ハリー・スタイルズのファッション変遷

最新アルバム『Harry's House』を聴きながら、Jack WillsのフーディからTopmanのチノパン、Gucciのドレス、グラムポップ・ルックまで、大人気スターのファッションを振り返る。

by Douglas Greenwood, and Tom George; translated by Nozomi Otaki
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28 June 2022, 8:00am

2010年、オーディション番組『Xファクター』にパン屋でバイトしていた少年らしい整った顔立ちの高校生が登場した瞬間、誰もがハリー・スタイルズの人懐っこい魅力に夢中になった。彼は今となっては時代遅れにも思える〈アイドル〉の象徴、つまり十代がなりたい存在、または付き合いたい相手、もしくはその両方になったのだ。しかし、この健全なドロップクロッチチノパンの日々から、彼のスタイルは大きく変わった。他のワン・ダイレクションのメンバー同様、ハリーは成長し、同時に彼のファッションセンスも進化してきた。

Jack WillsのベストからGucciのアイテムに着替え、〈豚を抱くポップスター〉と口に出すより早くインターネットを熱狂の渦に巻き込んだハリー。彼の現在のファッションセンスは、名付けて〈ニューロマンティック・アレッサンドロ・ミケーレ・ジェンダーフルイド・モダン・ロックスター〉。そのルックの大部分は、今ファッション業界で最も引く手数多のスタイリスト、ハリー・ランバートなしに語ることはできない。ふたりのハリーのクリエイティブな協力があったからこそ、レッドカーペットでCamden Marketのシアリングジャケット、セントラル・セント・マーチンズ出身デザイナーによる一点物のカスタムチェルシーブーツ、パールネックレス、ボアという伝説的なルックが生まれたのだ。

3枚目となるスタジオソロアルバム『Harry’s House』の発売を記念し、彼の非の打ちどころのないファッションの進化を振り返る。

2010年 ロンドンの街なかで

2010年代はじめ、この紫のフーディが高校のクラスメイトたちの〈制服〉だった時代を覚えているだろうか。彼らは特に周りを魅了するほどおしゃれに着こなしていたわけではなかったが、あの頃は私たちの世代を代表する男性ポップスターが小さなファッション革命を起こしている最中だった。米国側ではジャスティン・ビーバーがプレスツアー中ずっと紫のAmerican Apparelばかり着ていたのに対し、我らがハリーはその英国版ルックでセインズベリーズに現れた。それがJack Willsのロゴ入りフーディだ。ローライズジーンズとの組み合わせは、まさに2010年を象徴するルックだ。

One Direction in grey suits at the Brit Awards in 2012
Photo by Eamonn McCormack/WireImage.

2012年 ブリット・アワード

それから2年が過ぎた。残念なことに、ワン・ダイレクションは『Xファクター』の途中で脱落してしまう。しかし、ハリーと彼のバンドメイトは、少なくとも最後はレコードレーベルと条件の良い契約を結んだことで、笑って去ることができた。大半のリアリティー番組出身アーティストとは違い、1Dは大成功を収め、もちろん彼らのスタイリストたちも2枚目のアルバムのために大いに気合を入れた。

チャコールグレーのスーツがティーンエイジャーにとって気の進まない結婚式の制服になる前、ハリーは2012年のブリット・アワード授賞式にこの色のスリーピースで登場し、非の打ち所がない着こなしを見せた。全体的にこざっぱりとしているが、ネコのリボンのような少し緩んだブラックのボウタイが目を引く。彼のその後のスタイルを予感させるようなルックだ。

Harry Styles wearing a paisley shirt on the NBC Today show for the launch of the One Direction album Four
Photo by Olivia Salazar/FilmMagic.

2014年 NBC『Today』

2014年になる頃には、ハリーのポップスターとしての顔は崩れ始める。ファッションメディアは、20歳になったハリーがミック・ジャガーのような名声を得ていることに気づいた。つまり、彼のファッションは、今まさにロックスターへと羽化しつつあったのだ。ボタンを止めていないペイズリー柄のシャツからタトゥーの入った肌が少しずつ露出されるようになり、1Dの活動初期に見られたハイストリートルックは、Calvin Kleinのアイテムを取り入れてよりラグジュアリーに。髪も伸び、後ろに撫で付けたり、柄入りのスカーフで結ぶようになった。ジーンズも今まで以上にタイトになり、スエードブーツのヒールもさらに高くなっていく。

