「ジャズは常にそこにあった」:サンダーキャット・インタビュー

ケンドリック・ラマーやエリカ・バドゥのバンドメンバーとして圧倒的な存在感を放っていたサンダーキャット。ソロ3枚目となるアルバム『Drunk』のツアーで来日していた彼に、音楽ライターの柳樂光隆が話を訊いた。一風変わった作曲術、超絶技巧のベース練習法、ブラジル音楽やフュージョンから彼が受けた影響とは?

by Mitsutaka Nagira
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30 May 2017, 8:25am

ここ数年で再び盛り上がりをみせているブラック・ミュージック。その立役者のひとりであるサンダーキャットが発表した最新アルバム『Drunk』は、リリースと共に熱狂をもって受け入れられた。ケンドリック・ラマーやフライング・ロータス、ファレル・ウィリアムス、カマシ・ワシントンなどの豪華ゲスト陣をみるだけでも彼のシーン内での評価の高さが伺える。"DRUNK" JAPAN TOURで来日していたサンダーキャットに「Jazz The New Chapter」監修者・音楽ライターの柳樂光隆がインタビューを行なった。

(カメラマン)腕のタトゥーがトランスフォーマーですね。
大好きなんだ。サウンドウェーブにトランスフォーマーのMP3プレイヤーがあるんだ。ずっとeBayで探しているんだけど、見つからないんだよ。すげー欲しいよ。(目の前にある雑誌を見て)わお、上原ひろみだ。

上原ひろみさんのことお好きなんですか?
もちろん。彼女は面白いよね。ずっと気になっているんだ。兄貴のロナルドとひろみが一緒にレコーディングしたアルバムがある。実はまだ会ったことがないんだけど、いつか一度ハングアウトしたいね。話したいことは沢山あるよ。

では、インタビューを始めましょうか。まずあなたのトレードマークでもある6弦ベースを使うようになったきっかけがあれば教えてください。
以前は5弦ベースを弾いていたんだよ。でも、それが盗まれてね。それで代わりを探したら6弦ベースがあったから、6弦に変えたんだよ。今は作曲も6弦ベースでやるからライブでもそのまま使ってる。だから、ベースのパートはすべて自分でやらないといけないんだよね。他の人にベースをやってもらうために、6弦用の曲を4弦に合わせて書き換えるのも大変だし、6弦用に書かれたものを4弦で弾くのも大変だからね。だから、俺は自分で曲を書いて、自分でベースを弾くんだ。

かなり変わった弾き方をされますよね。
それも作曲が影響しているんだ。俺の周りには複数の楽器を演奏できるプレイヤーが多いんだけど、俺はベースしか弾かない。だから、周りのプレイヤーのように面白い曲を書くために、ベース以外の楽器をベースで真似たりしながら曲を書くのが俺のやり方なんだ。そのために自分独自の弾き方を試したり探したりしながらベースを演奏しているよ。

他の楽器を真似て作ったのって例えば『Drunk』のどの曲だとわかりやすいですか?
「Uh Uh」だね。メロディーやコード・プログレッションに関して、サックスやピアノのプレイヤーのようなやり方をベースで真似て演奏して作った。ベースをドラムに見立てて、リズム的に奏でたりもしているかな。それは俺の中では自然に出てくるものなんだ。特別なことじゃないよ。

そうは言うけど、ベースをドラムに見立てるって特殊なことだと思いますけど。
変わってるように思うかもしれないけど、ドラムのリズムを意識してベースを弾くっていう意味で、リズミックなアプローチだからね。俺にとっては難しいことじゃないんだ。

あなたの曲はリズムのアプローチはすごく複雑だったりするのに、曲自体がすごくキャッチ―になるのが面白いなと思ってるんですけど、作曲はどういうところから始めることが多いんですか。
曲の作り方はいろんなやり方があるね。なんとなく歌い始めてから作るものもあるし、いきなりメロディーが聴こえてきて、そこから始めることもある。基本的には、自分が感じたい感情があって、音楽を通してその感情を感じさせることができるようになるまで何度も何度も曲を書いていく場合もある。例えば、「Them Changes」はそういうふうにできた曲だね。朝起きたときにこういう気分になりたいってフィーリングを形にするために作った曲なんだ。そのためにアイズレー・ブラザーズをサンプリングした。個人的にサンプリングはあまり好きじゃないからしたくなかったんだけどね。でも、フィーリングに合うようにドラムのサンプリングをして、ファンキーな感じで少しずつ組み立てていった。そうやって進めていくと自分が感じたい感情にだんだん近づいていったんだ。

