Left: courtesy of Kidd Snooze. Right: courtesy of Humza. 

メンズ美容の”最後の未開拓地” アクリルネイルの進化と今

もはや当たり前のものとなったメンズネイル。しかし、アクリルネイルに対する偏見はいまだに根強い。実際にネイルをする男性たちに話を聞いた。

by Dominic Cadogan; translated by Nozomi Otaki
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27 September 2021, 6:39am

Left: courtesy of Kidd Snooze. Right: courtesy of Humza. 

2021年、メンズマニキュアは特に目新しいトピックというわけではない。リル・ナズ・X、トロイ・シヴァン、マーク・ジェイコブス、さらにバッド・バニーやエイサップ・ロッキー、ポスト・マローンといった新しいもの好きのヘテロセクシュアルのアーティストなど、男性のネイルはすっかりアクセサリーの仲間入りを果たした。ブラッド・ピットやキアヌ・リーヴスなどのネイル愛好家にいち早く目をつけ、Chanelは昨年、メンズ用ネイルポリッシュのラインをローンチ。マシン・ガン・ケリーも年内に自身のネイルポリッシュを発売する予定だ。

メンズネイルはそれなりに浸透したといえるが、この世界にはそこまで到達していない場所もたくさんある。例えば昨年、テキサスに住む17歳のトレヴァー・ウィルキンソンは、学校へマニキュアを塗っていったことで停学処分になった。この決定はのちに取り消されたが、SNSに広まった怒りは、2014年のスヌープ・ドッグのフレンチネイルを取り巻く議論のはるか先を行っていた。

男性(と男性として生活している人びと)のネイルポリッシュは、確かにメインストリームへと移行したかもしれないが、アクリルネイルにはいまだに偏見がつきまとい、ずっと目にする機会は少ない(このクリス・エヴァンスの有名なミームはノーカウントだ)。

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「最初はためらっていたけど、やってみたら夢中になった」と語るのは、昨年初めてクリスマスをテーマにしたアクリルネイルに挑戦したモデル、ハムザ・サイド(Humza Syed)だ。それ以来、彼はヘアカラーにマッチする色合いや、反対色のカラフルなデザインのネイルを続けているという。

「(ネイルは)僕の美学を完成させてくれる。まるで僕のためにあるようなもの。ドレスアップするときに頭の中でイメージすると、ネイルはどんな服にも完璧にマッチするんだ」

同じくアクリルネイルをしているミュージシャン、Kidd Snoozeも彼に同意する。「ネイルの好きなところは見た目がきれいで、目でも楽しめるところ」と彼は語る。「純粋にネイルアートの大ファンだから、ずっと試してみたかった。アクリルネイルなら、さらに可能性が広がる。ネイルのジェンダー規範なんてものは、特に気にしたことはないよ」

ハムザもKidd Snoozeも、まだ少数だがじわじわと増えつつある男性アクリルネイル愛好家のひとりで、TikTokをスクロールすれば彼らの仲間がたくさん見つかる。ハッシュタグ#boyswithacrylicsの閲覧数は、もうすぐ1万回を超えようとしている。しかし残念ながら、どんな人がネイルをするべきでどんな人がするべきではない、という先入観はいまだに根強い。これらのビデオのキャプションには、しばしば男性や男性として生活する人びとの〈正常化〉を求める声や、ネイルは〈女々しい〉と主張する攻撃的なコメントが並んでいる。

 ただ、実際はその逆だ。モデル/俳優/TikTokerのメイソン・フーパー(Mason Hooper)は、キャットウーマンや『アメリカン・ホラー・ストーリー:ホテル』の伯爵夫人がきっかけでアクリルネイルをするようになったという。

「アーモンドみたいな鋭いネイルがすごくカッコよく見えた」とメイソン。「ファム・ファタールが、怒りを指先でファッショナブルに表現している。それがすごくクールだと思った」

「こういうネイルは家父長制に対する直接的な批判であり、伝統的にスタイリッシュで女性的とされてきた美学を、影響力やパワーの源にしてるんだ」

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ほとんどのひとにとっては当たり前かもしれないが、ネイルはジェンダーやセクシュアリティに関係なく誰がしてもいい、という考え方は、残念ながら否定派には通じていないので、繰り返し訴える必要がある。

 「アクリルネイルをしているひとはみんなゲイか、ストレートではないとみなされる。僕のネイルを見ると、ほとんどのひとは僕をLGTBQ+だと思う。そうじゃないと伝えると、みんないつもびっくりする」とハズマ。

 「面倒だよ。どんなひとだって、誤解を恐れずに自分を表現していいはずなのに。僕はただネイルをするのが好きで、ネイルをしてる自分が好きだからしてるだけ」

同じくヘテロセクシュアルだが、ネイルをしているだけで常にゲイかトランスかと訊かれるKidd Snoozeも、彼と同意見だ。「アクリルネイルをしてる男性がゲイだというのは大きな誤解」と彼は訴える。「周りに好印象を与えたいとか、注意を引きたいというのも違う。好きだからしてるんだ」

LGBTQ+コミュニティなら偏見は少ないと考えるひともいるだろうが、メイソンはそうとも限らないという。「セクシュアルフルイド(※性自認が流動的)なクィアとして、確かに自分のネイルはストレートの女性にとっては魅力的ではないかもしれないけど、クィアコミュニティの男性も似たような考えだと知ったときはショックだった」

「Grindrで〈爪を塗るのはゲイっぽすぎる〉というメッセージが来たことは、これまでの人生でいちばん馬鹿げた矛盾だったけど、こういう誤解は内面化されたホモフォビアや、教育や体験の不足から生まれる」

しかし、悪いニュースばかりではない。物事は少しずつ正しい方向へと向かっている、と語るのは、ネイルアーティストのダニー・タバーレス(Danny Tavarez)だ。「クィアの人びとはいつも自己表現の手段としてネイルを取り入れきたけれど、今はネイルをするストレートでシスジェンダーの男性も増えていて、社会で受け入れられ始めている」と彼は説明する。

「不安を抱える男性と何度か話したことがあるけど、彼らの恐怖の原因は、いつも他人からどう見られるか、ということだった。つまり、その根底にあるのは有害な男性性。結局、ネイルはあらゆる芸術と同じで、自己表現のひとつに過ぎない」

ネット上での批判や時代遅れの意見をよそに、アクリルネイル愛好家は美容を試してみることで、より深く自分自身を理解できたと口をそろえる。「自分はおしゃれが好きなごく普通の男の子だということに気づいた」ハムザはいう。「原因が友人であれ、家族であれ、もしくは自分自身であれ、自分のしたい格好に悩んでいる人びとが外に出て、自分を表現できるように勇気を与えたい」

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メイソンも彼と同様に前向きで、Z世代やTikTokがファッションや美容のトレンドから時代遅れのジェンダー規範を取り去ってくれたことに感謝している。「ジェンダー規範は、今となってはおもちゃに過ぎない」と彼は語る。

 「男性として生活するひとにとって、スカートやメイド服を着ることはTikTokでトレンドになってるし、Eボーイやメイクがバズってる。ジェンダーの境界線を曖昧にすることは、メインストリームのメディアでの受け狙いではなく、ひとつの確立した表現手法になった」

 もうためらう必要はない。もし自分のルックで遊ぶことに興味があるなら試してみる価値はある、とダニーは保証する。「それがどんなに大きな決断かも、どれほど緊張するかもわかっているけど、完成したばかりのネイルは、言葉では言い表せないほどの自信を与えてくれる」と彼は結論づける。「自由に自分を表現し、欲しいものを求めるのは、誰もが持つ権利だから」

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