2016年 『ダンケルク』撮影中

どの世代にも、誰もが忘れられない歴史を決定づける瞬間というものがある。Z世代にとって、それはゼイン・マリクが1D脱退を発表した瞬間だ(ちなみに私はコスタでアイスラテを飲みながら泣いた)。2016年はじめ、それから1年も経たないうちに、1Dは無期限の活動休止に入り、ポップカルチャーのファンたちはその後何ヶ月も、どのメンバーが今後何をするのか、あれこれと推測した。しかし、ハリーはしばらく人前に出ず、レッドカーペットイベントにも顔を出さなかったため、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスをうろつくハリーのパパラッチ写真でしか彼のファッションを垣間見ることができなかった。髪もこの頃が一番長かったが、それも長くは続かなかった。このパパラッチ写真が取られたわずか数ヶ月後、ハリーはクリストファー・ノーランの『ダンケルク』にキャスティングされ、監督のリクエストであの魅惑的なカールを全て短く切ってしまった。

Harry Styles in a striped Charles Jeffrey Loverboy suit on the Late Late show.
Photo by Terence Patrick/CBS via Getty Images

2017年 レイト×2ショー

約18ヶ月の音楽活動休止後、ハリーは2017年春に一新したサウンドをひっさげて帰ってきた。シングル「Sign of the Times」リリースと同時に、ハリー・ランバートが彼のために厳選したルックで、ポップス界の心優しいバッドボーイは新たなスターに生まれ変わった。それがきらびやかでセクシーなボウイ風の衣装だ。プロモーションツアーが始まると、かつて着心地のいいフーディを選んでいた青年は、Charles Jeffrey Loverboyのピンストライプのパッド入りジャンプスーツで『レイト×2ショー』に登場。上半身はダブルジャケット、下半身はワイドパンツというこのアイテムで、彼はワイルドでどこか中性的な変化を遂げた。このルックがこの年の最高のツアー衣装の始まりだとは、当時の私たちは知る由もなかった。

2018年 ハリー・スタイルズ:ライブツアー

ハリー・ランバートはパンキッシュで若々しいデザイナー(その後すぐにそこにGucciも加わる)を積極的に取り入れ、ハリー・スタイルズはオーダーメイドスーツでツアーを回った。彼のスタイルはファッションも音楽も変化したが、ハリーは相変わらず関わったすべてのひとをスポットライトの下に導く力を持っていた。例えば、LA生まれのセントラル・セント・マーチンズ卒業生、ハリス・リード。ランバートがアムステルダム公演の衣装制作のために連絡を取ったとき、まだ一度もクライアントのためにオーダーメイドの衣装を完成させた経験のなかった21歳のリードは、ハリー・スタイルズのファッション史に刻まれるにふさわしいオーダーメイドの衣装を提供した。それ以降、ハリスはGucciで働き、自身のブランドを立ち上げ、スーパーモデル、イマン・アブドゥルマジドのメットガラの衣装を手がけるまでに成長した。彼がハリーのために制作した、3段重ねのフリルブラウスとフレアパンツというルックは、この歌手が新世代のニューロマンティックとして、誇張したスタイルという新たな領域に足を踏み入れたことを明示していた。

Harry Styles wearing a gucci suit, crown of thorns and kimono and holding a baby pig.
Image courtesy of Gucci

2018年 Gucciキャンペーン

あれはニワトリ? 2018年、かつてTopmanを着ていたハリーがGucciテーラリングコレクションのモデルに抜擢される。最初のキャンペーンは英国の典型的なフィッシュ&チップス店で撮影されたが、2回目にはより洗練された場所へと舞台を移した。それはローマ郊外の歴史的な観光スポット、ヴィラ・ランテ。魅力的なテーラードアイテムを身にまとったハリーが、かわいらしい動物の赤ちゃんを抱きかかえている。Gucciの異端児アレッサンドロ・ミケーレを象徴する大きなラペル、チェック柄、凝った装飾のブローチは、今となってはハリーの進化し続ける日常のワードローブの一部となったように思える。しかし、そのなかで特に際立っているのは、おしゃれなポップスターの王子としての地位を証明するがごとく、彼の頭上で燦然と輝く黄金の王冠だ。

Alessandro Michelle in metallic pink and Harry Styles in all black at the Met Gala
Photo by John Shearer/Getty Images for THR.

