Adwoa wears hoodie and jewelry model's own.

アジョア・アボアー:「悩む女の子にロールモデルを」

i-Dでも『Female Gaze』号のカバーを飾ってくれた現在24歳のモデル、アジョワ・アボアー。薬物中毒とそれに伴う抑鬱状態を生き抜いた壮絶な経験と深い理解を活かし、彼女は世界の女の子たちに精神衛生、ボディーイメージ、セクシュアリティについての活発な議論を促すことに情熱を傾けている。

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okt 12 2016, 9:00am

Adwoa wears hoodie and jewelry model's own.

「Gurls Talkは、成長の過程にあって悩みを聞いてくれるひとを必要としているすべての女の子のための場所」と、モデルであり女優である24歳のアジョワ・アボアー(Adwoa Aboah)は言う。彼女は、自身が立ち上げたGurls Talksで、インターネットを通して世界に変化を生もうとしている。短く刈った髪、猫のように切れ長な目、そして特徴的なそばかすで、彼女の顔は一度見たら忘れがたい美しさを放っている。そこに温かみと卓越したスタイルが加わり、彼女はどこか達観した印象を見る者に与える。自身をよく知り、自信に溢れ、順風満帆な人生を歩んできたように見えるのだ。しかし、ひとは見かけによらないもの。実際のところ、この2年間は彼女の人生においてもっとも過酷で暗い時期だった。抑鬱状態と薬物中毒に苦しみ、リハビリを繰り返して、2014年には自殺未遂までしている。幸いにもアボアーはそんなすべての経験を活かすべく、女の子なら誰でも成長の過程で思い悩む事柄を自由に話すことができ、悩みを分かち合うことができる空間を作り上げた。薬物依存と抑鬱状態を克服したアボアーは、自身をそんな精神状態に追い込んだ社会構造に、女性のクリエイティビティをもって風穴を開けようと立ち上がった。

1992年、ウェストロンドンに生まれたアボアー。母親のカミリア・ロウザー(Camilia Lowther)は、ファッション業界屈指のフォトグラファーやデザイナーとなったアーティストたちのキャリアを切り開き、マネジメントしてきた、CLM社の創始者。父親のチャールズ・アボアー(Charles Aboah)はロケハン会社のオーナーだ。アボアーはファッションに囲まれて育ったというわけだ。そんなアボアーが最初にドラッグを試したのは10代前半のことだったという。興味本位で始めたが、大学へ進学する頃には抜き差しならない状態に至っていた。ブルネル大学で演劇を専攻していたアボアーだったが、卒業する頃には、その依存は両親の目にも明らかだった。そこで両親は米アリゾナ州にあるリハビリ施設に彼女を入所させた。そこでのリハビリ期間を終えてロンドンに戻ったアボアーは、元の生活へと復帰すべく(「何事もなかったかのように」)、リハビリ施設Start2Stopへ入所した。その後、近しい友人をドラッグのオーバードーズで失うという経験をしたが、アボアーは薬物使用を再開。その頃、彼女は友人のマデレーン・オスティル(Madeleine Ostile)とともにAAMOを立ち上げ、キャスティングを本職とする傍ら、自身もモデル業をこなしていた。なかなか仕事がもらえない——そして容姿のみで判断される——という現実に、アボアーは、自分に価値がないと感じるようになった。そんな精神状態は悪化の一途をたどり、2014年10月、アボアーはドラッグを大量摂取して自殺を図った。「どうしようもなく途方にくれていたの。自分じゃない誰かの人生を歩もうと必死だったのよ」と彼女は当時を振り返る。「他のモデルたちと同じようになりたくて、彼女たちと同じようなことをしていたけど、私の仕事には成功の兆しすら見えなかった。もう自分として生きるのがイヤだった」。4日間の昏睡状態を経て意識を取り戻したアボアーは、精神病院へと移送された。そしてそこで、その後数ヶ月にわたり更生のための取り組みが行なわれた。

