images via Instagram @zebedee_management @davidpdhyde

「多様性」から取り残されるモデルが所属 新時代のタレント事務所に学ぶ、インクルーシブ・マネジメント

「ダイバーシティ」という言葉を空回りさせないために──グッチの広告器用で注目を集めたダウン症のモデル、エリーも所属する英国の新鋭タレント事務所「ゼべディ・マネジメント」から考えるインクルージョン(包摂性)のこと。

by Sogo Hiraiwa
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16 September 2020, 11:17am

images via Instagram @zebedee_management @davidpdhyde

先日ダウン症のモデル、エリー・ゴールドスタインがGucciの新作マスカラ「L’Obscur」の広告ヴィジュアルに起用され、大きな話題を呼んだ。美しさの規範が猫の額ほどしかないラグジュアリー業界においては画期的な試みだった。現在、Instagram投稿にはGucci史上最も多い、86000以上のいいねが付いている。

キャンペーンで一躍注目を集めたのが、エリー・ゴールドスタインが所属する「ゼべディ・マネジメント(Zebedee Management)」。これまでメディアや広告でほとんど器用されてこなかった障がい者、オルタナティブ・アピアランス(アルピノや母斑、白斑)のモデルたちが数多く所属しているこのタレント事務所である。

ゼベディ・マネジメントは2017年、二人の女性によって立ち上げられた。障がいのある人々への舞台芸術指導を専門にしていたゾーエ・プロクターと、ソーシャル・ワーカーとして10年以上の経歴をもつローラ・ジョンソンは義理の姉妹で、障がい者の雇用機会やメディア露出が足りていない現状についてよく話し合っていた。事務所設立のアイデアは、そんな二人が犬の散歩をしているときに舞い降りてきたという。

「障がい者はダイバーシティの議論から取り残されがちです」とはゼベディ・マネジメントのHPに掲げられた言葉だ。「〈多様性〉を求める企画書はよく受け取りますが、障がい者やオルタナティブ・アピアランス、トランスジェンダー、ノンバイナリーについて触れているものはありません。私たちの望みは〈真に〉多様性のあるメディアが当たり前になることです」

創業から数年足らずで彼女たちはすでにメルセデス・ベンツからアップル、ナイキまで数々の大手企業をクライアントに抱えるまでに急成長を遂げた。それでもラグジュアリーブランドへの門戸はかたく閉じられているという。

イギリスを拠点に置くゼべディ・マネジメントだが、これまでロンドン・ファッションウィークでモデルのブッキングを受けたことがないと英紙ガーディアンに語っている。毎シーズン、ブランドやデザイナー、キャスティングチームに提案し続けていたにもかかわらずだ。

ファッション業界、なかでもとりわけランウェイの舞台は障がいのある人びとには閉鎖的なようで、同紙によれば、ファッションウィークの包摂性(インクルーシビティ)をシーズン毎に発表しているレポートにおいても、人種、体型、年齢、ジェンダーの多様性が向上を見せている一方で、障がいに関する記述は一切出てこない。このことからも、ランウェイ上に登場する障がい者のモデルが足りていないことは火を見るよりも明らかである。

そうした状況において、Gucciの広告にダウン症のエリー・ゴールドスタインが起用されたことの意義は計り知れない。

▽エリーがGucci広告のモデルに抜擢されるまで

エリー・ゴールドスタインはロンドン近郊のエセックス州イルフォード生まれ、幼い頃から有名になって注目されたいと野心を燃やしていた。「ダウン症で嫌な思いをしたことはありません」と彼女はBritish Vougeのインタビューで語っている。「わたしはそういう性格なんです」

当時のあこがれはマリリン・モンロー。ゼべディ・マネジメントには15歳から所属している。彼女にとっての転機となったのが、2019年11月に開催された「PhotoVogueFestival」の一環としてGucci BeautyとVogue Italiaが始めたインスタのスカウト企画だった。

写真家デイヴィッド・PD・ハイドは「L'Obscurのマスカラは、メイクアップを使って自由の物語を自分らしいやり方で語ることのできる人のためにデザインしました」というGucciのクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレの言葉を糸口にキャンペーンモデルのキャスティングを開始。そのなかで見出されたモデルのうちの一人がエリーだった。

「このGucci広告がラグジュアリーファッション業界の包摂(インクルージョン)革命の転換点になることを願います」とゼベディ・マネジメントのローラはいう。

当人のエリーは「人前に出ること(リプリゼンテーション)はわたしにとってとても重要なことです。障がいを持つ人だってモデルや役者ができると世界に知らしめましょう」と有名メゾンによるキャンペーン器用の重要性を強調した。

また先述の写真家デイヴィッドは撮影の舞台裏について、自身のインスタで次のような投稿をした。「障がいのある人をキャスティングするだけが美の多様性を受け入れることではありません。僕を含め、撮影の舞台裏を担ったチームの半数が何かしら身体的な障がいを持った人びとでした」

▽ゼべディ・マネジメントの意義

先日、米アカデミー賞が作品賞の選考における「リプレゼンテーションと包摂」の新基準を発表した。そこではカメラの前に立つ役者、さらには撮影の舞台裏で映画を支える制作スタッフにおけるマイノリティ起用・雇用の包摂(の度合い)が評価の対象となっているが、この「マイノリティ」には、ジェンダー(女性)やエスニシティ(アフリカ系やアジア系)の少数派と並んで障がいのある人びとも含意されている。

そうしたなか、ゼベディのような障がい者やオルタナティブ・アピアランスに特化したエージェントは今後ますますその重要度を高めていくだろう。一般のタレント事務所にとっても、こうした流れはビジネスチャンスとして映るかもしれない。しかし、もし障がいやオルタナティブ・アピアランスを持った人たちと契約したいのであれば、彼らの声をじゅうぶんに傾聴しリスペクトしなければならないだろう。

生まれつき左の肘下がないケリー・ノックスは、自身が所属しているモデル事務所「ミルク」のインクルージョンに積極的な面を讃えながらも次のように語る。「義手をつけたらもっと仕事が増えるのに、と言われたことがありました。どれだけ私が傷ついたことか。身体差別ですし……それは“普通”に見えなければ業界は私を受け入れないと言っているのと同じことです」

スキニーこそがモデルのあるべき体型だという規範に長らく浸っていたモデル事務所は、モデルたちに劣悪な体型の自主管理(もっと痩せろ!)を強いてきた歴史がある。これは多様性とは相容れない。美のありかたを押し広げていこうとするのであれば、そうした古い因習はさっさと捨てて、身体の違いを祝福し、所属タレント一人ひとりの要望や意向を反映させていくマネジメントに切り替える必要があるだろう。

ゼベディ・マネジメントはすべてのモデルが敬意を持って公平に扱われるために、クライアント、アーティスト、保護者、介護者と時間をかけた密接なコミュニケーションをしているという。

「モデルたちが輝けるように自信を持てるようにするのが私たちの役目です」とローラは話す。「モデルをよりよく知ることで、一人ひとりに適した案件を振り分けられるようになります」

業界やクライアントが求める「美」を受け入れ提供するのではなく、マネジメント側から別の「美」やそれに変わるアイデアを提案すること。それがゼベディ・マネジメントの実践であり、価値観の多様化が進む時代において求められているマネジメントのありかたなのだ。

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