Photography Angela Baltra

「Family」:ダニエル・ブルンバーグ interview

パリのホテルでMVが撮影された「Family」は、一筋縄ではいかない愛と失恋に捧げる繊細な1曲。ダニエルの元パートナーであるステイシー・マーティンが出演している。

by J.L. Sirisuk; translated by Ai Nakayama
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01 November 2018, 6:39am

Photography Angela Baltra

苦しい別れから生まれたダニエル・ブルンバーグの最新アルバム『Minus』は、ダニエルの退院後、ウェールズで5日間かけてライブレコーディングされた。「人間は実に複雑な生きものです。僕たちの感情だって、うれしい/悲しいの2択じゃない」とロンドンを拠点に活動するダニエルは話す。「アートは言葉で表せる感情以上に、もっといろいろなものを包含していると思うんです。僕の作品では、そういう明確なものだけでなく、中間にある細やかな部分まで表現したいですね」。映画監督アニエス・ヴァルダの回顧展用映像のサウンドトラック、ドローイング、5年ぶりの新作アルバムなどを通して、彼はまるでプリズムのように多彩な自らの創造性を徹底的に掘り下げてきた。

ダニエルは、10代の頃にCAJUN DANCE PARTYとしてXL Recordingsと契約を交わして以来、グループ、ソロとして10年以上作品を生み出し続けている。進歩的なミュージシャン仲間と自由な即興スタイルで音楽をつくる彼は、コントラバス奏者のトム・ウィートリー、ヴァイオリニストのビリー・シュタイガーと親しくなり、今作『Minus』にもこのふたりが参加している。

彼らが『Minus』のセッションに励んでいるさいに、アルバムとは別の独立した1曲「Family」も生まれ、一発録りされた。そのMVでも、同じく生々しいアプローチが試みられている。出演しているのは、『ニンフォマニアック』や『Vox Lux(原題)』(2018、日本未公開)での演技で知られる女優、ステイシー・マーティン。実は彼女はダニエルが19歳のときからのパートナーで、最近破局した。カメラがとらえるのは、パリのホテルの廊下や、ステイシーの顔のクローズアップ。繊細でパーソナルで、だけど目が離せないポートレートに、観る者は引き込まれる。ダニエルは混乱する心へと手を伸ばすことで、音楽の、そして感情の世界を自由自在に旅し、それを繊細でありながらも大胆な曲とアルバムに昇華させたのだ。

—— 「Family」は『Minus』制作時にレコーディングされました。あなたにとってこの曲はどういう意味をもっているのでしょう?

僕にとって、この曲が全てだ、というときもありました。生きていくのがしんどすぎるから、つくってる音楽だけに集中して、他の物事はいっさい寄せ付けないようにしてたんです。

—— どうしてこの曲をアルバムに収録せず、独立した1曲としてリリースしようと決めたんですか?

あのセッションで録音した曲のなかでも、この曲は僕たちのお気に入りでした。だけど、『Minus』は全曲合わせてひとつの作品になる、そんなアルバムだと思っていたんです。このアルバムに収録するには「Family」はトゥーマッチなので、独立した曲として発表するべきだと考えました。この曲は、歌詞の面でもダイナミクスの面でも、アルバムを反映したひとつの小さな世界をかたちづくっています。「Family」の音源は、僕ら4人がいっしょにプレイしたいち度きりのセッションを録音したものです。他の曲とは違って、一発録りなんです。

—— 今作はとてもパーソナルな雰囲気を醸しだしていて、あなたのアートの新しい方向性を反映しているように思いました。この作品をライブでパフォーマンスすると、どういう感じになるのでしょう?