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ようやく退院が許されると、そこには長く辛いリハビリが待っていた。そしてその道のりを経て、今の彼女がある。「当初は、やっぱり生きていたくなんかなかった」とアボアーは明かす。「どうして死なせてくれなかったの? と本気で思ってた。退院して家に戻ると、私も両親もお互いにどう接するかを考え、関係を立て直さなくちゃならなかった。そして私たち家族が、精神的な健康と薬物中毒をどう考えているかを明確にしなくちゃならなかった。大変だったわ。生きていたくない人間を前にどうして良いかわからなかったであろう両親は特に大変だったはず。私と妹の関係は完全に崩れてしまった。"私がこの世からいなくなってしまったら妹がどう感じるか"ということを考えることができない自分勝手な姉を、妹は許せなかったの」。アボアーは、妹のケシーワ(Kesewa)とともにアメリカ横断のロードトリップを敢行した。そして同年、クリスマスを家族とともにケニヤで過ごした。このふたつの旅が、アボアーのターニングポイントとなった。「ケニヤでテーブルを囲んで家族みんなで座っていたとき、わかったの。一瞬にして現実へ引き戻された感覚があった」とアボアーは語る。「ふと周りを見渡すと、そこには家族がいた。それに気づいたとき、"この人たちと今ここにいれること"をすごくありがたく思ったの。そのとき、精神的にも身体的にも新たな自分になれたことを本当にありがたく思った」

Gurls Talkのアイデアは、彼女がウェストロンドンの両親宅そばにある社会復帰ミーティングに参加していたときに思いついたのだそうだ。偶然にも、そのときのミーティングに参加していたのは女性ばかりだった。「そこにいた女性は、それぞれの人生においてもっとも繊細な部分を他の参加者と分かち合っていたの」と彼女はそのときの様子を思い出しながら語る。「夫との関係や子育てへの疲れ、セックスライフに至るまで、男性がいたら話せないようなこと、いや、聞いているのが女性であってもなかなか明かせないような事柄を、彼女たちは分かち合っていたの。競争もなく、勝手な先入観も持たず、恥ずかしがることもなくね」。ひとりの女性が手を上げて自らの経験を明かせば、他の女性が同様の経験をしてきたことを明かす——そんな光景を前に、アボアーは、人生というものの普遍性について思い至った。自分が感じていることもまた、他の誰かが同じように感じている、もしくは感じてきたに違いないと。「急に、"わたしは独りじゃないんだ"と感じたの」とアボアーはその気付きについて明かす。「そこで思いついたの。"とにかく語らせてあげれば、それはきっと女の子たちにとって有益なものになるはず"って」。アボアーはすぐにInstagramで@gurlstalkを開設し、Gurls Talkのドメインネームを取得した。

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Gurls TalkのInstagramフォロワー数は現在のところ35k。それもいまだ増え続けている。今年10月にはウェブサイトも始動する予定だ。Gurls Talkは、ボディーイメージやフェミニズム、自己認識、自信を持つことについて積極的な発言をしてくれる、誰もが「こんな親友が欲しかった」と思ってしまうような"女友達的な存在"だ。アボアーが辿った更生の物語から、カーダシアン一家のソーシャルメディアの使い方への批判(「合わせて4,500万人ものフォロワーがいるのに、そんな風に使っていていいの?」)、グロリア・スタイネムやレナ・ダナムといったインスピレーショナルなフェミニズムのアーティストや作家たちの紹介、シンプルながら力強いフレーズの紹介(「Be you and be proud/あなたはあなたのままで素晴らしい」)まで、Gurls Talkは、まっすぐで知的、そして極めてパーソナルな内容となっている。「クリエイティビティって、素晴らしいツールだと思うの」とアボアーは言う。「アーティストたちは、作品を通して、うつ病や薬物中毒、セクシュアリティに関して自由に語る。書くという行為も同じだと思う。治療期間中にはたくさんの書き物をしたの。書くのは上手じゃなかったけれど、空白のページに自分の内で起こっていることを書き留めていくという行為は、それだけでとてもセラピー効果のあるものだった。それを女の子たちとシェアしたいの」

