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versace spring/summer 17 at milan fashion week

アメリカが歴史的決断を迫られるなか、ドナテッラ・ヴェルサーチがミラノ・ファッションウィークで、新時代の女性たちを激励するショーを披露した。

by Anders Christian Madsen
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04 October 2016, 6:39am

パンツスーツやテーラードのセパレートがほとんど登場しないVersaceの服と、ヒラリー・クリントン米大統領候補を結びつけて考えるのは難しいかもしれない。しかし、ドナテッラ・ヴェルサーチ(Donatella Versace)の2017年春夏コレクションは、ドナルド・トランプとの初の直接対決となったテレビ討論会を前に、ヒラリーがもしもこのショーを見ていたら、きっと激励となったに違いない。今シーズンのVersaceは昨シーズンから引き続き「女性のエンパワーメント」をテーマとしていた。ショー会場には、Violet + Photonzが「前へ踏み出そう——過去はもう過去よ」と朗読形式で歌う曲が流れた。Versaceの服は、それそのものがもともと激励の力に溢れている。ドナテッラと、兄の故ジャンニ・ヴェルサーチが見て育ったイタリアの強い女性を、ジャンニがファッションに体現させたスタイルがブランドVersaceの根幹だからだ。ドナテッラは、ブランドVersaceを受け継いで以来一貫してイタリアの強い女性像からインスピレーションを得、またそれを服に体現してきた。今回のコレクションは、コートやスカートが印象的だった今夏のドナテッラのメンズウェアの世界観を引き継いでいた。それはまた、観客席に現れたテニスプレイヤーのセリーナ・ウィリアムズにぴったりな、スポーティな服でもあった(バックステージにいたアナ・ウィンターは大のテニス好き。セリーナの登場に大喜びだった。ちなみにセリーナがこの日着ていたのは、スポーツストライプのクロップトップとタイトなパンツ)。しかし、ショーのあいだ、ドナテッラの耳には会場の喧騒など入っていないようだった。彼女には、世界に向けた重要な訴えがあったからだ。「じきにアメリカ史上初となる女性大統領が誕生するこの世界に、何かしらの足跡を残すこと」、それが現代のVersaceが背負った使命なのです——バックステージでドナテッラはそう語った。

ヒラリーとトランプのあいだで繰り広げられている泥仕合で、アメリカもその周辺国も、まさにそのことを忘れてしまっている。ヒラリーが大統領になることの歴史的意味の重要性は、公務中の私的メール利用などに端を発する「ヒラリー候補人材不適切」イメージを繰り出して国民の目をそらそうとするトランプの策略により、かすめられてきた。しかし今、アメリカの有権者たちは、粗探しによってヒラリーを陥れようとするトランプの悪行に気づき始めている。それとは違う次元になるが、社会には自らの個性と意思を傷つけられるなく世の中を良くするため権力を手に入れようとする女性がたくさんいる。そんな女性が多数出演したのが今回のVersaceショーだった。例えばナオミ・キャンベルは、その恵まれた美貌で得た巨万の富で一生を優雅に過ごすこともできたはずだが、ネルソン・マンデラ財団をはじめ実に多くのチャリティ団体との慈善事業にその身を捧げてきた。メディアでは悪女として描かれることが多いナオミだが、身も心も人権活動家なのだ。今回のVersaceショーのクロージングモデルとなったジジ・ハディッドは、Instagramのコメント欄で「モデルとしては太りすぎ」などと書かれたり、彼女のトレードマークともいえるランウェイでの歩きかたを中傷するような書き込みをされたりしたが、真摯な向き合いかたで切り返した。

彼女が開けた風穴がモデルのシーンに及ぼした影響は大きい。しかしその貢献は、「ジジの成功は、億万長者の父モハメッド・ハディッドと母ヨランダの七光りによるもの。彼女は過大評価されている」という風評によってかすめられてしまっている。ショーのバックステージでは、セリーナをエスコートする形でアナ・ウィンターが珍しく取材陣の前に顔を見せた。彼女もまた、書籍・映画ともに『プラダを着た悪魔』で、権力を保持するためなら手段を選ばない冷徹な女ボスとして描かれた。これまでVersaceに関係してきた女性は、今回のショーに顔を出していなかった者たちも含め、誰もがこの世界で野望を胸に毅然とした態度で戦う女性ばかりだ。広告だけ見ても、ジェンダーやルックス、年齢、セックスアピールだけで判断されがちな社会に挑発的手段で挑んできた女帝マドンナが、たびたび登場している。ショーのオープニングでエディ・キャンベルがまとっていたパープルとグリーンの大胆な渦が描かれたタイトなボディスーツを、ヒラリーが着ることはもちろんないだろう。しかし、そのスピリットにおいて、ヒラリー・クリントンは完璧なるVersaceウーマンだ。

Credits


Text Anders Christian Madsen
Photography Mitchell Sams
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.