2019年 メットガラ

私たちのキングの初めてのメットガラ! 彼のここ数年の中性的なスタイルを踏まえれば、ハリーはファッション界最大の恒例行事(この年のテーマは〈キャンプ〉)に出席するだけでなく、レディー・ガガと共同ホストを務めるのにふさわしい人物といえるだろう。絨毯が敷き詰められたメトロポリタン美術館の階段に、全身メタリックピンクの親友アレッサンドロ・ミケーレとともに現れたハリーは、胸の下までの超ハイウエストパンツと全身のタトゥーが透けて見えるシアーなフリルシャツというセクシーなオールブラックのアンサンブルを着用。小さなドロップパールのイヤリングは、その後彼の定番アイテムの仲間入りを果たす。

Harry Styles in a brown suit, lilac jumper, pearl necklace and maryjanes at the Brit awards 2020
Photo by Karwai Tang/WireImage.

2020年 ブリット・アワード

2019年の年末、ハリー・スタイルズは2枚目のソロアルバム『Fine Line』をリリースし、この世界は一変する。「Adore You」「Watermelon Sugar」「Golden」などの名曲揃いの本作は、彼をスーパースターの座へと押し上げた。同時に、彼のスタイルはウエストミンスター大学出身の別の若手デザイナー、Steven Stokey Daleyのアイテムなど、今まで以上に70年代のプレッピー要素を取り入れるようになるが、ハリーらしい中性的なひねりは変わらなかった。例えば、オーバーサイズのレースカラー、Gucciのスーツ、メリージェーンシューズ、おばあちゃん風のジュエリー、ニットベストだ。この頃には、世界中のクィアな男性とストレートの男性の両方が、ハリーがブームの火付け役となったフェイクパールのネックレスを身につけるようになっていた。

Harry Styles in a pattern blazer, brown trousers and a boa scarf at the Grammy Awards in 2021
Photo by Kevin Mazur/Getty Images for The Recording Academy.

2021年 グラミー賞

2021年のグラミー賞授賞式でのハリーのフェザーボアは、永遠に語り継がれるだろう。『Fine Line』で最優秀ポップ・ボーカル・アルバムを含む3部門にノミネートされた彼は、パステルカラーにパープルのボアを組み合わせた鮮やかな70年代スタイルで会場に到着した。その後、彼はレザーのツーピーススーツとライムグリーンのボアに着替え、最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞を受賞した「Watermelon Sugar」をパフォーマンス。さらにブラックのボア、キャメルのブレザー、柄入りのトラウザーで授賞式の後半を楽しんだ。フェザーのアクセサリーはもちろんGucciのアイテムで、ハリー・スタイルズとハリー・ランバートは、ファッションを通してこの先もずっと私たちを驚かし続けるということを改めて明示した。これ以上アイコニックな二人組みはいないだろう。

Harry Styles in a Dorothy outfit at harryween in 2021
Photo by Theo Wargo/Getty Images for HS.

2021年 ハリーウィーン(Harryween)でのパフォーマンス

「ほんとに最高の気分だよ」と『オズの魔法使い』のドロシーに扮したハリーは、マディソン・スクエア・ガーデンの観衆に向かって言った。「みんなも最高の気分? よかった! じゃあ今から悲しい曲を歌おう」。ショート丈のフリルワンピース、同じ柄の髪飾り、真っ赤なタイツ、真紅のパンプスは、Gucciが彼のために特別に用意したコスチュームだ。ハリーのドレス姿がインターネットを熱狂させたのは、実はこれが初めてではない。この1年前、彼はベイビーブルーのGucciのドレスを身にまとい、初めて単独で『Vogue』の表紙を飾った男性として歴史を塗り替えた。もちろん、ファッションを通してジェンダーの概念を打ち破った男性ポップスターはこれまでにもいなかったわけではないが、ハリーの大胆なルックがメンズウェアの未来に関する対話につながったことは間違いない。

Harry Styles in a shimmering jumpsuit at Coachella in 2022
Photo by Kevin Mazur/Getty Images for ABA.

2022年 コーチェラのヘッドライナー

古風なチェシャーで育った平凡な少年から、大舞台へ。2022年、ハリーはかの有名なコーチェラのステージでヘッドライナーを務めた。彼はこのまたとないチャンスを、ディスコにぴったりな光輝くGucciのジャンプスーツで祝福した。1ヶ月後に最新アルバムのリリースを控えていたことを考えると、「As It Was」のMVで着用したArturo Obegeroの赤のスーツにしろ、JW Andersonのカスタムスーツにしろ、ジャンプスーツはハリーの新時代の到来を告げるアイテムなのかもしれない。『Harry’s House』のプロモーションやパフォーマンスで、私たちはさらに別のジャンプスーツにお目にかかれるかもしれないが、実際のところはわからない。世界最高の男性ポップスターの行く先は、誰にも予想できないのだから。

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