アボアーには、世界の女の子たちから毎週30通以上のメールが届くという。アボアーの活動は評判になり、彼女の評価はうなぎ上り。今や、世界中の若い女性たちを代弁するスポークスパーソンになっている。「この責任を与えられたことをありがたく思うの。でも一方で、これは大きな責任でもあるから」とアボアーは拡大していくガールズコミュニティについて話す。「みんなの声に耳を傾けて、返信をしたら、急に辞めるなんてできなくなる。いつでもみんなの声が届くところにいなくちゃならない。大変な責任よ……」。抑鬱状態と薬物中毒からいまだ再起の道を歩んでいるアボアーにとって、それは特に重く感じられるだろう。「自分自身との境界線はきちんと引かないと、と思ってる」と彼女は言う。「そうじゃなきゃ、悩みをうちあけてくれた女の子たちのことを夜通し心配していなきゃならなくなるし、"きちんと親身になってあげられなかった"ってまた悩むことになるから」

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自ら課した大きな重圧を感じながらも、アボアーは公衆の注目を集める女性として、そのプラットフォームと主張を通してポジティブな変化を世界に促していく責任を全うしたいと考えている。「Gurls Talkを活性化しているのは、フォロワーの女性たち」とアボアーは言う。「私よりもずっと多くのフォロワーを抱えている人たちももちろんいるけれど、私のフォロワー数もどんどん増えていってる。今後は、Gurls Talkがもっと参加者主体のメディアになればいいなと思ってるの。"アボアーの"じゃなく、"女の子たちの"に変化していけば嬉しい。今年3月、アボアーの親友であり、モデルから女優へと見事に転身したカーラ・デルヴィーニュが、自身のTwitterで「モデルとして活躍していたときにひどい自己嫌悪に陥り、今でも抑鬱状態との闘いは続いている」と明かした。このツイートは1万回以上もシェアされ、精神衛生に関する議論の不在が女性のみならず男性を含めた世の中全体でいかに深刻化しているかを浮き彫りにした。「セレブリティの多くは、それについて話すことを恐れているんだと思う。でも私はもう怖くないわ」とアボアーは言う。「私の声を聞きたくないひとは、聞かなければいい。でも、私が何かしらの変化を生み出すことができたら——ファッション業界に限らず、この世界の何かしらに関して私が異論を唱えることで、それが誰かの耳に届いたなら、それで私はひとつの役割を果たしたことになるんだと思うの」

毎年、イギリスでは成人全体の4分の1が精神状態に異常を訴え、病気と診断されている。そのうちの75%は適切な治療を受けずにその先の人生を歩むという(1)。このような現状に関し、アボアーは「誰もが学ぶべきことだ」と強調する。「自分が経験するまで、うつ病がどんなものかなんて知らなかった。映画でしか見たことがなかったの。薬物中毒がどんなものかも、まったく知らなかった。道中で腕に針を打ってるようなひとのことを指すものだと思ってたのよ。でも、鬱も中毒も、いろんなケースがあるのよ」とアボアーは説明する。女性は男性に比べ、不安障害に陥る確率が2倍(2)であるという調査結果もある。これは女性を対象に早急な対応が必要とされる問題だ。アボアーは、そんな問題を改善するひとつの要素として、まずは壮絶な体験談から女性たちが学ぶという手法でなく、女性たちが自らを投影できるような、誠実なロールモデルの存在が必要なのだと信じている。「Gurls Talkで私が目標としているのは、女の子たちが共鳴できる女性たちと有意義な時間を過ごせるチャンスを作り出すこと。女の子たちがまだ知らない世界を見せたり、学校を卒業した後に志せるキャリアの可能性を見せてあげられるような女性のアーティストや作家、起業家のような人たちを、どんどん若い女の子たちに紹介していけたらと思っているの」

