欧米の若者はなぜ今ローラースケートに熱狂しているのか?

ブーム全盛期から半世紀、TikTokやInstagramによってZ世代がローラースケートに熱狂している。

by Eva Short; translated by Nozomi Otaki
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16 July 2020, 8:57am

ターコイズのローラースケートを履いた女性が、リンクを駆け抜けていく。シルバーのスパンコールのチューブトップにぼんやりとしたネオンライトが反射し、遠くのスピーカーから音楽がかすかに聴こえる。ビートに乗って腰をくねらせる彼女が踊っている曲は、ドナ・サマーではなく、ドージャ・キャット(Doja Cat)だ。しかも、ここは70年代のローラーディスコではない。それから50年が過ぎた2020年、ローラースケートはオンラインでリバイバルを迎えている。

ローラーディスコの魅力、そのドリーミーで自由な美学は、米国中にリンクがつくられた1970年代から80年代はじめにかけてのブーム全盛期に始まり、今日まで続いている。フレアスカートに四輪ローラースケートを合わせたり、カリフォルニア沿岸のローラースケートカルチャーを象徴するショートパンツとストライプのニーハイソックスのクラシックな組み合わせなど、当時のファッションには色褪せない魅力がある。

そんなスタイルが今、再び注目を浴びている。その理由はロックダウンによってエクササイズや旅行の手段が変わったためでもあるが、ローラースケートが新たなトレンドとして急速に広まっていった背景には、この娯楽に新たな命を吹き込んだTikTokInstagramの存在がある。

TikTokでは、フレアのジャンプスーツや腰で結んだTシャツ、ストリングビキニを着て、海辺や太陽がさんさんと降り注ぐ緑豊かな通りを滑る動画が散見される。TikTokの有名スケーターのひとりは、レオパード柄のマスクを外しながらスケート靴でムーンウォークを披露する様子をアップした。

今年2月にTikTokを始めた女優のアナ・コト(Ana Coto @anaocto)は、ようやく自分のスケート動画をシェアするのにふさわしい場所を見つけられた、と語る。動画のなかで、彼女はスケート靴を履いて「Big Poppa」やチャカ・カーンの曲に合わせて楽しげにリップシンクやダンスを披露している。その姿は、まるで歩けるようになる前からスケートをマスターしていたかのようだ。

幼いころから滑っていたアナだが、再びこの趣味を楽しむようになったのは、つい3年前のこと。当時の彼女は、自分がネット上のスターになるとは想像もしていなかった。アカウントを始めると、彼女はたちまち170万人のフォロワーを獲得し、再生回数は数千万回にのぼる。

「ちょうどいいタイミングでちょうどいい場所を選んだだけ」と彼女は当時を振り返る。アナがTikTokを始めた当時はスケートコンテンツはほとんどなかったが、ここ数ヶ月でローラースケートの動画の人気が急上昇したという。

文化におけるローラースケートの描写はあまり多くはないが、それでもアナは映画にインスピレーションを見出した。彼女は、2006年の映画『ATL』で描かれるローラースケートとアトランタのヒップホップシーンとの繋がりを指摘した。しかし、最も彼女の心を掴んだのは、ヘザー・グラハム演じる〈ローラーガール〉。ポール・トーマス・アンダーソン監督が1970年代のポルノ黄金時代に捧げた『ブギーナイツ』に登場する印象的なキャラクターだ。

「ポップカルチャーのキャラクターで衝撃を受けたのは彼女だけです。それまではローラースケートがセクシーだなんて思いもしませんでした」

そのいっぽうで、Instagram、Twitter、Redditには、〈#SkatePalette〉というハッシュタグとともに、床に並べられたスタイリッシュなスケート靴の写真が溢れている。投稿者たちは、履き古したスケート靴の周りに、同系色の本、レコード、バンダナ、油絵の具のチューブなどを並べている。

このハッシュタグを初めて使ったのは今年5月はじめ、ベルギー、アントワープ出身のスケーター、ヤンカ・ディエトボースト(Yanka Dietvorst @jiggydust)だ。ロックダウン中の創作活動として、黄色のローラースケートに合うカラーパレットを集め、ネットにアップして他のユーザーにも投稿を勧めた。

このチャレンジが好評を博すと、フラフープコミュニティでも似たようなハッシュタグが生まれた。ヤンカのアカウントをみれば、彼女の米国のローラーリンクへの愛は一目瞭然で、よく米国出身と間違えられるほどだ。

「とにかく米国のローラースケートの〈ルック〉が大好きなんです」とヤンカは熱弁する。「色使いとかスタイルとか……。それからヴィンテージスタイルも好き。3年前、Moxi Roller Skatesの女の子たちのビデオを見て、夢中になりました。みんなすごくゴージャスで、だけどカッコよくて。私の夢はいつかカリフォルニアに行くこと。あそこはローラースケート天国だから!」

オンラインの新たなブームによってローラースケートの需要が急増し、販売業者はうれしい悲鳴をあげている。Moxi Skatesのオーナー/ファウンダーのミシェル・スタイロン(彼女自身もプロのスタントスケーター)は、注文が殺到したためにスタッフを増員しなければいけなかった、と語る。

Moxiは、ミレニアル世代が好むジュエルトーンやパステルカラーのスケート靴を幅広く取り揃えているブランド。オンラインストアでは、靴に合わせて膝パッドやトゥカバー、ショートパンツやニーハイソックスなどのヴィンテージ風アイテムも買うことができる。「両親がアンティークのディーラーで、昔から古いものに魅力を感じるんです」とミシェルは説明する。

そもそも、なぜ新型コロナウイルスの感染拡大による世界的なロックダウンが、ローラースケートへの関心に繋がったのだろう。実用性の面では、ローラースケートは健康を保つための理想的な娯楽といえる。スケート靴以外の器具は必要ないし、屋外であればソーシャルディスタンシングに配慮しつつ、どんな場所でも楽しむことができる。

スケート、特にアウトドアスケートへの関心は、ここ数年で着実に高まってきたとミシェルはいうが、ここ最近のユニークな状況も原因のひとつだと考えている。「ずっと家にこもっていると、頭がおかしくなりそうになりますよね。みんながローラースケートをやるのは、身体、心、精神の解放を求めているから。それこそがローラースケートが与えてくれるものです」

パンデミック下の生活に必要な運動量を満たすだけでなく、スケートは特別な開放感を与えてくれる。エクササイズとして純粋に楽しく、気楽にできて競争意識のないスケートは、理想的な現実逃避の手段といえる。

「パンデミックのまっただ中にあっても室内や家の前の通りで練習できるおかげで、新しく始めたオンラインスクールと、エッセンシャルワーカーとしてゴミみたいな扱いを受ける合間に正気を保っていられるんです」と語るのは、アテネ、ジョージア、米国で新米スケーターとして活動する21歳のRedditユーザーchicken-alfredhoeだ。「TikTokでスケート関連のチャレンジを見て、それに挑戦してみたり、そこから新しい刺激をもらっています」

フロリダ州オーランドに住む25歳のティファニーは、仕事を一時解雇になり、新たな趣味と運動のためにローラースケートを始めたという。「すごく楽しいです。何もかもが不安に思える時代に、楽しみにできるものができました」

この新たなトレンドがどのくらい持続するかは誰にもわからないが、ひとつ確かなのは、今の私たちを取り巻く状況がどれほど不可解なものであろうと、それがローラースケートをメインストリームへと押し戻したことだ。ネットユーザーたちのローラースケートへの愛は、当分の間は尽きそうにない。

This article originally appeared on i-D UK.

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