i-D発展期を支えたスタイリスト、サイモン・フォックストン interview

i-Dで数々のアイコニックなルックを手がけてきたサイモン・フォックストンが、彼の元アシスタントで、現在は『GQ』誌で活躍するエルガー・ジョンストンとともに、ファッション業界の変遷や撮影秘話を振り返る。

by i-D Staff; translated by Nozomi Otaki
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11 December 2020, 10:00am

この記事はi-D's 40th Anniversary Issue, no. 361に掲載されたものです。注文はこちらから。

1980年代、i-D Magazineが成長を遂げた10年間には数々のスタイリストが活躍したが、なかでもサイモン・フォックストンほど本誌ひいてはファッション業界全体に大きな影響をもたらした人物はいないだろう。

セントラル・セント・マーチンズを卒業後、レーベルを立ち上げたサイモンは、その後スタイリングの世界へと飛び込んでいく。i-Dに勤めていた友人たちの推薦で同誌に入社後、テリー・ジョーンズに師事。テリーの采配で、同じく入社したばかりのカメラマンのニック・ナイトとタッグを組み、時代を象徴するヴィジュアルを手がけるようになる。

ふたりは王冠をかぶったサラ・ストックブリッジやハート型の眼帯をしたコリーン・ドリューリーなど、i-Dを代表するアイコニックな表紙を制作し、今もなお絶大な影響力を誇るファッションの〈共通言語〉をつくりあげた。

サイモンがファッション界のトップに君臨し続けているのは、彼のさまざまな要素を融合させたスタイル、多様で個性豊かなキャスティング、業界を席巻する最新トレンドを超越したアティチュードがあってこそだ。これらがファッションの模範として広く浸透することになったのは、彼の数十年におよぶキャリアがあったからに他ならない。

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PHOTOGRAPHY NICK KNIGHT. MODELS MARC AND JONATHAN. THE RED HOT ISSUE, NO.25, MAY 1985.

エルガー(以下E):まず、i-Dで働き始めたきっかけを教えてください。

サイモン(以下S):セント・マーチンズを卒業したあと、すぐにBazookaという自分のブランドを立ち上げた。当時i-Dのファッションエディターだったカリン・フランクリンとは大学時代からの知り合いだったんだけど、彼女から連絡が来たんだ。それが僕の初めてのシューティングだったと思う。カメラマンはマーク・ルボンで、BodyMapやレイ・ペトリなんかと一緒に、1ページの記事でBazookaをフィーチャーしてもらった。それがきっかけでスタイルとかスタイリングというものに興味を持ち始めたんだ。

E:テリーとはどうやって知り合ったんですか? 作品を見て声をかけられた?

S:Bazookaは結局ダメになった。楽しかったけどまったく儲からなくて。全然お金にはならなかった。カリンの他に、友だちのスティーブ・メールがi-Dの美術部門にいたんだけど、彼なら僕とテリーと繋げてくれるかも、と思ったんだ。それでテリーに会いにいって、スタイリングに興味があるんですけど、って伝えたら、同じく新人だったニック・ナイトを紹介してくれた。

E:それがニックとの初対面? テリーがふたりを引き合わせたんですか?

S:そう、テリーが紹介してくれた。僕たちはすぐに意気投合したよ。テリーはいろんな若者を巻き込むのがすごく上手いんだ。かなりフランクな感じで、礼儀は全然気にしない。それがまさに僕の働きかただった。だからi-Dにはすぐに馴染めたよ。

E:あなたがニックとつくりあげたイメージは何年経っても色褪せませんが、当時としてはかなり挑戦的でした。時代に先立って、さまざまなバックグラウンドのモデルを起用していましたよね。

 S:特に政治的な意図があったわけじゃないんだ。大したことは考えていなかった。僕たちはただ、白人でも黒人でもアジア系でも、自分たちが良いと思うひとをキャスティングしていただけだから。セント・マーチンズを卒業したとき、卒業制作のショーでは全員黒人モデルを起用した。それがすごい評判になってびっくりしたよ。大したことだとは思ってなかったから。特に挑戦的なことをやろう、っていう意図はなかったんだ。

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Photography Alasdair McLellan. Styling Elgar Johnson.

