TikTokを席巻するトレンド〈リアリティ・シフティング〉とは?

〈ドラコ・マルフォイTikTok〉マルフォイの恋人になる方法。〈不思議の国のアリスメソッド〉を使用して、自分の意識を別世界に飛ばそう。若者を中心に流行中の超常現象について、経験者と専門家の意見を聞く

by Serena Smith; translated by Nozomi Otaki
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12 January 2021, 4:00am

最近ネットを使っているなら、〈ドラコ・マルフォイTikTok〉という言葉を聞いたことがあるかもしれない。2020年9月頃に爆発的に増えたハッシュタグ#dracomalfoyの再生回数は、2021年1月時点で170億回を超えている。このタグをクリックすると、さまざまなビデオやトレンドが出てくる。ファンが編集した映画『ハリー・ポッター』シリーズの映像や、もし自分がマルフォイの彼女だったらという主観ショットのビデオ、それから彼がいかにイケメンかを延々と見せる映像だ。

最高にセクシーなトム・フェルトンの映像の中で、どうすればマルフォイと〈一緒に〉過ごせるのかを説明するビデオと出くわすのは珍しいことではない。それを可能にするのが〈リアリティ・シフティング〉、略して〈シフティング〉と呼ばれるプロセスだ。

 「シフティングとは、自分の意識を別世界に飛ばすこと」とこのビデオは説明する。「訓練すれば、ホグワーツなど全くの別世界に行くことができるんです」AminoなどのアプリやRedditなどのサイトにもシフティングのコミュニティはあるが、TikTokにはより大きなコミュニティが存在するという。

TikTokのハッシュタグ#shiftingrealitiesの再生回数は6億回を超える。なかには他のファンダムのビデオもあるが、その大半を占めるのは、ドラコのファンがどうすればホグワーツに自分の意識を飛ばせるかを説明するシフティングビデオだ。だんだん興味が湧いてきたひともいるだろう。シフティングの主なやり方はふたつある。ひとつめは仰向けに横たわり、行きたい世界を想像して100から1まで数える〈レイブン・メソッド〉。もうひとつは、行きたい世界の人物(例えばドラコ)を追いかけてウサギの穴に飛び込む自分を思い浮かべる〈不思議の国のアリス・メソッド〉だ。明晰夢と似ていると思うかもしれないが、シフティングコミュニティのメンバーの大半は、夢よりもずっと強烈でリアルだと証言する。

アイルランドのシフティングコミュニティに所属する15歳のヘレンは、次のように語る。「2020年8月頃からTikTokでいろんなシフティングのビデオを見かけるようになって、初めて聞く言葉にすごく興味を惹かれた。最初はよくわからなかったけど、実際に自分で〈シフト〉するようになってから、だんだん理解できるようになった」

「シフティングはすごく不思議な体験。すごく鮮明な夢みたいだけど、今までに見たどんな夢よりもリアル。シフティングをする前は携帯のメモアプリで台本を書いて、自分が行きたい世界に何が起こるのかを厳密に決めておく」「そうすれば、自分が起こってほしい出来事を視覚化しやすくなる。例えば、ホグワーツに行ってドラコに彼氏になってもらいたいとか、彼とイチャイチャしたいとかね」

ロサンゼルス在住の18歳のアリソンも、シフティングを楽しんでいるTikTokユーザーのひとりだ。「ハリー・ポッターに夢中になったのは小学生のとき。おばあちゃんが原作の大ファンで、いつも寝る前に読んでくれた。私はずっとスリザリンに入りたくて、ドラコが好きだった」と彼女は回想する。「最近になって、TikTokをきっかけにシリーズへの熱が再燃したの」

「シフティングはちょっと興味があって、なんとなく試してみただけだった」と彼女は説明する。「どんな体験をするかは人によって違う。私の場合は白い光がチカチカして、身体が震えて感覚がなくなる。足がけいれんして、思考が〈軽く〉なるのがわかる。それから、自分が行きたい世界の人物、大抵はドラコの声が聴こえてくる」

この奇妙な現象は、科学的に説明できるのだろうか。超常体験に詳しいセラピストグレース・ウォーウィックによると、シフティングは明晰夢ではなく、〈トランスリミナル体験〉と呼ばれるものだという。「トランスリミナル体験は、目覚めた直後や寝る前など、覚醒していて気持ちが落ち着いているときに起こります」と彼女は説明する。「SNSに大勢いるシフティングの〈インストラクター〉のなかには、始める時点で半分眠っているひともいます。それから反復的な音楽をかけたり、ゆっくりと数を数えます。これらがトランスリミナル体験につながる状態を誘発します」「このテクニックの興味深い点は、事前に準備する台本が重要な役割を担っていること。この台本は、ガイド付きの瞑想や能動的想像法と似たような役割を果たしているといえます」

フロリダ在住の15歳のマヴィも、シフティングとドラコのファンコミュニティで活躍するひとりで、16万人以上のフォロワーを持つTikTokユーザーだ。ヘレンやアリソンとは違い、彼女はかなり前からシフティングを行なっている。

 「小さい頃からずっと白昼夢や明晰夢で現実逃避をしていた。1年くらい前にシフティングと出会って、すぐに興味を持った」と彼女は説明する。

 「シフティングは本当にリアル。ホグワーツにシフトしたのは一度だけだけど、本当に楽しかった。ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人組や、ドラコ、ルーナともすごく仲良くなって……。最高の時間だった」

マヴィにとってシフティングはあくまで趣味だ。彼女が多趣味なのは明らかで、シフティングが生活の中心になっているわけでも、日常に支障をきたしているわけでもない。「演技とかモデルの仕事とか、現実世界に生きがいがたくさんあるから、ずっと別世界にいたいわけじゃない」

ヘレンもアリソンもマヴィも健全で満ち足りた生活を送っているようだが、そうではないひともいる、とウォーウィックは指摘する。「大多数のひとにとって、このシフティングというトレンドは変性意識状態との新たな関わりであり、楽しく魔法のような体験です。ですが、注意が必要な場合もあります」

 「もしシフティングによって恐怖を感じたり、いわゆる恒常的な現実の観点から判断して、自分の思考体系に悪影響があるような場合は、メンタルヘルスのサポートが必要です。また、意図的なシフティング以外で変性意識状態になってしまう場合もサポートが必要です」

しかし、ウォーウィックが指摘したように、これらの人びとの「大多数」はシフティングを健全に楽しんでいて、「自分の思考体系や限界に合わせた体験によって元気を取り戻して」現実に戻ることができるという。

 ドラコファンとシフティングコミュニティが健全なオンライン空間を築いているのも明らかだ。「(このコミュニティは)素晴らしい環境で、みんなと共通の趣味について話し合える最高の空間」とヘレンはいう。アリソンも、「TikTokのなかで最も親切なコミュニティのひとつ」と断言する。

 ただ、正直にいって、コロナが蔓延している今のご時世、全員が同時にドラコ・マルフォイの彼女として生きている若い女性ばかりのコミュニティなど、気にかけている暇はないのかもしれない。

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