ヒップホップ界はマッチョが過ぎる:ヒラキッシュ interview

Hood by Airに見いだされ、一躍NYファッション界の人気者となるも、音楽の道で生きることを選んだ25歳のアーティスト・ヒラキッシュへインタビュー。

by MAKOTO KIKUCHI; as told to Daisuke Fujiwara; photos by takuya watanabe takuya
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14 June 2019, 9:42am

ヒラキッシュは25歳、LAを拠点とするアーティストである。今回i-Dは来日中の彼にインタビューを敢行。2016年Hood by Air(以下:HBA)のアイコンとしてランウェイを踊り歩き、ファッション界の寵児となった彼のスタイルとその世界観について、またヒップホップ界にはびこるホモフォビアについて、彼の言葉で語ってもらった。


親父は俺が子供の頃、プロのスケーターだったんだ。当時アメリカで黒人たちにスケートボードは人気がなかった。白人たちの輪に入れなかったから、独立心を持つようになって、自分なりのスタイルを見つけていった。生まれ育ったルイジアナ州のニュー・オリンズでは、俺みたいな黒人はひとりもいなかったよ。

俺のスタイルをひとことで言うとしたら「ハイ・スピリチュアリティ」それとファンタジー。たとえば、俺の名前は〈サン・ラ〉から来ている。俺の本名はハキチなんだけど、読み方を似せて〈ハイ・ラ・キッシュ〉。俺はいつもヘロイン・シックって感じで、クスリはやらないけどそういう人みたいに見えるらしい。俺は肉はたべなくてほぼヴィーガンだし、お酒もほとんど飲まないけど。スレた感じにみえるってだけで。

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ブランドは気にしない。親父は俺に服をほとんど買ってくれなかったから、ブランド物の服は着てこなかったんだ。ファッションブランドってのはつねに自分をラベリングするもんだ。クソみたいなビルボードだよ。俺はビルボードなんかじゃない。ただ、その人自身がクールだったら、かっこいいビルボードになることもできる。今日俺はBAPEの靴を履いているけど、人はそれを見て「かっこいい靴だね! 僕も買いたい」って言い始める。クールなヤツが身につけているものは何でもかっこよく見えるんだ。

俺は19歳のころ、2014年にニューヨークに移住した。高校を卒業したあとにね。俺は卒業がほかの人より一年遅れたんだ。音楽を始めたのがこのころ。それが、あるときHBAのランウェイを歩いたことがきっかけで、ファッションの世界で俺はちょっとした人気者になったんだ。歌って踊りながら、ランウェイを歩くことで、俺がクリエイティビティをもっているということを世間に示したかった。そうしたら周りが、「こいつは何者かになりそうだ」って言い始めて。でも俺は「何者」かになりたいなんて気持ちはまったくなかった。ただやりたいからやった、それだけだ。

故郷に帰る気もなかったから、ニューヨークに残った。俺はHBAのミューズだったんだ。シャツやなんかに俺の名前が入っていたり。彼らは俺のキャットウォークダンスをモチーフにしたプロダクトを生産もしていた。でも俺はファッションに関わるのをやめた。なぜならHBAの会社が傾きかけていたからだ。そのタイミングで辞めたのは、会社に、ブランドに対抗するっていう意味合いもあった。「俺に支払うべきだ。このブランドをここまで高めたのはおれなんだよ。ブランドをクールに見えるようにしてやったんだよ」って。それでも彼らは支払わなかった。「ファック・ユー」ってかんじ。

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HBAは急速に成長してきたブランドだ。クリエイティブな意味ですごくスピーディだった。でもアフリカン・アメリカンはビジネスに疎いんだ。会社が傾いたのは、ブランドが手に負えないくらいに広がったからだ。そもそも俺は、会社のクリエイティブなパートを担っていたというだけで、「ファッション人間」って感じではないしね。辞めるときにはもう俺はけっこううんざりしていたんだ。それで音楽をもっとつくるようになっていった。