E:最近、この業界における人種にまつわる体験について、いくつか記事を書きました。白人として、それを外側から見るとどう感じますか? やはり有色人種のほうが苦労しているんでしょうか。この業界で彼らはずっと苦労してきましたが、状況は変化していると思いますか?

S:君のいう通り、僕がその質問に答えるのは難しいよ。実際に体験したわけではないから。

E:でも、黒人のアシスタントを採用していますよね。

 S:確かにそうだけど、エドワードや君に関しては、人種や肌の色によって影響を受けたかはわからないな。君が白人だったらもっと高い地位に行けた、とか、もっと早く出世できたとは思わないし。〈実際はわからない〉というのが僕の答えかな。雑誌のトップに立つ黒人のひとはそれほど多くない。このような場所ではレイシズムが慣例化していて、決定を下すひとが無意識のうちにレイシストになっているのは確かだ。そういう状況が変わって、みんなが自分のなかの偏見を見直せるようになるといいね。

E:i-Dではさまざまなコントリビューターと仕事をしてきましたが、そのなかで特に気に入っている、もしくは印象的なシューティングはありますか?

S:ひとつだけお気に入りを選ぶのは難しいけど、印象に残ってるのはいくつかあるよ。80年代半ばにニック・ナイトと撮影した〈Superbad〉という企画だ。僕たちが初めてやった大きな企画のひとつなんだ。主にブラックスプロイテーション映画(※1970年代に誕生した、黒人の観客を対象とした映画ジャンル)をインスピレーションにスタイリングして、ロンドンやパリの仲間と撮影した。当時はすごく衝撃的で、話題にもなったよ。撮影自体もすごく楽しかった。2、3週間かけて、ほとんどは夜に街なかやクラブで撮影した。良い企画だったよ。懐かしいな。他にメディアで取り上げられているのは、1991年にジェイソン・エヴァンズとやった撮影かな。

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This page: Photography Nick Knight. Model Kate. The Jet Set Issue, no.32, December/January 1986. Opposite page: Photography Nick Knight. Model Tess. The Good Sport Issue, no.47, May 1987.

E:若き日のエドワード・エニンフルをフィーチャーした?

S:そう。エドワードがモデルだった。当時は僕のアシスタントで、キャスティングを手伝ってくれていたんだ。モデルはほぼ彼の友人だったよ。イーリングの僕の家の近くで撮影した。今、この写真はテートとヴィクトリア&アルバート博物館に展示されている。あの撮影のことは誇りに思ってるよ。何か重要なことを成し遂げた、という実感がある。えらそうに聞こえるかもしれないけど。当時はそこまで重要だとは思ってなかったけどね。

E:先ほども言いましたが、あなたの作品は本当に時代を超越しています。作品を参考にするひとも多いですが、どう思いますか?

S:悪い気はしないよ。参考にしてもらえるなら素晴らしいことだと思う。アイデアの所有権というのは微妙な問題だよね。僕たちはあらゆるものからアイデアを得る。それがファッションやアートというものだろう。

E:僕と初めて会ったときのことは覚えていますか? まだファッション業界に入りたてで、周りは名前を聞けばスーパーヒーローみたいに思えるひとばかりで。手の届かない存在みたいな……。

S:最初に会ったときのことは覚えてるよ。SHOWstudioの撮影だった。何の撮影だったかは思い出せないけど。

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Photography Alasdair McLellan. Styling Elgar Johnson.

E:あの頃はみんなに「うわ、サイモン・フォックストンとSHOWstudioの仕事してるの?」っていわれて。人生で最高の出来事でしたよ。撮影のあと、モデルの仕事が終わってから、アシスタントにしてもらえないかってあなたにメールしたら、パリにいるからあとで連絡するといわれて。結局返事が来なかったのでもう一度メールしたら、今ちょっと忙しい、またパリに行かなきゃいけない、みたいな返事が来たんです。ずっとパリのことばかりでしたね。今はもう長い付き合いなのでわかりますけど、僕の覚えている限りではパリなんて一度も行ってないですよね!(笑)。たぶんアシスタント志望だとか質問とか、そういう問い合わせは山ほど来てるんでしょうけど。それにあなたはあまりオープンなタイプじゃないですよね。

S:その通りだし、僕は嘘つきだよ。

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Photography Daniel Kohlbacher. Models Paul, Kirk, James, Julian, Derek, Steve, Mutley, Freddy, Christian, Joseph, Oke, Malcolm, Culver, Oog and Rodney. The Adventure Issue, no.61, August 1988.