これまでに出したアルバムと比べると明らかに曲の作りが変わったので、おそらく作曲のしかたも変わりましたよね? いい意味でベーシストが作った感じがしない曲も多いなって思いました。
たしかにそうだね。今回は声というか、歌が前面に出ていたから。でも、「Rabbot Ho」でも早いパッセージでベースをプレイしているように、俺がベースをプレイするのがメインのベースプレイヤーだってことは伝えたかった。最近は俺の声に注目している人が多いけど、あくまでもいちベーシストだからね。

あなたの曲は口ずさめるようなメロディーが多いのが特徴だと思うんですよ。
確かに。なんでそういう曲になるかというと、俺は楽曲をシンプルにしたいといつも思っているからね。そして、みんなが楽しめるものにするっていうのを大事にしている。歌は歌っていても、俺はR&Bシンガーではないから、セクシーに「うぅぅーー」なんて歌わない。それをやったら俺じゃなくなる。自分の脳内にどういう音楽が聴こえるかってことを意識している。自分の頭のなかで鳴っている音楽を表現したいと思っているんだ。例えば、大好きだし影響を受けているフランク・ザッパ、マイケル・マクドナルド、ドナルド・フェイゲン、ジノ・ヴァネリ、スティーブ・キューン、トニー・ウィリアムス、テリー・リード、そういう人たちが作ったものがいつも頭のなかに流れているから、自分の音楽もそうなるし、歌い方も彼らの音楽に近いものになるよね。俺の喋る声は低いんだけど、歌っているときは高い声になるんだよね。

ボーカルに関する専門的なトレーニングは受けたことがあるんですか?
ノー。

でも、ピッチも安定しているし、普通に上手いですよね。オートチューンも使わないって言ってましたし。
それは楽器をずっと演奏していたからだね。あとは、子どものころから絶対音感があったからね。でも、それが歌にまで影響するとは思わなかったよ。

ちなみにハイトーンのボーカルのシンガーで好きな人はいますか?
まずはビージーズだね。それからケニー・ロギンス。タイニー・ティムはアメイジングだ。ジョージ・デュークも素晴らしいね。そんな感じかな。

ボーカルに関しては、どんな練習をやってるんですか?
正確に音程を出すための練習とか、普通の歌の練習だね。誰の歌を流して、それに合わせて歌うとか。そのシンガーの真似をしてみるとか。あとは、息継ぎだね。ベースを弾きながら、きちんと息継ぎができて、正確に歌えているか。他には、ベースに向かって吠えたりしているくらいかな(笑)。

あなたの音楽は、ハイトーンのきれいな歌があって、その後ろですごく沢山ベースを弾いていることもあるんだけど、その2つが密接にコネクトしているなっていつも思うんですよ。
自分にとってはベースの音は独立したメロディーなんだ。だから、自分にとってのベースの役割はもう1つのメロディーを生み出すようなもの。その2つのメロディーはつながっている。ベースがあって、歌ができるときもあるし、その逆もあるから、順番はわからないけどね。

やっぱり歌とベースはセットなんですね。
常にそうある必要はないけど、ペアになりうるように作ってるよね。

例えば、声とギターをユニゾンする人は他にもいるけど、歌とベースでまったく違うリズム感のものをやって、それがコネクトしているってすごく難しいと思うんですけど。
うん、難しいよ、本当に難しい。

めちゃくちゃ練習したんですよね。
とにかく練習だよ、時間をかけてひたすらね。俺は練習ばっかりやってるんだ。でも、そのチャレンジは自分にとっては苦しくはない、むしろ楽しい時間だね。自分で歌って、ベースを弾いていて、なんか合わなくて変な感じになったら、自分でウケて笑っちゃうとかさ。とにかく音楽をやっているのが楽しいんだ。ミュージシャンって、パーフェクトで楽器も完ぺきにコントロールできるみたいに思われるけど、声のピッチが外れたり、楽器をミスすることもある、それは普通のことなんだよね。ミュージシャンも練習して上手くなるからね、下手なころもあるんだ、当たり前のことだよ。俺のバンドにジャスティン・ブラウンってドラマーがいる。彼のプレイはカタルシスを感じるような激しい演奏をするんだ。けっこう粗くてめちゃくちゃに聴こえるときもあるんだよ。でも、なぜジャスティンがそれをやるかというと、彼はその次のレベルに行きたいからなんだよ。新たな領域に辿り着くためにね。彼が必死でやる演奏は、一見、めちゃくちゃに見えたり、荒かったりするけど、それを20分くらいやり続けると、やっと自分が求めていたものに辿り着けたりするんだ。だから、そういうことを繰り返しやり続けて、常に自分の領域を高めることが大事。俺はライブが好きで、ライブをやることで、音に変化をつけることも楽しめるし、自分が変化していることも楽しめる。そういう意味で、ライブは大事な時間だね。