ライブ演奏は、僕にとって、そして僕がいっしょに音楽をつくるミュージシャンたちにとってもすごく重要です。ライブでは常に、即興的な要素が強い。ショーは毎回違います。決まっているのは演奏者、使用される楽器、会場、場所くらい。次のツアーは基本的にトム(・ウィートリー)、ビリー(・シュテイガー)、ユート(・カヌギサー)とのデュオ、あとは少しソロがあります。今のところ、アルバムの収録曲を何曲か演奏してます。でも曲は単なる出発点なので、ときにはコンパクトにまとめ、ときには長めに演奏することもあります。

—— あなたは7年連れ添ったパートナーとの別れを経験し、それから今作が制作されました。恋人との別れは、誰にとってもつらいものです。その闇から、どう立ち直ったのか教えてください。

「Family」を含め、『Minus』収録曲は僕にとってすごくつらい時期に生まれました。最近、アニエス・ヴァルダの仕事をしたときに、それに気づいたんです。アニエス・ヴァルダの曲は、僕の人生でいちばん幸福なときに生まれました。全ての出来事がアートを生み出すインスピレーション源になると思います。僕にとっていちばん大事なのは、自分の作品に正直でいること。うつで危なかったり、嫌だと思うのは、仕事ができなくなってしまうこと、そして、うつが悪いかたちで自分に影響を及ぼす場合があること。自分が、起き上がって音楽を演奏できないくらいになってしまったら、音楽は生まれません。

—— アルバム制作をきっかけに、パートナーと再度つながりをもつことはできましたか?

僕は自分がどんな気分であれ、常にドローイングを描くようにしています。ステイシーとは19歳のときから付き合っていて、彼女のことは本当に、心から愛しています。彼女以上の人間はいない。僕らの関係については僕らふたりだけのものとして、プライベートにしておきたいと思っていますが、僕はソングライティングとドローイングにおいては嘘をつけないタイプで、それが面倒なときもありますね。

—— 「Family」のMVは、音源同様生々しく、即興的なスタイルで撮影されているように感じます。このMVの撮影時の話を聞かせてください。

パリの有名な老舗ホテルで、とあるイベントの準備のためにメイクをしてもらっているステイシーを撮影しました。私が決めていたのは、手持ちのDVカメラで、自然光で撮影すること。おっしゃる通り、僕の作曲、描画方法と似ているかもしれませんね。緻密に準備しますが、その枠組みのなかではできるだけ自由に動く、という。

僕はライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督が好きなんです。監督の才能を理解したくて、彼の撮影方法について研究した文献をいろいろ読んできました。彼は、自分が設定した状況のなかで、即興的に撮影してたみたいです。しかも、監督自らがカメラをもっていたと。僕も、そういう即興的な映画づくりに興味があります。ジョン・カサヴェテス監督『アメリカの影』(1959)は最高傑作です。あとはマイク・フィギス監督『タイムコード』(2000)。ギャスパー・ノエ監督の新作、『クライマックス』もすごく良かったです。

—— ステイシーをみつめるあなたの視線はとても親密で、映像には愛情が溢れ、ありのままを映したように感じられます。あなたがそうやって、パーソナルなステイシーの姿をとらえようと思ったのはどうしてですか?

「Family」という曲自体がパーソナルで親密な曲なので、それに伴うヴィジュアルをつくるとしたら、同じような雰囲気をもった作品でなければ、と思ったんです。ステイシーは女優ですが、ここでは演技していません。こういうふうに〈別の誰か〉になるべく準備をしている彼女と、僕は長い時間を過ごしました。その瞬間の彼女は素敵ですが、同時に恐ろしくもあります。

僕は人の顔が好きです。そういう人って多いと思います。僕は自分が好きなものを絵の題材にするので、人の顔を描くことも多いです。映画のなかの顔が特に好きですね。このMVでは、とくに目のカットが多いです。目は、顔のなかでももっとも感情が表れるパーツです。このMVをいっしょに編集したヤマモト・ユキは仲のいい友人で、僕のドローイングをよくみています。だからいっしょに仕事をすると、感覚を共有できることが多いんです。ステイシーの目のもつエネルギーを、最大限に高めることができたのは彼女のおかげです。

—— 今後の予定を教えてください。

ドローイングの展覧会がいくつか予定されてます。僕にとっても新しい試みです。また、アニエス・ヴァルダのプロジェクトのあと、映画音楽も何作品か手がけています。あとは今、アルバム数作もミックス中だし、サックス奏者のシーモア・ライトとやってるGUO名義での作品もつくり終わって、リリースの準備をしています。この5年はプライベートな活動がメインだったから、今はパブリックな活動がすごく楽しいですね。明日はシルバーポイントで絵を描く予定です。

This article originally appeared on i-D US.