いまクィアが新宿二丁目、アプリから離れる理由とは?

新宿二丁目はクィアにとって安心できる街ではない?クィアがより包括的なセーフプレイスを求めて、新たな空間を形成する理由について考える。

by Kotetsu Nakazato
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29 June 2022, 5:29am

私たちクィアは常に他者から無意識の差別<マイクロアグレッション>を受けたり、包括的ではない公共デザインによって選択肢を奪われている。シスジェンダーであること、ヘテロセクシュアルであることが当たり前とされている<シスヘテロノーマティブ>日本社会のなかで日々生き抜くためには、ジェンダーアイデンティティやセクシュアリティを理由に、差別のないコミュニティや空間で過ごすこともとても大切だ。そうした目的から、全国各地にゲイバーやレズビアンバー、MIXバーが立ち並ぶエリアが生まれたり、セクシュアリティ別のマッチングアプリが開発されている。しかし、そういったエリアやアプリは“クィア”にとって本当に安心できる空間なのだろうか。

私は3年前に男性からノンバイナリーにトランスした。セクシュアリティはマセクシュアル(性自認を問わず性的指向の対象が男性のセクシュアリティ)だ。私がノンバイナリーを自認していることを知らない人は、私をゲイ男性だと判断することもしばしばある。それは新宿二丁目やマッチングアプリ上でも同様。しかしここまでは自分自身がオープンに自分のアイデンティティを示さなければ、起こりうる“勘違い”かもしれないが(もちろんこれらはシスノーマティブな思想が含まれているが)、実際にノンバイナリーを含むトランスジェンダーやジェンダークィアを排除するようなコミュニケーションやシステムも存在する。

2019年4月、新宿二丁目の老舗レズビアンバー『GOLD FINGER』が月に1回開催する女性限定イベントで、トランスジェンダー女性の入店を拒否するという出来事が起こった。この出来事は多くの議論が巻き起こり、その後『GOLD FINGER』は正式に謝罪をし、今後はトランスジェンダー女性の入場を断らないと声明を発表した。私自身も新宿二丁目のクラブに友人と遊びに行った際に、髪が長かったことからスタッフが私を女性と認識し、女性料金(新宿二丁目では女性の方がエントランス料金が高く設定されている場所が多い)を請求され、ノンバイナリーであることを伝えると“身体の性”を問われたことがある。特定のアイデンティティやセクシュアリティの人たちの安全を確保することは大切だと思うが、シスヘテロノーマティブな社会で排除されてきた私たちが、救いや安心を求めて訪れる新宿二丁目でもまだまだシスジェンダーであることが当たり前だという考えが根強く残っているように思う。

オンラインの地図上に、初めて同性とキスをした場所や、自分がクィアであることに気づいたストーリーなどのクィアな出来事を匿名でシェアするプラットフォーム『Queering The Map』の創設者であり、デザイナー、研究者として活動するルーカス・ラロシェルさんは以前雑誌『IWAKAN』のインタビューでこう語っていた。「ザ・ヴィレッジ(モントリオールにあるゲイタウン)に初めて行ったとき、自分を満たしてくれると思っていた場所で圧倒的な疎外感を抱いた。わたしの仲間がいるはずの場所が、実は中流階級の“男性的”な白人という限定された人たちのためだけにその場所が設計されていたのだ」この経験から、「クィアな出来事や経験は、ザ・ヴィレッジや新宿二丁目といった“ゲイタウン”で起こる」という考えに抵抗し、『Queering The Map』は生まれた。実際に自分のセクシュアリティに気づいたり、他者へ恋愛感情や性欲を抱くのは新宿二丁目だけではなく、人との関わりのなかで場所問わず偶発的に起こるものでもある。

ルーカスさんの言う「限定された人たちのためだけの設計」がされているのは街だけではなく、出会いのツールであるマッチングアプリにも見受けられる。ゲイ男性やレズビアン女性向けに展開されているマッチングアプリでも、シスジェンダーの同性愛者のみが気持ちよく利用できるようになっているのだ。最近ではプロフィールに詳細なジェンダーアイデンティティやセクシュアリティ、代名詞を選択できるようになったが、ノンバイナリーである私が自身のアイデンティティをオープンにすることと、デートやセックスの機会を得ることは反比例しているように思う。エリス・ヤングさんの著書『ノンバイナリーがわかる本(明石出版)』ではこのことについて「男女以外のジェンダーやアイデンティティのカテゴリーだと、自分に興味を持ってくれそうな人でも、先入観により自分を恋愛対象の候補として考えてくれなくなるのです(*1)」「デート、セックス、結婚を取り巻く文化の基準全体が、恋愛相手は反対の性か同じ性であるという点で、二極化されたジェンダーに基づいているのです」と書かれている。私だけに起こっていることかと思っていたが、当書を読むとシスジェンダーで同性愛者以外のクィアはオンラインの世界でも、安心してコミュニティや関係を形成するハードルが高いことがわかる。クィアにとってオンライン上での出会いは一般的だったが、見た目や趣味、仕事だけでなく、自身のアイデンティティやセクシュアリティが、シスヘテロノーマティブ(時としてシスジェンダーの同性愛者であることが求められるシスホモノーマティブ)な思想により、お互いを知る前にデートやセックスの対象から外されてしまうのであれば、マッチングアプリからクィアが離れたいと感じる理由がわかる。

(*1)当書の文章には「通常のジェンダー」と記載があった箇所を、本文章では「男女以外のジェンダー」に変更しています。

しかし、このように排除され、いない存在とされてきた人々により、新たな包括的なセーフプレイスが生まれ始めている。先述した『GOLD FINGER』で起こった出来事をきっかけに、「ジェンダー、セクシュアリティ、人種、年齢などにかかわらず、オープンで他者と寄り添う気持ちのある様々な人が安心して楽しめるセーファースペースを、参加者とともに作り上げていくこと」をテーマとしたパーティー『WAIFU』が同年に発足。今年4月23日(土)には渋谷PARCOで開催し、多くの来場者とともに誰もが楽しめる一夜を作りあげた。

プライドイベントが年々新宿二丁目という街から抜け出し、原宿や渋谷へと進出しているのも、新宿二丁目で疎外感を抱いた多くのクィアによる、自分たちのセーフプレイスを取り戻すための動きだろう。実際にこの日は、誰もが自分自身のことも、他者のこともカテゴライズすることのない、包括的で、流動的な空間だった。魅力的だと感じる人と踊り、お酒を飲み、排除されてきた人たちの声に耳を傾け、対話する。そこには私が新宿二丁目やマッチングアプリで感じることのできなかったクィアな時間と空間が存在していた。

きっとこれからは、これまでのように特定の属性だけの空間やシステムを作っていくことは、誰かを排除し、分断を生み、時代を逆行する行為となるだろう。私たちが求めるセーフプレイスにおいて必要なのは、誰かを排除することではなく、あらゆる規範による差別や偏見に対する確固たるNOという姿勢なのではないだろうか。

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