記憶の再生:5-knot 2019SS

コレクションに異国の地の情景をすくい上げる5-knot。ヴィンテージを愛するデザイナーデュオが今季のために赴いたのは、キューバの首都・ハバナだった。

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aug 29 2018, 9:35am

原宿にあるビルの2階フロアに足を踏み入れると、波の騒ぎ立つ音がした。そこは、5-knotが、12シーズン目、4度目のランウェイショーを行った会場だ。デザイナーの鬼澤瑛菜と西野岳人は旅を経て、訪ねた場所から得たインスピレーションをコレクションにうつしこんでいる。今回の旅の行き先は、カリブ海の島国——2人が旅先でしたためた手記のようなコレクションノートによれば「ある時代から時が止まった」かのようでいて「古いものと新しいもの、複雑な歴史と様々な人種が絶妙に混ざりあいながら少しずつ変わっていく」国——キューバだ。

自身で体感したものに価値を見出す2人の感性をくすぐるものは、いつもその国や土地の“一般的な”イメージから一歩踏み込んだところにある。今季で言えば、スペイン・コロニアル時代の建築が立ち並ぶ大通りから「一本裏の路地に入ると現地の人々の生活」を感じられたこと、「何度も塗り直され、独特な色と模様を作り出す外壁」が思わせる人びとの息づかい、そして「ストリートに散りばめられたグラフィックアート」だった。

「路地裏を練り歩いたときのムードを表現したかった」とショーを終えた2人が話したように、会場内の解体済みのコンクリート壁には部分的にサーモンピンクやピスタチオグリーンの色が残っていた。剥き出しの配線や未整備のモルタルの床も、きっと彼らが目にしたキューバの光景を想起させるものだったに違いない。ショーサウンドに用いられた波の音、それをかき消したクラシックカーのエンジン音、陽気なラテン音楽やキューバン・ジャズもまた、ハバナの街を連想するのに十分すぎるものだった。

彼らは実際に目にした風景を色や柄のデザインソースとして取り入れていく。オレンジを基調にマルチカラーに広がる今回のコレクションでは、“ウォールグラフィティ”や華やかなキューバン・フラワー柄がプリントや刺繍で表現されたオリジナルテキスタイルに表情を変えている。南カルフォルニアのサーフブランドOcean Pacificとコラボしたレインボーカラーのスーベニア風のカットソーやワンピース、スイムウェアもあり、風をはらむボリュームシルエットやレーヨンのしなやかな素材使いに誘われるように、キューバ特有の気候さえも想像したくなる。コレクション全体にコントラストを与える絶妙な“光沢感”の差し込みは今季も健在だ。

服地と同じテキスタイルを使ったターバンや、ヴィンテージの型からハンドメイドする帽子職人Kohsuke Inabaとコラボしたハット、あるいはレインボーカラーのビッグトートやウェストポーチは、陽射しの強いビーチでは実に機能的でもあり、リアルクローズ志向のこのブランドにとっては、純粋に“自由”な遊び心を女性に与えるエッセンスだ。

フィナーレに向かうにつれ、キューバの街がちがう表情を見せるかのように、色彩が息を潜めはじめる。ウィスキーボトル柄のジャカード(かの有名なバーを訪ねたのだろうか)、ハバナの街並みを描いたという“オールドハバナ”柄があらわれ、ベースとなるベージュやエクリュの色合いは、砂埃が宙に舞って白んだ空の色かもしれない。2人のデザイナーがキューバで過ごした記憶の残像は、空間演出のみならず、洋服のいたるところに立ち現れていた、ということだ。