見えない世界との奇異な交信:津野青嵐 interview

〈ITS 2018〉ファッション部門のファイナリストに選ばれた津野青嵐が、“バービー”と呼ぶ彼女の祖母と一緒に、愛すべき時間を過ごした。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Houmi Sakata
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20 November 2018, 6:52am

津野青嵐がイタリア・トリエステで開かれる世界的コンテスト〈ITS 2018〉に出品するために創り出した“ネックレス”は、人体を誇張的に模した彫刻のようだった。3Dペンを用いた蛍光色の“線”が無数の曲線を描き、一度見たら忘れられない立体物としての驚くべき造形を組み上げている。トリエステの地でそれらは、“まだ見ぬ”クリエーションに心を踊らせる世界中の人々の記憶に深く刻まれることになった。「審査の日、人が着た状態を初めてみたときに本当に胸を打たれました。賞を取れなかったことは数週間落ち込むほど悔しかったけど、国内外からのオファーが急激に増え、時間が経つごとに出場した意義を徐々に感じつつあります」。意外なことにサラ・マイノが彼女の作品を“ポエティック”と評したと、嬉しそうに話す。

日本人で唯一、ITSのファッション部門ファイナリストに選ばれてから数ヶ月が経った。ペトラ・コリンズが撮影した本誌の“The Female Gaze issue”のファッションストーリーではモトーラ世理奈が作品をまとい、コムアイのMV『かぐや姫』ではアイコニックな衣装として使用され、AFWTの2019年春夏メインビジュアルの核にもなった。そしてi-D Japanは彼女に、全作品を撮りおろしたいと伝えた。すると、「私の祖母をモデルにしませんか?」と、何とも素晴らしい返答をもらうことができた。断る理由はひとつもなかった。現在も共に暮らし、今年の6月に開催された〈ITS2018〉の最終プレゼンテーションまでの数ヶ月間、孫が作品を生み出していく過程のすべてを目撃してきた人物でもある。一挙一動に家族愛が溢れる瞬間があった。

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ITSへの応募を決めたのは今年2月のこと。山縣良和が主宰するファッションスクール「ここのがっこう」に通っていた彼女は、クラスメイトと同じ志を持って世界的コンペに挑戦する道を選んだ。「3月上旬にはデジタルポートフォリオを送り、その数週間後には一次審査通過の一報。リアル・ポートフォリオを送るようにと連絡があって、4月半ばに提出。とにかく短いスパンで、寝ずの日々を送っていました」。これまでは超装飾的なヘッドピースを制作していたため、当初は“アクセサリー部門”に挑むつもりだったという。「でも、山縣さんたちにファッション部門に提出しなさいと言われて(笑)。両方だしたんですが、結果的にファイナリストに残ったのはファッションの方でした」。生地使い、パターンメイキング、縫製。服作りのノウハウを知らなかった彼女へのアドバイスはそれだけではなかった。「布を使った服作りではない技法を考えて、まずは“素材”を考え直すのが良い」と。そこから、本来は洋服のファブリックに使われない素材探しを始め、たどり着いたのが、「縫製を必要としない」3Dペンの発見だった。

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そもそも根幹にある彼女の創作のコンセプトは「人が目に見えない世界と交信する“媒介”としての装い」だという。巨大な装飾が配されたヘッドピースでも、今回の作品においても、だ。「民俗学的に、頭部の装飾は神様と人が交信する宗教的な儀式の場面で発展してきた歴史があって、日常と非日常を“媒介”するもの、という考え方にずっと魅了されているんです。ITSで作るものも古代から続く“見えない世界と交信したいという人間の気持ち”を現代版で表現したいと思って」。そうして彼女が現代の技法や素材といって、真っ先に思いついたのが3Dプリンタだった。「すぐに東急ハンズのコーナーに行きました。サンプルを見ると、かなりスタイリッシュで感動したんです」。その隣には、おもちゃのような3Dペンで、同じ素材が使われているものがあった。「正直、手作業だから完成度は雲泥の差がありました。でも、自分の努力次第でかなり面白いことができるのではないかと直感したんです」。即断で購入し、さっそく“服のようなもの”を作ってみたら異様な物体が生まれた。「3Dプリンタで精度の高いものが作れる一方で、まったく同素材を使って“手作業にしかない、いびつで、どうしようもない癖”が残るものを作る。そこに、逆行的な意味があると思っています」。例えば、3Dプリンタは“蓄積(レイヤー)”で造形を作るから、形を“引き延ばす”ことはプリントアウトではできない。「例えば今回の色のグラデーションは、手で一本一本引っ張ってだしているんです」。こうして、コンテストに出す作品の“素材”は決まった。