ベースの話に戻っていいですか? あなたは右手の使い方が変わっているなと思ったんですよ。ボサノヴァのギターみたいに、親指で低音の弦を弾いてリズムを奏でながら、残りの指で高音の弦を弾いてアルペジオみたいにしてメロディーを弾いたりしますよね。
うん、時々やるね。

普通のベーシストはあまりやらない演奏方法ですよね。
俺の音楽に関しては、いきなり耳からメロディーが入ってくるときがあって、それをベースで再現するんだ。時々、2つのメロディーや2つのラインが入ってくることがある。でも、それを1本のベースで再現しようとするとそういう弾き方になるよね。

それってギターならやりやすいけど、ベースだと弦も太いし、大変じゃないですか?
正直言うと、指は痛いよ(笑)。

あ、やっぱり(笑)。ロックのエレキギターみたいに全部の弦を指でジャーンとかやってるけど、あれも絶対に痛いですよね?
うん(笑)。でも、音楽に必要なら、それもやらなきゃいけないから。そもそも俺の場合は、普通のベースの弾き方じゃないと思う。歌いながら弾くから、ピアノの鍵盤を弾くように両手を使ってベースを弾いている感覚なんだ。歌っているときに自分の手の動きが見えるようにやっている。

ベースの弾き方も新しく考えているってことですよね。
自分でも考えたし、参考にした人もいる。アドリアン・フェロー、マシュー・ギャリソン、アンソニー・ジャクソンには影響を受けたね。特にアドリアン・フェローとは一緒に仕事もしたから、彼から受けた影響は大きいね。

6弦のベースってことに絞ると誰に影響を受けましたか?
ドミニク・ディ・ピアザ、アンソニー・ジャクソンかな。あとは7弦だけどビル・ディッギンス、あたりだね。そうだ、櫻井哲夫もだね。

へー、元カシオペアの櫻井哲夫さんですか!
教則ビデオに出ていたのを見たのがきっかけだね。神保彰と一緒だったよ。自信に満ち溢れていて、素晴らしい演奏だった。しかも演奏方法が特殊だったんだ。今までに見たことがなくて、新しい感じがして、衝撃を受けたよ。ゲリー・グレインジャーみたいにファンキーだったんだけど、櫻井哲夫はベースを叩いて、スラップしていた。それは僕が子どものころにはやってはいけないと言われていた奏法だったんだ。でも、櫻井哲夫はスラップベースのあり方をもっと広めたくて、敢えてやっていたんだと思う。あの姿勢にはすごく刺激を受けたね。

あなたの音楽にはフュージョンの要素がかなり含まれていて、その音楽で支持を集めたことで、フュージョンの意味を書き換えたと言ってもいいかもしれません。フュージョンについて思い入れはありますか。
ジャズ・フュージョンというジャンルは本当に重要なものだと思う。存在に感謝しているくらいだよ。音楽の解釈のされ方はいろいろあると思うけど、俺がそういう要素のある音楽をプレイすることでポジティブに受け入れられたのはすごくうれしいことだと思う。多くの人は、ジャズというと昔のクラシックなジャズを想像する。スーツを着て、きれいに着飾った客が聴いているようなジャズが好きだけど、ジャズ・フュージョンのような現在進行形のジャズも大事なんだ。例えば、マイルスが生きていたらって考えると、フューチャーと共演するかもしれないし、アウトキャストとやっているかもしれない。ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』が絶賛されたときに「ジャズが復活した作品」ってかんじで絶賛されたけど、それは違う。ジャズは常にそこにあったから。戻ったわけじゃないからさ。常にジャズは俺たちと共にあるんだ。ジャズというのはトラディショナルなものばかりじゃない。ジャズ・フュージョンのようなものも含めて現代的なものが今も生まれているし、ずっと今を生きている音楽なんだ。

あと、あなたはジョージ・デュークを尊敬されてますよね。彼はブラジル音楽が好きだったし、『Brazillian Love Affair』って傑作も作っています。あなたの音楽にも実はブラジル音楽の影響はありますよね。
もちろん。ブラジルの影響は大きいよ。どこに住みたいかって言われたらブラジルを選ぶね。

『Drunk』だと「Blackkk」って曲にブラジルっぽさを感じます。
そのとおり。俺はブラジル音楽のビッグファンだよ、セルジオ・メンデス、ジルベルト・ジルが好きだし、最も好きなのはミルトン・ナシメントだ。彼はアメイジングだね。カエターノ・ヴェローゾも好きだ。アルトゥール・ヴェロカイもだね、トニーニョ・オルタも強烈だ。エルメート・パスコアルもクレイジーだしね。俺はいつもブラジルのアーティストに魅了されているよ。

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Credits


Text Mitsutaka Nagira
Photography Shun Komiyama