E:今ならわかります。

S:君がアシスタントを始めたばかりの頃のことは、ちょっと記憶が曖昧なんだ。

E:いやいや、そんなに大昔の話じゃないですよ。僕が最初にi-Dの表紙を担当したのは2011年ですから、2008年頃だと思います。「気取ったところがなくて、思ったほど怖くないひとだな」と思ったのを覚えています。もちろん、圧倒はされましたけどね。

S:長いあいだファッション業界で過ごして、意外と普通のひとが多いんだってことにも気づいたんじゃない?

E:でも、あの頃はひどい業界人の恐ろしいうわさを色々と聞いていたので、内心怖がってたんですよ。実際はそんなことありませんでしたが。人生は短すぎる、とはよくいったものですね。

S:若者はファッション業界の何をそんなに怖がってるの? そんなに怖がることなんてないよ。

E:あなたの元アシスタントたちは今さまざまな雑誌で活躍していますが、彼らがやらかしたこととか、面白いエピソードとか、特に印象的な思い出はありますか?

S:エドワードが一番使えないアシスタントだったよ。その次が僅差で君かな。エドワードは一緒にいると楽しいし、モデルやフォトグラファーとの撮影でも素晴らしい働きをしてくれたけど、荷物の梱包とかそういうことには全く興味がなかったんだ。でも彼にはあの頃から紛れもないカリスマがあったし、人付き合いもうまかった。それは初日から明らかだったよ。

 E:つまり、成功するためには完璧なアシスタントである必要はない、ってことですね。

S:君はとても優秀だったよ……。他に褒められることはあったかな。

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PHOTOGRAPHY JASON EVANS. MODELS SAM, DAVID, EDWARD, KOJO, BEN, JOHN, LOUIS, CHRISTOPHER AND MICHAEL. THE HIGH SUMMER ISSUE, NO.94, JULY 1991.

E:たくさん笑いました。

S:仕事は単調でも恐ろしいものでもあってはいけないからね。

E:ファッション業界において、特にi-Dで仕事をするなかで、ポップカルチャーとの関わりを実感したことは?

S:あちこちで参照されているし陳腐だから、80年代のことばかり振り返り続けるのは嫌なんだけど、80年代はじめのクラブカルチャーは、後から思えばとても重要で魅力的なものだったと思う。まるでビッグバンだよ。素晴らしい人たちや面白いアイデアが一度に開花したんだ。毎週のように新しいものが誕生した。僕はそれをカルチャーの中心であるセント・マーチンズで体験したんだ。このカルチャーがあらゆるものに影響を与え、特徴づけた。でも、僕はその後もずっと活躍し続けられるように努力してきたけどね。

E:ヒップホップを英国に持ち込んだのは自分だ、といっていましたよね。

S:そうなんだよ! クレジットはないけど。

E:マルコム・マクラーレンではなかったんですか?

S:彼は僕に便乗したんだ。僕はヒップホップを聴いて、それにぴったりな服をつくっていた。高さが30センチ以上あるベースボールキャップとか。僕たちはこのだらっとした巨大なキャップをかぶって踊り回ってたんだ。

E:その帽子は今も持っていますか?

S:いや、まさか。ひとつも残ってないよ。今ならプレミアがついてたかもね。いや、それはないかな。

E:ではBazookaのアイテムは?

S:持ってないよ。どうしたかな? 全部捨てたかな。たぶんバラバラになってると思う。

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Photography Benjamin Alexander Huseby. Styling Elgar Johnson.

E:i-Dのトップが変わるなかで、あなたのi-Dでの作品に影響はありましたか? 時代とともにエディターも変わりましたよね。

S:うーん……特に変わってないかな。

E:とにかく自分の道を突き進んできた?

S:僕のスタイリングで肝心なのはファッションじゃなく、アイデアなんだ。服はツールにすぎない。何がファッショナブルかということに興味はないし、それは僕の得意分野でもない。今思えば、あの時代にi-Dで仕事ができたのは本当にラッキーだった。テリーは広告主を満足させることよりもアイデアを重視して仕事をさせてくれた。あの頃はそんなことは考えもしなかったけどね。普通はだんだん自由度が低くなっていくものだから。

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Photography Simon Foxton. Models James, Edward, Michael, Luther, Raymond and Paul. The Positive Issue, no.100, January 1992.

