『ユーフォリア』ハンター・シェイファーも登場:ジブリ着想のGogo Graham AW22コレクション
「トランス女性によるトランス女性の表象」の必要性を訴えるデザイナーが、トランスジェンダーのモデルのみを起用すること、今シーズンの着想源となった日常とファンタジー、日本のルーツについて語る。
2月15日の夜、Gogo Grahamはブルックリンのナイトクラブ〈Nowadays〉の中庭を、最新コレクションを発表する遊び場へと変えた。へアイメイク用に小さなユルト(※トルコ系遊牧民が使用する天幕)のようなテントが張られ、中では完璧に準備を整えたモデルたち(全員ゴーゴー自身が選んだ、彼女のクリエイティブコミュニティのトランスジェンダー)がすし詰め状態で出番を待っている。ショーの最後を飾り、スポンサーも務めた『ユーフォリア/EUPHORIA』出演者でモデルのハンター・シェイファーは、この滑稽で喜びに満ちた瞬間を、自身のInstagramに投稿した。「おめかしした人形たち」と彼女は書き添えている。
それぞれの分野の先駆者であるゴーゴーとハンターは、今から数年前、『Vogue』のビデオ撮影の現場で出会い、すぐに意気投合した。ニューヨーク・ファッションウィークで10回以上ショーを開催してきたカリフォルニア生まれでブルックリン在住のデザイナー、ゴーゴーは、幻想的なコレクションだけでなく、ファッションの多様化への長年にわたる貢献でも知られている。「トランス女性によるトランス女性の表象」が必要だと彼女は2015年にi-Dに語った。ファッションの世界を熟知しているハンターにこのブランドを支援したいと思わせたのは、ゴーゴーの先進的なヴィジョンと唯一無二の美学だった。


「正直に言って、服のプレゼンテーションにトランスのモデルだけを起用するひとが他にいるでしょうか? 彼女はそれを最初からやっていたんです」とハンターは説明し、ゴーゴーはこの業界で疎外感を覚えている全てのひとを勇気づけたと述べた。「これこそが私が求めてやまない、そしておそらくこのコミュニティの大半が切望している世界です。それを今のファッション業界で目にすることができるのは、まさに魔法のようです」
この〈魔法〉は、ゴーゴーの服にも表れている。最新コレクション〈Home, Sweet, Home〉を制作するさい、この2年間誰もが経験している孤立感、私たちが安らぎを見出した着心地のよいルームウェアや陳腐なロマンティックコメディ、今の現実がいかに非現実的に感じられるかが着想源となったという。「コレクションでは毎回、ある種のファンタジーを創ろうとしています」とゴーゴーはショーの数時間前に語った。「(今シーズンの)ファンタジーは、日常的でありふれたもの。なぜなら今の状況が〈普通〉からかけ離れているので。それでも私たちは、それが当たり前のように振る舞うことを期待されます」


さらにゴーゴーは、戦時下の日本を描いた1980年代のスタジオジブリ作品『火垂るの墓』にも着想源を見出した。主人公の少女が日用品を使ってドレスアップするシーンを、ゴーゴーは何度も見返したという。この場面で流れる歌曲「埴生の宿(原題:Home, Sweet Home)」が、そのままコレクションのタイトルになった。本作と同様、ゴーゴーは家庭的なアイテムを服に作り変えた。例えばリサイクルされた布団カバー、ブランケット、バスケットが着心地のよいオーバーサイズのダウンコートやバッグに変身し、モデルたちはアクセサリーとしてぬいぐるみを抱えた。日本の伝統的な浴衣や羽織りもフーディやクロップドジャケット、ドレスとして生まれ変わり、ゴーゴーの日本のルーツを示した。
「私は半分日本人なので、常にこのルーツとの繋がりを意識するようにしています。普段はそこから完全に切り離されている気がするので」とゴーゴーはいう。「日本には一度も行ったことがないし、私は移民第3世代なので、日本の家族はここで100年以上暮らしています。自分自身と日本のルーツに隔たりがあるので、いつもそれを作品に取り入れるようにしています」


今シーズンは、多くのNYのデザイナーが、身体を締めつけずに包み込む柔らかな布を使った、着心地のよいベーシックアイテムを通して快適さにフォーカスしたいっぽうで、ゴーゴーはエキセントリックなデザインを妥協することなく、それを実現した。ジャージー素材のTシャツにはカッティングとペイントが施され、余ったクロシェニットはボンネットに変身。ほぼブラのカップだけで作られたフォーマルなドレスもある。どのルックも、それぞれランウェイを歩くモデルに合わせて制作されたカスタムメイドだ。「それこそが私が考えるクチュール」とハンターはいう。
「私はひらめきを与えてくれるひとをキャスティングします。プロのモデルもいますが、ほとんどは違います」とゴーゴーはクリステン・ムーニーやパティ・ハリソンなどの起用について語った。「業界のサイズ基準を満たさなくてもクールなルックをつくれるということを人びとに示したかったんです。たいていの場合は、まずショーのキャスティングをしてから、そのひとの体型やスタイルを念頭に置いて(コレクションのデザインを)します」
ゴーゴーはモデルたちに安心感や自信を与えるルックをデザインするために、モデルたちが普段身につけている服のシルエットに注目した。その結果、キャットウォークにさまざまな個性が生まれた。ゴーゴーの友人でコラボレーターのセレーナ・ジャラによるサウンドトラックに合わせて、モデルたちは笑顔でランウェイを闊歩し、髪をかきあげ、やたらと長い三つ編みを振り回す。ブルックリンの凍えるような夜にもかかわらず、彼女たちも観客も心から楽しんでいた。


今シーズンは、多くのNYのデザイナーが、身体を締めつけずに包み込む柔らかな布を使った、着心地のよいベーシックアイテムを通して快適さにフォーカスしたいっぽうで、ゴーゴーはエキセントリックなデザインを妥協することなく、それを実現した。ジャージー素材のTシャツにはカッティングとペイントが施され、余ったクロシェニットはボンネットに変身。ほぼブラのカップだけで作られたフォーマルなドレスもある。どのルックも、それぞれランウェイを歩くモデルに合わせて制作されたカスタムメイドだ。「それこそが私が考えるクチュール」とハンターはいう。
「私はひらめきを与えてくれるひとをキャスティングします。プロのモデルもいますが、ほとんどは違います」とゴーゴーはクリステン・ムーニーやパティ・ハリソンなどの起用について語った。「業界のサイズ基準を満たさなくてもクールなルックをつくれるということを人びとに示したかったんです。たいていの場合は、まずショーのキャスティングをしてから、そのひとの体型やスタイルを念頭に置いて(コレクションのデザインを)します」
ゴーゴーはモデルたちに安心感や自信を与えるルックをデザインするために、モデルたちが普段身につけている服のシルエットに注目した。その結果、キャットウォークにさまざまな個性が生まれた。ゴーゴーの友人でコラボレーターのセレーナ・ジャラによるサウンドトラックに合わせて、モデルたちは笑顔でランウェイを闊歩し、髪をかきあげ、やたらと長い三つ編みを振り回す。ブルックリンの凍えるような夜にもかかわらず、彼女たちも観客も心から楽しんでいた。







Credits
Photography Hedi Stanton