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「ヘッドピースのようにオブジェとして完結したものでなく、身体があってこそ最も良く見えるもの、という発想」。例えば、有機的なフォルム。「生まれ故郷の長野県の地元が“縄文のビーナス”という妊婦を象っている土偶が発掘された場所で、そのレプリカが町中に飾られていたんです。『フォルムを作るときは感覚的に』というアドバイスもあったので、今思うと、丸みを帯びたシェイプは幼少期に見慣れていて、無意識に安心するフォルムだったのかもしれません」。その造形を可能にしているのが、トウモロコシなどを原料にしたPLA(ポリ乳酸)という素材。自然界の微生物が分解することができて、環境に優しいプラスチックとしても注目を集めている。「速乾性もあるので、いわゆる“型”が取れるんです。布だと重力に逆らえない。服地の切り返しがないからなだらかなラインも表現できる」。ウエストのシェイプだけはトルソーの型のままにして、他の部分は自由自在に誇張したフォルムを描いていった。

短期間で、試行錯誤な実験の連続を通して作品は洗練されていく。「身体から幽体離脱しているように見える“ネックレス”というコンセプトも、友達に実際に着てもらって、写真を撮っていかに面白いかを追求する中で生まれてきたアイデアです」。同時に、もともとのコンセプトと“幽体離脱”がどのように繋がるかもリサーチしながら熟考し続けた。「日本人は身体と魂の感覚が行ったり来たりする」。例えば、日常でいえば“上の空”がぴったりな言葉だ。「魂が抜けて、勝手に歩きだしてしまいそうな感覚……。ルック撮影もそういう見え方は意識していましたね」

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「誰が着ても違和感がある。それはいわば、着る人を選ばないということ。祖母のように車椅子に乗っていても身につけることができるし、何だかいまにも歩きだしそうじゃないですか」。話を聞けば聞くほど、可能性に満ちた素材だ。「PLAという素材でできる表現が100あったとして、いま、私ができているのは多く見積もっても5くらい」。おもむろに、次の作品に向けて実験中だという大量の素材サンプルを見せてくれた。「チェックなどの柄を作ることも、低温処理することで柔らかみが増してフリルを作れるし、ドレーピング的な表現もできる。乾くときに固着するのでデニム生地との相性もいいんですよ」

つい最近まで精神科の看護師として働いていた彼女は、「直接的なデザインには繋がっていなけど、私は患者さんの姿にインスピレーションや刺激を受けますし、今でも最も大きなクリエーションのエネルギー源なんです」と語る。「佇まいや生活感覚、幻想や幻覚からくる想像を超える単語の組み合わせ。例えば、統合失調症の患者さんは、文字通り実際には存在しないものが見えたり、聞こえていたりする。完治することはなく、寛解への道しかないので色々な症状と付き合っていくしかない人たちは、幻聴でさえも生活の一部になっている。慢性期になると生き生きと症状について話していたりするんです」。「長期的な目標にしていることがあるんです」と切り出す。それは「精神科の患者さんたちと一緒に“メゾン”をつくること」だという。

イタリアには精神科病院を廃止する法案が可決され、精神障害を抱える人を病院で“保護”するのでなく社会で働けるように地域労働組合が結成されたのだという(しかも偶然にも、トリエステが発祥だという)。日本も同様の動きが出始めているそうだが、なかなか大きく進展していないのだと彼女は話す。「患者さんが働ける地域の作業所はあっても、その人本来の魅力を活かせる場はまだまだ少ないと思います」。新しいファッション表現を追求し、精神科での勤務経験がある彼女は明快に話す。「クリエーションのクオリティはもちろん、彼らが取り組める“技術”まで落とし込んで指導やサポートできる人たちを集めることができれば、患者さんにとって自分の手から生まれる作品が世界に向けて発信されることが生活の楽しみになったり、希望になっていくことが目標。それは患者さんだけでなく、サポートしてくれる仲間全員に対しての思いでもある。それがきっかけで患者さんを取り巻く環境にも変化が起こるかもしれない。閉鎖的な歴史や犯罪と結びついてきたというイメージからくるネガティブな印象を、新しいクリエーションによって覆したいと思っています」

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Credit


Text Tatsuya Yamaguchi
Photography Houmi Sakata
ALL CLOTHING SEIRAN TSUNO