ファッション業界にいるあいだに、たくさんの女性たちやトランス女性、ゲイの人たちに出会って、俺は自分に女性的な部分があることに気付いた。とは言え俺はまだ女の子のほうが好きなんだ。でも俺にはフェミニンな部分がある。女の子の気持ちがよく分かる。洋服を選ぶときの感覚もフェミニンだ。

ほとんどの男は「女っぽい」男性を見るとゲイだと決めつける。「お前女々しいな! ゲイなんだろ」みたいな感じで。アメリカの文化がそう押し付けるんだ。今やセクシュアリティは武器だ。俺はただ自分らしくいるだけ。ジェンダーとその人のスタイルは関係ない。だから俺のスタイルはなんて言うかな……「ジェンダーを持っていない神への意識」。神の大きさから比べたら性なんて取るに足らない。この世界はジェンダーはおろか形すらないところから始まっている。

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未だに大衆文化はアメリカが握っている。言語が簡単だからだ。思うに、アメリカの策略はすべてを男性的にさせるってことだ。フェミニストも男性的になっている。フェミニストっていうのは大抵男が嫌いで、マッチョ……っていうのは、本当のところ事実じゃない。だけどマジョリティのルールでそうなってるんだ。「フェミニストになりたい」系の女の子たちは、思春期を迎えているみたいなもんだ。ニルヴァーナみたいな。「ティーン・スピリット」だ。(「Smells Like Teen Spirit」のメロディーを口ずさむ)フェミニズムとティーン・スピリットは同じだ。ジェンダーも人種も肌の色も関係ないって気付くまでの過程。

今のフェミニズムってのは平等のリベラルじゃないと思うんだ。「俺はナニを持っていておまえはプッシーを持っている。俺はこうであるべきでお前はこうであるべきだ」みたいな意識をつくっている。でも実際のところ人間って宇宙みたいなものですごく幅が広い。女性がもっと権利を持つべきだというのは俺も賛成だ。でもおかしなことになっているのが、男が女を羨ましがっているってことだ。男がパワーを持っていながら女性に近づいて両方をコントロールしようとしている。

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先月YouTube上で公開した「Beautiful」のMVには多くのアジア人が出演している。俺はMVにアジア人を登場させるのが好きなんだけど、人はそれを不思議に思う。でもこの二つのカルチャー(黒人文化とアジア文化)はすごく近いと俺は思っているんだ。コケイジャン(白人)はどちらにも似てない。自分のカルチャーを世界に広めようと、コマーシャルをするんだ。「この国には行くな、この問題があるからだ。この人には話しかけるな、なぜなら彼には問題があるからだ。黒人はこういうやつで、アジア人はこういうやつ、ムスリムはこうだ」っていう調子で。でも日本に来てみて、俺にそんなことをする人はひとりもいない。日本では俺がここにいるってことを誰も気にしてない。アメリカ的な「普通」の基準で見られるよりも、ここにいた方が俺はもっと「普通」でいられるんだ。

黒人ラッパーたちは多額のお金を使ってバカみたいなMVを作る。俺の音楽には意味があるし、「Beautiful」には自分のアイデンティティが詰まっている。ヒップホップの世界は男性的過ぎてしまっているんだ。ホモフォビア以外の何でもない。俺はセクシュアリティ的にはゲイじゃないけど、ゲイの友達はたくさんいるし、彼らから学ぶことはすごく多い。同性愛だって男性性に転ぶことはあるんだ。男性同士のセックスは、物理的にエネルギーが必要だし。でもストレートの男たちはそれを理解していない。いつも男だけとつるんでいるラッパーたちのほうがよっぽど「ゲイ」的だよ。完全にホモ・ソーシャルだよね。可愛い女の子たちはみんな、ゲイと遊んでいるのにね。

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Credits


Photography takuya watanabe takuya
Make-up Daisuke Fujiwara
Hair Takuya Kitamura

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