『写真家チェ・ゲバラが見た世界』:嶌村吉祥丸インタビュー

今年で没後50年になるキューバ革命の英雄チェ・ゲバラ。彼の傍らにはいつもカメラがあった。チェが写した約240点の写真を展示する本展のキュレーションを務めた写真家・嶌村吉祥丸にインタビューを行った。視察で訪れたハバナで出会った風景や写真から伝わってくるチェの意外なまなざしとは?

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aug 10 2017, 12:33pm

どういう経緯で今回のキュレーションをすることに?

この写真展は、チェ・ゲバラ没後50年の節目に合わせた企画であり、映画『エルネスト』の公開記念企画でもあります。今回はご縁があって本展のキュレーションを担当させていただきました。

キュレーションの依頼があって、そこは二つ返事で?

そうですね。チェ・ゲバラという歴史的な人物の残した写真ですし、点数も240枚相当ということでなかなか過酷な道のりだろうなと思いつつ。このタイミングで今回の依頼をいただいたのは、こういう流れなのかなと思い、引き受けさせていただきました。

実際にキューバにも行ったんだよね?

写真の現物を確認するために行きました。ゲバラの息子であるカミーロさんがキューバで暮らしていて、チェ・ゲバラ研究所のコーディネーターをしているんです。

写真の第一印象はどうだった?

日常的な写真だなと思いました。特に「海外視察」というシリーズで撮られている写真は日常のスナップ写真が多くて。革命家としてのチェ・ゲバラのイメージからはいい意味でかけ離れているというか、そのギャップがすごく素敵だなと思いました。

特に好きな写真はある?

砂浜に老夫婦が立っている写真が好きで、特に印象に残っています。この写真を含め、チェ・ゲバラはありのままの日常を切り取っていると思います。「はい、ピース」っていうような写真ではない。どのスナップ写真にも、その環境に馴染んでいるゲバラがいるっていうのが素敵ですね。

へー、それは不思議だね。だって、ゲバラにカメラ向けられたら絶対緊張するでしょ(笑)

「あっ、ゲバラだ!」って(笑)。どうやっても存在感があるはずなのに、そんな感じがしない自然な写真がほとんどでした。他の町で撮影されたストリートスナップもあるのですが、それも好きですね。

© 2017 Centro de Estudios Che Guevara
© 2017 Centro de Estudios Che Guevara

ゲバラは写真好きだった?

昔の彼の映像を見ても、ずっとカメラをぶら下げているんです。チェ・ゲバラにとっての写真は、ライフワークみたいなものだったんでしょうね。

身のまわりの出来事をドキュメントするっていう意味合いもあったのかな。

記録的な側面もあったと思います。革命後、彼が世界中を視察して回ったのには、キューバの若者たちにこういう世界があるんだということを教えてあげたいということも、目的のひとつとしてあったみたいです。若者向けの冊子も作っていて、そのカメラマンもしていたという話も聞きました。

© 2017 Centro de Estudios Che Guevara

ゲバラの息子、カミーロさんとはキューバでどんな話をしたの?

ゆっくりとお話しする時間はなかったのですが、チェ・ゲバラの意思を汲んでいることを前提に、展示の構成にあたってどういうことに気をつけたらいいかなどを聞きました。

展示を構成するなかで大変だったのは?

点数が多いということは、色々な意味で難しかったです。これだけの点数があると、広い会場で1点1点横並びに展示しても、見た人が会場を出たときに覚えている写真は何枚あるだろうと考えました。1点1点の写真を印象づけること、そして観に来てくださる方が心地よく写真との関係を持つことができるように意識しました。

5章にわけて展示するのは最初から決まっていた?

はじめは会場内のレイアウトを含めて、様々なパターンを想定しました。基本的には年代順に並べたいと思っていたのですが、写真のフレームサイズが何種類かあったので、年代・シリーズ・フレームサイズなどすべての要素を考慮して、できるだけシンプルに見せるように意識しました。

見る側が気にきにならないように。

はい。もうひとつハードルだったのが色。モノクロの写真がほとんどなのですが、カラーの写真が一部混ざっているので、できるだけひとつの壁にカラーとモノクロが混ざらないよう、それぞれの写真にフォーカスがいくように構成しています。また一部の写真はかなり小さいものもあります。写真との距離感を近めに寄って見られるように工夫しました。本展の目玉でもあるチェ・ゲバラ本人のセルフポートレイトと家族が写っている写真シリーズは展示の最後にまとめてあります。

時系列で展示してあるから、チェ・ゲバラの人生を辿るようにして展示をみていける。

チェ・ゲバラをTシャツのデザインでしか見たことがない人でも楽しめると思います。チェ・ゲバラの名前と顔は有名ですが、実際に何をした人なのか知らない人も多いかもしれません。今回改めてイメージの持つ力はすごいなと思いました。なぜならチェ・ゲバラ=あの顔って結びつくじゃないですか。どんな人かも知らないのにこれはチェ・ゲバラだっていえる。今回は"あの"チェ・ゲバラの写真も(会場外ですけど)、展示しています。

© 2017 Centro de Estudios Che Guevara

キューバを行ったときの話も聞きたいんだけど、ハバナの印象はどうだった?

キューバは社会主義故に、スタバもマックもありません。しかし、公園ではスマホをいじっている若者がいたりして、本当にこの数年が過渡期なんだろうなと思いました。

町は歩いて回った?

初日だけで20キロ以上歩きました(笑)。滞在先のホテルが中心街から外れていて本来はタクシー移動の距離なんですけど……。

えっ! タクシー使わなかったの?

何を思ったのか5時間くらい歩き続けました。Wi-Fiがないから地図も使えなくて、会う人会う人に道を聞きながらくねくねと。でも、おかげでキューバの日常を見ることができました。のどかで治安もすごく良かったですね。

カルチャーはどうだった?

ファッションはあまり発展しているとは思えなかったですね。キューバシャツもお土産品としては売っているけど、お店の人が制服として着ているだけで、一般の人たちはもっとラフ。タンクトップやTシャツを着ていましたね。レストランでは伝統的なキューバ音楽も聞くこともできました。

写真を見ても子どもは半裸だもんね。街としては少しずつ観光化してきているの?

ヨーロッパの旅行客は結構いましたけど、アジア人はほとんど見なかったです。観光としての国の役割はまだ果たせてないという印象でした。今後欧米からフランチャイズ店が街に入ってくると、一気に変わるんだろうなと思います。本当に数年間でそうなってしまうかもしれない。

そうなる前のキューバを見れたのはラッキーだよね。

そうですね。だって僕らにはインターネットが当たり前にあって、i-D(web)も含めてネット環境が前提で成立しています。しかし、キューバはネット環境が整備されていないので、一部の公園や五ッ星ホテルまでいかないとWi-Fiがない。しかも有料でスピードも超遅い。それでも人々は幸せそうだし、のびのび生きているなって思いました。インスタを見る楽しさもあるけど、かくれんぼする楽しさもまた別にあるじゃないですか。キューバの人のそうした人間対人間の関係性を見て、僕らが通ってきたはずなのに忘れている情景の大切さを感じました。

写真家チェ・ゲバラが見た世界
http://che-guevara.jp/会期 2017年8月9日(水)~27日(日)
時間 11:00~20:00(入館は閉館30分前まで 最終日は15:00最終入館)
会場 恵比寿ガーデンプレイス ザ・ガーデンルーム (東京都目黒区三田1-13-2)