロッキーのようにBLMには興味がないと公言する者もいる。その多様さと複雑さを無視して、黒人はこういうものだ、ラッパーはこうするべきだ、と型にはめるのであれば、それこそステレオタイプの再生産になってしまうだろう。しかし本書の肝のひとつは、そのステレオタイプとラップのくんずほぐれつの、相互的な影響関係を指摘している点にある。日米のデモやアイデンティティ・ポリティックスをめぐる議論も、今のBLMと日本社会を考えるうえで重要なはず。必読!

March, ジョン・ルイス, 公民権運動, おすすめ, マンガ, ブラック・ライヴズ・マター
『MARCH』1-3巻(ジョン・ルイス&アンドリュー・アイディン作 ネイト・パウエル画 押野 素子訳)

ジョン・ルイス&アンドリュー・アイディン『MARCH』1-3巻

BLMの前史とも言える公民権運動を知るにはうってつけのグラフィック・ノベル。バス・ボイコット、座り込み(シット・イン)、フリーダム・ライド、ワシントン大行進などを経て、1965年の投票権法の制定(それまで南部の黒人たちには選挙権が事実上なかった)に至るプロテストの道のりを、主人公ジョン・ルイスの半生と共に追う。ローザ・パークス、キング牧師、マルコムXなど著名な活動家たちも登場するが、1、2、3巻と読み進めていくと、公民権運動がいかに多くの若者や名もなき人びと(ピープル)によって駆動されていたかということを思い知らされる。そして、それが数えきれないほど多くのアクションや働きかけの連続体であったことを。「かつて公民権運動にたずさわった人びとと、未来の運動をになう若者たちへ」という献辞は、差別がまだ終わっていないことを告げている。

『ボクらを見る目』(2019)

1989年にニューヨークのセントラルパークで起こったジョガー・レイプ事件に基づくNetflixオリジナルのドラマシリーズ。のちに「セントラル・ファイブ」と呼ばれる、ハーレムに住む黒人/ヒスパニック系の少年5人は、たまたまその夜、公園に居合わせたという理由だけで不当に逮捕され、冤罪事件へと発展していく。この最悪の事態を招いたのは、有色人種をパブリック・エネミー(社会の敵)と決めつける世間のステレオタイプだ。監督は『13th』のエヴァ・デュヴァネイ。同監督による、セルマ大行進を描いた『グローリー 明日への行進』もおすすめ。当時新聞に広告を出して、少年たちの死刑を求めていた現大統領のドナルド・トランプも登場する。(Netflixにて視聴可)

レイシズム, ルース・ベネディクト, 阿部大樹, レズビアン, ブラック・ライブズ・マター
『レイシズム』(ルース・ベネディクト 阿部大樹訳 講談社学術文庫)

ルース・ベネディクト『レイシズム』

人種は存在するがレイシズムは無根拠な偏見である、と喝破した古典的名著。人種差別を被るのは黒人だけではない。ユダヤ人も迫害を受けたし、盲信に基づく差別のまなざしは「ジャパニーズ」にだって向けられる。人種(race)についての科学事実とレイシズム(racism)の歴史がコンパクトにまとまっていて、いま日本で起っている移民問題や外国人差別を考えるうえでも参考になるはず。また、レズビアンだった著者ベネディクトが「人種的な少数派だけではなく、より広くマイノリティ全体の側から社会を捉え返そうとして」いる、という訳者・阿部大樹の指摘も重要だ。これはマイノリティの生活を保障することが(マジョリティをを含む)社会全体の公益につながるという「インクルーシビティ」の議論にもつながる話だ。ごつい名前のわりにスマホケースほどの薄さで、翻訳もリーダブル。巻末には〈現代日本のレイシズム〉を乗り越えるためのブックリストも付いている。

マーシャ・P・ジョンソン, ストーンウォール暴動, LBBTQ, 歴史, ゲイバー, ドキュメンタリー

『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』(2017)

今につながるアメリカでのLGBTQ+運動の嚆矢となった1969年6月の「ストーンウォール蜂起」で中心的な役割を果たした黒人トランスジェンダー女性、マーシャ・P・ジョンソンの謎多き死の真相を探るドキュメンタリー。公民権運動のなかで蓄積されていった戦略やワードは、LGBTQ+運動にも受け継がれている。たとえば「シット・イン運動」は「シップ・イン運動」へ、「ブラック・プライド」は「ゲイ・プライド」へ、といったように。社会からの抑圧や警察からの不当な逮捕・暴行の標的になるという点で両コミュニティは共通しているのだ。一方で、黒人コミュニティのなかにあるトランス嫌悪も今回のBLMであぶり出されている。ジョージ・フロイドの死の前後に、同じく警察によって殺害された黒人のトランスジェンダー2人(トニー・マクデイドとニナ・ポップ)はBLM内でほとんど言及されていない。また先日ミネアポリスで行われたBLMの抗議中に複数の黒人男性によるトランス女性への暴行事件が起こり、#BlackTransLivesMatterのハッシュタグが立ち上がった。BLMのなかでも見えにくくなっている側面を知るうえでも、マーシャのドキュメンタリーは重要だ。「黒人」と「トランスジェンダー」という属性がここでは交差(インターセクト)している。(Netflixにて視聴可)

このほかにも映画なら、バリー・ジェンキンスによる恋愛映画『ビール・ストリートの恋人たち』、ロサンゼルス暴動のドキュメンタリー『LA92』、ジェームズ・ボールドウィンの原作でアメリカの人種差別と暗殺の歴史を描いた『私はあなたのニグロではない』、ジョーダン・ピール『ゲット・アウト』&『US/アス』、小説ならドラマ化も決まったコルソン・ホワイトヘッドの『地下鉄道』や、ノーベル賞作家トニ・モリスンによるデビュー作『青い眼がほしい』など、アクセスしやすい良作はまだまだあるのであわせてチェックしてほしい。

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