E:もうクリエイティビティなんて存在しない、という声も多いですよね。でも実際は、もう少し挑戦が必要なだけかもしれない。

S:そのことで熱くなったり気にしすぎたって意味はないよ。今はそういう時代だから。

E:最近の人びとはあの頃よりクリエイティブになっていると思いますか?

S:同じくらいだよ。あの頃の人たちのほうがクリエイティブだったとも、もっと面白いひとがいたとも思わない。ただ、たくさんの新しいアイデアが同時に生まれたシーンがあったというだけだ。それに今の環境はクリエイティビティを保つのが難しくなっていると思う。予算は少なくなったし、ロンドンでの生活費も上がったし。今の若者はこの家賃でどうやって暮らしているんだろうね。

E:みんな裕福な家庭出身なんだというひともいますが、本当のところはわからないですね。

S:もし僕が今キャリアを始めるとしたら、アートスクールにも通えないし、ロンドンにも住めなかったと思う。

E:i-Dが今も続いている理由はなんだと思いますか? どうして今も現役で、みんなの共感を集め、愛されているんでしょう?

S:常に新しいアイデアや若者のことを扱っているからだと思う。それはいつの時代も魅力的でワクワクするテーマだから。

E:僕がi-Dにいた頃は、何かミスをしても、テリーはいつも「大丈夫、心配ないよ」といってくれました。失敗を褒めてくれたんです。

 S:それが僕が大切にしていることのひとつだよ。ミスをしてもいいんだ。僕自身も教えるときは、良いミスをしなさいと学生たちに教えることにしている。それが学びというものだから。それに、失敗から新しいものが生まれる可能性もある。まあ、i-Dでは印刷が読みづらかったり、写真が逆さまになってたり、前後が逆になっていたこともよくあったけど……。

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E:Sか何かの文字が全部消えてしまっていた、なんてこともありましたね。あるデザイナーの大規模な特集だったのに、かなり多くの文字がきれいに消えてしまっていて……。過去のカバーモデルも含めて、あなたにとって理想のi-Dカバーモデルをひとり選ぶとしたら?

S:僕は実はそんなに表紙をやってないんだよ。頼まれなかったから。

E:ちょっと悔しい気持ちもあります?

S:そんなことはないけど。

E:何回やったんですか?

S:4回か5回かな。

E:え、僕は12回でした。僕のほうがずっと多いんですね。

S:競争じゃないからね! それに、女性を撮ったこともあまりないんだ。

E:僕が最初に手がけたのは、かなり久しぶりの男性カバーモデルでした。

S:僕の最後のカバーはサラ・ストックブリッジだった。

E:もっともアイコニックな表紙のひとつですね!

S:こんなアイコニックな表紙はなかなかないよね。あれは僕がやったんだ。

E:競争じゃないんでしょう?

S:言ってみただけだよ。

E:僕はエイミー・ワインハウスの表紙が見たいですね。きっと最高だと思います。

S:今までに載ったことは?

E:ないです。

S:たしかに間違いない選択だね。

E:それはどうも!

S:いや、ありきたりだっていう意味じゃないよ。

E:僕はぜひあなたにスタイリングをして、ニック・ナイトに撮ってもらいたいですね。

S:僕はもうセレブ相手は無理だよ。誰が有名なのかもわからないし、役立たずだ。もうファッション誌もあまり読まないし。

E:全然読まないんですか?

S:そうだね。

E:ではそろそろこの辺で。サイモン、ありがとうございました!

エルガーがスタイリングを担当した表紙はこちら。

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Photography Scott Trindle. Styling Elgar Johnson.
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Photography Alasdair McLellan. Styling Elgar Johnson.
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Photography Bruno Staub. Styling Elgar Johnson.
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Photography Paul etherell. Styling Elgar Johnson.
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Photography Walter Pfeiffer. Styling Elgar Johnson.
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Photography Alasdair McLellan. Styling Elgar Johnson.
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Photography George Harvey. Styling Elgar Johnson.
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