リチャード・アヴェドンの未公開映像展

現在、NYで開催されている『Richard Avedon – Moving Image』展。この展覧会は、ケイト・モスやジェームズ・キングなど広告に起用されたスターモデルたちのキャスティングビデオを通して、アメリカの伝説的な写真家リチャード・アヴェドンが被写体の個性を引き出す方法に迫っている。

|
sep 13 2016, 10:55am

James King for CKbe, 1996

Calvin Kleinの広告は、セックス、そしてスキャンダルと密接な関係にある。スティーブン・マイゼルのCalvin Klein Jeansキャンペーンでは木目の壁をバックにデニムをまとったティーンたちが恍惚とした表情でカメラを見つめ、90年代初頭のハーブ・リッツ作品では筋肉に覆われた体をさらしたマーク・ウォールバーグ(Mark Walberg)がトップレス姿のケイト・モスと肌を密着させていた。そんなCalvin Klein広告の流れは、当時まだ15歳だったブルック・シールズを捉えたリチャード・アヴェドンの作品から始まっている。「私とCalvinの関係を邪魔できるものなんてない」とシールズはカメラに向かって言う。アヴェドンの広告は、FBIの調査や元アメリカ大統領ビル・クリントンの苦言とは無縁ながらも、やはり大胆だった。純朴なティーンであろうとトップレスのカップルであろうと、アヴェドンの作品は被写体の個性がもっともリアルで生々しい瞬間を捉えている。

『Richard Avedon - Moving Image』は、80年代から90年代にかけてCalvin Kleinの広告のキャスティングに用いられた未公開ビデオ映像を集めたエキシビションだ。ここにも被写体の個性をあぶり出す伝説的フォトグラファーの視点は明らかだ。最終的に広告として採用された写真の数々をよく知る者ですら、あれらの作品がどのようにしてあの世界観を構築するに至ったかに、きっと魅了されるにちがいない。アヴェドンは、数時間をかけてモデルたちからそれぞれのストーリーを引き出す。テレビやビルボード広告では決して映されることのないものだ。鏡のなかに見る自分が他人のように思えると語る当時無名だったケイト・モスや、自殺した友人について打ち明けるジェームズ・キングなど、当時のCK beフレグランスの広告モデルたちの秘蔵映像も含まれている。このエキシビションは、雑誌『Visionaire』がキュレーションを手がけている。『Visionaire』共同創始者のセシリア・ディーン(Cecilia Dean)は、資生堂のコマーシャル撮影を終えたばかりのアヴェドンから「お茶を」と家に招かれ、これらの未公開映像を見せられたという。ビデオを見たディーンは、その映像の今日性に驚いたそうだ。

といっても、未公開映像だけがこのエキシビションのすべてではない。ビデオ公開には全展示のうち1部屋しか割かれていないが、きっとエキシビション全体が作り出す余韻は、その後数時間にわたって見た者を魅了し続けるにちがいない。Calvin Kleinの部屋を過ぎると、床に巨大なクッションが置かれた部屋がある。それらのクッションは、90年代中頃にアヴェドンがVersace Homeのため撮りおろした広告写真からインスピレーションを得たものだ。また、日本のJun Ropeのためにジーン・シュリンプトンやローレン・ハットン、ヴェルーシュカ・フォン・レンドルフなど個性豊かな女性たちが撮影の裏で見せた一面を収めた映像もある。天女のようにゴージャスなドイツ人モデル、ヴェルーシュカの映像では、口ひげをたくわえた男性に扮したヴェルーシュカが白鳥のようなモデルへと変身する様が捉えられ、シュリンプトンの映像では、アヴェドンの要望に応えることができず「うまく飛べない」と悩むシュリンプトンの可愛い一面を見ることができる。また、現在は女優として広く知られているアンジェリカ・ヒューストンは、撮影の少し前に交通事故で亡くした母親について映像のなかで語っている。身をもがれるような経験を語るヒューストンの映像は、彼女がドッペルゲンガーとキスをするシーンで終わる。

『Richard Avedon - Moving Image』展は、NYのCadillac Houseにて2016年9月30日まで公開されている。

Credits


Text Hannah Ongley
Photos and videos courtesy of The Richard Avedon Foundation
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.