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アボアーが世の女の子たちにGurls Talkから学び取ってほしいメッセージとは、「"心を閉ざしてしまわず、自分自身にオープンで、正直であってほしい"ということ。自分じゃない誰かになろうと頑張っていた頃の私は、何をやってもうまくいかなかった。でも自分に正直になった途端、とても自由に感じたのよ」。24歳から発せられているとは信じがたい、深みのある言葉だ。「ポジティブなエネルギーを外に発することで、今の自分には想像もおよばないような形で、素晴らしいものが返ってくるの」と彼女は言う。昨年、ティム・ウォーカー撮影でイタリア版『Vogue』の表紙を飾ったとき、アボアーはまた新たなターニングポイントをむかえた。その後のアボアーは、Calvin KleinやMarc Jacobs、Roberto Cavalli、H&Mなどそうそうたるブランドの広告キャンペーンに起用されるなど、大活躍を見せている。「イタリア版『Vogue』の表紙をやらせてもらったことは、私にとって本当に大きな意味を持っているの。表紙を飾ったことよりも、私の目に、それまで失っていた輝きが見られたから」と彼女は言う。「私の目の奥には、長いこと空洞しかなかったの。家族を拒絶して、友達を遠ざけ、妹までをも傷つけてね。でも、あのイタリア版『Vogue』の私は目に輝きを取り戻しているの」

アボアーの輝きは、戻ってきただけでなく、今、その力を増している。まばゆいばかりの輝きだ。彼女の未来は明るい。来年には、漫画『GHOST IN THE HELL / 攻殻機動隊』をルパート・サンダース監督が映画化した作品でスカーレット・ヨハンソンと共演することが決まっており、映画デビューを果たす。「スカーレットと共演できるなんて、これでひとつ夢が叶ったのよ!」とアボアーは興奮した様子を隠さない。「スカーレットは私がこれまでに出会った女性のなかでもっともクールで、落ち着いたひとよ」。しかし、この映画の前にアボアーは、Calvin Kleinの協力体制のもとGurls Talk初となるエキシビションをロサンゼルスで開催する予定だ。仲良しのホリー・ゴア(Holly Gore)とともに取り組んでいるこのエキシビションでは、「生理からポルノまで」ありとあらゆるトピックが扱われているという。今年の末までにはGurl Talkチームを立ち上げ、2017年には精神衛生や体型不安、摂食障害、セクシュアリティなど、少女たちが抱える問題に取り組むワークショップを開催すべく世界の学校を回る予定だ。また、今後数年の計画として、教育センターの立ち上げも予定されているという。アボアーは世界をより良い、より明るい場所にすべく、果敢に未来を切り開いているのだ。数千数万もの女の子たちが、困ったとき、頼れるお姉さんにアドバイスを求められるような、悩みを打ち明ければ親身になってくれる友達がすぐに作れるような世界を目指して。「社会として、私たちはもっと感情を大切にしていかなきゃいけないんだと思うの」とアボアーは言う。「学問と同じだけ大切に扱われるべきだと思う。自分がどう感じているかを共有して、それに対して自分が正直になる、その術を若いひとたちは学ぶべきなのよ。だって、自分の思考や感情を共有したときにだけ、私たちは力を得ることができるんだから」。今という激動の時代、知性に溢れ、情熱的で、感情を持ってひとを理解出来るロールモデルこそ、私たちが必要としている存在だ。さあ、女の子たちにどんどん話をさせていこうじゃないか。

Karate kit trousers Decathlon Sports. Jewellery and underwear model's own. 

(1, 2) Statistics 2015 Mental Health Foundation Survey mentalhealth.org.uk

Credits


Text Holly Shackleton
Photography Letty Schmiterlow 
Photography assistance Maxwell Tomlinson. Printed by Luke at Touch.
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.